シーフードミックス

黒はんぺん

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宇宙でランデブー/よろしくね!

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「しじみさま!  しじみさま!」
 絶叫するのはマイ・シップ、あたしの宇宙船ではないよね。彼があたしを「さま」呼ばわりするわけないもんね。すると……。
 だが、船はどんどん深みに沈んでいきます、深海探査艇バチスカーフの悠揚せまらぬ足どりとは大違いです。しんかい6500もかっこいいけれど、バチスカーフも味わい深いクラシックなかっこよさ。先に潜水艇の浮揚材としてガソリンを例に上げてしまったので、古い艇の名を出したのです。しんかいの場合は確か空気を含んだ微細なガラス球だったように思います。
 新しいものほど安全面も考慮されてるのですね。
 あたしのは最新鋭の妄想力エンジンですから。何度もいいますが。
 水素の大気、掻き分け掻き分け、デカいやつ求めて、あるいは黄金色こがねいろに輝くダイオウイカかしら……ラスボスの貫録。あたし水族館で買ったダイオウイカのフィギュア持ってるんです。宝物です。ホタルイカ・サイズの……。
 かっこいいけど、イカってプロポーションだけでは巨大生物なのかスーパーのトレーに八匹乗っちゃうのかわかんないよね。掌サイズのダイオウイカ。酢みそでいただきます。
 もちろんマッコウクジラは味付けもせず、ダイオウばくばく食っちゃう。海面近くで身体を温め空気もたっぷり吸って……深海へ一気にダイブ!  食事をいただく側もまた必死。巨大イカの抵抗なんのその。イカの吸盤にはツメが並んでるのよ、実は凶器。お食事は格闘だぁ!
 食うか食われるか。
 じゃなくて食うか、食われないか……が、正しいけれど。摂氏0度に近い暗黒。一時ひとときたりとも降りやまないマリンスノー、発光する深海魚たち、でも獲物しかマッコウさんには目に入らないわ、たっぷり蓄えた脂肪で凶暴な冷気にあらがいつつ……。

 イカとクジラの死闘は、でも地球での物語。

 ひっそりと息を殺すような深海魚とは違って禍々しく荒々しい大放電、激しく流動する雲は一時たりともやまず、電荷を蓄え続けて、大気の絶縁破壊ぜつえんはかいはどこでもあり、数十億年ぐこともなく……。
 ひとの目には明瞭なものは何もない、いわば熱いブリザード。潜るほど静謐せいひつなどとは無縁になって、神々は狂気のようにティンパニを打ち鳴らす。ホルストによる戦争の神。表題は「火星」だけど、まさにここ。
「街の灯……!」
 厚い雲は突き抜けちゃった。未だ濁って霞む空気に充たされているとはいえ、いきなりあたしは赤い銀河に到達してしまった。
 弧を描くように赤く細かい灯りが拡がっている。銀河……いやむしろ、空から見下ろす大都会の夜景にあたしには感じられた。ここで見るとは思ってもいなかった。ハッブル宇宙望遠鏡などが撮影した銀河の写真、それに比べれば、はるかに光の粒つぶはまばらな感じだけど。
 その前景として甲殻類さんたちが、もうてんでバラバラに飛び交っている。パニックに陥って、どこに行けばいいのかわからないまま、急いでいるようだ。
「大きい……。なんなの、これ」
 ダイオウイカより、マッコウクジラより大きいことは確実である。あたしの船もこれが何か知って降りてきたわけではないらしい。
 いいわ、もっと近寄ってぐるりしてみましょうよ。好奇心は満足させなきゃいけません。
 細部が見えてくると都会の夜景のようだという印象はむしろ強くなった。のっぺりとしたシームレスの物体ではないということね。構成する個々のブロック(ユニットとでも呼びましょうか)は円筒とか四角柱、球体など、さまざまな形がある。積み木っぽい。ただし、それぞれが高層ビルより大きそうだ。
 世界中の空を駆け回っては人類にちょっかい出したり牛をさらったりするUFO。ひとを誘拐するときはエッチな実験をするらしい、やーね。よく目撃されるUFOはそれぞれの宇宙人のプライベート機なの。PUFO。恒星間を渡るときは巨大母船フェリーに積み込んでみんなはラウンジですごすのね。
 母船には超強力ワープエンジン搭載されてますからね。ギャラクシーエクスプレス。百光年なんてあっという間。PUFO格納庫は別料金ですのでご注意を。え、しじみちゃんの与太に付き合っちゃいられねって?  つきあってよ。
 いえね、ユニットのひとつでも母船並みの大きさがあるんじゃないの、というお話で。
 ビルならば表面に見えるディテールは窓なんでしょうということになるんだけど、はたして、中に住人がいるのか、まったく無人の工業プラントとも考えられるし、隣のユニット、そのまた隣のユニットと見ていくときっちり並んでいるわけではなく……今はあたしの船はユニット群の上空をゆっくりなめるように進んでいます。なにか全体をあらかじめ設計はしないで、ユニットたちは思い思いにより集まってそのまま結合したという印象がします。
 工場地帯の写真集が昨今とても人気だそうですね。金属の不思議ふしぎなオブジェ。美しいイルミネーション。夜の工場見学ツアーなんてものもあるのだとか。機会があればあたしも参加したいと思います。
 不思議な形象も美しいイルミネーションも、観光客のためではなく、生産とそこで作業するひとたちのためなんですよね。実用と効率を求めた結果がアート作品になっちゃった。
 ユニットのまわりにたくさんの灯りがあるのだから、ここに誰かしらがいると考えるのは不自然ではないでしょう。雑然とどこまでも続く物体群。やっぱりTOKYO   CITY遊覧飛行という感じが、します。
 ただ街は地面があってそこに建物が建ち並ぶというように、平面的に拡がっていく印象ですが(地面に起伏があったとしても)見下ろしているここは制約もなく、上下にもユニットがつながることができるようなので、下の方にどれだけユニットが続いているのか、想像つきません。奥の方でも日照権なんて問題にならないんでしょうね。
「しじみさま!  しじみさま!」
 はい。もやもやさんですね。聞こえているよ。
「ああ、ご無事ですか!  ああ……あ」
 ご無事で~す。もやもやさん、泣かないでよ。生き別れのまぶたの母じゃないからね。
「小石川しじみ?  そこにいるんだね」
 別の声が……あなたが、メアリさん。
「そうだ。知ってるのか」
 うん。もやもやさん通じて、そこはかとなくつたわってきたのでした。おふたり、いっしょにいるの。雲の中、大暴走のカミナリ族やってたでしょ。
「小石川しじみ……ああ」
 ふたりして感極まっちゃって、どーしたのよぅ。感動のクライマックスじゃないからね。落ち着かないからフルネームはやめてね、メアリさん。さきほど見かけたメンダコなの?
「メンダコ?」
 わからないらしい。海洋生物の映像を送る。ついでにすれ違うときに撮影した映像も。
「ああ、なるほど。そうだ」
 やったね。
 ついにムシムシたちと巡り会ったわ!
 まー、もやもやさんとはすでに会ってて、銀河遊覧をして、地球に帰りたいって言うから送り届けてあげたはずなのに、惑星ほしくんだりで何をやってるんでしょう。メアリさんと仲良しになって、宇宙そらに浮くよな心地になっているのかも。びゅううう~んとあま駆ける青春、宇宙のランデブー、アーサー・C・クラークだわ!
 あたしは少々お邪魔ムシムシかもしれないけど、もう一回おふたりときちんと会うつもり。
 そして表層のペルソナ・しじみと内なるスペース・シジミ(うげっ)の持つ情報の齟齬そごを調整するの。この宇宙はすべてあたしに包含ほうがんされてるはずなのに、この宇宙のすべてをあたしは知っていないのだ。変な話でしょ。
「小石川しじみさんのお名前はかねがね……直接お話しできるのはうれしいです。光栄です」
「ありがとう。えーと、もうひとかた、いらっしゃる?」
「僕はメンダコのナビゲーション・コンピュータです。メンダコの操船および乗員乗客の生命維持管理を担当しています」
「あらま。それは重要なお仕事ね。今後ともよろしくお願いします」
 あたしってそんなに有名人でしたか、なんでなんで?  お前が出しゃばるんじゃない、メアリさんがちゃんと挨拶しないからぁ。かすかに争ってるのが聞こえるね。宇宙船のコンピュータとは良好な関係でいたいよね。
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