消えた隣人

うらら

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小さな田舎町。ここでは、誰もが顔見知りで、家々が連なる通りは穏やかな空気に包まれている。町の外れには森が広がっており、その静けさは、まるで時が止まったかのようだ。そんな町に、新しい住人が引っ越してきた。彼女の名前は中村幸子、50代半ばの独身女性で、静かな生活を求めてこの町にやってきた。

幸子が引っ越してきた家の隣には、若い夫婦が住んでいた。彼らは町でも評判の良い人たちで、幸子もすぐに彼らと親しくなった。隣人の名前は山田夫婦、夫の名前は健一、妻の名前は美咲だ。彼らは結婚して5年目だが、子供はまだいなかった。

山田夫婦は親切で、幸子を頻繁に夕食に招待したり、町のことを教えたりした。幸子は久しぶりに心を許せる友人ができたと感じていた。しかし、次第に奇妙なことが起こり始める。

ある夜、幸子はふと目を覚ました。時計を見ると午前2時。何かに呼ばれたような気がして、窓の外を見ると、隣の家の明かりが消えているのが見えた。普段はこの時間でも寝室の明かりが点いているはずなのに、不思議に思った幸子はベッドから降りて窓を開け、外の空気を吸い込んだ。

その時、何かが視界の隅を横切った。幸子は驚いて目を凝らしたが、何も見えない。気のせいかもしれないと思いつつも、何か不安な気持ちが胸に渦巻いていた。

翌朝、幸子はいつものように山田夫婦に挨拶をしようとしたが、彼らの家は静まり返っていた。彼らの車もなく、家の中は暗いままだった。不審に思った幸子は、しばらく様子を見ることにした。

その日以降、山田夫婦を見かけることはなかった。玄関の前には新聞が山積みになり、ポストには未開封の手紙が詰まっていた。不安が募った幸子は、意を決して町の警察に連絡した。警察はすぐに動き、山田夫婦の家を調べたが、彼らの姿はどこにもなかった。

警察の調査では、夫婦が何らかの事情で町を出た形跡はなかった。彼らの車も家の裏手に停まったままで、生活の痕跡はそのまま残されていた。ただ、奇妙なことに、家の中には夫婦が一緒に写った写真が一枚も見つからなかった。

時間が経つにつれ、山田夫婦の失踪は町の中で大きな話題となった。だが、何か腑に落ちないものを感じていた幸子は、彼らの家をもう一度調べることに決めた。警察の捜査が終了した後、夜中に忍び込み、鍵のかかっていない裏口から入った。

家の中は異様な静けさに包まれていた。リビングのソファにはホコリが積もり、時計の針も止まっていた。幸子は慎重に家の奥へ進み、寝室に入った。そこには奇妙な光景が広がっていた。

部屋の中央には大きなクローゼットがあり、扉が少しだけ開いていた。好奇心に駆られた幸子は、クローゼットを開けた。すると、中には無数の写真が貼られていた。それらはすべて、町の住人たちを隠し撮りしたものだった。さらに驚いたのは、そこに貼られていた幸子自身の写真だった。最近の写真が、何枚も何枚も撮られていた。

幸子は震える手で写真をめくりながら、奥へ進んでいった。そして、クローゼットの最奥で、あるものを見つけた。山田夫婦の写真だった。しかし、彼らは写真の中で異様なほどに歪んだ表情を浮かべていた。まるで何か恐ろしいものを見たかのように。

その瞬間、幸子は背後に誰かの気配を感じた。振り返ると、そこには誰もいない。しかし、部屋の空気が急に冷たくなったように感じた。

幸子は家を飛び出し、警察に通報した。再び捜査が行われたが、家の中からは何も見つからなかった。クローゼットの中も、ただの服が掛かっているだけだった。

警察は幸子の話を疑問視し、彼女が精神的に不安定であると結論づけた。町の人々も次第に彼女から距離を置くようになり、幸子は孤立していった。

それでも、幸子は確信していた。何かがこの町に潜んでいる、と。山田夫婦は消えたわけではない、ただ「隠された」のだ。そして、彼らが見たものと同じ何かが、自分にも近づいているという確信。

その後、幸子もまた突然姿を消した。町の人々は彼女が精神的に追い詰められ、どこかへ逃げ出したのだと噂した。しかし、幸子が最後に住んでいた家のクローゼットの中に、新たな写真が貼られていたことに気づく者はいなかった。

写真の中には、新しい住人が映っていた。

町は再び静けさを取り戻した。幸子の家には、新しい住人が引っ越してきた。彼らは穏やかな日常を楽しみ、町の人々とすぐに打ち解けていった。しかし、誰も気づかない。彼らの背後に潜む、目に見えない恐怖が、次の犠牲者を待っていることを。
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