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第10章
10-30
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10-30「チェアリーのターン」
『お待たせしました。どうぞこちらへ』
隣の部屋から聞こえてきたおじい様の言葉に、私の方が緊張してしまう。
おばあ様は静かに隣へ腰かけると、私の手に自らの手を添えてくれた。
「大丈夫じゃ」
静かに耳を澄ます。
『目が覚めた時、ビックリしたでしょう?苦労しませんでしたか?』
『ええ、かなり驚きました。でも周りにいた人達がみな親切だったので、なんとか』
『それは、それは、』
(何で?)
私は疑問に思った。ユウが教会で寝ていた事をおじい様は知っているかのような質問の仕方だったからだ。
『うちの孫とは、どこで知り合われたのですか?』
『彼女とは教会で。オレにとても親切で、いつも支えてくれるので助かってます』
『フム・・・・・・』
(もしかしてリンカが?)
彼との馴れ初めを話したのはリンカしかいない。彼女がもう、おじい様に口添えしておいてくれたのだろう。
彼女が約束を守ってくれたことで、私は少し気が楽になった。
『ここに来るまでの間、とてもモテたでしょう?』
リンカが何を喋ったのか分からないけど、おじい様は妙な事を言いだした。
『え?そんなっ、オレなんか。モテたと言ってもネコとか動物にはなつかれて困った事はあったけど・・・・・・でも、なぜ?』
確かに彼はやたらと動物に好かれる。でも、それは動物に限った事ではない。彼には女性を虜にする説明の出来ない魅力がある。
恋をしたらその人の事しか見えなくなると言われるけど、私は体の奥底から来る本能の様なものに突き動かされユウの事しか見えなくなった。
『分かります。私にもよく鳥が寄ってきて、手からエサを食べていきますよ』
「やっぱりあの者・・・・・・」
微かにおばあ様が呟いたのが聞こえた。隣り合って座っていなければ聞こえない程小さなつぶやきだ。
『・・・・・・ですが、今は人間の女性の話です』
『いや、女性になんて。特には・・・・・・』
(ウソつき)
たった数日なのに、彼に寄ってくる女性の事で私がどれだけ気を揉んだか。
『ご謙遜を、現にあなたは3人の女性を従えてやって来たじゃないですか』
『それは別にたまたまで、成り行きというか』
私の思いを代弁するようにおじい様は言った。
『うちの孫娘を泣かせるような真似をしたら私が許しませんよ』
(そうよ!私も許さないんだから)
しかし、私にとても優しいユウが他の女性になびくとは思えない。
おじい様の気迫に押されたのか、彼が慌てて取り繕う。
『それって、どういう意味ですか?オレとアリーチェはただの冒険者仲間で』
(え、冒険者仲間?)
その言葉に反応して私の心臓の鼓動が早くなっていくのを感じる。
(ただの言葉の綾だよね・・・・・・)
『長の方こそ、その・・・・・・ハーレムというか、奥さんは何人いるんですか?』
(!?)
彼が突拍子もない事を口にしたので驚いて声を出しそうになった。が、重ねていたおばあ様の手がピクリと動いたのを感じ私は息を飲んだ。
(何、聞いてるのよ!もうっ)
おじい様の、更にはおばあ様の不興まで買ったのではないかとヒヤヒヤする。
(ちゃんと話してって言ったのに!)
彼は分かっているのだろうか?この顔合わせが私達の未来を左右するという事を。
おじい様は少し間を置いてから言った。
『私の妻はアーテル1人のみです。彼女を裏切ることは死んでもありません』
その声はハッキリと壁を隔た向こうの部屋から聞こえてきた。
チラリと目線を横に向ける。おばあ様は伏し目がちに恍惚とした表情を浮かべていた。
「フフッ、恥ずかしいのぅ」
私の視線に気付いたおばあ様が口元を緩ませる。どうやら機嫌は損ねずに済んだらしい。
続いておじい様はおばあ様との馴れ初めを話し出した・・・・・・その話はどこか、ユウと私の出会いに似ている気がする。
(まるで私達みたい、)
おばあ様に詳しく聞いてみたかったが、聞ける様子ではない。おばあ様は私の手をゆっくりポンポンと叩きながら、目は伏し目がちに昔を懐かしむような表情をしている。
話は続く。
聞こえてくるおじい様の声は少し興奮気味だった。あの落ち着いた態度のおじい様からは想像できない事だ。
その内容は料理に関する事の様だったが、あの”まよねーず”の事も彼は喋ってしまった。
(私達の秘密じゃなかったの・・・・・・)
彼の方も少しづつ打ち解けてきたのか、その声は楽しそうだ。なんだか私だけ事情を知らず、取り残されている気がしてならない。
『あぁ、やっぱり日本人だ』
(また、にほんじん・・・・・・)
彼が教えてくれなかった言葉をおじい様は呟いた。私が注意深く聞こうと耳を澄ますと、さっきまで興奮気味に話していたのに、隣の部屋は急に静かになった。
「・・・・・・ッ!」
「・・・・・・クッ」
耳をそばだてているうちに隣からは声を押し殺し2人して泣いている様な嗚咽がもれてきた。
(泣いてる!?)
私は居ても立っても居られなくなり、イスから立ち上がった。
しかしおばあ様が私の手を引いて引き止め、首をゆっくり横に振っている。
「でも、何かあったんじゃ」
「いいのじゃ・・・・・・きっと日本の事を懐かしんでおるのじゃろう」
(にほん?)
やはりおばあ様は何か知っているようだ。
私はイスに腰を下ろし尋ねた。
「にほんじんって、何ですか?」
「・・・・・・おじい様は日本人なのじゃ。そなたが連れてきたあの者も恐らくそうじゃろう」
「それで、そのにほんって・・・・・・」
おばあ様は私の目を見て言った。
「それは直接、彼から聞きなさい」
『お待たせしました。どうぞこちらへ』
隣の部屋から聞こえてきたおじい様の言葉に、私の方が緊張してしまう。
おばあ様は静かに隣へ腰かけると、私の手に自らの手を添えてくれた。
「大丈夫じゃ」
静かに耳を澄ます。
『目が覚めた時、ビックリしたでしょう?苦労しませんでしたか?』
『ええ、かなり驚きました。でも周りにいた人達がみな親切だったので、なんとか』
『それは、それは、』
(何で?)
私は疑問に思った。ユウが教会で寝ていた事をおじい様は知っているかのような質問の仕方だったからだ。
『うちの孫とは、どこで知り合われたのですか?』
『彼女とは教会で。オレにとても親切で、いつも支えてくれるので助かってます』
『フム・・・・・・』
(もしかしてリンカが?)
彼との馴れ初めを話したのはリンカしかいない。彼女がもう、おじい様に口添えしておいてくれたのだろう。
彼女が約束を守ってくれたことで、私は少し気が楽になった。
『ここに来るまでの間、とてもモテたでしょう?』
リンカが何を喋ったのか分からないけど、おじい様は妙な事を言いだした。
『え?そんなっ、オレなんか。モテたと言ってもネコとか動物にはなつかれて困った事はあったけど・・・・・・でも、なぜ?』
確かに彼はやたらと動物に好かれる。でも、それは動物に限った事ではない。彼には女性を虜にする説明の出来ない魅力がある。
恋をしたらその人の事しか見えなくなると言われるけど、私は体の奥底から来る本能の様なものに突き動かされユウの事しか見えなくなった。
『分かります。私にもよく鳥が寄ってきて、手からエサを食べていきますよ』
「やっぱりあの者・・・・・・」
微かにおばあ様が呟いたのが聞こえた。隣り合って座っていなければ聞こえない程小さなつぶやきだ。
『・・・・・・ですが、今は人間の女性の話です』
『いや、女性になんて。特には・・・・・・』
(ウソつき)
たった数日なのに、彼に寄ってくる女性の事で私がどれだけ気を揉んだか。
『ご謙遜を、現にあなたは3人の女性を従えてやって来たじゃないですか』
『それは別にたまたまで、成り行きというか』
私の思いを代弁するようにおじい様は言った。
『うちの孫娘を泣かせるような真似をしたら私が許しませんよ』
(そうよ!私も許さないんだから)
しかし、私にとても優しいユウが他の女性になびくとは思えない。
おじい様の気迫に押されたのか、彼が慌てて取り繕う。
『それって、どういう意味ですか?オレとアリーチェはただの冒険者仲間で』
(え、冒険者仲間?)
その言葉に反応して私の心臓の鼓動が早くなっていくのを感じる。
(ただの言葉の綾だよね・・・・・・)
『長の方こそ、その・・・・・・ハーレムというか、奥さんは何人いるんですか?』
(!?)
彼が突拍子もない事を口にしたので驚いて声を出しそうになった。が、重ねていたおばあ様の手がピクリと動いたのを感じ私は息を飲んだ。
(何、聞いてるのよ!もうっ)
おじい様の、更にはおばあ様の不興まで買ったのではないかとヒヤヒヤする。
(ちゃんと話してって言ったのに!)
彼は分かっているのだろうか?この顔合わせが私達の未来を左右するという事を。
おじい様は少し間を置いてから言った。
『私の妻はアーテル1人のみです。彼女を裏切ることは死んでもありません』
その声はハッキリと壁を隔た向こうの部屋から聞こえてきた。
チラリと目線を横に向ける。おばあ様は伏し目がちに恍惚とした表情を浮かべていた。
「フフッ、恥ずかしいのぅ」
私の視線に気付いたおばあ様が口元を緩ませる。どうやら機嫌は損ねずに済んだらしい。
続いておじい様はおばあ様との馴れ初めを話し出した・・・・・・その話はどこか、ユウと私の出会いに似ている気がする。
(まるで私達みたい、)
おばあ様に詳しく聞いてみたかったが、聞ける様子ではない。おばあ様は私の手をゆっくりポンポンと叩きながら、目は伏し目がちに昔を懐かしむような表情をしている。
話は続く。
聞こえてくるおじい様の声は少し興奮気味だった。あの落ち着いた態度のおじい様からは想像できない事だ。
その内容は料理に関する事の様だったが、あの”まよねーず”の事も彼は喋ってしまった。
(私達の秘密じゃなかったの・・・・・・)
彼の方も少しづつ打ち解けてきたのか、その声は楽しそうだ。なんだか私だけ事情を知らず、取り残されている気がしてならない。
『あぁ、やっぱり日本人だ』
(また、にほんじん・・・・・・)
彼が教えてくれなかった言葉をおじい様は呟いた。私が注意深く聞こうと耳を澄ますと、さっきまで興奮気味に話していたのに、隣の部屋は急に静かになった。
「・・・・・・ッ!」
「・・・・・・クッ」
耳をそばだてているうちに隣からは声を押し殺し2人して泣いている様な嗚咽がもれてきた。
(泣いてる!?)
私は居ても立っても居られなくなり、イスから立ち上がった。
しかしおばあ様が私の手を引いて引き止め、首をゆっくり横に振っている。
「でも、何かあったんじゃ」
「いいのじゃ・・・・・・きっと日本の事を懐かしんでおるのじゃろう」
(にほん?)
やはりおばあ様は何か知っているようだ。
私はイスに腰を下ろし尋ねた。
「にほんじんって、何ですか?」
「・・・・・・おじい様は日本人なのじゃ。そなたが連れてきたあの者も恐らくそうじゃろう」
「それで、そのにほんって・・・・・・」
おばあ様は私の目を見て言った。
「それは直接、彼から聞きなさい」
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