291 / 305
第10章
10-25「チェアリーのターン」
しおりを挟む
10-25「チェアリーのターン」
ガタンッ!
「はぁ!?」
私は思わず声を上げ、イスから立ち上がった。
「はははっ、お父さんだって」
おとうさんと呼ばれ、ユウが照れ笑いする。その笑顔を見た瞬間、頭に血がのぼり、興奮しすぎて言葉が出なかった。言葉どころではない、頭の中には一つの感情しかない。
怒り。
(何も教えてくれなかったのは、こういう事だったの!私に言い寄っておいて!!)
胸の奥から湧き上がってきた感情を全て吐き出してしまいそうになった寸でのところでユウが言った。
「そんなに驚かなくても・・・・・・ただ勘違いしてるだけだよ。オレにエルフの子供がいるわけないし」
「・・・・・・なんだ。」
私の早とちりだったようだ。
動揺して勢いよく立ち上がってしまった恥ずかしさを隠して、静かにイスに座り直した。
周りで休憩していた人達は私が大きな声を出した事で興が醒めたのか、おしゃべりをやめて立ち去ってしまった。
エルフは大きな声を出されるのを嫌うのだ。
(また、私・・・・・・)
私は彼の事を何も知らない。過去なんて関係ない、隠している事があっても気にしない・・・・・・そうは思っていてもやはり気になる。こんな早とちりをしてしまった事で、まざまざとそれを感じた。
思えばユウの事となると私は、いてもたってもいられなくなり勘違いを何度も繰り返している。
「おとうさんじゃないよ。どこから来たの?」
その子はユウの質問に指をさして答えた。小さなゆびの先はキッチンのある裏手へと通じる通路を指している。
その通路から丁度モトアキおじさまが紅茶を持ってやって来た。
「こら、お客様にいたずらしちゃダメだぞ」
叱っていながらもその口調は優しい。
おじさまは自分の頭をトン・トン・トンと指で叩きながら歩いてくる。
「ぼ・う・し」
子供は握っていた帽子を無造作にかぶり、とて、とて、とて、と、おぼつかない足取りで駆けておじさまの足に抱きついた。
「こら、こら」
足にまとわりつかれ身動きが取れないでいるおじさまは、紅茶をこぼさない様にと困った様子だ。
「私が運びます」
動けないおじさまに代わり、トレーを受け取る。
そのトレーには紅茶のお茶うけにとビスケットが並べられており、私はそのビスケットを数枚取って、おじさまの足にしがみついて離れようとしないその子に手渡した。
「ハイ、どうぞ」
小さな手には収まりきらないビスケットを両手で大事そうに抱えると、その子は恥ずかしがったのか私に何も言わず駆けだした。
駆けていった先はおじい様が会議の時に座るイスだ。両手がふさがっているので、肘を支えに全身を使って大きなイスによじ登っていく。
「悪い子だ」
おじさまになぜ怒られているのか分かっていないところが可愛い。こちらに子供らしい無邪気な笑顔を見せてビスケットをかじりはじめた。
(もうっ!かわいい!!)
私はその子の仕草1つ1つに身悶えしそうになりながら、見とれた。
モトアキおじさまもしょうがないといった表情だったが、そのまなざしは優しい。
「もしかして・・・・・・おじさまのお子さんですか?」
「はははっ、アリーチェは会ったことなかったかな?私の妹だよ」
「えっ?もうあんなに大きくなったの?」
その子とは面識がある。私が聖都に行く前、挨拶に伺った折りに会っていた。とは言っても向こうは私の事など覚えていないくらい小さく、まだおばあ様の胸に大事に抱かれていたのだ。
「子供はあっという間に大きくなるからね。最近は一人で歩けるようになったから目が離せないよ」
おじさまは目を細めて言った。
「ほんに、子供の成長は早いことよ」
庭に出ていたはずのアーテルおばあ様が、通路の方から現れた。きっと私達が喋っている間に裏口から戻ったのだろう。
おばあ様は座っているユウの前に立った。
「我が主が面会したいと申しておる故、応接室にお進みくだされ」
「え?オレですか!?」
ユウはキョトンとした表情になり、すぐにこちらを見た。私は小さくうなずき返した。
「チェア、アリーチェは一緒でなくていいんですか?」
「そなたに会いたいと申しております」
「・・・・・・はい、分かりました」
彼は緊張した面持ちで中央の扉を開け、中に入っていった。
(ユウ・・・・・・)
日も傾き、休憩所には西日が射しこみ赤く染めている。畑の作業を終えたお手伝いさん達も引き上げ、急に人けが無くなり静かになった。
静寂の中、真っ赤な夕日の中にたたずんでいると不安にかられる。
「キャ、ハハハァ!」
私の不安をかき消すような笑い声に振り向くと、おばあ様がイスから子供を抱き上げているところだった。
「あー、重い・・・・・・もう抱っこは無理じゃな」
苦悶の声を上げながらもその顔は笑顔だ。
「何を貰ったのじゃ?ん?ビスケットか?良かったのぉ」
小刻みに揺れながら子供をあやしているそれは私もいつかああなりたいと憧れる姿。
「モトアキ、頃合いをみて応接室に行ってくれるか。父さんに何か飲物がいらぬか聞いておくれ。・・・・・・ほら、お兄ちゃんと一緒に行くのじゃ」
妹を託されたおじさまは、ひょいと抱き上げ奥へと下がっていった。
「さあ、アリーチェはわらわと女同士、ゆっくりお茶でも飲んで語ろうではないか」
私はおばあ様のお部屋へと招かれた。
ガタンッ!
「はぁ!?」
私は思わず声を上げ、イスから立ち上がった。
「はははっ、お父さんだって」
おとうさんと呼ばれ、ユウが照れ笑いする。その笑顔を見た瞬間、頭に血がのぼり、興奮しすぎて言葉が出なかった。言葉どころではない、頭の中には一つの感情しかない。
怒り。
(何も教えてくれなかったのは、こういう事だったの!私に言い寄っておいて!!)
胸の奥から湧き上がってきた感情を全て吐き出してしまいそうになった寸でのところでユウが言った。
「そんなに驚かなくても・・・・・・ただ勘違いしてるだけだよ。オレにエルフの子供がいるわけないし」
「・・・・・・なんだ。」
私の早とちりだったようだ。
動揺して勢いよく立ち上がってしまった恥ずかしさを隠して、静かにイスに座り直した。
周りで休憩していた人達は私が大きな声を出した事で興が醒めたのか、おしゃべりをやめて立ち去ってしまった。
エルフは大きな声を出されるのを嫌うのだ。
(また、私・・・・・・)
私は彼の事を何も知らない。過去なんて関係ない、隠している事があっても気にしない・・・・・・そうは思っていてもやはり気になる。こんな早とちりをしてしまった事で、まざまざとそれを感じた。
思えばユウの事となると私は、いてもたってもいられなくなり勘違いを何度も繰り返している。
「おとうさんじゃないよ。どこから来たの?」
その子はユウの質問に指をさして答えた。小さなゆびの先はキッチンのある裏手へと通じる通路を指している。
その通路から丁度モトアキおじさまが紅茶を持ってやって来た。
「こら、お客様にいたずらしちゃダメだぞ」
叱っていながらもその口調は優しい。
おじさまは自分の頭をトン・トン・トンと指で叩きながら歩いてくる。
「ぼ・う・し」
子供は握っていた帽子を無造作にかぶり、とて、とて、とて、と、おぼつかない足取りで駆けておじさまの足に抱きついた。
「こら、こら」
足にまとわりつかれ身動きが取れないでいるおじさまは、紅茶をこぼさない様にと困った様子だ。
「私が運びます」
動けないおじさまに代わり、トレーを受け取る。
そのトレーには紅茶のお茶うけにとビスケットが並べられており、私はそのビスケットを数枚取って、おじさまの足にしがみついて離れようとしないその子に手渡した。
「ハイ、どうぞ」
小さな手には収まりきらないビスケットを両手で大事そうに抱えると、その子は恥ずかしがったのか私に何も言わず駆けだした。
駆けていった先はおじい様が会議の時に座るイスだ。両手がふさがっているので、肘を支えに全身を使って大きなイスによじ登っていく。
「悪い子だ」
おじさまになぜ怒られているのか分かっていないところが可愛い。こちらに子供らしい無邪気な笑顔を見せてビスケットをかじりはじめた。
(もうっ!かわいい!!)
私はその子の仕草1つ1つに身悶えしそうになりながら、見とれた。
モトアキおじさまもしょうがないといった表情だったが、そのまなざしは優しい。
「もしかして・・・・・・おじさまのお子さんですか?」
「はははっ、アリーチェは会ったことなかったかな?私の妹だよ」
「えっ?もうあんなに大きくなったの?」
その子とは面識がある。私が聖都に行く前、挨拶に伺った折りに会っていた。とは言っても向こうは私の事など覚えていないくらい小さく、まだおばあ様の胸に大事に抱かれていたのだ。
「子供はあっという間に大きくなるからね。最近は一人で歩けるようになったから目が離せないよ」
おじさまは目を細めて言った。
「ほんに、子供の成長は早いことよ」
庭に出ていたはずのアーテルおばあ様が、通路の方から現れた。きっと私達が喋っている間に裏口から戻ったのだろう。
おばあ様は座っているユウの前に立った。
「我が主が面会したいと申しておる故、応接室にお進みくだされ」
「え?オレですか!?」
ユウはキョトンとした表情になり、すぐにこちらを見た。私は小さくうなずき返した。
「チェア、アリーチェは一緒でなくていいんですか?」
「そなたに会いたいと申しております」
「・・・・・・はい、分かりました」
彼は緊張した面持ちで中央の扉を開け、中に入っていった。
(ユウ・・・・・・)
日も傾き、休憩所には西日が射しこみ赤く染めている。畑の作業を終えたお手伝いさん達も引き上げ、急に人けが無くなり静かになった。
静寂の中、真っ赤な夕日の中にたたずんでいると不安にかられる。
「キャ、ハハハァ!」
私の不安をかき消すような笑い声に振り向くと、おばあ様がイスから子供を抱き上げているところだった。
「あー、重い・・・・・・もう抱っこは無理じゃな」
苦悶の声を上げながらもその顔は笑顔だ。
「何を貰ったのじゃ?ん?ビスケットか?良かったのぉ」
小刻みに揺れながら子供をあやしているそれは私もいつかああなりたいと憧れる姿。
「モトアキ、頃合いをみて応接室に行ってくれるか。父さんに何か飲物がいらぬか聞いておくれ。・・・・・・ほら、お兄ちゃんと一緒に行くのじゃ」
妹を託されたおじさまは、ひょいと抱き上げ奥へと下がっていった。
「さあ、アリーチェはわらわと女同士、ゆっくりお茶でも飲んで語ろうではないか」
私はおばあ様のお部屋へと招かれた。
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる