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第10章

10-11

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10-11「ユウのターン」

「夏前にはこの場所一面が、麦の黄金色に染まるんだ。とっても綺麗なんだから」
彼女はまた伸びをしながら気持ちよさそうに数歩あるくと、こちらに振り返った。
「収穫の時期は農家だけじゃ人手が足りないから、臨時の農夫を雇ってキャラバン隊を作るんだよ」
「キャラバン?」
「この広い平野を移動しながらテントで寝泊まりして、麦の世話をするの。私も参加したことあるんだ」
大規模な農地だから世話だけでも大変なのだろう。キャンプしながらこの広大な麦畑を転々として行く姿にオレはロマンを感じた。

「へー、前は冒険者パーティーに入っていたって言ってたけど、色々な事してるんだね」
「うん。冒険者より畑で働いていた方が性に合ってるみたい。キャラバンだと付き添いの兵士がモンスターを狩ってくれるから危険も少ないし」
「キャラバンってどんなことをするの?」
「私がしてたのはスズメ狩り」
「スズメを?」
「スズメは麦の天敵だからね。普段は害虫を食べてくれるいい鳥なんだけど、麦の実が付きはじめるとそっちばかり食べちゃうから、その前に狩るの」
オレはチェアリーがスズメに向けて弓を引いている姿を想像した。少しかわいそうな気もするが、それも仕事だ。

「やっぱりエルフだね。弓でスズメを射るなんて」
「フフッ。私なんかの腕前だとあんな小さな的そうそう当たらないよ」
「じゃあ、どうやって狩るの?」
「麦の種をね、お酒に漬けてから乾燥させたものをエサにするの。そうするとそのエサを食べたスズメは酔っぱらって飛べなくなるからそこを捕まえるんだよ」
「へー、簡単なんだな」
「これが結構大変なんだよ。スズメも賢いからね、警戒してエサを食べてくれないから鳥笛を使っておびき寄せたりして、我慢強く待たないといけないんだから」
想像とは違ったが生け捕りにするのなら、ネコ釣りに似てなんだか楽しそうに思える。

「他にもね、手が空いた時にはみんなでスズメを追ったりもするんだよ」
「追うって、どういう事?」
「スズメはね飛ぶのが苦手で長く飛んでいられないから、すぐ地面に降りてくるでしょ?キャラバンのみんなでバラバラに広がってスズメが降りてきたら近くの人が、そこに目がけて走って行くの」
「そんな事したら飛んで逃げていくだろ?」
「うん。逃げてもまた地面に降りてくるからそれを何度も繰り返して、スズメが疲れて飛べなくなったところで捕まえるの」
「面白そうだね」
「この方法も大変なんだよ。走り回らないといけないんだから。けど、走り回った分、その後の焼き鳥は格別だけどね。ウフ」
彼女の笑顔で察した。捕獲した後は山にでも放すのかと思ったら、食べるなんて!
「・・・・・・スズメって美味しいの?」
「おいしいよ。ユウは食べたことないの?」
「うん。見た目が可愛いから食べるなんて考えられない」
「ユウは動物好きだもんね。けど、ウサギだって可愛いけど美味しかったでしょ?」
「あれは・・・・・・うん、まあ」
「今度捕まえて食べようか」
彼女の言葉に食指が動いてしまった。ウサギといい、ヌマタヌキといい、オレの知らない味はまだまだある。

「どうやって料理するの?あんなに小さいと食べる部分なんてなさそうだけど」
「簡単だよ。まず羽根をむしったら、」
(おぅ、簡単じゃないな)
「内臓だけ出して、後は焼くだけだよ」
「捌かないの?」
「フフッ、あんな小さいの捌けないよ。肉もほとんどないし丸焼きにするの」
(オレの知ってる焼き鳥じゃない!)
「頭がおいしいんだよ。脳みそが濃厚で、レバーの様な味かな」
スズメの涙は少ないことの例えにされるが、あの小さな頭にどれだけの脳みそが詰まっているのだろう?

「脳みそはスプーンですくい出すの?」
「え?出さないよ。そのまま頭ごと丸かじりにするんだから」
「丸かじり?骨は?」
「骨は柔らかいからそのまま食べられるよ。もし、骨が気になるなら、油で素揚げにしてもおいしいよ。低温でじっくり揚げれば骨も気にならないくらい柔らかくなるし、塩とレモンを絞って食べたら最高なんだから」
「おいしそうだな」
「・・・・・・本当に食べたことないんだね」
「オレの居たところではスズメを食べる習慣なんて無かったから」
「ふーん・・・・・・聖都ではよく食べられてるよ。教会が広大な麦畑を持ってるからスズメ専門に狩りをする人もいて、スズメの丸焼きが初夏の風物詩になってるの」
スズメの丸焼きが風物詩なんてあまり考えたくはない。日本で言えば土用の丑の日に食べるウナギの様なものなんだろうか?

「でもさ、そんなに捕まえたらスズメいなくなるんじゃない?」
「大丈夫だよ。たぶん。狩るのは麦が実る季節だけだし、夏にはまたヒナが生まれて増えるんだから」
彼女は畑を振り返った。
視線の先に何羽かの群れで飛び回っている小鳥が見える。
(自然のサイクルか、)
「お二人さん。そろそろ出発しません?」
目を覚ましたリンカがオレ達の側に寄ってきた。
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