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第9章
9-21
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9-21「リンカのターン」
チェアリーは私とのおしゃべりに夢中だった。いとこのお兄さんは口うるさいらしく、その愚痴を事細かに話しかけてくるものだから、私は魚をなかなか口に出来ないでいた。
一方でユウは急におとなしくなった気がする。
火にかけられたカップはグラグラと沸騰していた。だが彼はそれを眺めているばかりで、自分ではお茶を淹れようとはしない。
「お湯、沸いてるわよ」
「ホントだ!気付かなくてごめんね、ユウ」
チェアリーが話を一旦止めて、お茶を用意しだした。
(私の方が年上だったからって、萎縮しちゃったのかしら?それとも・・・・・・)
私は彼に話しを振った。
「お茶は何持ってるの?」
「ミントとかのドライハーブだよ」
「私もお茶には凝ってるから使う?パパ、好きなの選んで」
リュックからお茶類をまとめて入れてある袋を取り出し、中から種類ごとに小分けにしてある紙包みを広げる。
「カモミールにローズ、ダンデリオン、それから・・・・・・紅茶もあるわよ?」
「ダンデリオン持ってるの?ユウ、飲みたいって言ってたでしょ。それにする?」
「あぁ、そうだな。それにしようかな」
「ダンデリオンなんて飲みたいの?苦いだけでそんなに美味しい物じゃないわよ」
私はエルフの長から珍しいハーブティーなどを分けてもらう事があり、ダンデリオンも勧められて持っていた。だけど、それは苦いばかりで口に合わず残ったままだった。
「その苦いのが飲みたいみたいなの。なんだっけ?えーっと、こっひー?」
「コーヒーだよ。コーヒーに味が似てるらしいから、飲んでみたかったんだ」
ユウは私が知らないお茶の名前を口にした。
「こーひー?って何よ」
「コーヒーっていうのは・・・・・・豆を黒くなるまで炒ってから粉にしたものを、お湯をかけて濾した飲み物だよ」
「それも苦いの?」
「苦いよ、大人の味なんだ。フフッ、」
ユウが冗談交じりの皮肉を言った。
(いい人ね、)
私がピコ族である事を知って彼の態度が変わったのかと思ったが、そうでは無かった。冗談を言うくらい普通に接してくれる事が私には嬉しい。
グラグラ沸き立つお湯の中へダンデリオンを入れてしばらく待つと、お湯は茶色く色付いた。
それぞれに分けて淹れてあげようとリュックから濾し器とカップを二つ取り出すと、なぜかチェアリーはそれを制止した。
「カップは1つでいいよ」
「ママは飲まないの?」
「飲むよ。ユウに分けてもらうからカップは1つでいいの」
(あぁ、仲がよろしいことで、)
言われた通り1つのカップに淹れてあげたら、2人は仲良く分け合いながら飲み始めた。
「ズズッ・・・・・・うん、やっぱりコーヒーとは違うな」
「私にも飲ませて・・・・・・ズズッ。うん、にがい。でもちょっと甘みもあるね」
「なんていうか、コーヒーに比べるとコクが無いというか、薄い。風味は似てなくもないけど」
(私はお邪魔なようね)
私がいる事でユウから彼女を取り上げてしまっていたようだ。静かだったのはその為だろう。
(早く、シエルボに行かないと)
彼らの邪魔をするつもりなど、これっぽっちもない。私の目的は長にユウを引き合わせる事だ。それにこんな熱々の様子を見せつけられては私の方が参ってしまう。
「ズズッ、苦いのも慣れてくると美味しいかな。けど、何か甘いものがあったらお茶うけに良かったね」
「この前までリュックにマシュマロが入っていたんだけど、食べちゃったし・・・・・・」
「あ、ジャガイモならあるよ」
彼女はおもむろに、コートのポケットからジャガイモを取り出した。
「プッ、なんでコートにジャガイモ入れてるのよ!」
「え?何となく?」
「エルフが種を持ち歩いて道端に蒔いてるのは知ってるけど、ポケットの中へジャガイモを入れてたのは初めて見たわ」
「違うのこれはっ。私の村に行商に来るおじさんがいつも買い物のおまけにジャガイモを1つくれるから、ポケットに入れるようになって、それが癖というかジャガイモはポケットに入れるものって体が覚えてて、」
「フフフッ」
やはり、一族というのは似てくるものなのだろう。エルフの長もポケットに色々と詰め込んでいるの事を思い出した。
入れている物の多くは、散歩のついでに見つけて収集した種だ。けど時には果物なんかも入っていて、それを食べながら散策し、中の種を道端に埋めて蒔いているのを見たことがある。
「ユウ、焼いてあげようか?甘くておいしいと思うよ」
「オレは別に何もいらないよ。コーヒーはそのまま飲むのが大人なんだよ。ズズッ」
「そう?なら残しておいてもしょうがないし、芽も膨らみ始めてるから植えておこうかな」
彼女はナイフを手に取るとジャガイモを半分に割り、かまどの灰を切り口にまぶした。
「何してるの?」
「ジャガイモは芽さえ付いてれば半分に割って植え付けてもいいんだよ。灰をまぶすのは切り口から腐らないようにするためなの」
「へー、さすがエルフね。私はそういう事まったく知らないわ」
私の言葉ににっこりほほ笑むチェアリー。
彼女がジャガイモと流木を手にして土手の方へ向かったので、私も付いて行った。
「ジャガイモはね水を嫌うんだよ。だから土手の様な斜面になっているところに植え付けると、水はけがいいから良く育つわ」
流木で簡単な穴を掘り、そこへジャガイモを埋めていく。
「こんな所に植えたら忘れそうね」
「忘れてもいいの。誰か気付いた人が収穫して食べてくれれば」
それはエルフの長の教えだ。
「そういう考え方、嫌いじゃないわ」
チェアリーは私とのおしゃべりに夢中だった。いとこのお兄さんは口うるさいらしく、その愚痴を事細かに話しかけてくるものだから、私は魚をなかなか口に出来ないでいた。
一方でユウは急におとなしくなった気がする。
火にかけられたカップはグラグラと沸騰していた。だが彼はそれを眺めているばかりで、自分ではお茶を淹れようとはしない。
「お湯、沸いてるわよ」
「ホントだ!気付かなくてごめんね、ユウ」
チェアリーが話を一旦止めて、お茶を用意しだした。
(私の方が年上だったからって、萎縮しちゃったのかしら?それとも・・・・・・)
私は彼に話しを振った。
「お茶は何持ってるの?」
「ミントとかのドライハーブだよ」
「私もお茶には凝ってるから使う?パパ、好きなの選んで」
リュックからお茶類をまとめて入れてある袋を取り出し、中から種類ごとに小分けにしてある紙包みを広げる。
「カモミールにローズ、ダンデリオン、それから・・・・・・紅茶もあるわよ?」
「ダンデリオン持ってるの?ユウ、飲みたいって言ってたでしょ。それにする?」
「あぁ、そうだな。それにしようかな」
「ダンデリオンなんて飲みたいの?苦いだけでそんなに美味しい物じゃないわよ」
私はエルフの長から珍しいハーブティーなどを分けてもらう事があり、ダンデリオンも勧められて持っていた。だけど、それは苦いばかりで口に合わず残ったままだった。
「その苦いのが飲みたいみたいなの。なんだっけ?えーっと、こっひー?」
「コーヒーだよ。コーヒーに味が似てるらしいから、飲んでみたかったんだ」
ユウは私が知らないお茶の名前を口にした。
「こーひー?って何よ」
「コーヒーっていうのは・・・・・・豆を黒くなるまで炒ってから粉にしたものを、お湯をかけて濾した飲み物だよ」
「それも苦いの?」
「苦いよ、大人の味なんだ。フフッ、」
ユウが冗談交じりの皮肉を言った。
(いい人ね、)
私がピコ族である事を知って彼の態度が変わったのかと思ったが、そうでは無かった。冗談を言うくらい普通に接してくれる事が私には嬉しい。
グラグラ沸き立つお湯の中へダンデリオンを入れてしばらく待つと、お湯は茶色く色付いた。
それぞれに分けて淹れてあげようとリュックから濾し器とカップを二つ取り出すと、なぜかチェアリーはそれを制止した。
「カップは1つでいいよ」
「ママは飲まないの?」
「飲むよ。ユウに分けてもらうからカップは1つでいいの」
(あぁ、仲がよろしいことで、)
言われた通り1つのカップに淹れてあげたら、2人は仲良く分け合いながら飲み始めた。
「ズズッ・・・・・・うん、やっぱりコーヒーとは違うな」
「私にも飲ませて・・・・・・ズズッ。うん、にがい。でもちょっと甘みもあるね」
「なんていうか、コーヒーに比べるとコクが無いというか、薄い。風味は似てなくもないけど」
(私はお邪魔なようね)
私がいる事でユウから彼女を取り上げてしまっていたようだ。静かだったのはその為だろう。
(早く、シエルボに行かないと)
彼らの邪魔をするつもりなど、これっぽっちもない。私の目的は長にユウを引き合わせる事だ。それにこんな熱々の様子を見せつけられては私の方が参ってしまう。
「ズズッ、苦いのも慣れてくると美味しいかな。けど、何か甘いものがあったらお茶うけに良かったね」
「この前までリュックにマシュマロが入っていたんだけど、食べちゃったし・・・・・・」
「あ、ジャガイモならあるよ」
彼女はおもむろに、コートのポケットからジャガイモを取り出した。
「プッ、なんでコートにジャガイモ入れてるのよ!」
「え?何となく?」
「エルフが種を持ち歩いて道端に蒔いてるのは知ってるけど、ポケットの中へジャガイモを入れてたのは初めて見たわ」
「違うのこれはっ。私の村に行商に来るおじさんがいつも買い物のおまけにジャガイモを1つくれるから、ポケットに入れるようになって、それが癖というかジャガイモはポケットに入れるものって体が覚えてて、」
「フフフッ」
やはり、一族というのは似てくるものなのだろう。エルフの長もポケットに色々と詰め込んでいるの事を思い出した。
入れている物の多くは、散歩のついでに見つけて収集した種だ。けど時には果物なんかも入っていて、それを食べながら散策し、中の種を道端に埋めて蒔いているのを見たことがある。
「ユウ、焼いてあげようか?甘くておいしいと思うよ」
「オレは別に何もいらないよ。コーヒーはそのまま飲むのが大人なんだよ。ズズッ」
「そう?なら残しておいてもしょうがないし、芽も膨らみ始めてるから植えておこうかな」
彼女はナイフを手に取るとジャガイモを半分に割り、かまどの灰を切り口にまぶした。
「何してるの?」
「ジャガイモは芽さえ付いてれば半分に割って植え付けてもいいんだよ。灰をまぶすのは切り口から腐らないようにするためなの」
「へー、さすがエルフね。私はそういう事まったく知らないわ」
私の言葉ににっこりほほ笑むチェアリー。
彼女がジャガイモと流木を手にして土手の方へ向かったので、私も付いて行った。
「ジャガイモはね水を嫌うんだよ。だから土手の様な斜面になっているところに植え付けると、水はけがいいから良く育つわ」
流木で簡単な穴を掘り、そこへジャガイモを埋めていく。
「こんな所に植えたら忘れそうね」
「忘れてもいいの。誰か気付いた人が収穫して食べてくれれば」
それはエルフの長の教えだ。
「そういう考え方、嫌いじゃないわ」
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