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第9章
9-18
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9-18「リンカのターン」
「ほら!これを着て」
魚を引き上げ川から出た私に、ユウがまたしても自分のストールを掛けてくれようとする。
「いいわよ。このまま火に当たっていればすぐ乾くから」
「いや、そういうことじゃなく・・・・・・」
彼は私が断っているにもかかわらず、背後に回りストールを掛けてくれた。
「そういう格好でいたらダメだよ。ほら、チェアリーも見てるから」
(それもそうか、)
ユウは彼女の前で体裁を気にしたらしい。
彼らとはもう接触できたのだし、変な誤解を生むわけにもいかない。私はおとなしくストールを体に巻き付け、肌をさらさないように気を付けた。
チェアリーの元に戻ると、ニコニコと迎えてくれた。どうやら変な誤解は生まずに済んだらしい。
「ママ、捕ってきたわよ」
「あの距離を当てるなんて、スゴイじゃない」
「そんなことないわ。いつもこれで狩をしてるから」
私は持っていた斧を掲げた。
「その斧ってアトラトルにも使えるんだね」
「あとらとる?」
「ユウは見たことないの?槍を投げる道具だよ。昔はそれを使って狩をしていたの。うちのお父さんも鹿の角で作ってるんだけど、今は使う人もいないから買っていく人もいなし、ほとんど趣味で作っている様なものだよ」
ユウが斧を興味深そうに見ていたので、渡して説明してあげた。
「刃の反対側に小さな突起があるでしょ?」
「ああ、」
「そこに槍を引っ掛けて斧と一緒に持つの」
「それでさっきナイフで穴を開けていたのか」
「で、槍を投げる時は、斧の柄から押し出すように手首のスナップを利かせて振ると、テコの原理でそんなに力をかけなくても槍が強く飛んでいくのよ」
「へ~、すごいな!」
魚から槍を抜き取り渡してあげると、ユウは教えてあげたように斧に槍をあてがい素振りをしはじめた。私にとっては使い慣れた道具だったが、彼が驚いてくれたのを見て少し誇らしい。
「そのままじゃ寒いでしょ?火に当たって。はい、タオル」
チェアリーの方は甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。
(こういうのもいいわね・・・・・・)
話す相手も無く一人で野営をしていた時とは違って、反応が帰ってくるのは楽しい。
「ありがとう」
受け取ったタオルで体を拭くためストールを脱ぐと、彼女はユウと私の間に入ってストールを広げ目隠しにした。
「ユウは見ちゃダメ!」
「そんなに気を遣ってくれなくても・・・・・・一応これ防具なんだし、見られたって構わないわ」
「そうかもしれないけど。いつもその格好でいるの?」
「ええ、ずっとこれよ」
「なんで?そんな格好で・・・・・・」
「私、プラントハントしてるのよ。だから基本山歩きばかりしてるんだけど、何日も山の中にこもってると下着にこまるのよねぇ。これだと簡単に洗えて、拭けばすぐに乾くでしょ」
「だとしても、その格好で人前に出るのはよした方がいいよ」
「そう?」
「そうだよ!」
「今度から気を付けるわ。とは言っても私、いつも山の中で一人だから気にする相手もいないけどね」
体を拭き終わるとチェアリーはストールを掛け直してくれ、また甲斐甲斐しく世話を焼き始めた。
「ほら、パパ。出番だよ。魚、捌いてあげて」
「パパって・・・・・・まぁ、いいけど」
「わざわざ捌かなくても、葉っぱに包んでたき火の中に放り込めば勝手に焼けるわ」
「豪快だな。でも、捌いた方が早く焼けるだろ?捌くのもそんなに時間かからないからやってあげるよ」
「ユウは器用なんだよ。魚が捌けるし、箸も作ってくれるし、このかまどもユウが作ったんだから」
「それくらい、たいしたことないよ」
ユウは照れ笑いをしながらも、頼られるのが嬉しいのかまんざらでもない様子だ。
(やっぱりか)
彼らがかまどを当然のように使っていたので、もしかしたらと思っていたけど、このかまどはユウが作った物だったのだ。この前私がかまどを使った時、周りに木くずが落ちていたのも、彼がここで箸を削り出していたからだろう。
(最初から近くにいたのね・・・・・・)
「料理はオレに任せて、たき火に当たって待ってな」
「うん、」
任せろと言うだけあって、彼の魚を捌く手つきは慣れたものだった。
今度はチェアリーが私のコートを広げて言う。
「このコートやぶれてるところがあるね」
「直そうと思っていたんだけど、裏地を買いに行かないといけないし、後でやろうと思ってそのままよ」
「いま直してあげようか?」
「出来るの?」
「うん、道具はいつも持ち歩いてるの。ちょっと待ってて。魚が焼き上がるまでには仕上がると思うから」
そのコートは大切なものだったが、なぜか彼女の申し出に私は甘えた。
(ほんと、こういうのもいいわね・・・・・・)
「ほら!これを着て」
魚を引き上げ川から出た私に、ユウがまたしても自分のストールを掛けてくれようとする。
「いいわよ。このまま火に当たっていればすぐ乾くから」
「いや、そういうことじゃなく・・・・・・」
彼は私が断っているにもかかわらず、背後に回りストールを掛けてくれた。
「そういう格好でいたらダメだよ。ほら、チェアリーも見てるから」
(それもそうか、)
ユウは彼女の前で体裁を気にしたらしい。
彼らとはもう接触できたのだし、変な誤解を生むわけにもいかない。私はおとなしくストールを体に巻き付け、肌をさらさないように気を付けた。
チェアリーの元に戻ると、ニコニコと迎えてくれた。どうやら変な誤解は生まずに済んだらしい。
「ママ、捕ってきたわよ」
「あの距離を当てるなんて、スゴイじゃない」
「そんなことないわ。いつもこれで狩をしてるから」
私は持っていた斧を掲げた。
「その斧ってアトラトルにも使えるんだね」
「あとらとる?」
「ユウは見たことないの?槍を投げる道具だよ。昔はそれを使って狩をしていたの。うちのお父さんも鹿の角で作ってるんだけど、今は使う人もいないから買っていく人もいなし、ほとんど趣味で作っている様なものだよ」
ユウが斧を興味深そうに見ていたので、渡して説明してあげた。
「刃の反対側に小さな突起があるでしょ?」
「ああ、」
「そこに槍を引っ掛けて斧と一緒に持つの」
「それでさっきナイフで穴を開けていたのか」
「で、槍を投げる時は、斧の柄から押し出すように手首のスナップを利かせて振ると、テコの原理でそんなに力をかけなくても槍が強く飛んでいくのよ」
「へ~、すごいな!」
魚から槍を抜き取り渡してあげると、ユウは教えてあげたように斧に槍をあてがい素振りをしはじめた。私にとっては使い慣れた道具だったが、彼が驚いてくれたのを見て少し誇らしい。
「そのままじゃ寒いでしょ?火に当たって。はい、タオル」
チェアリーの方は甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。
(こういうのもいいわね・・・・・・)
話す相手も無く一人で野営をしていた時とは違って、反応が帰ってくるのは楽しい。
「ありがとう」
受け取ったタオルで体を拭くためストールを脱ぐと、彼女はユウと私の間に入ってストールを広げ目隠しにした。
「ユウは見ちゃダメ!」
「そんなに気を遣ってくれなくても・・・・・・一応これ防具なんだし、見られたって構わないわ」
「そうかもしれないけど。いつもその格好でいるの?」
「ええ、ずっとこれよ」
「なんで?そんな格好で・・・・・・」
「私、プラントハントしてるのよ。だから基本山歩きばかりしてるんだけど、何日も山の中にこもってると下着にこまるのよねぇ。これだと簡単に洗えて、拭けばすぐに乾くでしょ」
「だとしても、その格好で人前に出るのはよした方がいいよ」
「そう?」
「そうだよ!」
「今度から気を付けるわ。とは言っても私、いつも山の中で一人だから気にする相手もいないけどね」
体を拭き終わるとチェアリーはストールを掛け直してくれ、また甲斐甲斐しく世話を焼き始めた。
「ほら、パパ。出番だよ。魚、捌いてあげて」
「パパって・・・・・・まぁ、いいけど」
「わざわざ捌かなくても、葉っぱに包んでたき火の中に放り込めば勝手に焼けるわ」
「豪快だな。でも、捌いた方が早く焼けるだろ?捌くのもそんなに時間かからないからやってあげるよ」
「ユウは器用なんだよ。魚が捌けるし、箸も作ってくれるし、このかまどもユウが作ったんだから」
「それくらい、たいしたことないよ」
ユウは照れ笑いをしながらも、頼られるのが嬉しいのかまんざらでもない様子だ。
(やっぱりか)
彼らがかまどを当然のように使っていたので、もしかしたらと思っていたけど、このかまどはユウが作った物だったのだ。この前私がかまどを使った時、周りに木くずが落ちていたのも、彼がここで箸を削り出していたからだろう。
(最初から近くにいたのね・・・・・・)
「料理はオレに任せて、たき火に当たって待ってな」
「うん、」
任せろと言うだけあって、彼の魚を捌く手つきは慣れたものだった。
今度はチェアリーが私のコートを広げて言う。
「このコートやぶれてるところがあるね」
「直そうと思っていたんだけど、裏地を買いに行かないといけないし、後でやろうと思ってそのままよ」
「いま直してあげようか?」
「出来るの?」
「うん、道具はいつも持ち歩いてるの。ちょっと待ってて。魚が焼き上がるまでには仕上がると思うから」
そのコートは大切なものだったが、なぜか彼女の申し出に私は甘えた。
(ほんと、こういうのもいいわね・・・・・・)
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