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第9章
9-3
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9-3「チェアリーのターン」
私はつとめて明るく、食堂の扉を開けた。
「ただいまーぁ!」
張り上げた声に反応しておかみさんとテーブルに着いていた数人のお客さんが一斉にこちらを見た。
「おや、早かったんだねぇ。もう帰ってきたのかい?」
「ええ、川は寒くって!日の出前に目が覚めちゃったから早く帰ってきたんです。門が開いててよかったわ」
「ああ、昨日は福音が鳴らなかったからねぇ、今朝は門も閉まらなかったからお客の入りもこんなもんさ」
おかみさんが閑散としているテーブルを見渡し、座っていたお客さんが苦笑いする。
「しかし、なんだったんだろうねぇ、あれは。このまま何事もなければいいんだけど」
「それより、おかみさん。これ見て!」
私は持っていた干し魚を掲げ、おかみさんに見せた。
「あらまっ!立派な魚じゃないかい」
「おかみさんにお土産よ」
「いいのかい?うれしいねぇ、彼が捕まえてくれたのかい?」
「ウフフッ、違うの。私が捕まえたんだよ。取り方を教えてくれたのはユウなんだけどね。捌いて干してくれたのもユウだけど、フフッ」
おかみさんに干し魚を渡すと大げさなくらいに喜んでくれた。その姿を見ただけで、私の心は少し落ち着いた。
「アンタ達、朝ごはんは?用意してあげようか?」
「ううん、いいわ。今朝はユウがおかゆを作ってくれたから、もう食べてきたの。ねえ、聞いて!彼の作るおかゆとっても美味しいんだよ。魚の骨を煮込んでスープを作って、そこにこの前おかみさんから貰った押し麦を入れるの。甘く無くて薄味なんだけど、とっても味わい深くて、」
「そうかい、そうかい。それは是非とも作り方を教えてもらいたいね。私の作る甘いおかゆよりよっぽど美味しいみたいだからね」
「おかみさんのも美味しいよ。フフフッ」
「ほら、こんな所で立ち話しはやめて、まずはその荷物を部屋に下ろしに行ったらどうだい?」
私達はおかみさんに促され部屋へと向かった。
中庭に出たところで私は前を歩くユウを呼び止めた。
「ユウ、この後どうする?」
早く帰ってきてしまったので、いつもならばこれから出かける時間だろう。
「ああ・・・・・・」
彼はどこか気の無い返事をした。
ユウは帰って来る間も元気が無い様子で、口数も少なかった。といっても、いつもあまりしゃべる方ではないけど。今朝は話していても相づちすら打ってくれず、私はとにかく明るく振る舞って、帰り道もずっと一人で喋り続けてきた。
「荷物おいたら食堂に来て。ゆっくりお茶でも飲みましょ。私、喉が渇いちゃって」
疲れたから部屋で休みたかった。けど、なんだか彼を一人にしてはいけない気がして私は人のいる食堂へ誘った。
「・・・・・・わかった」
彼は一言だけ言って自分の部屋へと向かった。
「だいぶ疲れているみたいだね」
「彼、頑張ってくれてたから・・・・・・あ!そう言う意味じゃないからっ!!そのっ、いつも私の為に頑張っているっていう意味でっ」
「ハハッ、分かってるよ・・・・・・昨日は楽しかったかい?」
「はい、とっても!」
私はめいいっぱいの笑顔を作った。
「そうかい、」
おかみさんは側に寄り添い、背中をさすってくれた。
「いつでも相談にのるから」
その言葉に涙が溢れそうになった。
(やっぱりこの人には隠し事は出来ないな・・・・・・)
私は涙をこらえて言った。
「・・・・・・大丈夫です」
「話したくなった時に話せばいいからね」
おかみさんは詳しく聞くことはせず、そのまま食堂へと戻っていった。
まるでおかみさんは私の母親の様だ。いや、母とは別の意味で頼りになり、こちらを察してくれ、気遣いが出来る・・・・・・私の目標とする人物だ。
食堂へ戻っていくその大きな背中を見ていたら、勇気が貰えた気がした。私の目標とする人物が、その指標が、すぐ側にいてくれるのは心強い。
(私が彼を支えてあげないと!)
おかみさんが私にしてくれたように、今度は私がユウに寄り添ってあげればいい。
弱気になりそうになる自分の心に気合いを入れた。
自分の部屋に荷物を置き、すぐ食堂に戻ったがユウはいなかった。
まだ部屋から出てきていないのかと思い、私は中庭のベンチで待つことにした。
・・・・・・・・・・・・・
だが、待っていてもなかなかユウは姿を現さない。
私は心配になり彼の部屋へ向かった。
私はつとめて明るく、食堂の扉を開けた。
「ただいまーぁ!」
張り上げた声に反応しておかみさんとテーブルに着いていた数人のお客さんが一斉にこちらを見た。
「おや、早かったんだねぇ。もう帰ってきたのかい?」
「ええ、川は寒くって!日の出前に目が覚めちゃったから早く帰ってきたんです。門が開いててよかったわ」
「ああ、昨日は福音が鳴らなかったからねぇ、今朝は門も閉まらなかったからお客の入りもこんなもんさ」
おかみさんが閑散としているテーブルを見渡し、座っていたお客さんが苦笑いする。
「しかし、なんだったんだろうねぇ、あれは。このまま何事もなければいいんだけど」
「それより、おかみさん。これ見て!」
私は持っていた干し魚を掲げ、おかみさんに見せた。
「あらまっ!立派な魚じゃないかい」
「おかみさんにお土産よ」
「いいのかい?うれしいねぇ、彼が捕まえてくれたのかい?」
「ウフフッ、違うの。私が捕まえたんだよ。取り方を教えてくれたのはユウなんだけどね。捌いて干してくれたのもユウだけど、フフッ」
おかみさんに干し魚を渡すと大げさなくらいに喜んでくれた。その姿を見ただけで、私の心は少し落ち着いた。
「アンタ達、朝ごはんは?用意してあげようか?」
「ううん、いいわ。今朝はユウがおかゆを作ってくれたから、もう食べてきたの。ねえ、聞いて!彼の作るおかゆとっても美味しいんだよ。魚の骨を煮込んでスープを作って、そこにこの前おかみさんから貰った押し麦を入れるの。甘く無くて薄味なんだけど、とっても味わい深くて、」
「そうかい、そうかい。それは是非とも作り方を教えてもらいたいね。私の作る甘いおかゆよりよっぽど美味しいみたいだからね」
「おかみさんのも美味しいよ。フフフッ」
「ほら、こんな所で立ち話しはやめて、まずはその荷物を部屋に下ろしに行ったらどうだい?」
私達はおかみさんに促され部屋へと向かった。
中庭に出たところで私は前を歩くユウを呼び止めた。
「ユウ、この後どうする?」
早く帰ってきてしまったので、いつもならばこれから出かける時間だろう。
「ああ・・・・・・」
彼はどこか気の無い返事をした。
ユウは帰って来る間も元気が無い様子で、口数も少なかった。といっても、いつもあまりしゃべる方ではないけど。今朝は話していても相づちすら打ってくれず、私はとにかく明るく振る舞って、帰り道もずっと一人で喋り続けてきた。
「荷物おいたら食堂に来て。ゆっくりお茶でも飲みましょ。私、喉が渇いちゃって」
疲れたから部屋で休みたかった。けど、なんだか彼を一人にしてはいけない気がして私は人のいる食堂へ誘った。
「・・・・・・わかった」
彼は一言だけ言って自分の部屋へと向かった。
「だいぶ疲れているみたいだね」
「彼、頑張ってくれてたから・・・・・・あ!そう言う意味じゃないからっ!!そのっ、いつも私の為に頑張っているっていう意味でっ」
「ハハッ、分かってるよ・・・・・・昨日は楽しかったかい?」
「はい、とっても!」
私はめいいっぱいの笑顔を作った。
「そうかい、」
おかみさんは側に寄り添い、背中をさすってくれた。
「いつでも相談にのるから」
その言葉に涙が溢れそうになった。
(やっぱりこの人には隠し事は出来ないな・・・・・・)
私は涙をこらえて言った。
「・・・・・・大丈夫です」
「話したくなった時に話せばいいからね」
おかみさんは詳しく聞くことはせず、そのまま食堂へと戻っていった。
まるでおかみさんは私の母親の様だ。いや、母とは別の意味で頼りになり、こちらを察してくれ、気遣いが出来る・・・・・・私の目標とする人物だ。
食堂へ戻っていくその大きな背中を見ていたら、勇気が貰えた気がした。私の目標とする人物が、その指標が、すぐ側にいてくれるのは心強い。
(私が彼を支えてあげないと!)
おかみさんが私にしてくれたように、今度は私がユウに寄り添ってあげればいい。
弱気になりそうになる自分の心に気合いを入れた。
自分の部屋に荷物を置き、すぐ食堂に戻ったがユウはいなかった。
まだ部屋から出てきていないのかと思い、私は中庭のベンチで待つことにした。
・・・・・・・・・・・・・
だが、待っていてもなかなかユウは姿を現さない。
私は心配になり彼の部屋へ向かった。
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