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第8章

8-5

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8-5「チェアリーのターン」

「ねぇ、何か食べたいものある?」
南門を目指して歩いて行く途中いつものマルシェに差し掛かかり、私はユウに食べたいものを聞いた。
パンは買うつもりなので、もしも魚が釣れなかった時の為のサンドイッチの具に何がいいか聞いたつもりだったのだけど、彼は考える様子もなく即答した。
「ウインナー」
「フフッ」

あまりに返事がよかったので笑ってしまった。確かにサンドイッチの具には丁度いい。けど、聞かれるのを待っていたかのような答え方だった。
「ウインナーだけでいいの?」
「じゃあ、マシュマロも」
「プッ」
彼が子供のような事をいうものだから、今度は吹いてしまった。

「マシュマロは売ってないと思うよ。少し先のお店まで行けばあるかもしれないけど、」
「あー、ならウインナーだけでいいよ」
「うん、分かった。じゃあ、荷物多いからユウはここで待ってて。私、買ってくる」
持っていた荷物を彼に預け私はマルシェが開かれている路地へ向かった。
「フフフッ」
ユウの子供の様なかわいい一面を知り、自然と顔がほころんでしまう。

マルシェは朝のピーク時を過ぎていたので、それほど混雑はしていない。
通りを人の流れに沿って歩いていると、ユウがリクエストしたウインナーを売っている露店を見つけた。
(サンドイッチの分と、そのまま焼いてもいいよね)
ウインナーを多めに購入し、続けてパンを扱う露店で食パン1斤とクルミパンを2個買う。
(後は、何か1品作ってあげたいけど)
目に留まったジャガイモを1つ、大きなものを選んだ。

(それからー、そうだ!マシュマロの代わりに何かおやつ買ってあげよう)
露店なので甘い物といっても品は限られるが、歩いているうちにいい物を見つけた。
(あ、リンゴ)
食後にリンゴを剥いてあげよう。そう思い露店に近づいたところで、そこにかかげられている値段を見て驚いた。
(え?100シルバーに値上げしてる!)
ついこないだは50カッパーだったはずだ。
(もしかして門が閉まってる影響?)
たった50カッパーの差だけれど倍の値段だと思うと手が出せず、リンゴは諦めた。

リンゴの代わりに何かいい物がないかウロウロするうちにワインのボトルが目に留まった。
(ちょっと高いな・・・・・・)
一番安い物を探したが、1800シルバーとある。リンゴと比べたらだいぶ値は張るが、今夜は大切な夜なのだし、その時になって怖気づかないようにお酒の力を少し借りたい。
(いいや!買っちゃえ)
奮発してワインまで買ってしまった。

(食パンが500シルバー、クルミパンが2つで100シルバー、ウインナーが1000シルバーで、ジャガイモ1個30カッパーにワインが1800シルバー・・・・・・ちょっと買い過ぎたかな)
しかし、今はユウのおかげで財布は温かい。この前、節約しながら買い物をした時とは大違いだ。
(やっぱりユウがいてくれて良かった)
彼にお金の事で心配させまいとしていたことが嘘の様だ。

(あ、ユウ・・・・・・)
彼の事を思い出したら、どこかへ行ってしまっていないか急に不安になった。なんと言っても、ユウは目を離すと何かに巻き込まれていることがよくある。
急いで彼の待っている路地へと駆けた。

息を切らせて戻ってみると、彼はベンチに腰を下ろして待っていてくれた。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ(よかった、待っててくれて)」
「慌てなくても、どこにも行ったりしないよ」
”どこにも行ったりしない”その言葉にホッとした。

「待たせたら悪いなと思って、」
「また随分買って来たね」
「だってむこうに着いたらお昼ご飯、ちょっとはお腹に入れておきたいでしょ?後は夕飯分と、明日の朝の分もいるし」
「ワインも買ったの?」
「うん、夜に飲もうと思って。ほら、あった方がいいじゃない?」
「ああ、そうだね」
「ユウのカバンまだ余裕ある?ちょっと入れさせて」
買った食材を彼のカバンへ詰め、再び南門へ向けて歩き出した。
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