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第7章

7-26

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7-26「ライリーのターン」

ハウンドを全て倒し終え、私は石積の上で動けないまま、座り込んでいた。
ブーストを使ったエリアス、パウル、アンスも同じように動けず倒れ込んでいる。
何もできなかったことを気にしたのかココとアデリナは率先して後片付けを始め、魔宝石の回収に向かった。残っているハウンドがいるかもしれないと、念のためフィンも一緒に付いて行った。

「ライリーさん、お茶どうぞ」
今回もお茶を用意してくれていていたメリーナが、力なく座り込んでいた私にカップを差し出してくれた。
「ありがとう・・・・・・」
ブーストの反動で体は重く、喉はカラカラだった。水分を取りたい気持ちはあるが、それに反して腕が上がらない。待っていてくれるメリーナに気を遣わせないように、何とか腕を上げたがその手は自分の意思に関係なく震えていてカップを持てなかった。

「大丈夫ですか?」
メリーナは私の手を取ってカップを持たせてくれると、手を添えながら口まで運んでくれた。
ゴクゴクッ!
「ハァー・・・・・・ありがとう、落ち着いたわ。皆にも持っていってあげて」
彼女は優しく微笑み、エリアス達にもお茶を出し始めた。

ギュッ、ギュッ、ギュッ、ギュッ、
震える手を見つめながら、握ったり開いたりを繰り返してほぐしてみるが震えは収まらない。
ブーストを使うと異常に体が熱くなる、それを冷まそうと汗も大量にかく。しかし使い続けているうちに、いずれ汗は出なくなり、そこまでいくと関節の痛みと共に、手足が震えだす。

ギュッ、ギュッ、ギュッ、ギュッ、
だが、この震えはブーストの反動だけではない。
戦いを終え心は落ち着いていたが、恐怖を感じた体は未だ恐ろしさに震えているのだ。
アンスは私が助けに向かわなければ死んでいたかもしれない。その私もエリアス達が助けに入らなければやられていたかもしれない。更にフィンとメリーナが来なければ・・・・・・

ギュッ、ギュッ、ギュッ、ギュッ、
突発的な事態だったとはいえ、私の判断は正しかったのか?対応が遅れたのではないか?もっと他の方法があったのではないか?
事態を1つずつ思い返していくほど、自分の行動が適切だったのか分からなくなる。

「アンスさん、お茶どうぞ」
「私は・・・・・・いいです」
メリーナがせっかく淹れてくれたお茶をアンスは受け取ろうとしなかった。
「でも・・・・・・喉、乾いているでしょう?冷えてて美味しいですよ」
「私は・・・・・・大丈夫です」
”大丈夫”その言葉を聞いた瞬間、私は頭に血が登った!
落ち着きを取り戻し始めていた体に、また燃える様な熱さを感じる。

大丈夫なものか!!
アンスだって私と同じくブーストを使った反動で体は弱り切っているはずだ。エリアス達もそうだ。この状況が大丈夫なはずがない。一歩間違えば取り返しのつかない事態になっていたはずだ。

「アンスッ!!立ちなさい!!」
感情を抑えきれず私は怒鳴っていた。大声を上げた私にメリーナは驚き振り返ったが、アンスはうつむいたままこちらを見ようとはしなかった。
私は弱って動けない自身の体を奮い立たせ、アンスの近くに行き彼女の胸ぐらをつかんで無理やり立たせた。

「アンスッ!!自分が何したか分かってるのっ!!」
「・・・・・・」
彼女は横を向いて私と目を合わせようとしない。
「あなたの行動で、他の人が命の危険にさらされたのよ!!」

目を合わせない代わりに、ぼそりとつぶやいた。
「・・・・・・放っておいてください」
「ッ!!」
私は拳を振り上げた。

しかし制裁の代わりに、目をつぶって体をこわばらせているアンスを強く抱きしめた。
「放っておけるわけないでしょう・・・・・・もしもの事があったらどうするの?私はあなたのご両親に顔向けできないわ」
「ぅ・・・・・・すいません・・・・・・ライリーさまぁ」
震えて静かに泣くアンスの背中を私は優しく撫でてあげた。

帰りの馬車に揺られながら、アンスは自分の生い立ちをポツリ、ポツリと語ってくれた。
疲れて私の肩にもたれ独り言のように語ってくれた話によると、彼女はハウンドに対して深い因縁を持っているらしかった。
先ほどのハウンドとの戦いも、自分でも抑えられない感情が湧き、飛び出してしまったのだと言う。

私はその話を聞き、アンスと始めて出会った頃の事を思い出した。
遠征地で新しく入ってきた隊員の中にやたらと腕の立つ女性がいると聞き見に行くと、まったく周囲と打ち解けられないでいるアンスがいた。
なぜ遠征隊に入ったのか聞けば、自分の力を示す為だと言う。確かに彼女は抜きん出て強かった。しかし、自分の力を過信しているのか、一人で勝手にモンスターの群れに飛び出してしまう事があった。今思えばあの時もモンスターの群れの中にハウンドがいたのかもしれない。

アンスはモンスターの群れも恐れることない実力を持ってはいたが、一人でいさせると何をするか分からないという事で私の護衛という形で側に置いたのだ。

「・・・・・・ママぁ」
疲れ果てたのか、アンスはか細い声で私の事をママと呼び眠ってしまった。
ピコ族の習わしで守るに値すると認めた者をパパ、ママと呼ぶ。私はやっとアンスに認めてもらえたのかもしれない。
いつもの凛々しい印象のアンスからママと呼ばれるのはどこか気恥ずかしい気もするが、悪い気分ではなかった。

(ママか・・・・・・)
私は眠るアンスを自分の膝に横たえ、頭を撫でてあげた。
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