上 下
195 / 305
第7章

7-24

しおりを挟む
7-24「ライリーのターン」

前方で立ち尽くしているアンスはハウンドの群れが迫っているというのに動こうとしない。
私は全力で彼女の元に走っていたが、このままではハウンドの方がアンスの元に早くたどり着いてしまう。

ザ―――ッ!!

間に合わないと判断し、私は走るのを止めて地面に片膝をついた。
「フ―――・・・・・・」
一呼吸ついて、息を整えてから弓を引く。

ヒュン!

低い位置から放たれた矢は一直線に飛び、アンスの横を抜け、迫りくるハウンドの群れに吸い込まれた。
キャン!!
1匹のハウンドが弱々しい声を上げ粉散した。

ヒュン!
ヒュン!
ヒュン!

立て続けに放った矢はいずれもハウンドを粉散させていく。
真正面に直進してくる相手を射るのはたやすい。敵までの距離もそんなに離れておらず、飛距離や弾道を計算に入れないで済むから、ただ撃ちこむだけでいい。
今は弓ではなく、真っ直ぐ飛ぶボウガンを扱っているようなものだ。

粉散するハウンドを見てようやく気付いたのか、立ち尽くしていたアンスが驚いたようにこちらを振り返った。
「前を向きなさい、アンスっ!!来るわよ!」
1匹のハウンドがまさにアンスの背後から飛びかかろうとしていた。私の位置からではアンスの背後になっていて射抜くことが出来ない。

その襲いかかるハウンドをアンスは回し蹴りで一撃のもとにねじ伏せた。
(戦えるようね)
急に立ち尽くしたアンスを心配したが、どうやら動けるようだ。飛びかかるハウンドを次々に蹴散らしていく。
私もアンスの援護に矢を放ち続けた。

ヒュン!
ヒュン!
ヒュン!

「チッ!矢が」
持てる分だけを掴んで飛び出してきたので、あっという間に矢は底をついた。
(使うか?)
私は上着のポケットに入れた魔宝石を取りだそうと手を伸ばした。しかし、取り出す間もなく1匹のハウンドが正面に駆けてきた。

グワッ!!

とっさに弓を捨て、飛びかかるハウンドを身をひるがえし避けた私は、そのかわしぎわに腰の剣を抜いてそのまま叩き伏せた。
「ハァ―――ッ!!」
次々飛びかかってくるハウンドを切り伏せながら、ようやくアンスの元までたどり着いた頃には周囲はぐるりと囲まれてしまっていた。

「ライリー様っ!!なぜ来たんです!」
「あなたを助けるために決まっているでしょう!」
「私の事はいいからっ、逃げてください!」
そうは言うが、既にハウンドの群れに囲まれ逃げ道などない。
ワンッ!ワンッ!ワンッ!ワンッ!ワンッ!ワンッ!・・・・・・
奴らは私達を逃がしまいと、けたたましく吠える。

グワッ!!
ハウンドは群れの中から唐突に飛びかかって来る。一匹が食らいつき、足止めに成功すればまとめて畳みかけてくる戦法だろう。
「ハッ!!」
気合いとともに袈裟懸けに振り下ろした剣は同体を切り裂き、ハウンドは粉散した。

隙を作らないよう、素早く体制を戻す。
どこから飛びかかって来られてもいい様、私は剣を上段に構え、気を張った。
アンスと背中合わせに戦っているため、前だけに気を払っていれば手こずる事は無い。しかし・・・・・・

周囲に気を配りつつ、浮島の方を横目で確認する。
まだまだハウンドは浮島の茂みから飛び出して、一直線にこちらを目指して駆けてくる。
(この数はマズいわ!)
これ以上増えれば数に物を言わせて一気に畳みかけてくるだろう。まだ今なら蹴散らしつつ石積まで引くことが出来るかもしれない。

「アンスッ!!」
「ライリー様っ!!」
2人で同時に叫んだ。考えは同じだったようだ。

「ブースト!」
取り出した魔宝石で、身体能力強化の魔法を唱える。
この魔法の効果時間は短い。高価な赤い魔宝石でも、あっという間にその効き目は切れてしまう。
だが、使うだけの価値はある。体はヒリヒリするほど熱くなり、それに伴って力がふつふつと湧き上がってくるのだ。

「一気に蹴散らすわよ!」
「ハイ!」

背中合わせに戦うのを止め、それぞれハウンドの群れの中に飛び込んだ。
ブーストで活性化された体は鳥の羽根の様に軽く、素早く動ける。対して、あの身軽なハウンドが沼に足を取られているかのようだ。
全身の感覚は研ぎ澄まされ、飛びかかってくる相手の動きが手に取る様に分かる。体さばきは思いのままに、一歩先を読んで的確に剣を振り下ろした。

ガクッ!!
急に体の重みを感じ、私は膝から崩れ落ちた。
体はだるく、節々は痛み、めまいを感じる。魔法の反作用だ。ブーストは身体能力を高めてくれる代わりに、効果が切れるとその反動が体に現れる。

「ブースト!」
すぐさま私はブーストをかけ直した。
この魔法は最後の切り札だ。効果が切れれば動けなくなるため、敵を殲滅するまでブーストを使い続けるしかなくなる。魔宝石の予備が底をつく前に敵を殲滅できるか、時間との勝負になる。

グワッ!!

体勢を崩した隙を突いて1匹のハウンドが飛びかかってきた。
その大きく開かれた口を剣で防ぎ、素早く腰のナイフを取り出し奴の心臓へと突き立てた。
ブシャッ!
(キリがない!)
そう思った時だった、

「ブースト!」
背後からエリアス達が飛び出してきた。
「ウォー――!!」
ハルバートを振るうエリアスがまとめてハウンドをなぎ倒していく。
そして、吹き飛ばされたハウンドをパウルが剣ですかさず仕留めていく。

「片付けるぞ!」
パウルが横を駆け抜けざまに言う。
私達の事をどこか信用していなさそうな、あのパウルが助けに来てくれたことが意外だった。

2人が加わってくれたことで周りを取り囲んでいた奴らは、あらかた倒すことが出来た。
このチャンスを逃すことはできない。
(石積まで逃げ切れれば何とかなる!)
しかし、浮島からは次々とハウンドが生まれている。足の速い奴らはすぐ私達に追いついてくるだろう。
足止めを喰らいながら石積みまで戻れるのか?魔宝石の予備はギリギリの数しか残っていない。

「走れ―――ッ!」
迷っているヒマなどない。私は叫ぶように号令をかけた。

アンスが走り出すのを確認してから私も石積の方へ反転すると、横を馬が一頭駆け抜けて行った。
「みんな逃げてっ!!」
フィンとメリーナが馬を駆り、ハウンドの群れめがけて突っ込んでいく。

「メリーナッ!!」
私の叫びに振り返った彼女は拳をつきだし笑うと、ハウンドに向けて馬上から矢を放った。矢で攻撃を受けたハウンドの群れが進路を変更する。
おとりになった彼らはハウンドを引き連れ、どうやら浮島を一周してくるらしかった。

「ライリー殿!今のうちに!」
私はフィンとメリーナに後を任せ、石積みへと走った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...