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第7章
7-23
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7-23アデリナのターン
「アデリナ、何か見えない?」
ライリー様は少しイライラした感じで私に聞いてきた。
「いえ、何も・・・・・・」
そろそろモンスターが発生してもおかしくない時間だ。先ほどから前方の浮島を監視しているが、まだその姿は見えない。
「ちょっと様子を見てくるわ」
しびれを切らせたライリー様は自ら確認しに行くと言い出した。
しかし、まだ外に飛び出してきていないだけで、浮島の中に潜んでいるだけかもしれない。そんな時に近づいては危険だ。
「ライリー様っ!ダメです。危険です」
「そうですよ。もう少し待ちましょうよ!」
私達の制止にライリー様は立ち止まってくれたが、何か考え事をするように浮島を睨んでいる。
「エリアス、今朝浮島の様子は確認しに行ったのよね?」
「ええ、ちゃんと見回ってきました。誰もいませんでしたよ」
もしかするとライリー様はモンスターが発生するなにかしらの条件が崩れたのではないかと考えているのかもしれない。その条件は教会によって極秘にされているため、この中ではライリー様しか知らず私達には分からない。
今の状況は完全にライリー様の判断一つに任されてしまっていた。私達が手伝えることはなさそうだ。
「アンス、悪いんだけど馬車から馬を1頭引いてきてもらえる?私が確認に行ってみるわ」
「ライリー様っ!!」
「馬に乗っていれば、逃げ切れるから大丈夫よ」
「私が代わりに行きましょうか?」
「いいえ、直接確かめたいから。私が行くわ」
(え?)
私は見てしまった。アンスさんがめいいっぱい力を込めて握りこぶしを作り、微かにその手が震えているのを。
彼女は悟られないようにしているのか、いつも通りその表情から感情はうかがえない。けれど、体がこわばっているそのわずかな変化を私の目は捉えた。
そのアンスさんが思いがけない行動に出た。
「かかってこい!!」
いつも物静かな彼女がいきなり大声で叫んだ。
何が起きたのか?皆突然の事にあっけに取られているうちに、アンスさんは浮島の方に走りだした。
「アンスを連れて戻るから、あなた達はそこで待ってて!」
「ライリー殿っ!」
「ライリー様っ!!」
私も何が起きたのか飲み込めないうちにライリー様までもが浮島に向かって走って行ってしまった。
「どうしよう、アデリナっ」
隣にいたココちゃんがおどおどしながら私の服を掴む。
私もどうしていいかわからず、袖を掴むココちゃんの手を握り返した。
ライリー様は強い。普通の相手であれば近づかせることなくその矢で射貫いてしまう。しかし今はモンスターが大量に発生しているのだ、その群れに囲まれては無事ではいられない気がする。
しかも相手はあのハウンドだ。私達が訓練に戦ったスライムの群れとは訳が違う。
「あの二人、やられるぞ」
パウルさんが冷静に言う。
「やられませんっ!!」
縁起でもないセリフを聞き、ココちゃんは怒って言い返した。
「このままではやられると言ったんだ」
彼はココちゃんには目もくれず、持っていた槍を投げ捨てると石積から飛び降りてしまった。
「エリアス」
呼ばれたエリアスさんも頷くと、石積から飛び降りた。
(まさか、逃げるんじゃ・・・・・・)
「どこに行くのよっ!!」
ココちゃんも私と同じ考えがよぎったのか、2人に対してもの凄い剣幕で叫んだ。
「助けに行くに決まっているだろう」
振り向きざまにそう言って走りだしたパウルさんの口元は、微かに笑っていたように見えた。
「フィン!お前はここを守るんだぞ!いいな?」
エリアスさんまでもがライリー様達を追って走り出した。
「ちょっ!!オレも行くよっ!!」
「ダメっ!!行かないで!」
フィンさんも後を追いかけようとしたのを、メリーナさんが腕を掴み止めた。
「けどッ!」
「お願いだから・・・・・・」
「アデリナ、どうするのっ」
(今から連絡しても・・・・・・)
助けを呼ぼうにも、街からは離れすぎている。今からでは間に合わない。
戸惑っているうちにも、浮島からは次々にハウンドが飛び出してきている。
ライリー様はアンスさんを助けるため、一直線に浮島に向かって走って行く。
ボアの時の様な大群が現れれば瞬く間に囲まれてしまうだろう。
エリアスさんとパウルさんの2人が加わったとしても圧倒的に数で不利に立たされる。
私には最悪のシナリオしか思い浮かばなかった。
「メリーナすまない。オレはここでただ見ている訳にはいかない」
「ダメよ!あんな何もないところでハウンドの群れに囲まれたら勝ち目なんてない!」
メリーナさんは浮島を指さして言った。ハウンドの数はみるみるうちに数十に膨れ上がっている。
「負けるつもりなんてないさ!」
この緊迫した状況にもかかわらず、フィンさんはにっこり笑った。彼はよく冗談を言って皆を笑わせようとしてくれるが、今はそんな笑える状況にはない。
しかし、彼の笑顔は自信に満ちている。
「メリーナ、お前にも手伝って欲しいんだ」
「手伝うって・・・・・・どうするつもりよ」
「こっちには馬がある。オレらがおとりになるのさ」
「おとり?私も?」
「一緒についていてほしい」
「・・・・・・もう!分かったわよ!ハウンドの群れに突っ込もうなんて、みんなバカなんだから!」
「よし!オレは馬を引いてくる!メリーナは弓矢を!」
石積を飛び降りたフィンさんは馬車から馬を離してまたがると、私達のいる石積に横付けした。
その馬にメリーナさんも飛び乗る。
「アナタ達はここを降りてはダメよ!」
そう言い残して、2人を乗せた馬はハウンドの群れめがけて駆けていった。
「アデリナぁ」
「大丈夫。信じて祈りましょう・・・・・・私達にはそれしかできないわ」
私は胸の前で両手をギュッと握りしめ、事の成り行きを見守った。
「アデリナ、何か見えない?」
ライリー様は少しイライラした感じで私に聞いてきた。
「いえ、何も・・・・・・」
そろそろモンスターが発生してもおかしくない時間だ。先ほどから前方の浮島を監視しているが、まだその姿は見えない。
「ちょっと様子を見てくるわ」
しびれを切らせたライリー様は自ら確認しに行くと言い出した。
しかし、まだ外に飛び出してきていないだけで、浮島の中に潜んでいるだけかもしれない。そんな時に近づいては危険だ。
「ライリー様っ!ダメです。危険です」
「そうですよ。もう少し待ちましょうよ!」
私達の制止にライリー様は立ち止まってくれたが、何か考え事をするように浮島を睨んでいる。
「エリアス、今朝浮島の様子は確認しに行ったのよね?」
「ええ、ちゃんと見回ってきました。誰もいませんでしたよ」
もしかするとライリー様はモンスターが発生するなにかしらの条件が崩れたのではないかと考えているのかもしれない。その条件は教会によって極秘にされているため、この中ではライリー様しか知らず私達には分からない。
今の状況は完全にライリー様の判断一つに任されてしまっていた。私達が手伝えることはなさそうだ。
「アンス、悪いんだけど馬車から馬を1頭引いてきてもらえる?私が確認に行ってみるわ」
「ライリー様っ!!」
「馬に乗っていれば、逃げ切れるから大丈夫よ」
「私が代わりに行きましょうか?」
「いいえ、直接確かめたいから。私が行くわ」
(え?)
私は見てしまった。アンスさんがめいいっぱい力を込めて握りこぶしを作り、微かにその手が震えているのを。
彼女は悟られないようにしているのか、いつも通りその表情から感情はうかがえない。けれど、体がこわばっているそのわずかな変化を私の目は捉えた。
そのアンスさんが思いがけない行動に出た。
「かかってこい!!」
いつも物静かな彼女がいきなり大声で叫んだ。
何が起きたのか?皆突然の事にあっけに取られているうちに、アンスさんは浮島の方に走りだした。
「アンスを連れて戻るから、あなた達はそこで待ってて!」
「ライリー殿っ!」
「ライリー様っ!!」
私も何が起きたのか飲み込めないうちにライリー様までもが浮島に向かって走って行ってしまった。
「どうしよう、アデリナっ」
隣にいたココちゃんがおどおどしながら私の服を掴む。
私もどうしていいかわからず、袖を掴むココちゃんの手を握り返した。
ライリー様は強い。普通の相手であれば近づかせることなくその矢で射貫いてしまう。しかし今はモンスターが大量に発生しているのだ、その群れに囲まれては無事ではいられない気がする。
しかも相手はあのハウンドだ。私達が訓練に戦ったスライムの群れとは訳が違う。
「あの二人、やられるぞ」
パウルさんが冷静に言う。
「やられませんっ!!」
縁起でもないセリフを聞き、ココちゃんは怒って言い返した。
「このままではやられると言ったんだ」
彼はココちゃんには目もくれず、持っていた槍を投げ捨てると石積から飛び降りてしまった。
「エリアス」
呼ばれたエリアスさんも頷くと、石積から飛び降りた。
(まさか、逃げるんじゃ・・・・・・)
「どこに行くのよっ!!」
ココちゃんも私と同じ考えがよぎったのか、2人に対してもの凄い剣幕で叫んだ。
「助けに行くに決まっているだろう」
振り向きざまにそう言って走りだしたパウルさんの口元は、微かに笑っていたように見えた。
「フィン!お前はここを守るんだぞ!いいな?」
エリアスさんまでもがライリー様達を追って走り出した。
「ちょっ!!オレも行くよっ!!」
「ダメっ!!行かないで!」
フィンさんも後を追いかけようとしたのを、メリーナさんが腕を掴み止めた。
「けどッ!」
「お願いだから・・・・・・」
「アデリナ、どうするのっ」
(今から連絡しても・・・・・・)
助けを呼ぼうにも、街からは離れすぎている。今からでは間に合わない。
戸惑っているうちにも、浮島からは次々にハウンドが飛び出してきている。
ライリー様はアンスさんを助けるため、一直線に浮島に向かって走って行く。
ボアの時の様な大群が現れれば瞬く間に囲まれてしまうだろう。
エリアスさんとパウルさんの2人が加わったとしても圧倒的に数で不利に立たされる。
私には最悪のシナリオしか思い浮かばなかった。
「メリーナすまない。オレはここでただ見ている訳にはいかない」
「ダメよ!あんな何もないところでハウンドの群れに囲まれたら勝ち目なんてない!」
メリーナさんは浮島を指さして言った。ハウンドの数はみるみるうちに数十に膨れ上がっている。
「負けるつもりなんてないさ!」
この緊迫した状況にもかかわらず、フィンさんはにっこり笑った。彼はよく冗談を言って皆を笑わせようとしてくれるが、今はそんな笑える状況にはない。
しかし、彼の笑顔は自信に満ちている。
「メリーナ、お前にも手伝って欲しいんだ」
「手伝うって・・・・・・どうするつもりよ」
「こっちには馬がある。オレらがおとりになるのさ」
「おとり?私も?」
「一緒についていてほしい」
「・・・・・・もう!分かったわよ!ハウンドの群れに突っ込もうなんて、みんなバカなんだから!」
「よし!オレは馬を引いてくる!メリーナは弓矢を!」
石積を飛び降りたフィンさんは馬車から馬を離してまたがると、私達のいる石積に横付けした。
その馬にメリーナさんも飛び乗る。
「アナタ達はここを降りてはダメよ!」
そう言い残して、2人を乗せた馬はハウンドの群れめがけて駆けていった。
「アデリナぁ」
「大丈夫。信じて祈りましょう・・・・・・私達にはそれしかできないわ」
私は胸の前で両手をギュッと握りしめ、事の成り行きを見守った。
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