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第7章
7-13
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7-13「チェアリーのターン」
「はぁ、おいしかった」
クレープを食べ終えた私は身も心も満たされた。
1つ残念だったのは、ユウに沢山あーんしてあげられなかった事だ。
(恥ずかしがらなくてもいいのに)
彼は紅茶のカップを持ったまま横を向いて店内を眺めている。こちらには意地でも振り向かないつもりらしい。
嫌がる事を無理に押し付けて機嫌を損ねてしまうといけないので、私は静かに彼の横顔を見ていた。
(今度は2人きりの時にしてあげよ)
そっぽを向いてこれだけ拒否するのは、周りの目を気にしたからかもしれない。
だけど、私達の奥に座っているカップルなど、さっきから2人でテーブルに寄りかかって唇がくっつく位の距離でささやき合っている。その声が、私の耳には微かに聞こえていた。
何を言っているのかまでは小声すぎて全ては聞き取れないけど、断片的に聞こえてくる言葉からは、もう二人きりの世界といった感じが伝わる。
(ユウもあんな感じで、私にささやいてくれればいいのに)
彼は恥ずかしがり屋だけど、奥手という訳ではない。二人きりでいる時には積極的だ。
(・・・・・・やっぱり、誰もいない街の外しかないのかな)
「ズズーッ」
彼がちびちびと飲んでいた紅茶を飲み干した。
「そろそろ行こうか」
そう言ってカップを置き、腰を上げる。
「ちょっと待って、私トイレに行ってくる」
「ああ、待ってるよ」
もう一度イスに腰を下ろして、彼は優しく応えてくれた。そっぽを向いてはいたけど、機嫌は悪くないみたい。
彼を残しトイレに立った。
さすがに、シードルとペパーミントは飲み過ぎたようだ。少し贅沢な気分に浸ろうと食後のハーブティーを注文したのは余分だったかもしれない。
用を済ませ、彼を待たせないように手早く身なりを整えトイレから出ると・・・・・・
(え?)
目に飛び込んできたのは、顔を間近に向け合うユウとウェイトレスの姿。私の視線はだらしなくニヤケるユウの顔に止まった。
(ウソ、)
今までのほろ酔い気分が一気に冷めるような光景だった。
こわばる手足に力を込め、なんとか一歩を踏み出す。
平静を装いながら二人に近づくと、ウェイトレスはユウに一礼してすました顔で下がっていった。
私はゆっくりイスに腰かけ、彼に聞いた。
「ねぇ、何してたの?」
「オレはいいって言ったんだけど、サービスしてくれるっていうから・・・・・・つい」
ユウはまたニヤケている。
その顔を見た瞬間、頭に血がのぼった。
(サービスってなによ!)
カッカと体が火照り、耳が熱い。さっきまで酔いが回って体は熱かったが、これはお酒のせいではない。
(なんで私がいない時に、こそこそするようなマネを!)
感情を抑えて更に聞いた。
「で、何してもらったの」
「ああ、コーヒーが無かったお詫びにって、お菓子を貰っただけだよ」
「え?」
「チェアリーも半分食べる?」
頭にのぼっていた血の気は、瞬く間にサーッと引いて行った。
テーブルにはさっきまでなかった小皿が置かれている。興奮して目に止まらなかったらしい。
(やだ!私、また勘違いを・・・・・・)
もう少しで彼に怒りをぶつけてしまうところだった。
(トイレに行っていた間に他の人と喋っていたぐらいで怒るなんて・・・・・・最近の私、変だ)
彼の事となると感情が抑えられなくなってしまう。
ユウが私を裏切るはずがない。それは彼の態度から分かる。私の為に頑張っていてくれるのだから。
しかし、私の中には疑念が残っていた。
(ユウにその気がなくても、相手の方は分からないじゃない)
この前のシスターと少女の時もそうだ。彼女達が去り際に一瞬、寂しそうにした目を私は見ている。
あのウェイトレスもそうだ。
澄ました顔で下がっていったけど、ユウと話している時は笑顔だった。そもそもお店に置いていないメニューを注文したこちらが悪いのに、お詫びにお菓子をくれるだろうか?きっと私が席を離れた隙に色目を使ったに違いない。
(ユウは私が守らなきゃ!)
「はい、チェアリー。これだけ食べたら行こうか」
「え?うん、ありがと・・・・・・」
彼はウェイトレスに貰ったというお菓子を半分に割って差し出してくれた。
それは、小ぶりのスコーンだった。半分に割った断面に先ほど紅茶についてきたジャムを塗ってくれてある。
そのスコーンを手で取ろうとして、私は思いとどまった。
「ユウ、あーん」
直接食べさせてもらおうと、口を開ける。
彼は一瞬固まってしまったが、しょうがないなぁといった表情になり私の口にスコーンを入れてくれた。
「んふっ」
口いっぱいのスコーンを噛み砕きながら、私はウェイトレスの方を見た。
(どう?ユウは私のものなんだから)
しかし、ウェイトレスは別のお客の相手をしていてこちらを見てはいない。
「おいしいな、コレ」
スコーンをかじっているユウは笑顔だ。ウェイトレスと喋っていたことを悪びれる様子はない。本当にお菓子を貰っただけのようだ。
(ユウが私を裏切るはずない)
パッパッ!
あっという間にスコーンを食べきった彼は手についた粉を払った。
「じゃあ、行こっか」
私達はカフェを後にした。
「はぁ、おいしかった」
クレープを食べ終えた私は身も心も満たされた。
1つ残念だったのは、ユウに沢山あーんしてあげられなかった事だ。
(恥ずかしがらなくてもいいのに)
彼は紅茶のカップを持ったまま横を向いて店内を眺めている。こちらには意地でも振り向かないつもりらしい。
嫌がる事を無理に押し付けて機嫌を損ねてしまうといけないので、私は静かに彼の横顔を見ていた。
(今度は2人きりの時にしてあげよ)
そっぽを向いてこれだけ拒否するのは、周りの目を気にしたからかもしれない。
だけど、私達の奥に座っているカップルなど、さっきから2人でテーブルに寄りかかって唇がくっつく位の距離でささやき合っている。その声が、私の耳には微かに聞こえていた。
何を言っているのかまでは小声すぎて全ては聞き取れないけど、断片的に聞こえてくる言葉からは、もう二人きりの世界といった感じが伝わる。
(ユウもあんな感じで、私にささやいてくれればいいのに)
彼は恥ずかしがり屋だけど、奥手という訳ではない。二人きりでいる時には積極的だ。
(・・・・・・やっぱり、誰もいない街の外しかないのかな)
「ズズーッ」
彼がちびちびと飲んでいた紅茶を飲み干した。
「そろそろ行こうか」
そう言ってカップを置き、腰を上げる。
「ちょっと待って、私トイレに行ってくる」
「ああ、待ってるよ」
もう一度イスに腰を下ろして、彼は優しく応えてくれた。そっぽを向いてはいたけど、機嫌は悪くないみたい。
彼を残しトイレに立った。
さすがに、シードルとペパーミントは飲み過ぎたようだ。少し贅沢な気分に浸ろうと食後のハーブティーを注文したのは余分だったかもしれない。
用を済ませ、彼を待たせないように手早く身なりを整えトイレから出ると・・・・・・
(え?)
目に飛び込んできたのは、顔を間近に向け合うユウとウェイトレスの姿。私の視線はだらしなくニヤケるユウの顔に止まった。
(ウソ、)
今までのほろ酔い気分が一気に冷めるような光景だった。
こわばる手足に力を込め、なんとか一歩を踏み出す。
平静を装いながら二人に近づくと、ウェイトレスはユウに一礼してすました顔で下がっていった。
私はゆっくりイスに腰かけ、彼に聞いた。
「ねぇ、何してたの?」
「オレはいいって言ったんだけど、サービスしてくれるっていうから・・・・・・つい」
ユウはまたニヤケている。
その顔を見た瞬間、頭に血がのぼった。
(サービスってなによ!)
カッカと体が火照り、耳が熱い。さっきまで酔いが回って体は熱かったが、これはお酒のせいではない。
(なんで私がいない時に、こそこそするようなマネを!)
感情を抑えて更に聞いた。
「で、何してもらったの」
「ああ、コーヒーが無かったお詫びにって、お菓子を貰っただけだよ」
「え?」
「チェアリーも半分食べる?」
頭にのぼっていた血の気は、瞬く間にサーッと引いて行った。
テーブルにはさっきまでなかった小皿が置かれている。興奮して目に止まらなかったらしい。
(やだ!私、また勘違いを・・・・・・)
もう少しで彼に怒りをぶつけてしまうところだった。
(トイレに行っていた間に他の人と喋っていたぐらいで怒るなんて・・・・・・最近の私、変だ)
彼の事となると感情が抑えられなくなってしまう。
ユウが私を裏切るはずがない。それは彼の態度から分かる。私の為に頑張っていてくれるのだから。
しかし、私の中には疑念が残っていた。
(ユウにその気がなくても、相手の方は分からないじゃない)
この前のシスターと少女の時もそうだ。彼女達が去り際に一瞬、寂しそうにした目を私は見ている。
あのウェイトレスもそうだ。
澄ました顔で下がっていったけど、ユウと話している時は笑顔だった。そもそもお店に置いていないメニューを注文したこちらが悪いのに、お詫びにお菓子をくれるだろうか?きっと私が席を離れた隙に色目を使ったに違いない。
(ユウは私が守らなきゃ!)
「はい、チェアリー。これだけ食べたら行こうか」
「え?うん、ありがと・・・・・・」
彼はウェイトレスに貰ったというお菓子を半分に割って差し出してくれた。
それは、小ぶりのスコーンだった。半分に割った断面に先ほど紅茶についてきたジャムを塗ってくれてある。
そのスコーンを手で取ろうとして、私は思いとどまった。
「ユウ、あーん」
直接食べさせてもらおうと、口を開ける。
彼は一瞬固まってしまったが、しょうがないなぁといった表情になり私の口にスコーンを入れてくれた。
「んふっ」
口いっぱいのスコーンを噛み砕きながら、私はウェイトレスの方を見た。
(どう?ユウは私のものなんだから)
しかし、ウェイトレスは別のお客の相手をしていてこちらを見てはいない。
「おいしいな、コレ」
スコーンをかじっているユウは笑顔だ。ウェイトレスと喋っていたことを悪びれる様子はない。本当にお菓子を貰っただけのようだ。
(ユウが私を裏切るはずない)
パッパッ!
あっという間にスコーンを食べきった彼は手についた粉を払った。
「じゃあ、行こっか」
私達はカフェを後にした。
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