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第7章
7-3
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7-3「チェアリーのターン」
「一枚、2万魔宝石で買い取らせていただきます」
「え?」
「2枚で4万魔宝石ですが、ご不満ですか?」
「え・・・・・・っと」
ヌマタヌキの毛皮を売りに来た私は、思った以上に高額な買い取り金額を鑑定士から提示され言葉を失った。
今までも何回か毛皮を売りに来たことはあった。その時はせいぜい数千シルバーだったのに今回は桁が違う。十分すぎるほどの額だったけれど、せっかくのチャンスだしもう少し粘る。
「とても立派なヌマタヌキだったんです。大きくて毛並みも良いし、下処理もちゃんとしました。もう少しどうにかなりませんか?」
「どうにかと言われても、これ以上高くは買い取れませんよ。こちらも商売ですから。赤字にしてまで買い取る理由がありません」
鑑定士はゆっくり毛皮を撫でながら言った。
どっしり構える相手に、私も食い下がる。
「ヌマタヌキは希少だと聞きました。次、こんな上質の毛皮いつ持ち込まれるか分かりませんよ?」
「確かに。だからこちらも出来る限りの値段を付けさせていただいたのです」
鑑定士は撫でていたヌマタヌキの毛皮から、私の顔に目を移した。
「そうですねぇ・・・・・・今、ヌマタヌキを人工飼育で増やそうという取り組みをしているのはご存知ですか?」
「そうなんですか?」
「ええ、ヌマタヌキは利用価値が高いですからね。これから飼育に成功すれば毛皮の流通量も増えますし、安くなる事はあっても高くなる事はないでしょう。なので、今がヌマタヌキの毛皮の最高値だと私は見ています。」
鑑定士は話しながら、またヌマタヌキの毛皮を撫でた。
「しかし、よく背中から捌きましたね。たいがい持ち込まれてくるヌマタヌキはお腹から捌いてあるのがほとんどですよ」
「父にヌマタヌキはお腹の毛の方が質がいいからと聞いていたので」
「そうですか、狩に精通していらっしゃるのですね。すばらしい。背開きにしてある点を踏まえて、これでも色を付けさせてもらったのです。腹開きなら2枚で3万魔宝石といったところですよ?」
「うーん・・・・・・」
いつの間にか私はこの値段が妥当なのだと思えてきた。
この鑑定士は毎日毛皮を持ち込んでくる人たちを相手にしていて話が上手い。私がちょっとやそっと粘ったところで、これ以上は値段を上乗せ出来なさそうだ。
「どうします?売りますか?持って帰ります?」
「売ります、」
「ハイ、ありがとうございます」
私は赤い魔宝石4つを受け取り、その場を後にした。
もう少し高く買ってもらえたのではないかと欲が出てしまうけど、高額で買い取ってもらえたことは事実だ。私は心軽くユウが待っている場所へ急いだ。
彼には今回もお金の心配をさせないようにと離れたところで待っていてもらっいる・・・・・・のだけれど。
(いくらなんでも毎回、毎回、ヤギに襲われたりしないわよね)
そう思いながらも、足を早める。
急ぎ足で来てみると、彼はヤギではなくネコに囲まれていた。
(なんで私がいなくなると、変な事に巻き込まれているんだろう?)
襲われているようではないので、私はネコが逃げていかないように静かに近づいた。
「また動物に囲まれてる。フフッ」
「ハハハッ。なんか、なつかれちゃって」
ユウの周りには5、6匹のネコが群れていた。
ネコは、彼の足に頬をこすりつけているもの、地面に寝転がって体をくねらせているもの、喉を掻いてもらって気持ちよさそうにしているもの、中にはしゃがんでいたユウの背中に乗っているものまでいる。
(動物、好きなんだなぁ)
彼が動物好きというより、動物たちがユウの事を好きなように見えなくもない。
メェ―、メェ―、メェ―、
そばの柵にはまたヤギやヒツジが集まって来ている。ネコ達だけかまってもらって、羨ましそうに鳴いているかのようだ。
メェ―、メェ―、メェ―、
ヒツジ達はしきりに鳴いて、ユウを呼んでいる。
(動物たちがユウに寄ってきてる?)
もしかすると彼は動物に好かれる体質なのだろうか?だとすると寄ってきた動物を剣で狩ることも、たやすいかもしれない。
「毛皮、売れた?」
彼は立ち上がり、こちらを向いた。だけど背中に乗っていた子は器用に肩に移動し降りようとしない。
「甘えすぎだろ、お前」
ユウは肩のネコに頬ずりしながら撫でている。
(やさしい、)
私もユウに甘えたら優しく撫でてくれるだろうか?ネコに自分の姿を重ね、その光景に見とれてしまった。
「ねえ、チェアリー?」
「えっ、うん!売れたよ。思った以上に高く買ってもらえた」
「そう。よかった」
彼は肩のネコをポンポンと叩くと、地面におろした。
「じゃあ、ギルドに行こうか」
毛皮がいくらで売れたか聞くわけでもなく、ユウは歩いていく。
私は彼の取り分を渡そうと魔宝石を取り出した。けど、
(財布のヒモは私が握っていた方がいいよね)
おかみさんの言葉を思い出し、渡すのをやめた。何か必要なものがあればその都度買ってあげればいいのだし、この前の様に渡そうと思っても彼とお金の譲り合いになってしまうだろう。
魔宝石をしまおうとバックを開けた拍子に、彼のギルド会員バッチと緑の魔法石を入れっぱなしにしてあったのが目に留まった。
「ちょっと待って、ユウ。ギルドに行くならバッチ付けなきゃだめだよ」
振り返って止まった彼にバッチを見せる。
「ああ、そういえば」
「この前、服を洗濯に出したときにポケットに入れっぱなしだったから、私が預かっていたの。付けてあげるよ。どこがいい?」
「なら帽子に付けておこうかな。いつも被ってるし」
私は彼の帽子を受け取り、バッチを付けてあげた。
「あと、緑の魔法石も洗濯物と一緒に入っていたよ。ハイ」
魔宝石を渡すと、ユウは無造作にポケットへ仕舞ってしまった。
「じゃあ、行こうか」
私達は冒険者ギルドへと向かった。
「一枚、2万魔宝石で買い取らせていただきます」
「え?」
「2枚で4万魔宝石ですが、ご不満ですか?」
「え・・・・・・っと」
ヌマタヌキの毛皮を売りに来た私は、思った以上に高額な買い取り金額を鑑定士から提示され言葉を失った。
今までも何回か毛皮を売りに来たことはあった。その時はせいぜい数千シルバーだったのに今回は桁が違う。十分すぎるほどの額だったけれど、せっかくのチャンスだしもう少し粘る。
「とても立派なヌマタヌキだったんです。大きくて毛並みも良いし、下処理もちゃんとしました。もう少しどうにかなりませんか?」
「どうにかと言われても、これ以上高くは買い取れませんよ。こちらも商売ですから。赤字にしてまで買い取る理由がありません」
鑑定士はゆっくり毛皮を撫でながら言った。
どっしり構える相手に、私も食い下がる。
「ヌマタヌキは希少だと聞きました。次、こんな上質の毛皮いつ持ち込まれるか分かりませんよ?」
「確かに。だからこちらも出来る限りの値段を付けさせていただいたのです」
鑑定士は撫でていたヌマタヌキの毛皮から、私の顔に目を移した。
「そうですねぇ・・・・・・今、ヌマタヌキを人工飼育で増やそうという取り組みをしているのはご存知ですか?」
「そうなんですか?」
「ええ、ヌマタヌキは利用価値が高いですからね。これから飼育に成功すれば毛皮の流通量も増えますし、安くなる事はあっても高くなる事はないでしょう。なので、今がヌマタヌキの毛皮の最高値だと私は見ています。」
鑑定士は話しながら、またヌマタヌキの毛皮を撫でた。
「しかし、よく背中から捌きましたね。たいがい持ち込まれてくるヌマタヌキはお腹から捌いてあるのがほとんどですよ」
「父にヌマタヌキはお腹の毛の方が質がいいからと聞いていたので」
「そうですか、狩に精通していらっしゃるのですね。すばらしい。背開きにしてある点を踏まえて、これでも色を付けさせてもらったのです。腹開きなら2枚で3万魔宝石といったところですよ?」
「うーん・・・・・・」
いつの間にか私はこの値段が妥当なのだと思えてきた。
この鑑定士は毎日毛皮を持ち込んでくる人たちを相手にしていて話が上手い。私がちょっとやそっと粘ったところで、これ以上は値段を上乗せ出来なさそうだ。
「どうします?売りますか?持って帰ります?」
「売ります、」
「ハイ、ありがとうございます」
私は赤い魔宝石4つを受け取り、その場を後にした。
もう少し高く買ってもらえたのではないかと欲が出てしまうけど、高額で買い取ってもらえたことは事実だ。私は心軽くユウが待っている場所へ急いだ。
彼には今回もお金の心配をさせないようにと離れたところで待っていてもらっいる・・・・・・のだけれど。
(いくらなんでも毎回、毎回、ヤギに襲われたりしないわよね)
そう思いながらも、足を早める。
急ぎ足で来てみると、彼はヤギではなくネコに囲まれていた。
(なんで私がいなくなると、変な事に巻き込まれているんだろう?)
襲われているようではないので、私はネコが逃げていかないように静かに近づいた。
「また動物に囲まれてる。フフッ」
「ハハハッ。なんか、なつかれちゃって」
ユウの周りには5、6匹のネコが群れていた。
ネコは、彼の足に頬をこすりつけているもの、地面に寝転がって体をくねらせているもの、喉を掻いてもらって気持ちよさそうにしているもの、中にはしゃがんでいたユウの背中に乗っているものまでいる。
(動物、好きなんだなぁ)
彼が動物好きというより、動物たちがユウの事を好きなように見えなくもない。
メェ―、メェ―、メェ―、
そばの柵にはまたヤギやヒツジが集まって来ている。ネコ達だけかまってもらって、羨ましそうに鳴いているかのようだ。
メェ―、メェ―、メェ―、
ヒツジ達はしきりに鳴いて、ユウを呼んでいる。
(動物たちがユウに寄ってきてる?)
もしかすると彼は動物に好かれる体質なのだろうか?だとすると寄ってきた動物を剣で狩ることも、たやすいかもしれない。
「毛皮、売れた?」
彼は立ち上がり、こちらを向いた。だけど背中に乗っていた子は器用に肩に移動し降りようとしない。
「甘えすぎだろ、お前」
ユウは肩のネコに頬ずりしながら撫でている。
(やさしい、)
私もユウに甘えたら優しく撫でてくれるだろうか?ネコに自分の姿を重ね、その光景に見とれてしまった。
「ねえ、チェアリー?」
「えっ、うん!売れたよ。思った以上に高く買ってもらえた」
「そう。よかった」
彼は肩のネコをポンポンと叩くと、地面におろした。
「じゃあ、ギルドに行こうか」
毛皮がいくらで売れたか聞くわけでもなく、ユウは歩いていく。
私は彼の取り分を渡そうと魔宝石を取り出した。けど、
(財布のヒモは私が握っていた方がいいよね)
おかみさんの言葉を思い出し、渡すのをやめた。何か必要なものがあればその都度買ってあげればいいのだし、この前の様に渡そうと思っても彼とお金の譲り合いになってしまうだろう。
魔宝石をしまおうとバックを開けた拍子に、彼のギルド会員バッチと緑の魔法石を入れっぱなしにしてあったのが目に留まった。
「ちょっと待って、ユウ。ギルドに行くならバッチ付けなきゃだめだよ」
振り返って止まった彼にバッチを見せる。
「ああ、そういえば」
「この前、服を洗濯に出したときにポケットに入れっぱなしだったから、私が預かっていたの。付けてあげるよ。どこがいい?」
「なら帽子に付けておこうかな。いつも被ってるし」
私は彼の帽子を受け取り、バッチを付けてあげた。
「あと、緑の魔法石も洗濯物と一緒に入っていたよ。ハイ」
魔宝石を渡すと、ユウは無造作にポケットへ仕舞ってしまった。
「じゃあ、行こうか」
私達は冒険者ギルドへと向かった。
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