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第7章
7-2
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7-2「ユウのターン」
早朝。
身支度を終え、部屋のドアを開けると、
「あっ、」
短く声を発して人が倒れ込んできた。
ボフッ!
「え?」
固まるオレに抱きついたのはチェアリーだった。
「あ、ゴメン。いるとは思わなくて」
抱きつかれたことで密着し、押し当てられた胸から柔らかな感触が伝わる。
慌てて、すぐに体を離した。
「ううん、大丈夫。ちょうどノックしようと思って立ってたの」
少し照れたように彼女が笑う。
(今日も付けてないのかな・・・・・・)
服の上からでも分かるフワフワとした肉圧だった。一気に妄想が膨らむ。
オレの視線は笑顔を向ける彼女の顔から、徐々に下へ・・・・・・
(ダメだ!見ないようにしないと)
欲望を振り払い、部屋から出て言った。
「朝ごはん食べに行こうか」
歩きだそうとしたが、彼女は付いてくる様子が無い。
「ねぇ、そんなに急がなくても、よくない?」
「そう?」
早朝ではあるけど、もう外は明るくなりはじめている。急いでいるつもりなどなかったのだが、
(時計が無いのって不便だな・・・・・・)
太陽の光だけで時間を判断するというのは難しいものだ。この世界での困り事の1つかもしれない。
(そうだ、時計を作ったら売れるんじゃ・・・・・・ダメだ!わざわざ時間に追われる生活に戻ろうなんて)
明るくなったら起きて、暗くなったら寝る。今まで無縁だった健全な生活に慣れてきたのに、それを壊すわけにはいかない。
彼女は何か奥歯に物が挟まったように、歯切れ悪く喋りはじめた。
「うん、出かける前にその・・・・・・ゆっくりしてもいいんじゃないかなって。あ、ユウが良ければだけど」
「でも、今日はまた門が閉まるかもしれないし、もたもたしてると食堂が満席になるんじゃないかな?」
「それはそうだけど・・・・・・」
「それに早く行かないとおかみさんが呼びに来るよ」
渋る彼女をせかす。
(ゆっくりか・・・・・・)
チェアリーは気遣ってくれたが、オレとしてはここに来てからの生活は毎日が日曜日のようなものだった。スライムに襲われた時は危うく死にかけたりもしたが、それ以外は見るもの聞くもの全てが新鮮で楽しい。
街はヨーロッパの観光地のようだし、食べ物もおいしい。お金が無いのは正直キツイが、今のところ生活には不自由していない。昨日などは釣りを楽しむことも出来た。ここ何年かろくに休む事の出来なかった分を一気に取り戻しているような感覚だ。
しかし、チェアリーからしたらオレは落ち着きがない様に見えているのだろうか?
(ここの人達って、いつ休むんだろう?)
宿に来てもう1週間が経つ。
おかみさんはいつも仕事にせかせかと動き回っている。チェアリーもオレに付き合って休みをとっていない。
(臨時休業みたいに、休みたいときに休むのか?)
この世界に曜日という習慣があるのかも知らないが、日曜日、つまり休みの日が無い気がする。休みたくなったら休めばいいのだろうか?
だとすると日本でキッチリ曜日ごとに働いてきたオレからしたら羨ましく思える。
とにかく、この世界の休みの取り方は分からないが今は朝ごはんを食べに行かないと、そろそろおかみさんが呼びに来るような気がしてきた。
「どうする?」
「うん、そうだね。朝ごはん食べにいこうか」
チェアリーは渋々、食堂に向かい歩き出した。
(そうか、チェアリーの方が休みたかったのか、)
オレを心配してくれていたのではなく、こちらに気を遣って彼女自身が休むことが出来ないでいたのかもしれないと、今頃気が付いた。
これでは上司が帰らないから仕方なく残業に付き合う、日本のブラック企業のようだ。
(ちゃんと休ませてあげないとな)
今日は毛皮を売りに行かないといけないから休めないが、チェアリーがゆっくりしたいのなら次はそうさせてあげよう。
食堂に入るとウェイターが忙しそうに開店前の準備に追われていた。おかみさんもカウンターの中で準備していたが、オレの事を見つけ手招きする。
席に着いた目の前に幾つもの皿が並べられていく。葉物野菜、スライスされたトマトにチーズ、ソーセージやハム、などなど。
「今日もお客さんが多くなるといけないから簡単に食べられる物にしておいたのさ。自分たちで好きな具を、好きなだけ包んでお食べ」
そう言って、円形の薄焼き生地が目の前に出された。見た目は”ナン”の様だ。
「味付けも自由におし。これがサワークリーム、こっちはチリソース、後はジャムもあるよ」
説明を終えるとおかみさんは慌ただしく厨房へ戻っていった。
(ジャム・・・・・・)
ジャムというと、この前の甘いおかゆが思い出される。
何を包もうか迷っているうちに、チェアリーが迷うことなくジャムを手に取った。
生地にジャムを塗り付け、そこにリンゴやオレンジ、イチゴといった果物を乗せるとハムを挟み、最後にサワークリームをほんの少し付けて包む。
(クレープのようなものか)
ハムを持ってくるあたり、やはり味覚の感覚がオレとは違う気がする。
オレは葉物野菜にソーセージ、あとチーズを挟んで、たっぷりとチリソースをかけて包んだ。
(好みの味付けで食べられるなんてありがたい)
きっとおかみさんはコック達に三食パンが続くのは嫌だと言われた事と、オレの味の好みを考えてこのスタイルにしたのだろう。
(今日は当たりだったな)
おかみさんの気遣いに感謝しながらオレは朝食を食べた。
早朝。
身支度を終え、部屋のドアを開けると、
「あっ、」
短く声を発して人が倒れ込んできた。
ボフッ!
「え?」
固まるオレに抱きついたのはチェアリーだった。
「あ、ゴメン。いるとは思わなくて」
抱きつかれたことで密着し、押し当てられた胸から柔らかな感触が伝わる。
慌てて、すぐに体を離した。
「ううん、大丈夫。ちょうどノックしようと思って立ってたの」
少し照れたように彼女が笑う。
(今日も付けてないのかな・・・・・・)
服の上からでも分かるフワフワとした肉圧だった。一気に妄想が膨らむ。
オレの視線は笑顔を向ける彼女の顔から、徐々に下へ・・・・・・
(ダメだ!見ないようにしないと)
欲望を振り払い、部屋から出て言った。
「朝ごはん食べに行こうか」
歩きだそうとしたが、彼女は付いてくる様子が無い。
「ねぇ、そんなに急がなくても、よくない?」
「そう?」
早朝ではあるけど、もう外は明るくなりはじめている。急いでいるつもりなどなかったのだが、
(時計が無いのって不便だな・・・・・・)
太陽の光だけで時間を判断するというのは難しいものだ。この世界での困り事の1つかもしれない。
(そうだ、時計を作ったら売れるんじゃ・・・・・・ダメだ!わざわざ時間に追われる生活に戻ろうなんて)
明るくなったら起きて、暗くなったら寝る。今まで無縁だった健全な生活に慣れてきたのに、それを壊すわけにはいかない。
彼女は何か奥歯に物が挟まったように、歯切れ悪く喋りはじめた。
「うん、出かける前にその・・・・・・ゆっくりしてもいいんじゃないかなって。あ、ユウが良ければだけど」
「でも、今日はまた門が閉まるかもしれないし、もたもたしてると食堂が満席になるんじゃないかな?」
「それはそうだけど・・・・・・」
「それに早く行かないとおかみさんが呼びに来るよ」
渋る彼女をせかす。
(ゆっくりか・・・・・・)
チェアリーは気遣ってくれたが、オレとしてはここに来てからの生活は毎日が日曜日のようなものだった。スライムに襲われた時は危うく死にかけたりもしたが、それ以外は見るもの聞くもの全てが新鮮で楽しい。
街はヨーロッパの観光地のようだし、食べ物もおいしい。お金が無いのは正直キツイが、今のところ生活には不自由していない。昨日などは釣りを楽しむことも出来た。ここ何年かろくに休む事の出来なかった分を一気に取り戻しているような感覚だ。
しかし、チェアリーからしたらオレは落ち着きがない様に見えているのだろうか?
(ここの人達って、いつ休むんだろう?)
宿に来てもう1週間が経つ。
おかみさんはいつも仕事にせかせかと動き回っている。チェアリーもオレに付き合って休みをとっていない。
(臨時休業みたいに、休みたいときに休むのか?)
この世界に曜日という習慣があるのかも知らないが、日曜日、つまり休みの日が無い気がする。休みたくなったら休めばいいのだろうか?
だとすると日本でキッチリ曜日ごとに働いてきたオレからしたら羨ましく思える。
とにかく、この世界の休みの取り方は分からないが今は朝ごはんを食べに行かないと、そろそろおかみさんが呼びに来るような気がしてきた。
「どうする?」
「うん、そうだね。朝ごはん食べにいこうか」
チェアリーは渋々、食堂に向かい歩き出した。
(そうか、チェアリーの方が休みたかったのか、)
オレを心配してくれていたのではなく、こちらに気を遣って彼女自身が休むことが出来ないでいたのかもしれないと、今頃気が付いた。
これでは上司が帰らないから仕方なく残業に付き合う、日本のブラック企業のようだ。
(ちゃんと休ませてあげないとな)
今日は毛皮を売りに行かないといけないから休めないが、チェアリーがゆっくりしたいのなら次はそうさせてあげよう。
食堂に入るとウェイターが忙しそうに開店前の準備に追われていた。おかみさんもカウンターの中で準備していたが、オレの事を見つけ手招きする。
席に着いた目の前に幾つもの皿が並べられていく。葉物野菜、スライスされたトマトにチーズ、ソーセージやハム、などなど。
「今日もお客さんが多くなるといけないから簡単に食べられる物にしておいたのさ。自分たちで好きな具を、好きなだけ包んでお食べ」
そう言って、円形の薄焼き生地が目の前に出された。見た目は”ナン”の様だ。
「味付けも自由におし。これがサワークリーム、こっちはチリソース、後はジャムもあるよ」
説明を終えるとおかみさんは慌ただしく厨房へ戻っていった。
(ジャム・・・・・・)
ジャムというと、この前の甘いおかゆが思い出される。
何を包もうか迷っているうちに、チェアリーが迷うことなくジャムを手に取った。
生地にジャムを塗り付け、そこにリンゴやオレンジ、イチゴといった果物を乗せるとハムを挟み、最後にサワークリームをほんの少し付けて包む。
(クレープのようなものか)
ハムを持ってくるあたり、やはり味覚の感覚がオレとは違う気がする。
オレは葉物野菜にソーセージ、あとチーズを挟んで、たっぷりとチリソースをかけて包んだ。
(好みの味付けで食べられるなんてありがたい)
きっとおかみさんはコック達に三食パンが続くのは嫌だと言われた事と、オレの味の好みを考えてこのスタイルにしたのだろう。
(今日は当たりだったな)
おかみさんの気遣いに感謝しながらオレは朝食を食べた。
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