160 / 305
第6章
6-19
しおりを挟む
6-19「チェアリーのターン」
「美味しいです!」
ユウはヌマタヌキの料理が気に入ったのか、コックから作り方を聞いたりして楽しそうだった。
(はぁ・・・・・・)
私の方はというと、せっかく彼が捕まえてくれたヌマタヌキの料理だというのに喉を通っていかない。
(今夜はもしかしたら、)
そう考えると緊張してしまい、料理の味など分からなかった。
先ほどから彼がシャワーを浴びていた姿が頭に浮かんできてしょうがない。こんな生殺し状態にされるなら、さっきは勢いに任せてユウの思い通りにさせてあげればよかったと少し後悔した。
ポンッ!
ビクッ!
悶々としているところにおかみさんがワインの栓を開けたので、その音に私はビクついた。
「飲むかい?」
「少しなら」
ユウが酔わないように気を遣ってくれたおかみさんは、私達に白ワインをオレンジジュース割にして渡してくれた。
(少しお酒の力を借りよう)
私は渡されたグラスをあおった。
ユウの方を見るとちびちびと飲みながら、コックたちが料理している姿を嬉しそうに眺めている。
(やっぱり、料理好きなんだ)
彼が余りに興味深そうに見ていた為か、ひとりのコックがリクエストしてきた。
「アンタも料理に興味ありそうだな。何か作ってみせてくれよ」
「いや、興味があるだけで腕前は・・・・・・」
「いいじゃないか。今日は試食会なんだから」
「でも、プロの前で作るなんて」
「いいから、いいから。ここでは誰もマズイなんて言うヤツいないし。ねえ?おかみさん」
「そうだね。アハハ!」
おかみさんは私の横で豪快に笑った。
「その人はねエルフの彼女が舌を巻くほど狩の名手だから、きっと狩で捕まえた数々の獲物をこれまで料理してきたはずさ。お前たちが知らない料理を教えてくれるだろうよ」
おお~!
コックたちから感嘆の声が上がった。
「ちょ!おかみさん!そんな言い方やめてください!!」
「そんなに謙遜することないだろ?ヌマタヌキを2匹も捕まえてきたのは事実なんだから」
「ほら!ほら!」
彼は逃げることが出来なくなったと観念したのか、調理台へ向かった。頭を掻きながら、助けを求めるようにこちらを見てくる。
「ユウ、頑張って」
私はにっこり笑って返した。
「えーっと・・・・・・なら、揚げないフライ料理を作りたいと思います」
「揚げないのにフライなんて面白いこと言うね!アハハッ!こりゃ見ものだよ」
ユウはどうやらお昼に私に作ってくれたパン粉をかけるだけで出来るずぼら飯を作るらしい。
コックたちは最初こそ面白そうにユウが料理する姿を見ていたけど、意外なパン粉の使い方に驚いた様子だった。
料理が完成すると皆が、ユウの料理を試食しようと大盛況になった。
「外で料理するから手間をはぶいてあるのか、流石だな。これは色々アレンジが利きそうだ」
コック達はそれぞれにアイデアを出し合い、ユウもその輪に加わって料理談議に花を咲かせている。
「あれ、お昼に作ってくれたんだよ」
「そうかい、今日は本当に頑張ってくれたようだね」
「うん、」
おかみさんは声をひそめて話し出した。
「さっきの言葉じゃないけど、何かしてもらったら男は褒めてあげないといけないよ。してくれて当たり前、こうしてくれるだろう、そんな事を思いはじめたら、途端に男と女の間なんておかしくなっちまうからね」
「うん・・・・・・」
「まぁ、私は失敗しちまったんだけどね・・・・・・料理はいくらでも作り直せば済む話だけど、人間関係はそんなに簡単じゃない。経験者からの忠告さ。」
おかみさんは持っていたグラスをあおり、白ワインを飲み干した。
「さあ!せっかく彼が捕まえてくれたヌマタヌキだよ。もっとお食べ」
「はい、」
おかみさんの言葉を胸にしまい、私は改めてヌマタヌキ料理を頬張った。
「はぁー、楽しかった」
試食会もお開きになり、部屋に帰る途中の中庭で彼は心から楽しそうに言った。
お酒で気分も上がっているのが、声のトーンで分かる。
「ユウの料理みんなびっくりしてたね!本当にユウはすごいよ」
私は忠告通り彼を誉めてあげた。おかみさんに言われたからというのもあるけど、本心から彼の事は頼りになると思っている。
「ちょっと暑いな」
照れたのか、お酒のせいか、ユウは襟を掴んでパタパタと服をはためかせた。シャワー上がりの彼の匂いが、その風に乗って私の鼻をくすぐる。
私もお酒の力か、興奮のせいか、体が火照って暑い。
「ユウ、飲み過ぎてない?大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ。この前みたいにならないように、少しだけにしてたから」
この前、泥酔したユウはそのまま寝てしまった。
(今夜は・・・・・・)
彼の部屋へ私はドキドキしながら入った。
「ライト」
部屋の明かりをつけると、ベットの上に脱いだままの防具が転がっているのが見えた。
(だからさっき、私の部屋に行こうとしたのかな)
他にもカバンやストールも放り出してある。帰ってきてそのまま、全てベットの上に脱ぎ捨てたらしい。
私は防具を手に取り、机の上に並べてあげた。
「ごめん、散らかってて」
革のひざ当てなど膝をついたときに泥が付いてしまったのか、少し土が残っていてベットの上も汚れてしまっている。
土を払いながら私は聞いた。
「ねぇ・・・・・・これから私の部屋に行って、する?」
「うーん・・・・・・今日はもう疲れて眠たいし、やめておくよ」
「え、でも」
「ベットに横になったら、もうあっという間に寝ちゃいそうだ」
(え!?なんで?私、てっきり夕飯の後にしてくれるものだと・・・・・・)
またおかみさんに言われたことを思い出した。
”してくれて当たり前、こうしてくれるだろう、そんな事を思いはじめたら、途端に男と女の間なんておかしくなっちまうからね”
「そう・・・・・・うん、ごめんね。さっき済ませておけばよかったね」
私は彼の部屋を後にした。
「美味しいです!」
ユウはヌマタヌキの料理が気に入ったのか、コックから作り方を聞いたりして楽しそうだった。
(はぁ・・・・・・)
私の方はというと、せっかく彼が捕まえてくれたヌマタヌキの料理だというのに喉を通っていかない。
(今夜はもしかしたら、)
そう考えると緊張してしまい、料理の味など分からなかった。
先ほどから彼がシャワーを浴びていた姿が頭に浮かんできてしょうがない。こんな生殺し状態にされるなら、さっきは勢いに任せてユウの思い通りにさせてあげればよかったと少し後悔した。
ポンッ!
ビクッ!
悶々としているところにおかみさんがワインの栓を開けたので、その音に私はビクついた。
「飲むかい?」
「少しなら」
ユウが酔わないように気を遣ってくれたおかみさんは、私達に白ワインをオレンジジュース割にして渡してくれた。
(少しお酒の力を借りよう)
私は渡されたグラスをあおった。
ユウの方を見るとちびちびと飲みながら、コックたちが料理している姿を嬉しそうに眺めている。
(やっぱり、料理好きなんだ)
彼が余りに興味深そうに見ていた為か、ひとりのコックがリクエストしてきた。
「アンタも料理に興味ありそうだな。何か作ってみせてくれよ」
「いや、興味があるだけで腕前は・・・・・・」
「いいじゃないか。今日は試食会なんだから」
「でも、プロの前で作るなんて」
「いいから、いいから。ここでは誰もマズイなんて言うヤツいないし。ねえ?おかみさん」
「そうだね。アハハ!」
おかみさんは私の横で豪快に笑った。
「その人はねエルフの彼女が舌を巻くほど狩の名手だから、きっと狩で捕まえた数々の獲物をこれまで料理してきたはずさ。お前たちが知らない料理を教えてくれるだろうよ」
おお~!
コックたちから感嘆の声が上がった。
「ちょ!おかみさん!そんな言い方やめてください!!」
「そんなに謙遜することないだろ?ヌマタヌキを2匹も捕まえてきたのは事実なんだから」
「ほら!ほら!」
彼は逃げることが出来なくなったと観念したのか、調理台へ向かった。頭を掻きながら、助けを求めるようにこちらを見てくる。
「ユウ、頑張って」
私はにっこり笑って返した。
「えーっと・・・・・・なら、揚げないフライ料理を作りたいと思います」
「揚げないのにフライなんて面白いこと言うね!アハハッ!こりゃ見ものだよ」
ユウはどうやらお昼に私に作ってくれたパン粉をかけるだけで出来るずぼら飯を作るらしい。
コックたちは最初こそ面白そうにユウが料理する姿を見ていたけど、意外なパン粉の使い方に驚いた様子だった。
料理が完成すると皆が、ユウの料理を試食しようと大盛況になった。
「外で料理するから手間をはぶいてあるのか、流石だな。これは色々アレンジが利きそうだ」
コック達はそれぞれにアイデアを出し合い、ユウもその輪に加わって料理談議に花を咲かせている。
「あれ、お昼に作ってくれたんだよ」
「そうかい、今日は本当に頑張ってくれたようだね」
「うん、」
おかみさんは声をひそめて話し出した。
「さっきの言葉じゃないけど、何かしてもらったら男は褒めてあげないといけないよ。してくれて当たり前、こうしてくれるだろう、そんな事を思いはじめたら、途端に男と女の間なんておかしくなっちまうからね」
「うん・・・・・・」
「まぁ、私は失敗しちまったんだけどね・・・・・・料理はいくらでも作り直せば済む話だけど、人間関係はそんなに簡単じゃない。経験者からの忠告さ。」
おかみさんは持っていたグラスをあおり、白ワインを飲み干した。
「さあ!せっかく彼が捕まえてくれたヌマタヌキだよ。もっとお食べ」
「はい、」
おかみさんの言葉を胸にしまい、私は改めてヌマタヌキ料理を頬張った。
「はぁー、楽しかった」
試食会もお開きになり、部屋に帰る途中の中庭で彼は心から楽しそうに言った。
お酒で気分も上がっているのが、声のトーンで分かる。
「ユウの料理みんなびっくりしてたね!本当にユウはすごいよ」
私は忠告通り彼を誉めてあげた。おかみさんに言われたからというのもあるけど、本心から彼の事は頼りになると思っている。
「ちょっと暑いな」
照れたのか、お酒のせいか、ユウは襟を掴んでパタパタと服をはためかせた。シャワー上がりの彼の匂いが、その風に乗って私の鼻をくすぐる。
私もお酒の力か、興奮のせいか、体が火照って暑い。
「ユウ、飲み過ぎてない?大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ。この前みたいにならないように、少しだけにしてたから」
この前、泥酔したユウはそのまま寝てしまった。
(今夜は・・・・・・)
彼の部屋へ私はドキドキしながら入った。
「ライト」
部屋の明かりをつけると、ベットの上に脱いだままの防具が転がっているのが見えた。
(だからさっき、私の部屋に行こうとしたのかな)
他にもカバンやストールも放り出してある。帰ってきてそのまま、全てベットの上に脱ぎ捨てたらしい。
私は防具を手に取り、机の上に並べてあげた。
「ごめん、散らかってて」
革のひざ当てなど膝をついたときに泥が付いてしまったのか、少し土が残っていてベットの上も汚れてしまっている。
土を払いながら私は聞いた。
「ねぇ・・・・・・これから私の部屋に行って、する?」
「うーん・・・・・・今日はもう疲れて眠たいし、やめておくよ」
「え、でも」
「ベットに横になったら、もうあっという間に寝ちゃいそうだ」
(え!?なんで?私、てっきり夕飯の後にしてくれるものだと・・・・・・)
またおかみさんに言われたことを思い出した。
”してくれて当たり前、こうしてくれるだろう、そんな事を思いはじめたら、途端に男と女の間なんておかしくなっちまうからね”
「そう・・・・・・うん、ごめんね。さっき済ませておけばよかったね」
私は彼の部屋を後にした。
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる