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第5章

5-27

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5-27「リンカのターン」

私はユージンの保証人となっているシスターライリーに会うため、教会を訪ねた。

教会内へ入ってみると、人々が数人ずつのグループになってそれぞれ話し込んでいた。ここでも話題は福音についてらしい。
そのグループの中心にはシスターがいて、人々を安心させようとしているのか、アイオニオン教の教えを説いているのが聞こえる。

空いているイスに座り、軽く祈りを捧げた。
私も一応はアイオニオン教の信徒だけれど、敬虔な信徒か?と問われると、胸を張ることは出来ない。
例えばアイオニオン教では皆平等であることを信条としているが、ピコ族である私には平等という言葉には少し違和感を覚える。

平等の証である帽子を被る行為だって私は便宜上フードを被っているだけだ。ようは人の中で浮かないようにしているに過ぎない。
今、祈りを捧げたのもシスター達の目があるから、目立たないよう振る舞っているだけだ。

席を立ち、シスターライリーを探して教会の奥へと進んだ。
もし、私の知っているライリーがあの人物であれば、教会の中で人々に教えを説いているような人では無いはずだ。
(一本矢のライリー・・・・・・)
冒険者の間ではその二つ名は有名だ。弓を引けば一撃必中。噂ではアイオニオン教の首長の座を蹴って、聖職者でありながらモンスター退治に明け暮れているのだとか。

そんな人物がなぜ黒髪のヒューマンの保証人になっているのか不思議だが、同名の別人という事もあるかもしれない。
(・・・・・・会ってみれば分かるわよね)

別棟の中を歩いて行くと部屋がいくつもあり、どこに行けば会えるのか見当がつかない。
(誰かに聞いた方がいいか)
そう思いながら廊下を進むと、丁度部屋から出てきたシスターに出くわした。

「ちょっといいですか?」
「えっ!ハイ、なんでしょう?」
私が声をかけただけなのに、彼女はビックリしたような声を上げた。
そのシスターの表情はどこか気弱そうな印象を受ける。

「この教会にシスターライリーはいますか?」
「え?ライリーさま・・・・・・ですか?・・・・・・すいません」
私がライリーという名前を出すと彼女は分かりやすく困ったといった表情になった。

「あの、いるか、いないか聞いているんですけど」
「あ、えっと・・・・・・その・・・・・・すいません」
シスターの表情はドンドン曇っていく。

「なんで謝るの?あなたは何も謝ることはしていないでしょう?私はただシスターライリーがいるか聞いているだけよ」
「あぁ・・・・・・スイマセン。どうか、お許しを・・・・・・神様・・・・・・」
彼女は胸の前で祈る様に手を組むと、微かに震えはじめた。これでは私が何かいじめているようだ。
(話が通じないわね)
こういう反応をされるとイライラしてくる。

「何をしているのです」
どうしたものかと、私も困っているところに後ろから声をかけられた。
振り返ると、さっき教会にいたシスター達が引き上げてくるところだった。

「何もしてないわ。ただ、尋ねていただけよ」
「なにをです?」
「この教会にシスターライリーがいるかどうか聞いていたのだけれど、彼女が・・・・・・」
「お引き取りを」
シスターは私の話を最後まで聞かず、いきなり帰れといいはじめた。

「は?」
「聞こえませんでしたか?お引き取りを!」
「私はただ・・・・・・」
シスター達は胸の前で手を握り、ギュッと固く握りしめている。もう私の事は見えないといった感じに目すら合わせようとしない。

「分かったわよ!」
私はその場を去った。
これほどの疎外感を味わったのは久しぶりだ。頭に血がのぼって顔が熱い。

礼拝堂まで戻り、私はフードを取って頭を掻きむしった。
「ああ!アツい!」
その場にいる人達の視線が全てこちらに向いているのを感じる。帽子を取るという行為を、怒りに任せて私はワザとやったのだ。しかも教会内で。
奇異の目にさらされながら、私は堂々と教会を出た。

「ハァ・・・・・・おとなげなかったわね」
冷静になって考えてみると簡単な事だった。きっとシスターライリーはこの教会にいる。そして、シスター達はその事を隠しているのだ。
「正直な人達ね、フッ」
聖職者であるシスター達は、私に適当なウソが付けなかっただけだろう。ただ喋らずに黙る事しかできなかったらしい。

私はフードを被りなおした。
「今日はもうやめた!」
空を見上げると、太陽は真上に昇りそろそろ昼時だ。
「飲みに行こ!こうなりゃ、やけ酒よ!」
教会の門をくぐり、私は気分転換に一杯ひっかけにいこうと歩き出した。
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