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第5章
5-25「ピコ族のターン」
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5-25「ピコ族のターン」
「んーーーっ・・・・・・頭、いたい」
私はベットの上で二日酔いに苦しんでいた。
昨晩はハーブ酒を飲み干した後、すっかりお腹の具合も良くなったので調子に乗りワインを注文した。
食堂で福音について何か話が聞けないかと、ずっとカウンターの隅でお客さん達の話に耳を傾けていたのだ。
福音については”神様の祝福でこれから良い事が起こるのだ”と言っている人と”いや悪い知らせの前ぶれだ”と言っている人があーだ、こーだ言い合っていたが、結局はどちらの言い分もあやふやで、よく分からないといった感じだった。
その内に話題は仕事の話や、家庭の話などのたわいのない話へと移っていった。
それでも耳を傾け続けていると、隣に座っていた人が私の飲んでいるワインを見て「それは俺が造ったものだ」と、ワイン談議を始めた。その人はコッレの東で、ワインのブドウを栽培しているらしく今の時期はブドウの選定に忙しいだの、芽が吹きはじめたら今度はいい芽を残す芽欠き作業に忙しくなるだの、一人で永遠喋っていた。
たわいのない話だが、山に籠っていて人の言葉に飢えていた私には何を聞いていても興味深い。
人々の話をお酒の肴にして、気付くとワインボトルを2本も空けていた。
「たまにはいいわよね」
モンスターのいる山の中で、お酒を持ち歩いて飲むわけにはいかない。お酒は街に降りてきた時だけの楽しみだ。1ヶ月近く我慢していたのだから、少しくらい羽目を外したって罰は当たらない。
それに、記憶が飛ぶほど飲んではいない。ちゃんと昨日の話を思い出せたし、部屋まで帰ってベットにこうして寝ている。
ただ、頭は痛い・・・・・・
窓の方を見ると、とっくに日は射していた。
私はベットからよろよろと這い出し、窓を開けた。部屋に風が吹き抜け心地よかったが、サンサンと降り注ぐ太陽の光が二日酔いにはこたえる。
「まぶしい・・・・・・」
ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン・・・・・・
二日酔いに追い打ちをかけるように、教会から鐘の音が聞こえてきた。
遠くに聞こえるのに、近くで鳴っているかの様にゴンゴンと響く。
頭がボーっとして鳴りやむまで窓辺でただ立って待っていると、隣の部屋の窓に服が干されているのが目についた。
今日もいい天気だ。二日酔いには辛いが、絶好の洗濯日和だ。
(私も干しておこう)
リュクからハンモックを引っ張り出し、窓の手すりに引っ掛けた。
時々干してやらないと、カビ臭くなってしまう。
気持ちよく風にそよぐハンモックを見ていると、二日酔いのけだるさが少し晴れた気がした。
「・・・・・・シャワーでも浴びよ」
酔いを醒ますため私はシャワーを浴び、仕度を整え部屋を後にした。
向かった食堂は、朝だというのに既に席は満席だ。立ち尽くす私におかみさんが話しかけてきた。
「見ての通り満席さ。悪いねぇ」
「いえ、もっと早起きすれば良かったのだけれど、昨日は少し飲み過ぎて」
「少し?アンタ大食いだけど、酒も底なしのようだね。一人でワインボトル2本も空けてたから部屋で酔いつぶれているんじゃないかと思ってたよ」
「見ていたんですか、ハハッ」
私は照れ笑いした。
「そこの中庭にベンチがあるだろう?」
「はい」
「そこでよければ、朝食を用意してあげるけど、どうだい?」
「助かります」
私はおかみさんの好意で、中庭のベンチに座って朝食を取ることにした。
中庭はとても静かだった。宿の泊り客はもう出かけてしまったのか、中庭を横切っていく人はいなかったし、食堂は賑わっていてもここまでは喧騒も届かない。
この四角い空間だけまるで世界から切り離され、一人取り残されてしまったように感じる。
空を見上げた。四角い空はどこまでも遠く続いている。
「どこにいるのかしらねぇ」
ぼそりとつぶやいた。
たった一人で出来る事など限られる。誰かに聞いて欲しいという欲求が口から洩れてしまったのかもしれない。
「待たせたねぇ」
おかみさんが笑顔で中庭へ入ってきた。私は空を見上げるのをやめて、ベンチに座り直した。
「忙しいのにわざわざすいません」
「いいんだよ、これくらい」
そう言って彼女は朝食の乗せられたお盆を差し出してくれた。
「今日は朝から賑わってますね」
「門が閉まっているからみんな暇を持て余しているのさ」
「門が?」
「あぁ、アンタは昨日着たから知らないのかい。今コッレの街では福音が突然鳴り響く事件が起きていてねぇ、もしもに備えて門を閉めているのさ」
(そういえば昨日の夜、門の事を話している人もいたわね)
「アンタ、何か用事があって来たんだろう?街の外に出られないなんてついてないねぇ」
「いえ、この街に用事があったので大丈夫です」
「そうかい、でもまぁ昼過ぎには門も開くとは思うけどね。この前もそうだったし」
「この前っていつですか?」
「2日前だよ。その前日に福音が鳴ってね、念のためって事で門が閉まって大変だったんだよ。今日で門が閉まったのは2回目さ」
「そうですか・・・・・・」
2日前というとバリケードで街道が封鎖された日と同じだ。
「いったい何んだっていうのかねぇ・・・・・・」
おかみさんは誰に言うとでもなく、呟いた。
「ごめんなさい、忙しいのに手をかけさせてしまって」
「いえ、いえ、ごゆっくり」
私の言葉で笑顔に戻るとおかみさんは食堂へ戻っていった。
福音の事は気になるが、今は黒髪のヒューマンを探すのが先決だ。私は気持ちを入れ替え朝食を食べることにした。
おかみさんが持ってきてくれたのはおかゆだった。
あと、フルーツの盛り合わせと、ベリーソースが添えられている。きっと昨日飲み過ぎていた私の事を気遣って消化の良いおかゆにしてくれたに違いない。
おかみさんのこういう気の使い方には感心する。
おかゆを口に含むと優しい甘さが二日酔いの体を癒してくれるようだった。
「んーーーっ・・・・・・頭、いたい」
私はベットの上で二日酔いに苦しんでいた。
昨晩はハーブ酒を飲み干した後、すっかりお腹の具合も良くなったので調子に乗りワインを注文した。
食堂で福音について何か話が聞けないかと、ずっとカウンターの隅でお客さん達の話に耳を傾けていたのだ。
福音については”神様の祝福でこれから良い事が起こるのだ”と言っている人と”いや悪い知らせの前ぶれだ”と言っている人があーだ、こーだ言い合っていたが、結局はどちらの言い分もあやふやで、よく分からないといった感じだった。
その内に話題は仕事の話や、家庭の話などのたわいのない話へと移っていった。
それでも耳を傾け続けていると、隣に座っていた人が私の飲んでいるワインを見て「それは俺が造ったものだ」と、ワイン談議を始めた。その人はコッレの東で、ワインのブドウを栽培しているらしく今の時期はブドウの選定に忙しいだの、芽が吹きはじめたら今度はいい芽を残す芽欠き作業に忙しくなるだの、一人で永遠喋っていた。
たわいのない話だが、山に籠っていて人の言葉に飢えていた私には何を聞いていても興味深い。
人々の話をお酒の肴にして、気付くとワインボトルを2本も空けていた。
「たまにはいいわよね」
モンスターのいる山の中で、お酒を持ち歩いて飲むわけにはいかない。お酒は街に降りてきた時だけの楽しみだ。1ヶ月近く我慢していたのだから、少しくらい羽目を外したって罰は当たらない。
それに、記憶が飛ぶほど飲んではいない。ちゃんと昨日の話を思い出せたし、部屋まで帰ってベットにこうして寝ている。
ただ、頭は痛い・・・・・・
窓の方を見ると、とっくに日は射していた。
私はベットからよろよろと這い出し、窓を開けた。部屋に風が吹き抜け心地よかったが、サンサンと降り注ぐ太陽の光が二日酔いにはこたえる。
「まぶしい・・・・・・」
ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン・・・・・・
二日酔いに追い打ちをかけるように、教会から鐘の音が聞こえてきた。
遠くに聞こえるのに、近くで鳴っているかの様にゴンゴンと響く。
頭がボーっとして鳴りやむまで窓辺でただ立って待っていると、隣の部屋の窓に服が干されているのが目についた。
今日もいい天気だ。二日酔いには辛いが、絶好の洗濯日和だ。
(私も干しておこう)
リュクからハンモックを引っ張り出し、窓の手すりに引っ掛けた。
時々干してやらないと、カビ臭くなってしまう。
気持ちよく風にそよぐハンモックを見ていると、二日酔いのけだるさが少し晴れた気がした。
「・・・・・・シャワーでも浴びよ」
酔いを醒ますため私はシャワーを浴び、仕度を整え部屋を後にした。
向かった食堂は、朝だというのに既に席は満席だ。立ち尽くす私におかみさんが話しかけてきた。
「見ての通り満席さ。悪いねぇ」
「いえ、もっと早起きすれば良かったのだけれど、昨日は少し飲み過ぎて」
「少し?アンタ大食いだけど、酒も底なしのようだね。一人でワインボトル2本も空けてたから部屋で酔いつぶれているんじゃないかと思ってたよ」
「見ていたんですか、ハハッ」
私は照れ笑いした。
「そこの中庭にベンチがあるだろう?」
「はい」
「そこでよければ、朝食を用意してあげるけど、どうだい?」
「助かります」
私はおかみさんの好意で、中庭のベンチに座って朝食を取ることにした。
中庭はとても静かだった。宿の泊り客はもう出かけてしまったのか、中庭を横切っていく人はいなかったし、食堂は賑わっていてもここまでは喧騒も届かない。
この四角い空間だけまるで世界から切り離され、一人取り残されてしまったように感じる。
空を見上げた。四角い空はどこまでも遠く続いている。
「どこにいるのかしらねぇ」
ぼそりとつぶやいた。
たった一人で出来る事など限られる。誰かに聞いて欲しいという欲求が口から洩れてしまったのかもしれない。
「待たせたねぇ」
おかみさんが笑顔で中庭へ入ってきた。私は空を見上げるのをやめて、ベンチに座り直した。
「忙しいのにわざわざすいません」
「いいんだよ、これくらい」
そう言って彼女は朝食の乗せられたお盆を差し出してくれた。
「今日は朝から賑わってますね」
「門が閉まっているからみんな暇を持て余しているのさ」
「門が?」
「あぁ、アンタは昨日着たから知らないのかい。今コッレの街では福音が突然鳴り響く事件が起きていてねぇ、もしもに備えて門を閉めているのさ」
(そういえば昨日の夜、門の事を話している人もいたわね)
「アンタ、何か用事があって来たんだろう?街の外に出られないなんてついてないねぇ」
「いえ、この街に用事があったので大丈夫です」
「そうかい、でもまぁ昼過ぎには門も開くとは思うけどね。この前もそうだったし」
「この前っていつですか?」
「2日前だよ。その前日に福音が鳴ってね、念のためって事で門が閉まって大変だったんだよ。今日で門が閉まったのは2回目さ」
「そうですか・・・・・・」
2日前というとバリケードで街道が封鎖された日と同じだ。
「いったい何んだっていうのかねぇ・・・・・・」
おかみさんは誰に言うとでもなく、呟いた。
「ごめんなさい、忙しいのに手をかけさせてしまって」
「いえ、いえ、ごゆっくり」
私の言葉で笑顔に戻るとおかみさんは食堂へ戻っていった。
福音の事は気になるが、今は黒髪のヒューマンを探すのが先決だ。私は気持ちを入れ替え朝食を食べることにした。
おかみさんが持ってきてくれたのはおかゆだった。
あと、フルーツの盛り合わせと、ベリーソースが添えられている。きっと昨日飲み過ぎていた私の事を気遣って消化の良いおかゆにしてくれたに違いない。
おかみさんのこういう気の使い方には感心する。
おかゆを口に含むと優しい甘さが二日酔いの体を癒してくれるようだった。
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