122 / 305
第5章
5-11
しおりを挟む
5-11「チェアリーのターン」
坂を下りきり目的の場所に付いた私は、振り返ってユウに言った。
「着いたよ。ここで毛皮を買い取ってくれるの」
そこは家畜場で剥がされた毛皮が集められる倉庫がいくつも立ち並ぶ場所だ。
開け放たれている入り口からは、中に毛皮が山積みにされているのがうかがえる。動物の種類ごとに倉庫によって分けられているようだ。
中では毛皮を水洗いしたり、余計な部分を切り落とすなど作業している人達がいる。
剥いだ後に軽く水洗いされただけの毛皮はケモノ臭が残っていて倉庫の中からは独特の匂いが外まで漂ってきていた。
入り口のそばには荷馬車が横付けされ、束にしてまとめられた毛皮を荷台へ乗せている人達もいる。
毛皮は水洗いされたことで水分を含み、見た目よりとても重たそうだ。男たちが額に汗しながら荷台へ積み上げるたびに毛皮から絞り出された水分がポタポタとしたたり落ちていた。
「ここで毛皮の加工をしているの?」
倉庫で作業する人達を覗き込みながらユウが尋ねる。
「ここは剥いだ皮を集めているだけだと思うよ。仕分けした後に今度は洗ったりするためにラゴに運ばれていくんだと思う」
「ラゴって革製品を作ってる町なの?」
「うーん、革製品も作っているけど、製品に加工する前のまっさらな一枚の革にするための場所かな。ほら、革って洗ったり、漬け込んだり、水を多く使うでしょ。だからラゴの町では湖の水を利用して革を洗ってるの」
「そうか・・・・・・ここでは加工はしてないのか」
彼は革の加工が見られると思っていたらしい。
そういった加工を見たいのなら商業地区の革を扱うお店に行かないと無理だ。帽子や服、カバンなどそれぞれのお店の工房で作業を見させてもらうしかないと思う。
(ユウにはお父さんに会ってもらわないと!)
彼が革の加工に興味を持ってくれたのは嬉しいが、この街でどこかのお店に弟子入りされては困る。ユウにはどうせなら私の父に弟子入りしてもらって、皮の加工でもしながら村で一緒に暮らしたい。
一つの選択肢として私は漠然とそう考え始めていた。
「ちょっとここで待ってて、毛皮を売ってくるから」
作業を眺めているユウから毛皮を受け取り、私は彼を残して倉庫の横にある小さな小屋へと向かった。持ち込みで毛皮を買い取ってくれるのは毛皮専門の鑑定士がいるその小屋だ。
希少な毛皮になるとそこそこ良い値段がついたりする事もあるから、冒険者の間でも利用する人はいる。私も何度か毛皮を持ち込んだ事があった。
聞いた話ではウサギは白地に黒いブチ模様だとコートの模様として重宝されるので高く買い取ってもらえるらしい。ユウが狩ったのは茶色い毛の普通の種類だったけど、大きく立派に成長した野生のものなので期待はできる。
小屋に近づくと冒険者らしい人たちが数人並んでいた。それぞれ手に毛皮を持ち、私と同じように売りに来ているようだ。
(今はモンスターが減っているもんね・・・・・・)
ここ1ヶ月、ほとんどモンスターを見かけることが無くなり、冒険者もやりくりに必死だ。きっと私達と同じようにモンスターを探しているついでに獣を狩って生活の足しにしているのだろう。
小さな小屋の入り口にはカウンターが設けられていて部屋の中の人とカウンターを挟んで交渉できるようになっている。
毛皮を品定めする鑑定士と冒険者のやりとりが聞こえてきた。
「もうちょっと、どうにかなりませんか?」
「うちもこれ以上は出せませんよ。背中に傷があるでしょう?そうすると1枚革で使えなくなるから、毛色合わせのために使われる二級品扱いにしかできないんですよ」
「はぁー、ならその値段でいいです」
「ハイ、ありがとうございます」
その冒険者はお金を受け取ると肩を落として帰って行った。
(私と同じこと言われてる)
以前キツネの毛皮を持ち込んだ時、傷があるからと私も買い叩かれた。
今回のウサギは傷一つなく、下処理も彼が丁寧にやってくれたため完璧だ。
(ユウが上手に狩ってくれたから期待できるかも)
ただ、彼に値段を聞かれるのは避けたい。ユウはどうやらお金の事をことさら気にかけてくれているようだから今も余計な気を使わせないようにと、彼を置いて一人で交渉に来たのだ。
「ハイ、次の方どうぞ」
順番が回ってきた。期待を込めてカウンターにウサギの毛皮を広げる。
「ウサギですか・・・・・・」
「昨日捕まえたんですが、下処理はちゃんとしたつもりです。」
鑑定士は裏表を少し見ただけでもう見定めたのか、
「1500シルバですね」
査定額を提示した。
「え?それだけ!?」
私はあまりの金額の低さに驚いた。
「良く見てください。傷は1カ所も無いし、下処理も丁寧にしてあります」
「ええ、それを踏まえたうえでの金額です。丁寧な処理をされているのでこれでも色を付けた方ですよ?」
「そんな・・・・・・困ります」
「困ると言われても、こちらも困ってしまいますよ・・・・・・そうですねぇ、今は時期が悪いんですよ。冬毛に生え変わったばかりの物なら毛足も長く上等なのでもう少し値段も高くできますが、それでも2000といったところですかね」
「なんでそんなに安いんですか?」
「ウサギだからです。ウサギはそこの家畜場で育てられていますから、安定的に毛皮は調達できるのです」
「そうなんですか・・・・・・」
「どうします?売りますか?持って帰ります?」
「・・・・・・売ります」
「ハイ、ありがとうございます」
私は500シルバのコイン3枚を握りしめ、その場を後にした。
思った以上に安かった事をユウにどう説明しようか、私はその事で頭がいっぱいになった。
坂を下りきり目的の場所に付いた私は、振り返ってユウに言った。
「着いたよ。ここで毛皮を買い取ってくれるの」
そこは家畜場で剥がされた毛皮が集められる倉庫がいくつも立ち並ぶ場所だ。
開け放たれている入り口からは、中に毛皮が山積みにされているのがうかがえる。動物の種類ごとに倉庫によって分けられているようだ。
中では毛皮を水洗いしたり、余計な部分を切り落とすなど作業している人達がいる。
剥いだ後に軽く水洗いされただけの毛皮はケモノ臭が残っていて倉庫の中からは独特の匂いが外まで漂ってきていた。
入り口のそばには荷馬車が横付けされ、束にしてまとめられた毛皮を荷台へ乗せている人達もいる。
毛皮は水洗いされたことで水分を含み、見た目よりとても重たそうだ。男たちが額に汗しながら荷台へ積み上げるたびに毛皮から絞り出された水分がポタポタとしたたり落ちていた。
「ここで毛皮の加工をしているの?」
倉庫で作業する人達を覗き込みながらユウが尋ねる。
「ここは剥いだ皮を集めているだけだと思うよ。仕分けした後に今度は洗ったりするためにラゴに運ばれていくんだと思う」
「ラゴって革製品を作ってる町なの?」
「うーん、革製品も作っているけど、製品に加工する前のまっさらな一枚の革にするための場所かな。ほら、革って洗ったり、漬け込んだり、水を多く使うでしょ。だからラゴの町では湖の水を利用して革を洗ってるの」
「そうか・・・・・・ここでは加工はしてないのか」
彼は革の加工が見られると思っていたらしい。
そういった加工を見たいのなら商業地区の革を扱うお店に行かないと無理だ。帽子や服、カバンなどそれぞれのお店の工房で作業を見させてもらうしかないと思う。
(ユウにはお父さんに会ってもらわないと!)
彼が革の加工に興味を持ってくれたのは嬉しいが、この街でどこかのお店に弟子入りされては困る。ユウにはどうせなら私の父に弟子入りしてもらって、皮の加工でもしながら村で一緒に暮らしたい。
一つの選択肢として私は漠然とそう考え始めていた。
「ちょっとここで待ってて、毛皮を売ってくるから」
作業を眺めているユウから毛皮を受け取り、私は彼を残して倉庫の横にある小さな小屋へと向かった。持ち込みで毛皮を買い取ってくれるのは毛皮専門の鑑定士がいるその小屋だ。
希少な毛皮になるとそこそこ良い値段がついたりする事もあるから、冒険者の間でも利用する人はいる。私も何度か毛皮を持ち込んだ事があった。
聞いた話ではウサギは白地に黒いブチ模様だとコートの模様として重宝されるので高く買い取ってもらえるらしい。ユウが狩ったのは茶色い毛の普通の種類だったけど、大きく立派に成長した野生のものなので期待はできる。
小屋に近づくと冒険者らしい人たちが数人並んでいた。それぞれ手に毛皮を持ち、私と同じように売りに来ているようだ。
(今はモンスターが減っているもんね・・・・・・)
ここ1ヶ月、ほとんどモンスターを見かけることが無くなり、冒険者もやりくりに必死だ。きっと私達と同じようにモンスターを探しているついでに獣を狩って生活の足しにしているのだろう。
小さな小屋の入り口にはカウンターが設けられていて部屋の中の人とカウンターを挟んで交渉できるようになっている。
毛皮を品定めする鑑定士と冒険者のやりとりが聞こえてきた。
「もうちょっと、どうにかなりませんか?」
「うちもこれ以上は出せませんよ。背中に傷があるでしょう?そうすると1枚革で使えなくなるから、毛色合わせのために使われる二級品扱いにしかできないんですよ」
「はぁー、ならその値段でいいです」
「ハイ、ありがとうございます」
その冒険者はお金を受け取ると肩を落として帰って行った。
(私と同じこと言われてる)
以前キツネの毛皮を持ち込んだ時、傷があるからと私も買い叩かれた。
今回のウサギは傷一つなく、下処理も彼が丁寧にやってくれたため完璧だ。
(ユウが上手に狩ってくれたから期待できるかも)
ただ、彼に値段を聞かれるのは避けたい。ユウはどうやらお金の事をことさら気にかけてくれているようだから今も余計な気を使わせないようにと、彼を置いて一人で交渉に来たのだ。
「ハイ、次の方どうぞ」
順番が回ってきた。期待を込めてカウンターにウサギの毛皮を広げる。
「ウサギですか・・・・・・」
「昨日捕まえたんですが、下処理はちゃんとしたつもりです。」
鑑定士は裏表を少し見ただけでもう見定めたのか、
「1500シルバですね」
査定額を提示した。
「え?それだけ!?」
私はあまりの金額の低さに驚いた。
「良く見てください。傷は1カ所も無いし、下処理も丁寧にしてあります」
「ええ、それを踏まえたうえでの金額です。丁寧な処理をされているのでこれでも色を付けた方ですよ?」
「そんな・・・・・・困ります」
「困ると言われても、こちらも困ってしまいますよ・・・・・・そうですねぇ、今は時期が悪いんですよ。冬毛に生え変わったばかりの物なら毛足も長く上等なのでもう少し値段も高くできますが、それでも2000といったところですかね」
「なんでそんなに安いんですか?」
「ウサギだからです。ウサギはそこの家畜場で育てられていますから、安定的に毛皮は調達できるのです」
「そうなんですか・・・・・・」
「どうします?売りますか?持って帰ります?」
「・・・・・・売ります」
「ハイ、ありがとうございます」
私は500シルバのコイン3枚を握りしめ、その場を後にした。
思った以上に安かった事をユウにどう説明しようか、私はその事で頭がいっぱいになった。
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる