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第5章
5-8
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5-8「ユウのターン」
おかみさんに言われて食堂に入ると、従業員が忙しそうに開店準備をしていた。
声をかけるのもはばかれたので、テーブルに着かずその様子を店の隅で眺めているうちに、おかみさんとチェアリーも食堂へ入ってきた。
「こっちのカウンターに座って待っといで」
おかみさんに促されるまま、カウンター席に座る。チェアリーも隣に座ってくれた。
(怒ってるかな?)
さっきは沈黙に耐え切れず逃げるように中庭から出て来てしまったが、今はカウンター席に着いているので目のやり場に困る事もないし、黙っていても不自然じゃなく丁度いい。
席に着いたオレ達におかみさんが言った。
「今日の朝ごはんは、おかゆだよ」
その言葉に心が躍った。気まずかったことなど忘れて、おかゆに食いつく。
「おかゆがあるんですか?」
オレは特段おかゆ好きという訳ではない。おかゆがあるという事は米があるという事。その事実に興奮したのだ。
(異世界にも米、あるんじゃん!!)
「何だい、おかゆが好きなのかい?なら大盛りにしてあげようかね」
ニッコリ笑っておかみさんは厨房へと入っていった。
ここ数日、肉とパンばかりでそろそろ和食が恋しくなってきたところだ。
(米があるのなら自分で炊いて白米が食べられる!)
自分で炊かずともおかみさんに言って炊いてもらうのも、いいかもしれない。けど、この世界の食文化は肉食中心の気がする為、そもそも米を炊くという調理方があるのか怪しい。
(そういえば、米ってどうやって炊くんだったっけ?)
炊飯器なら分量を計ってスイッチを押せば気を使う必要なく美味しく炊き上げてくれる。だが、火を使ってとなるとキャンプで飯ごうを使って炊いたぐらいしか経験が無い。
(確か・・・・・・はじめ強火で、とかいう歌があったような?)
そんな事を考えながら待っていると、おかみさんが小ぶりのボウルに入ったおかゆを持ってきてくれた。
(きた、来た!)
見るとそれは真っ白で水気は残っていない、ねっとりとしたものだった。具も薬味も何も入っておらず、煮たそのままといった感じだ。
(ああ、梅干しでもあれば最高なんだけどな)
隣のチェアリーを見るとその白いおかゆに何か赤いソースの様なものをかけていた。それはまるで梅干しを乗せたように見える。
「ユウもかける?」
オレが見ているのに気付いて彼女が勧めてくれた。
「うん、」
白いおかゆに赤のコントラストが如何にもオレの日本人魂を揺さぶる、オレは勧められるままにそのソースをかけてもらった。
「いただきます」
スプーンですくい、ひと口食べただけでオレは絶句した。
(ゔっ・・・・・・あまい・・・・・・)
それはお米の優しい甘さというものではなかった。明らかに甘く味付けされている。オレの知っているおかゆではなかった事に胃がパニックを起こし、喉に流し込むなと体が全く受け付けつけてくれない。
「どうだい?おいしいかい?」
おかみさんが笑顔で聞いてくる。
「ハイ、おいしいです。」
オレは無理して美味しいと答えておいた。
「ハハハッ!顔が美味しくないって言ってるよ!」
「すいません・・・・・・甘かったもので」
「そうかい?甘過ぎたかねぇ・・・・・・」
どうやらこの世界のおかゆは甘いらしい。それに口の中に残るつぶつぶは噛んでみるとお米じゃない気がする。
「あの、中に入っているのって何ですか?」
「今日は引き割り小麦だね。ヤギのミルクにシロップを入れて沸騰したところで小麦を入れてトロトロに炊くのさ。仕上げにバターをたっぷり入れてあるよ」
(小麦かよ!!)
だが、おかみさんは”今日は”と言っている。今日は小麦だったが他の物でもおかゆは作られるらしい。
オレは更に聞いてみた。
「小麦の他には何を使うんですか?」
「そうだねぇ・・・・・・大麦、燕麦、キビ、ヒエ、ソバ・・・トウモロコシやエンドウ豆も使うね。穀物とか豆類ならなんでも使うよ」
期待して聞いていたのだが、彼女の口から米という単語は出てこなかった。
「アンタやっぱり料理に興味あるんだねぇ、なら少し分けてあげるよ」
厨房に行ったおかみさんが、包みを持って戻ってきた。
「アンタ達、昼は河原で食べているんだろう?おかゆなら水からでも簡単に作れるから、彼好みの味付けで作ってあげるといいよ。」
そう言ってチェアリーに持ってきた包みを渡す。
「ありがとう」
「口に合わなかったのなら、何か別の物でも作ってやろうかい?」
おかみさんはまったく食が進んでいないオレを見て気遣ってくれた。だが、厄介になっている身で贅沢は言えない。
「いえ、大丈夫です。残したらもったいないので・・・・・・」
「えらい!おばさん食べ物を残さず食べてくれる人は大好きだよ!アハハッ!」
彼女は笑いながら厨房へ戻っていった。
食べると言ってしまった以上、完食しなくてはいけない。
米意外で作られたものをおかゆと呼ぶ事に違和感を覚えたが、ミルクやバターが入っているのだから最初からリゾットとかそういう物だと思えば食べられなくはない。
さっきはおかゆが入ってくると思って喜んでいたオレの胃が、異文化の洗礼にカルチャーショックを起こしていただけだ。
(せめて甘くなければなぁ)
もう一度味見の為、チェアリーがかけてくれた赤いソースだけすくって食べてみるとそれは何かベリー系のジャムの様だった。
(リゾットでもないな・・・・・・ヨーグルト的な感覚か?)
甘いおかゆに更に甘いベリーソースで追い打ちをかける。おかゆではなくデザートの様な感覚で食べた方がいいのかもしれない。
オレはガマンしながらその甘いおかゆをすすった。
おかみさんに言われて食堂に入ると、従業員が忙しそうに開店準備をしていた。
声をかけるのもはばかれたので、テーブルに着かずその様子を店の隅で眺めているうちに、おかみさんとチェアリーも食堂へ入ってきた。
「こっちのカウンターに座って待っといで」
おかみさんに促されるまま、カウンター席に座る。チェアリーも隣に座ってくれた。
(怒ってるかな?)
さっきは沈黙に耐え切れず逃げるように中庭から出て来てしまったが、今はカウンター席に着いているので目のやり場に困る事もないし、黙っていても不自然じゃなく丁度いい。
席に着いたオレ達におかみさんが言った。
「今日の朝ごはんは、おかゆだよ」
その言葉に心が躍った。気まずかったことなど忘れて、おかゆに食いつく。
「おかゆがあるんですか?」
オレは特段おかゆ好きという訳ではない。おかゆがあるという事は米があるという事。その事実に興奮したのだ。
(異世界にも米、あるんじゃん!!)
「何だい、おかゆが好きなのかい?なら大盛りにしてあげようかね」
ニッコリ笑っておかみさんは厨房へと入っていった。
ここ数日、肉とパンばかりでそろそろ和食が恋しくなってきたところだ。
(米があるのなら自分で炊いて白米が食べられる!)
自分で炊かずともおかみさんに言って炊いてもらうのも、いいかもしれない。けど、この世界の食文化は肉食中心の気がする為、そもそも米を炊くという調理方があるのか怪しい。
(そういえば、米ってどうやって炊くんだったっけ?)
炊飯器なら分量を計ってスイッチを押せば気を使う必要なく美味しく炊き上げてくれる。だが、火を使ってとなるとキャンプで飯ごうを使って炊いたぐらいしか経験が無い。
(確か・・・・・・はじめ強火で、とかいう歌があったような?)
そんな事を考えながら待っていると、おかみさんが小ぶりのボウルに入ったおかゆを持ってきてくれた。
(きた、来た!)
見るとそれは真っ白で水気は残っていない、ねっとりとしたものだった。具も薬味も何も入っておらず、煮たそのままといった感じだ。
(ああ、梅干しでもあれば最高なんだけどな)
隣のチェアリーを見るとその白いおかゆに何か赤いソースの様なものをかけていた。それはまるで梅干しを乗せたように見える。
「ユウもかける?」
オレが見ているのに気付いて彼女が勧めてくれた。
「うん、」
白いおかゆに赤のコントラストが如何にもオレの日本人魂を揺さぶる、オレは勧められるままにそのソースをかけてもらった。
「いただきます」
スプーンですくい、ひと口食べただけでオレは絶句した。
(ゔっ・・・・・・あまい・・・・・・)
それはお米の優しい甘さというものではなかった。明らかに甘く味付けされている。オレの知っているおかゆではなかった事に胃がパニックを起こし、喉に流し込むなと体が全く受け付けつけてくれない。
「どうだい?おいしいかい?」
おかみさんが笑顔で聞いてくる。
「ハイ、おいしいです。」
オレは無理して美味しいと答えておいた。
「ハハハッ!顔が美味しくないって言ってるよ!」
「すいません・・・・・・甘かったもので」
「そうかい?甘過ぎたかねぇ・・・・・・」
どうやらこの世界のおかゆは甘いらしい。それに口の中に残るつぶつぶは噛んでみるとお米じゃない気がする。
「あの、中に入っているのって何ですか?」
「今日は引き割り小麦だね。ヤギのミルクにシロップを入れて沸騰したところで小麦を入れてトロトロに炊くのさ。仕上げにバターをたっぷり入れてあるよ」
(小麦かよ!!)
だが、おかみさんは”今日は”と言っている。今日は小麦だったが他の物でもおかゆは作られるらしい。
オレは更に聞いてみた。
「小麦の他には何を使うんですか?」
「そうだねぇ・・・・・・大麦、燕麦、キビ、ヒエ、ソバ・・・トウモロコシやエンドウ豆も使うね。穀物とか豆類ならなんでも使うよ」
期待して聞いていたのだが、彼女の口から米という単語は出てこなかった。
「アンタやっぱり料理に興味あるんだねぇ、なら少し分けてあげるよ」
厨房に行ったおかみさんが、包みを持って戻ってきた。
「アンタ達、昼は河原で食べているんだろう?おかゆなら水からでも簡単に作れるから、彼好みの味付けで作ってあげるといいよ。」
そう言ってチェアリーに持ってきた包みを渡す。
「ありがとう」
「口に合わなかったのなら、何か別の物でも作ってやろうかい?」
おかみさんはまったく食が進んでいないオレを見て気遣ってくれた。だが、厄介になっている身で贅沢は言えない。
「いえ、大丈夫です。残したらもったいないので・・・・・・」
「えらい!おばさん食べ物を残さず食べてくれる人は大好きだよ!アハハッ!」
彼女は笑いながら厨房へ戻っていった。
食べると言ってしまった以上、完食しなくてはいけない。
米意外で作られたものをおかゆと呼ぶ事に違和感を覚えたが、ミルクやバターが入っているのだから最初からリゾットとかそういう物だと思えば食べられなくはない。
さっきはおかゆが入ってくると思って喜んでいたオレの胃が、異文化の洗礼にカルチャーショックを起こしていただけだ。
(せめて甘くなければなぁ)
もう一度味見の為、チェアリーがかけてくれた赤いソースだけすくって食べてみるとそれは何かベリー系のジャムの様だった。
(リゾットでもないな・・・・・・ヨーグルト的な感覚か?)
甘いおかゆに更に甘いベリーソースで追い打ちをかける。おかゆではなくデザートの様な感覚で食べた方がいいのかもしれない。
オレはガマンしながらその甘いおかゆをすすった。
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