上 下
119 / 305
第5章

5-8

しおりを挟む
5-8「ユウのターン」

おかみさんに言われて食堂に入ると、従業員が忙しそうに開店準備をしていた。
声をかけるのもはばかれたので、テーブルに着かずその様子を店の隅で眺めているうちに、おかみさんとチェアリーも食堂へ入ってきた。

「こっちのカウンターに座って待っといで」
おかみさんに促されるまま、カウンター席に座る。チェアリーも隣に座ってくれた。
(怒ってるかな?)
さっきは沈黙に耐え切れず逃げるように中庭から出て来てしまったが、今はカウンター席に着いているので目のやり場に困る事もないし、黙っていても不自然じゃなく丁度いい。

席に着いたオレ達におかみさんが言った。
「今日の朝ごはんは、おかゆだよ」
その言葉に心が躍った。気まずかったことなど忘れて、おかゆに食いつく。
「おかゆがあるんですか?」
オレは特段おかゆ好きという訳ではない。おかゆがあるという事は米があるという事。その事実に興奮したのだ。
(異世界にも米、あるんじゃん!!)

「何だい、おかゆが好きなのかい?なら大盛りにしてあげようかね」
ニッコリ笑っておかみさんは厨房へと入っていった。
ここ数日、肉とパンばかりでそろそろ和食が恋しくなってきたところだ。

(米があるのなら自分で炊いて白米が食べられる!)
自分で炊かずともおかみさんに言って炊いてもらうのも、いいかもしれない。けど、この世界の食文化は肉食中心の気がする為、そもそも米を炊くという調理方があるのか怪しい。

(そういえば、米ってどうやって炊くんだったっけ?)
炊飯器なら分量を計ってスイッチを押せば気を使う必要なく美味しく炊き上げてくれる。だが、火を使ってとなるとキャンプで飯ごうを使って炊いたぐらいしか経験が無い。
(確か・・・・・・はじめ強火で、とかいう歌があったような?)

そんな事を考えながら待っていると、おかみさんが小ぶりのボウルに入ったおかゆを持ってきてくれた。
(きた、来た!)
見るとそれは真っ白で水気は残っていない、ねっとりとしたものだった。具も薬味も何も入っておらず、煮たそのままといった感じだ。
(ああ、梅干しでもあれば最高なんだけどな)

隣のチェアリーを見るとその白いおかゆに何か赤いソースの様なものをかけていた。それはまるで梅干しを乗せたように見える。
「ユウもかける?」
オレが見ているのに気付いて彼女が勧めてくれた。
「うん、」
白いおかゆに赤のコントラストが如何にもオレの日本人魂を揺さぶる、オレは勧められるままにそのソースをかけてもらった。

「いただきます」

スプーンですくい、ひと口食べただけでオレは絶句した。
(ゔっ・・・・・・あまい・・・・・・)
それはお米の優しい甘さというものではなかった。明らかに甘く味付けされている。オレの知っているおかゆではなかった事に胃がパニックを起こし、喉に流し込むなと体が全く受け付けつけてくれない。

「どうだい?おいしいかい?」
おかみさんが笑顔で聞いてくる。
「ハイ、おいしいです。」
オレは無理して美味しいと答えておいた。

「ハハハッ!顔が美味しくないって言ってるよ!」
「すいません・・・・・・甘かったもので」
「そうかい?甘過ぎたかねぇ・・・・・・」
どうやらこの世界のおかゆは甘いらしい。それに口の中に残るつぶつぶは噛んでみるとお米じゃない気がする。

「あの、中に入っているのって何ですか?」
「今日は引き割り小麦だね。ヤギのミルクにシロップを入れて沸騰したところで小麦を入れてトロトロに炊くのさ。仕上げにバターをたっぷり入れてあるよ」
(小麦かよ!!)

だが、おかみさんは”今日は”と言っている。今日は小麦だったが他の物でもおかゆは作られるらしい。
オレは更に聞いてみた。
「小麦の他には何を使うんですか?」
「そうだねぇ・・・・・・大麦、燕麦、キビ、ヒエ、ソバ・・・トウモロコシやエンドウ豆も使うね。穀物とか豆類ならなんでも使うよ」
期待して聞いていたのだが、彼女の口から米という単語は出てこなかった。

「アンタやっぱり料理に興味あるんだねぇ、なら少し分けてあげるよ」
厨房に行ったおかみさんが、包みを持って戻ってきた。
「アンタ達、昼は河原で食べているんだろう?おかゆなら水からでも簡単に作れるから、彼好みの味付けで作ってあげるといいよ。」
そう言ってチェアリーに持ってきた包みを渡す。
「ありがとう」

「口に合わなかったのなら、何か別の物でも作ってやろうかい?」
おかみさんはまったく食が進んでいないオレを見て気遣ってくれた。だが、厄介になっている身で贅沢は言えない。
「いえ、大丈夫です。残したらもったいないので・・・・・・」
「えらい!おばさん食べ物を残さず食べてくれる人は大好きだよ!アハハッ!」
彼女は笑いながら厨房へ戻っていった。

食べると言ってしまった以上、完食しなくてはいけない。
米意外で作られたものをおかゆと呼ぶ事に違和感を覚えたが、ミルクやバターが入っているのだから最初からリゾットとかそういう物だと思えば食べられなくはない。
さっきはおかゆが入ってくると思って喜んでいたオレの胃が、異文化の洗礼にカルチャーショックを起こしていただけだ。

(せめて甘くなければなぁ)
もう一度味見の為、チェアリーがかけてくれた赤いソースだけすくって食べてみるとそれは何かベリー系のジャムの様だった。
(リゾットでもないな・・・・・・ヨーグルト的な感覚か?)
甘いおかゆに更に甘いベリーソースで追い打ちをかける。おかゆではなくデザートの様な感覚で食べた方がいいのかもしれない。
オレはガマンしながらその甘いおかゆをすすった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...