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第4章
4-33
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4-33「ライリーのターン」
「で?なぜ、今日は狩を?」
私は報告の続きを促した。
「はい。どうやら宿のおかみさんへウサギ肉をお土産にしたかったようです」
「二人が泊まっているラビット・インはウサギの煮込みが有名なんですよ。ライリー様、食べた事あります?」
「何度かね。・・・・・・それで?お土産を持っていくためにわざわざ狩を?」
「木の裏で見つからないように隠れていたので詳しくは分かりませんでしたが、ウサギの皮を明日売りに行くと言っていました。モンスターは少ないですし、狩で生計を立てようと考えたのではないでしょうか」
(エルフの生活そのままね)
今でこそエルフ達は長の指示で植物を育てる事を生活の糧にしている者が多いが、昔は狩がエルフの生活の主流だった。
狩りまでこなすとは、ユウはここの生活に完全に馴染んでいるようだ。
ココが唇を尖らせて言う。
「隠れているあいだ中、なんだか2人して楽しそうな声が聞こえてましたよ」
「いいことじゃない」
「そうなんですけどぉ。二人でキャキャ言いながらウサギを捌いて、そのウサギのレバーで料理してお昼に分け合って食べたり、監視しているこっちは恥ずかしいやら、うらやましいやら」
「フフフッ」
ココの話から勇者様達の楽しそうな様子が目に浮かぶ。
「チェアリーの父親は革職人のようです。ユウは彼女から革について教えてもらいながら、ウサギの皮を綺麗に掃除してました」
「彼も革職人になるつもりかしらね」
降臨して数日でこんなにも早く地に足を付けた生活を送り始めるとは思ってもいなかった。
「もう夫婦ですよ、あれは。でも勇者様は大変だろうなぁ、きっと尻に敷かれますよ。エルフの彼女が言うんです。鍋とってとか、服の裾が汚れるからまくってだとか、火を起こしてだの、パンを焼いてだのって彼に。将来はダークエルフですね。エルフの奥さんってみんなあんな感じになるんですかね?」
ココは見てきたことを身振り手振りを交えながら話し、エルフの長夫婦を引き合いに出した。
「ココ、」
私が睨むとココは少し言い過ぎたといった感じに押黙った。聖職者が一種族に偏見を持ってはいけない。
アデリナが空気を読んで話題を変える。
「そういえば、ユウは魔宝石を使えるようになっていました」
「へぇ、」
魔宝石自体、使うのは簡単だ。覚えてしまえば誰でも使える。
しかし、私が以前降臨した勇者達に魔法を初めて見せてあげた時にはとても驚いていたものだが・・・・・・
(また順応の早いこと)
彼はどこまでこの世界の事を知ったのだろう?
「ユウは何か言ってなかった?私達が知らない事だとか言葉だとか」
「特には・・・・・・彼はあまりしゃべりませんし、もしかしたらエルフの彼女には素性を隠しているのかもしれません」
「そう、」
彼が今の生活に馴染んでいるのならそれでいい。とりあえずはドラゴン退治を優先させなければならないのだから。それが終わるまでユウにはおとなしくしていてもらった方がこちらとしては助かる。
教会が欲している情報はいずれゆっくり話し合って聞きだせるだろう。
(今日は順調だったわ)
石積は早く完成したし、ユウは手助けしなくても済んでいるし、エルフが余計な事をしている訳でもなさそうだ。それに、ココとアデリナは素直な態度になった。
たまにはこんな風に順調に事が運んでも罰は当たらないはずだ。
(少し怖いくらいだけど、)
ゴーン、ゴーン、ゴーン・・・・・・
二人の報告を済ませようとしたその時、頭の中に鐘の音が鳴り響いた。
「あ!福音」
「来たわね」
3人でじっとしながら、福音が鳴りやむのを待っていると程なく音は鳴りやみ、シーンと静まり返った。まるで街中の人々が息を止め、じっとしていたかのよう。
「明日は、またモンスターの大群が現れるわよ」
二人が無言でうなづく。
「あなた達は付いてこなくていいわ。街に残ってゆっくり休みなさい」
「え?」
「なんでですか!」
「昨日のスライムとは訳が違うの。危険だからここに残るように」
ココとアデリナは兵士でもなければ、冒険者でもない。一応私とアンスを加えてパーティーという形をとっているが、経験が浅すぎる。
普通のモンスター退治で経験を積ませ、少しづつ鍛えていけば戦えるようにはなるかもしれない。しかし、今は状況が特殊だ。気長に育てている時間は無い。
私は机の引き出しを開け、昨日スライムを倒した後拾い集めた魔宝石を取り出した。
ジャラ!
革袋にはかなりの量の魔宝石が詰まっている。
「これはあなた達の取り分よ。明日はこれで羽目を外してくるといいわ。けど、外しすぎてはダメよ?」
飴と鞭ではないが、彼女達も疲れているはずだ。特に昨日は数百のスライムを相手にしたのだから疲労もたまっているだろう。たまには休ませてあげないと不満まで溜まる。
しかし、ココとアデリナは魔宝石を受け取ろうとはしなかった。
「私達も連れていってください。邪魔にならないようにしていますから」
「そうです!私に任せてください。一匹ぐらいは仕留めてみせます!それに・・・・・・」
「それに?」
「危なくなったらライリー様の後ろに隠れるから安全です!」
ココは何を自慢しているのか胸をドンと叩いた。
「フフフッ(本当にこの子は、)」
何事も経験させなければ成長は見込めない。考えを改め二人を連れていくことにした。
「分かったわ。あなた達も来なさい。けど、付いてくるからには戦士として扱います。昨日のスライム退治以上にしごくから覚悟なさい」
「それはちょっと・・・・・・」
ココは苦笑いした。
「で?なぜ、今日は狩を?」
私は報告の続きを促した。
「はい。どうやら宿のおかみさんへウサギ肉をお土産にしたかったようです」
「二人が泊まっているラビット・インはウサギの煮込みが有名なんですよ。ライリー様、食べた事あります?」
「何度かね。・・・・・・それで?お土産を持っていくためにわざわざ狩を?」
「木の裏で見つからないように隠れていたので詳しくは分かりませんでしたが、ウサギの皮を明日売りに行くと言っていました。モンスターは少ないですし、狩で生計を立てようと考えたのではないでしょうか」
(エルフの生活そのままね)
今でこそエルフ達は長の指示で植物を育てる事を生活の糧にしている者が多いが、昔は狩がエルフの生活の主流だった。
狩りまでこなすとは、ユウはここの生活に完全に馴染んでいるようだ。
ココが唇を尖らせて言う。
「隠れているあいだ中、なんだか2人して楽しそうな声が聞こえてましたよ」
「いいことじゃない」
「そうなんですけどぉ。二人でキャキャ言いながらウサギを捌いて、そのウサギのレバーで料理してお昼に分け合って食べたり、監視しているこっちは恥ずかしいやら、うらやましいやら」
「フフフッ」
ココの話から勇者様達の楽しそうな様子が目に浮かぶ。
「チェアリーの父親は革職人のようです。ユウは彼女から革について教えてもらいながら、ウサギの皮を綺麗に掃除してました」
「彼も革職人になるつもりかしらね」
降臨して数日でこんなにも早く地に足を付けた生活を送り始めるとは思ってもいなかった。
「もう夫婦ですよ、あれは。でも勇者様は大変だろうなぁ、きっと尻に敷かれますよ。エルフの彼女が言うんです。鍋とってとか、服の裾が汚れるからまくってだとか、火を起こしてだの、パンを焼いてだのって彼に。将来はダークエルフですね。エルフの奥さんってみんなあんな感じになるんですかね?」
ココは見てきたことを身振り手振りを交えながら話し、エルフの長夫婦を引き合いに出した。
「ココ、」
私が睨むとココは少し言い過ぎたといった感じに押黙った。聖職者が一種族に偏見を持ってはいけない。
アデリナが空気を読んで話題を変える。
「そういえば、ユウは魔宝石を使えるようになっていました」
「へぇ、」
魔宝石自体、使うのは簡単だ。覚えてしまえば誰でも使える。
しかし、私が以前降臨した勇者達に魔法を初めて見せてあげた時にはとても驚いていたものだが・・・・・・
(また順応の早いこと)
彼はどこまでこの世界の事を知ったのだろう?
「ユウは何か言ってなかった?私達が知らない事だとか言葉だとか」
「特には・・・・・・彼はあまりしゃべりませんし、もしかしたらエルフの彼女には素性を隠しているのかもしれません」
「そう、」
彼が今の生活に馴染んでいるのならそれでいい。とりあえずはドラゴン退治を優先させなければならないのだから。それが終わるまでユウにはおとなしくしていてもらった方がこちらとしては助かる。
教会が欲している情報はいずれゆっくり話し合って聞きだせるだろう。
(今日は順調だったわ)
石積は早く完成したし、ユウは手助けしなくても済んでいるし、エルフが余計な事をしている訳でもなさそうだ。それに、ココとアデリナは素直な態度になった。
たまにはこんな風に順調に事が運んでも罰は当たらないはずだ。
(少し怖いくらいだけど、)
ゴーン、ゴーン、ゴーン・・・・・・
二人の報告を済ませようとしたその時、頭の中に鐘の音が鳴り響いた。
「あ!福音」
「来たわね」
3人でじっとしながら、福音が鳴りやむのを待っていると程なく音は鳴りやみ、シーンと静まり返った。まるで街中の人々が息を止め、じっとしていたかのよう。
「明日は、またモンスターの大群が現れるわよ」
二人が無言でうなづく。
「あなた達は付いてこなくていいわ。街に残ってゆっくり休みなさい」
「え?」
「なんでですか!」
「昨日のスライムとは訳が違うの。危険だからここに残るように」
ココとアデリナは兵士でもなければ、冒険者でもない。一応私とアンスを加えてパーティーという形をとっているが、経験が浅すぎる。
普通のモンスター退治で経験を積ませ、少しづつ鍛えていけば戦えるようにはなるかもしれない。しかし、今は状況が特殊だ。気長に育てている時間は無い。
私は机の引き出しを開け、昨日スライムを倒した後拾い集めた魔宝石を取り出した。
ジャラ!
革袋にはかなりの量の魔宝石が詰まっている。
「これはあなた達の取り分よ。明日はこれで羽目を外してくるといいわ。けど、外しすぎてはダメよ?」
飴と鞭ではないが、彼女達も疲れているはずだ。特に昨日は数百のスライムを相手にしたのだから疲労もたまっているだろう。たまには休ませてあげないと不満まで溜まる。
しかし、ココとアデリナは魔宝石を受け取ろうとはしなかった。
「私達も連れていってください。邪魔にならないようにしていますから」
「そうです!私に任せてください。一匹ぐらいは仕留めてみせます!それに・・・・・・」
「それに?」
「危なくなったらライリー様の後ろに隠れるから安全です!」
ココは何を自慢しているのか胸をドンと叩いた。
「フフフッ(本当にこの子は、)」
何事も経験させなければ成長は見込めない。考えを改め二人を連れていくことにした。
「分かったわ。あなた達も来なさい。けど、付いてくるからには戦士として扱います。昨日のスライム退治以上にしごくから覚悟なさい」
「それはちょっと・・・・・・」
ココは苦笑いした。
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