上 下
111 / 305
第4章

4-33

しおりを挟む
4-33「ライリーのターン」

「で?なぜ、今日は狩を?」
私は報告の続きを促した。

「はい。どうやら宿のおかみさんへウサギ肉をお土産にしたかったようです」
「二人が泊まっているラビット・インはウサギの煮込みが有名なんですよ。ライリー様、食べた事あります?」
「何度かね。・・・・・・それで?お土産を持っていくためにわざわざ狩を?」
「木の裏で見つからないように隠れていたので詳しくは分かりませんでしたが、ウサギの皮を明日売りに行くと言っていました。モンスターは少ないですし、狩で生計を立てようと考えたのではないでしょうか」

(エルフの生活そのままね)
今でこそエルフ達は長の指示で植物を育てる事を生活の糧にしている者が多いが、昔は狩がエルフの生活の主流だった。
狩りまでこなすとは、ユウはここの生活に完全に馴染んでいるようだ。

ココが唇を尖らせて言う。
「隠れているあいだ中、なんだか2人して楽しそうな声が聞こえてましたよ」
「いいことじゃない」
「そうなんですけどぉ。二人でキャキャ言いながらウサギを捌いて、そのウサギのレバーで料理してお昼に分け合って食べたり、監視しているこっちは恥ずかしいやら、うらやましいやら」
「フフフッ」
ココの話から勇者様達の楽しそうな様子が目に浮かぶ。

「チェアリーの父親は革職人のようです。ユウは彼女から革について教えてもらいながら、ウサギの皮を綺麗に掃除してました」
「彼も革職人になるつもりかしらね」
降臨して数日でこんなにも早く地に足を付けた生活を送り始めるとは思ってもいなかった。

「もう夫婦ですよ、あれは。でも勇者様は大変だろうなぁ、きっと尻に敷かれますよ。エルフの彼女が言うんです。鍋とってとか、服の裾が汚れるからまくってだとか、火を起こしてだの、パンを焼いてだのって彼に。将来はダークエルフですね。エルフの奥さんってみんなあんな感じになるんですかね?」
ココは見てきたことを身振り手振りを交えながら話し、エルフの長夫婦を引き合いに出した。

「ココ、」
私が睨むとココは少し言い過ぎたといった感じに押黙った。聖職者が一種族に偏見を持ってはいけない。
アデリナが空気を読んで話題を変える。
「そういえば、ユウは魔宝石を使えるようになっていました」
「へぇ、」
魔宝石自体、使うのは簡単だ。覚えてしまえば誰でも使える。
しかし、私が以前降臨した勇者達に魔法を初めて見せてあげた時にはとても驚いていたものだが・・・・・・
(また順応の早いこと)

彼はどこまでこの世界の事を知ったのだろう?
「ユウは何か言ってなかった?私達が知らない事だとか言葉だとか」
「特には・・・・・・彼はあまりしゃべりませんし、もしかしたらエルフの彼女には素性を隠しているのかもしれません」
「そう、」
彼が今の生活に馴染んでいるのならそれでいい。とりあえずはドラゴン退治を優先させなければならないのだから。それが終わるまでユウにはおとなしくしていてもらった方がこちらとしては助かる。
教会が欲している情報はいずれゆっくり話し合って聞きだせるだろう。

(今日は順調だったわ)
石積は早く完成したし、ユウは手助けしなくても済んでいるし、エルフが余計な事をしている訳でもなさそうだ。それに、ココとアデリナは素直な態度になった。
たまにはこんな風に順調に事が運んでも罰は当たらないはずだ。
(少し怖いくらいだけど、)

ゴーン、ゴーン、ゴーン・・・・・・

二人の報告を済ませようとしたその時、頭の中に鐘の音が鳴り響いた。
「あ!福音」
「来たわね」
3人でじっとしながら、福音が鳴りやむのを待っていると程なく音は鳴りやみ、シーンと静まり返った。まるで街中の人々が息を止め、じっとしていたかのよう。

「明日は、またモンスターの大群が現れるわよ」
二人が無言でうなづく。
「あなた達は付いてこなくていいわ。街に残ってゆっくり休みなさい」
「え?」
「なんでですか!」
「昨日のスライムとは訳が違うの。危険だからここに残るように」
ココとアデリナは兵士でもなければ、冒険者でもない。一応私とアンスを加えてパーティーという形をとっているが、経験が浅すぎる。
普通のモンスター退治で経験を積ませ、少しづつ鍛えていけば戦えるようにはなるかもしれない。しかし、今は状況が特殊だ。気長に育てている時間は無い。

私は机の引き出しを開け、昨日スライムを倒した後拾い集めた魔宝石を取り出した。
ジャラ!
革袋にはかなりの量の魔宝石が詰まっている。
「これはあなた達の取り分よ。明日はこれで羽目を外してくるといいわ。けど、外しすぎてはダメよ?」
飴と鞭ではないが、彼女達も疲れているはずだ。特に昨日は数百のスライムを相手にしたのだから疲労もたまっているだろう。たまには休ませてあげないと不満まで溜まる。

しかし、ココとアデリナは魔宝石を受け取ろうとはしなかった。
「私達も連れていってください。邪魔にならないようにしていますから」
「そうです!私に任せてください。一匹ぐらいは仕留めてみせます!それに・・・・・・」
「それに?」
「危なくなったらライリー様の後ろに隠れるから安全です!」
ココは何を自慢しているのか胸をドンと叩いた。
「フフフッ(本当にこの子は、)」

何事も経験させなければ成長は見込めない。考えを改め二人を連れていくことにした。
「分かったわ。あなた達も来なさい。けど、付いてくるからには戦士として扱います。昨日のスライム退治以上にしごくから覚悟なさい」
「それはちょっと・・・・・・」
ココは苦笑いした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...