94 / 305
第4章
4-16
しおりを挟む
4-16「チェアリーのターン」
レバーを洗い戻ってくると、彼は鍋を覗き込んで興味深そうに眺めた。よっぽどお腹が空いていてしょうがないのかもしれない。
「これで何を作るの?」
「レバーはパンに付けるパテにしようと思って」
さっそくパテを作るためカバンからフライパンを取り出す。
おかみさんなら美味しいテリーヌを作ってくれるだろうけど、ここではそんな凝ったものは作れない。だいいち材料が足りない。
それでも今朝、マルシェでいくつか買い物をしておいて良かったと思った。食材が無ければただ焼いて食べるしかなかったのだから。
(ユウじゃないけど、串焼きだけになっちゃうところだった)
彼はウサギを狩ってくれた。私も手料理を披露していいところを見せたい。
「ユウは心臓をお願いね。串焼きにするんでしょ」
「ああ、分かった」
鍋から心臓を取り出した彼はナイフでそれを2つに切った。そして1つずつ串に刺していく。
(ユウが食べればいいのに)
心臓は小さいので最初から彼に食べさせてあげるつもりでいたけど、どうやら小さな心臓を私にも分けてくれるらしい。
(フフッ、)
彼の優しさは嬉しかったが、元々小さかった心臓は半分に切ったことでさらに小さくなってしまった。串に1個だけちんまりと付いていると可愛く見える。
あれではあっという間に焼けてしまいそうなので私も急いでパテ作りに取り掛かる。
フライパンを火にかけそこにヤギのバターを落とす。溶けたバターからは甘い香りが漂ってくる。
(次は、タマネギを・・・・・・)
そう思った矢先、彼がタマネギをカバンから取り出した。
「串焼きにしたいんだけど、使ってもいい?」
彼も小さな肉片の串焼きでは物足りなく思ったのか、タマネギも一緒に焼くようだ。
「いいよ。私も使うから、半分くらい残してね」
ユウがタマネギを剥き、残りを渡してくれた。
タマネギをみじん切りにしている間、彼はずっとこちらの様子を見てくる。その視線が少しこそばゆい。
(ふふふっ)
こういう風に一緒に料理を作っている事が嬉しく、自然と顔がほころんでしまう。
タマネギがしんなりしたところでレバーを入れ、スプーンで潰しながらペーストにしていく。
彼の方は自分の仕事は終わったとばかりに、串が焼けるのをじっくり眺めはじめた。
(もう1つお願いしちゃおうかな)
レバーのパテを美味しくするには、入れるチーズはケチらないことだ。そしてそのチーズは食べる前に削る事。風味が格段に違ってくる。
「ユウ、チーズを削って欲しいんだけど頼める?」
「チーズ?いいけど、」
快く引き受けてくれた彼が、チーズを削る。
「どれくらい削ればいい?」
「たっぷりおねがい」
ユウは昨日、私の為にがんばると言ってくれたことをちゃんと態度で示してくれている。
(はぁ・・・・・・いい。)
彼に甘えるたび、今までソロでやってきた私の心が満たされていく。
こんもりと削り上がったチーズを、味見のつもりか彼がひとつまみ口にした。
「しょっぱ!」
「フフッ、ヒツジのミルクから作られたチーズだよ。保存が利くように塩がたくさん使われていて、水分も少ないから硬くてしょっぱいの」
「へーぇ」
彼には少し子供っぽいところがあるのも分かってきた。1つの事に集中すると周りが見えなくなるみたいで、今も夢中になってチーズを削っている。私がその横顔をじっと見つめているのも気付いていないようだ。
一緒にいると次第にユウの新しい一面に気付けて楽しい。
レバーは潰していくことでバターが馴染み、滑らかなペースト状になってきた。ここまできたら最後の仕上げ。
「チーズちょうだい」
彼に削ってもらったチーズを受け取り、フライパンへ全て入れる。塩気はこのチーズだけで十分だ。
(後は風味付けに・・・・・・)
今朝買ったセージとタイムのドライハーブをパテへふりかける。
セージは甘い香りが肉料理の臭み消しとして重宝されている。
タイムもよく臭みけしに使われるハーブだけれど、風味だけでなくその味はピリリと辛みがありそして少しほろ苦い。その刺激が隠し味として料理に深みを与えてくれる。
(買っておいて良かったぁ)
チーズとハーブをよく混ぜ合わせれば完成!
家で作ればナッツ類を加えたり、お酒を加えたりしてもっと複雑な味わいにもできるが、河原で作るには限界がある。
(どれどれ・・・・・・)
スプーンにすくってちょっと味見。
「うーん、もう少ししょっぱくてもいいかな?」
シンプルな味わいだけど、しっかりウサギのレバーの風味がいきている。けど、パンに付けて食べるならもう少し塩気が効いていてもいい気がする。
ユウが味見をしている私をまじまじと見てくるので、彼にも味見してもらうことにした。
「ユウも味見して。もう少しチーズ入れた方がいい?」
”私が口にした”スプーンを彼がごく自然に口に入れる。
(・・・・・・)
「ちょうどいいよ。おいしい」
「そう?じゃあ、食べよっか」
これまでもそうだったけれど、彼はこういう事に無頓着なのだろうか?余りにも自然に受け入れているので、こちらの方が意識し過ぎなのかと思ってしまう。
(私は結構ドキドキしてるんだけどな・・・・・・まだキスもしてないし)
荷物がかさばるのでスプーンは1つしか持っていない。
鍋も1つ、フライパンも1つ、カップも1つ。彼と1つを分け合って食べるのだ。
(むふふっ)
また顔がほころんできた。
レバーを洗い戻ってくると、彼は鍋を覗き込んで興味深そうに眺めた。よっぽどお腹が空いていてしょうがないのかもしれない。
「これで何を作るの?」
「レバーはパンに付けるパテにしようと思って」
さっそくパテを作るためカバンからフライパンを取り出す。
おかみさんなら美味しいテリーヌを作ってくれるだろうけど、ここではそんな凝ったものは作れない。だいいち材料が足りない。
それでも今朝、マルシェでいくつか買い物をしておいて良かったと思った。食材が無ければただ焼いて食べるしかなかったのだから。
(ユウじゃないけど、串焼きだけになっちゃうところだった)
彼はウサギを狩ってくれた。私も手料理を披露していいところを見せたい。
「ユウは心臓をお願いね。串焼きにするんでしょ」
「ああ、分かった」
鍋から心臓を取り出した彼はナイフでそれを2つに切った。そして1つずつ串に刺していく。
(ユウが食べればいいのに)
心臓は小さいので最初から彼に食べさせてあげるつもりでいたけど、どうやら小さな心臓を私にも分けてくれるらしい。
(フフッ、)
彼の優しさは嬉しかったが、元々小さかった心臓は半分に切ったことでさらに小さくなってしまった。串に1個だけちんまりと付いていると可愛く見える。
あれではあっという間に焼けてしまいそうなので私も急いでパテ作りに取り掛かる。
フライパンを火にかけそこにヤギのバターを落とす。溶けたバターからは甘い香りが漂ってくる。
(次は、タマネギを・・・・・・)
そう思った矢先、彼がタマネギをカバンから取り出した。
「串焼きにしたいんだけど、使ってもいい?」
彼も小さな肉片の串焼きでは物足りなく思ったのか、タマネギも一緒に焼くようだ。
「いいよ。私も使うから、半分くらい残してね」
ユウがタマネギを剥き、残りを渡してくれた。
タマネギをみじん切りにしている間、彼はずっとこちらの様子を見てくる。その視線が少しこそばゆい。
(ふふふっ)
こういう風に一緒に料理を作っている事が嬉しく、自然と顔がほころんでしまう。
タマネギがしんなりしたところでレバーを入れ、スプーンで潰しながらペーストにしていく。
彼の方は自分の仕事は終わったとばかりに、串が焼けるのをじっくり眺めはじめた。
(もう1つお願いしちゃおうかな)
レバーのパテを美味しくするには、入れるチーズはケチらないことだ。そしてそのチーズは食べる前に削る事。風味が格段に違ってくる。
「ユウ、チーズを削って欲しいんだけど頼める?」
「チーズ?いいけど、」
快く引き受けてくれた彼が、チーズを削る。
「どれくらい削ればいい?」
「たっぷりおねがい」
ユウは昨日、私の為にがんばると言ってくれたことをちゃんと態度で示してくれている。
(はぁ・・・・・・いい。)
彼に甘えるたび、今までソロでやってきた私の心が満たされていく。
こんもりと削り上がったチーズを、味見のつもりか彼がひとつまみ口にした。
「しょっぱ!」
「フフッ、ヒツジのミルクから作られたチーズだよ。保存が利くように塩がたくさん使われていて、水分も少ないから硬くてしょっぱいの」
「へーぇ」
彼には少し子供っぽいところがあるのも分かってきた。1つの事に集中すると周りが見えなくなるみたいで、今も夢中になってチーズを削っている。私がその横顔をじっと見つめているのも気付いていないようだ。
一緒にいると次第にユウの新しい一面に気付けて楽しい。
レバーは潰していくことでバターが馴染み、滑らかなペースト状になってきた。ここまできたら最後の仕上げ。
「チーズちょうだい」
彼に削ってもらったチーズを受け取り、フライパンへ全て入れる。塩気はこのチーズだけで十分だ。
(後は風味付けに・・・・・・)
今朝買ったセージとタイムのドライハーブをパテへふりかける。
セージは甘い香りが肉料理の臭み消しとして重宝されている。
タイムもよく臭みけしに使われるハーブだけれど、風味だけでなくその味はピリリと辛みがありそして少しほろ苦い。その刺激が隠し味として料理に深みを与えてくれる。
(買っておいて良かったぁ)
チーズとハーブをよく混ぜ合わせれば完成!
家で作ればナッツ類を加えたり、お酒を加えたりしてもっと複雑な味わいにもできるが、河原で作るには限界がある。
(どれどれ・・・・・・)
スプーンにすくってちょっと味見。
「うーん、もう少ししょっぱくてもいいかな?」
シンプルな味わいだけど、しっかりウサギのレバーの風味がいきている。けど、パンに付けて食べるならもう少し塩気が効いていてもいい気がする。
ユウが味見をしている私をまじまじと見てくるので、彼にも味見してもらうことにした。
「ユウも味見して。もう少しチーズ入れた方がいい?」
”私が口にした”スプーンを彼がごく自然に口に入れる。
(・・・・・・)
「ちょうどいいよ。おいしい」
「そう?じゃあ、食べよっか」
これまでもそうだったけれど、彼はこういう事に無頓着なのだろうか?余りにも自然に受け入れているので、こちらの方が意識し過ぎなのかと思ってしまう。
(私は結構ドキドキしてるんだけどな・・・・・・まだキスもしてないし)
荷物がかさばるのでスプーンは1つしか持っていない。
鍋も1つ、フライパンも1つ、カップも1つ。彼と1つを分け合って食べるのだ。
(むふふっ)
また顔がほころんできた。
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
トレンダム辺境伯の結婚 妻は俺の妻じゃないようです。
白雪なこ
ファンタジー
両親の怪我により爵位を継ぎ、トレンダム辺境伯となったジークス。辺境地の男は女性に人気がないが、ルマルド侯爵家の次女シルビナは喜んで嫁入りしてくれた。だが、初夜の晩、シルビナは告げる。「生憎と、月のものが来てしまいました」と。環境に慣れ、辺境伯夫人の仕事を覚えるまで、初夜は延期らしい。だが、頑張っているのは別のことだった……。
*外部サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる