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第2章
2-23
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2-23「ユウのターン」
川を上流へ向けて無言で歩くうち、気まずくなった空気を破ったのは彼女の方だった。
「私は河原を探すから、ユウは土手の上を探してくれる?」
「ああ、分かった」
指示だけすると、彼女は辺りを見回しながら川沿いを上流へと向かって行った。
(やっぱり、怒らせちゃったかな)
やってしまってから無神経な事をしたと後悔した。彼女がみせた色っぽい仕草に浮かれてしまったせいもあるかもしれない。
(・・・・・・しょうがない)
言われた通りオレは土手に上がり、彼女と別々になってスライム探しを始めた。
土手の上にはポツン、ポツンと川に沿って樹木が生えている。その樹の周りに少し藪が残っているだけで後は全て開けた草原だ。
モンスターがいればすぐに発見できそうなくらい見晴らしがいい。動くものといえばヒツジが遠くで、のどかに草をはんでいるだけだ。
(こんな所にいるのかなぁ)
ヒツジ達しかいない草原を眺めていると、目の端に水がちょろちょろと流れていくのを捉えた。
それは草の間から流れ出していて、最初は川に流れ込む支流かと見ていたが、違った。
流れ出てきた水は小さな水たまりを作ったのだ。
しばらくして、また水たまりから細い流れが1本ちょろちょろと流れ出した。川とは別方向に。
その溜まっていた水が流れ尽すと、流れの先端が止まり、そこでまた水たまりができ上がる。
その動作を繰り返して水たまりはだんだんオレの方へと近づいてきていた。まるで生き物の様に。
「うわっ、なんだこれ!気持ちわるっ!」
オレの声に反応したのか、水たまりが動きを止めた。
止めたかと思うと・・・
たぷんっ!
重力に逆らって、水たまりがスローモーションの様にタップン、タップン波打って跳ね上がった!
「これがスライムか!?」
目の前にはさっきの水たまりが姿を変え、ドッチボールくらいの大きさの球体が出現した。それは目や口などはなく半透明に透き通っている。
(想像していたのと違う)
頭の中では勝手に、青色で目と口が付いていて、雫型の物をイメージしていたのだが・・・・・・
しかし、初めて出会ったモンスターに徐々に興奮してきた。
ドゥルゥゥゥーン!
ドゥン!ダッ!ドゥン!ダッ!ドゥン!ダッ!ドゥン!ダッ!
脳内BGMが勝手に流れ始める。
『スライムが、あらわれた』
ゲームであればコマンド選択で『たたかう』を選ぶところだが、
(すぐに倒したらもったいない!)
そう考えオレは剣を抜かず、少し観察することにした。
見ると、スライムは球体を保とうとしているのか、一瞬、力がこもり地面と接地している部分が持ち上がる。しかし重さに耐えられず、すぐにぷるるんと力が抜けた様に垂れ下がり落ちてしまう。
その度にプルプルと震えていて、お菓子のゼリーをスプーンで突っついているようだった。
(カワイイかも)
見ていると面白い。ゲームのごとく、倒したら起き上がって仲間にならないかな?と呑気な考えが浮かぶ。
すると、スライムはバイン!バイン!と体を上下に振るわせ波打ち始めた。
「そんなに激しく動いたら、2つに切れるぞ。お前」
様子をうかがっていると上下の反動を利用してスライムがボールの様に跳ね始めた。
「おっ!やるのかぁ」
動きはゆっくりで、上下に跳ね続けている。それはまるで子供がボール遊びをしているようだった。
オレは子供をあやすようなつもりでスライムに近づいた。
バイン!バイン!バイン!バイン!ヒュッ!!
(え?)
一瞬だった。跳ねていたスライムがオレに向かって体当たりしてきた!
運が悪い事に防具は胸当てと、股間のプロテクターしかしておらず、がら空きだった腹にちょうどスライムの体当たりを喰らってしまった。
ドフッ!!
鈍い音と共に腹に痛みが走った。
「うっ・・・・・・」
スライムの一撃が無防備だったみぞおちに思いっきり入ったことで、胃の空気が押し出され一言声が漏れた。
オレはよろけながら後ずさりした。
「はあ~ぁ・・・・・・」
鈍く重い痛みが後から広がってくる。
こんな痛み、いつぶりだろう?それこそ小学校でやったドッチボール以来かもしれない。胸でボールを受ければ大したことはないが、腹で受けると惨事になる。
(マズイ・・・・・・倒さないと)
脂汗がじんわり噴き出してくる。
みぞおちに入った痛みというのは長引くものだ。早く倒しておかないとまた体当たりをされかねない。
オレは重い痛みに耐えながら、剣を抜いた。
バイン!バイン!バイン!バイン!
スライムはまた目の前で跳ね始めていた。攻撃される前にと、オレは剣を球体めがけて振り下ろした!
バイン!バイン!ヒュッ!!
オレの攻撃に合わせスライムは横へ飛んだため、かわされてしまった。
ガッ!
剣が地面に突き刺さる。
「ハぁ~っ・・・・・・」
立っているのが辛い。
突き刺さった剣を杖の様に支えにして堪えたが、立っていると貧血を起こしたように視野がうっすら暗くなりはじめた。
(少し息を整えてから・・・・・・)
深呼吸しようと背を伸ばすと、
ドコッ!!
背中に痛みを感じた。スライムが後ろに回り込んで体当たりしてきたらしい。
体当たり自体はそんなに痛いものではなかったが、みぞおちのダメージが残っていてオレは堪えられず地面に突っ伏してしまった。
なんとか起き上がるため仰向けになると、のそのそとスライムが胸の上に這い上がってきた。
下から見上げるオレには胸の上でふんぞり返っているように思えた。
(コイツ!仲間にして欲しそうに起き上がっても絶対にしてやらないからな!)
見下されたように感じて心の中では強がってはみたが、ズンと重い腹の痛みに胸の上のスライムを払いのけることもできない。
(どうせ、体当たりぐらいしか出来ないんだろ?今に見てろよ・・・・・・)
口も無いスライムが噛みつくはずはない。球体になるぐらいしか攻撃手段はないだろう。そう考え、腹の痛みが治まるまで、このまま体当たりに耐えていればいいと考えた時だった!
ぶわん!
胸の上のスライムが膜状に薄く伸びたかと思うと、オレの顔に覆いかぶさってきた!
(んン゛っーー!!)
鼻と口をスライムのネバネバしたゼリー状の物質で覆われ息が出来ない!
慌てて引き剥がそうと掴んでみるが、スライムの体はプチプチとちぎれ、手ごたえが無く引き剥がせない!
焦ってもがくと余計に息が苦しくなる。たまらず息を吐こうと口を開けたら、今度はスライムが口の中まで入り込んできた!
ぶりゅりゅりゅり~ゅ
(気持ち悪い!!)
入り込んでこないように口を閉じると、噛み切られたスライムの断片がぶにゅぶにゅと動き回る。
吐きそうになり口が緩むと、スライムはそれを逃すまいと唇に無理やりぶよぶよとした塊を押しつけてきて、口を開かせようとしてくる。
(息が・・・苦しい!)
腹の痛みと息苦しさから、次第に意識が遠のく。
(・・・だめだ・・・し・・・ぬ)
川を上流へ向けて無言で歩くうち、気まずくなった空気を破ったのは彼女の方だった。
「私は河原を探すから、ユウは土手の上を探してくれる?」
「ああ、分かった」
指示だけすると、彼女は辺りを見回しながら川沿いを上流へと向かって行った。
(やっぱり、怒らせちゃったかな)
やってしまってから無神経な事をしたと後悔した。彼女がみせた色っぽい仕草に浮かれてしまったせいもあるかもしれない。
(・・・・・・しょうがない)
言われた通りオレは土手に上がり、彼女と別々になってスライム探しを始めた。
土手の上にはポツン、ポツンと川に沿って樹木が生えている。その樹の周りに少し藪が残っているだけで後は全て開けた草原だ。
モンスターがいればすぐに発見できそうなくらい見晴らしがいい。動くものといえばヒツジが遠くで、のどかに草をはんでいるだけだ。
(こんな所にいるのかなぁ)
ヒツジ達しかいない草原を眺めていると、目の端に水がちょろちょろと流れていくのを捉えた。
それは草の間から流れ出していて、最初は川に流れ込む支流かと見ていたが、違った。
流れ出てきた水は小さな水たまりを作ったのだ。
しばらくして、また水たまりから細い流れが1本ちょろちょろと流れ出した。川とは別方向に。
その溜まっていた水が流れ尽すと、流れの先端が止まり、そこでまた水たまりができ上がる。
その動作を繰り返して水たまりはだんだんオレの方へと近づいてきていた。まるで生き物の様に。
「うわっ、なんだこれ!気持ちわるっ!」
オレの声に反応したのか、水たまりが動きを止めた。
止めたかと思うと・・・
たぷんっ!
重力に逆らって、水たまりがスローモーションの様にタップン、タップン波打って跳ね上がった!
「これがスライムか!?」
目の前にはさっきの水たまりが姿を変え、ドッチボールくらいの大きさの球体が出現した。それは目や口などはなく半透明に透き通っている。
(想像していたのと違う)
頭の中では勝手に、青色で目と口が付いていて、雫型の物をイメージしていたのだが・・・・・・
しかし、初めて出会ったモンスターに徐々に興奮してきた。
ドゥルゥゥゥーン!
ドゥン!ダッ!ドゥン!ダッ!ドゥン!ダッ!ドゥン!ダッ!
脳内BGMが勝手に流れ始める。
『スライムが、あらわれた』
ゲームであればコマンド選択で『たたかう』を選ぶところだが、
(すぐに倒したらもったいない!)
そう考えオレは剣を抜かず、少し観察することにした。
見ると、スライムは球体を保とうとしているのか、一瞬、力がこもり地面と接地している部分が持ち上がる。しかし重さに耐えられず、すぐにぷるるんと力が抜けた様に垂れ下がり落ちてしまう。
その度にプルプルと震えていて、お菓子のゼリーをスプーンで突っついているようだった。
(カワイイかも)
見ていると面白い。ゲームのごとく、倒したら起き上がって仲間にならないかな?と呑気な考えが浮かぶ。
すると、スライムはバイン!バイン!と体を上下に振るわせ波打ち始めた。
「そんなに激しく動いたら、2つに切れるぞ。お前」
様子をうかがっていると上下の反動を利用してスライムがボールの様に跳ね始めた。
「おっ!やるのかぁ」
動きはゆっくりで、上下に跳ね続けている。それはまるで子供がボール遊びをしているようだった。
オレは子供をあやすようなつもりでスライムに近づいた。
バイン!バイン!バイン!バイン!ヒュッ!!
(え?)
一瞬だった。跳ねていたスライムがオレに向かって体当たりしてきた!
運が悪い事に防具は胸当てと、股間のプロテクターしかしておらず、がら空きだった腹にちょうどスライムの体当たりを喰らってしまった。
ドフッ!!
鈍い音と共に腹に痛みが走った。
「うっ・・・・・・」
スライムの一撃が無防備だったみぞおちに思いっきり入ったことで、胃の空気が押し出され一言声が漏れた。
オレはよろけながら後ずさりした。
「はあ~ぁ・・・・・・」
鈍く重い痛みが後から広がってくる。
こんな痛み、いつぶりだろう?それこそ小学校でやったドッチボール以来かもしれない。胸でボールを受ければ大したことはないが、腹で受けると惨事になる。
(マズイ・・・・・・倒さないと)
脂汗がじんわり噴き出してくる。
みぞおちに入った痛みというのは長引くものだ。早く倒しておかないとまた体当たりをされかねない。
オレは重い痛みに耐えながら、剣を抜いた。
バイン!バイン!バイン!バイン!
スライムはまた目の前で跳ね始めていた。攻撃される前にと、オレは剣を球体めがけて振り下ろした!
バイン!バイン!ヒュッ!!
オレの攻撃に合わせスライムは横へ飛んだため、かわされてしまった。
ガッ!
剣が地面に突き刺さる。
「ハぁ~っ・・・・・・」
立っているのが辛い。
突き刺さった剣を杖の様に支えにして堪えたが、立っていると貧血を起こしたように視野がうっすら暗くなりはじめた。
(少し息を整えてから・・・・・・)
深呼吸しようと背を伸ばすと、
ドコッ!!
背中に痛みを感じた。スライムが後ろに回り込んで体当たりしてきたらしい。
体当たり自体はそんなに痛いものではなかったが、みぞおちのダメージが残っていてオレは堪えられず地面に突っ伏してしまった。
なんとか起き上がるため仰向けになると、のそのそとスライムが胸の上に這い上がってきた。
下から見上げるオレには胸の上でふんぞり返っているように思えた。
(コイツ!仲間にして欲しそうに起き上がっても絶対にしてやらないからな!)
見下されたように感じて心の中では強がってはみたが、ズンと重い腹の痛みに胸の上のスライムを払いのけることもできない。
(どうせ、体当たりぐらいしか出来ないんだろ?今に見てろよ・・・・・・)
口も無いスライムが噛みつくはずはない。球体になるぐらいしか攻撃手段はないだろう。そう考え、腹の痛みが治まるまで、このまま体当たりに耐えていればいいと考えた時だった!
ぶわん!
胸の上のスライムが膜状に薄く伸びたかと思うと、オレの顔に覆いかぶさってきた!
(んン゛っーー!!)
鼻と口をスライムのネバネバしたゼリー状の物質で覆われ息が出来ない!
慌てて引き剥がそうと掴んでみるが、スライムの体はプチプチとちぎれ、手ごたえが無く引き剥がせない!
焦ってもがくと余計に息が苦しくなる。たまらず息を吐こうと口を開けたら、今度はスライムが口の中まで入り込んできた!
ぶりゅりゅりゅり~ゅ
(気持ち悪い!!)
入り込んでこないように口を閉じると、噛み切られたスライムの断片がぶにゅぶにゅと動き回る。
吐きそうになり口が緩むと、スライムはそれを逃すまいと唇に無理やりぶよぶよとした塊を押しつけてきて、口を開かせようとしてくる。
(息が・・・苦しい!)
腹の痛みと息苦しさから、次第に意識が遠のく。
(・・・だめだ・・・し・・・ぬ)
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