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第2章
2-22
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2-22「ユウのターン」
手を洗って戻ってきた彼女はいたって普通の様子だった。
(オレはからかわれたのか?)
だがチェアリーは人をおちょくるタイプには見えない。
「食べよっ」
「うん、」
オレにジャガイモを食べるように進めてくれた彼女の笑顔は素朴で、純粋な感じがする。
唐突に彼女の方から誘ってきたような気がしたのだが・・・・・・やはり勘違いのようだった。
(くそっ!神様め!)
本当にどこからかオレ達の様子を見て楽しんでいるんじゃないだろうか?
気を取り直して、ジャガイモを頬張った。
ホクホクのジャガイモにツヤツヤとしたソースがよく絡んでいる。その味はオレンジをそのまま絞ったことで、果肉の酸味と甘み、そして皮から出た苦味も少し加わっていた。
(甘酸っぱく、そしてほろ苦い)
キスのチャンスを逃したことへの未練が、口の中の味と重なる。
「はふっ!はふっ!・・・・・・うん!おいしい!」
オレの心境を知らず、彼女は熱そうにジャガイモを頬張った。
(美味しそうに食べるなぁ)
確かに美味しく仕上がっていた。揚げた様に焼かれたジャガイモに甘いソースが絡んでちょうど大学芋のようなでき上がりだ。
やはり女性はイモとかカボチャとかホクホク系には目が無いのかもしれない。
オレは甘いものが嫌いという訳ではないが、完全に胃袋はカリカリのフライドポテトを待ち望んでいたので、このジャガイモは彼女に譲る事にした。
「おいしい?」
「うん!」
美味しそうに食べる様子を見ていると「あ、」と言って思い出したように、彼女はかまどの隅で温めていたカップをオレに差し出してくれた。
「ミントティー出来たよ。熱いから気をつけて」
渡されたカップを手に取っただけで、清涼感のあるミントの香りが漂ってくる。
「ありがとう」
アザミに続きミントまでも昼食の食材として収穫したものとは思わなかった。オレには雑草にしか見えなかったモノがこうして口にできることが意外だ。
ミントティーを火傷しないように慎重にすする。
ズズッ・・・・・・
(おっぅ!!)
そのお茶は強烈だった。少しすすっただけなのに口の中がスースーし、ミントの香りが鼻を抜ける。
(歯磨き粉どころじゃない!ミントのガムをジュースにした感じだな)
熱いお茶なのにスースーとした冷涼感が口に広がるのでおかしな感覚だ。
「おいしい?」
美味しいかどうかはその人の好みによるだろうなと思った。実際、ミント味の食べ物は好みが分かれるところだ。チョコミントアイスなんて何度、激しい論争が繰り広げられて来た事か。
「はぁー、鼻がスースーする」
美味しくないとも言えないので、飲んだ感想を言っておいた。花粉症の人なら一発で鼻が通りそうな刺激なのでお勧めできる。
(ミントも女性の方が好きなイメージがあるなぁ)
お茶をすする様子を彼女はニコニコしながら見てくる。
オレの反応が気になるのだろうか?それとも残さないように見張っているのか?彼女はこちらを見ているばかりだ。
「あ、」
オレは気づいた。
「どうしたの?」
「このカップ一つしかないの?ごめん!一人で飲んで」
「いいのっ、いいのっ!大丈夫っ!あなたのために作ったんだから、気にせず飲んで」
自分のことは置いておいて相手を優先させるなんて、なんていい子なのだろう。
(うちの姉ちゃんとは大違いだ)
オレには2つ年上の姉がいる。姉はやたらとオレにちょっかいを出してくる。
例えば飲物。缶コーヒー、パックのジュース、ペットボトルのお茶、種類を問わずオレが何か飲んでいるのを見かけると、ひと口飲まずにはいられないのだ。
ひと口あげるくらいなら別に構わない。だが、時にはオレが淹れたブラックコーヒーを当然のごとく口を付けると「苦っ!」と言って勝手に砂糖とミルクを入れ少しすすっただけで残していく。
(勝手に砂糖入れるな!飲むなら残すな!)
何度自分で淹れればいいだろうと言っても直してはくれなかった。かまって欲しいのか、甘えているのか、よくわからない。
姉の”弟の物はすべて自分のもの”みたいな横柄な態度にオレは慣れていたせいかも知れない。チェアリーが自分の事を後回しにしてくれたその態度が新鮮だった。
「はい」
オレはチェアリーにカップを差し出した。
「えっ!?」
「まだ少ししか飲んでないから」
彼女にもミントティーを分けてあげた。
父親とするキャンプの真似事が好きだったのも、姉に邪魔されない男だけの世界に浸っていられるからだったのかもしれない。
かまどの火を見つめながらそう思った。火を見つめていると昔を思い出し、感傷的になってくる。
「ごちそうさま」
その言葉を聞き終え、オレは急いで後片付けを始めた。チェアリーをせかす様で悪いとは思うが、昼食にかなり時間を取られてしまった。
(はやくスライムを探さないとヤバイ)
先ほどはゆっくりすればいいと考えたが、やはりすぐに体質を変えるのは難しいようだ。
準備を整え川の上流に向かおうと歩き始める。すると急いでいるというのにチェアリーが呼び止めた。
「ちょっと、待って」
準備万端整ったと思ったところで、出発に手間取るのは姉との暮らしで慣れている。女性は何かと手間がかかるものなのだ。
彼女はバックから何か取り出し、首に塗り始めた。
「練り香水だよ」
不思議そうにしているオレの視線に気付き、持っている缶を見せてくれた。
(やっぱりこういうところに気を使うのは女の子なんだな)
ワイルドな面を見せたと思ったら、ちゃんと繊細な部分も持ち合わせている。
手の上の缶には乳白色のクリーム状の物が入っていた。
(練り香水?)
こういったものにオレは疎い。
「へぇ、クリームなんだ、液体の香水と何か違うの?」
「そんなには変わらないけど、ほら、液体だとカバンの中でこぼれたら大変でしょ?」
「なるほど(そこは冒険者らしい考え方だな)」
オレがマジマジと見ていたので彼女が
「バラの香りだよ、嗅いでみる?」
と言ってくれた。
(バラの香水・・・・・・)
バラの香水と聞き、姉との記憶が蘇った。
姉が言うにはバラの香水というのは、つける人の年齢によってハッキリと印象が変わるのだそうだ。
若い人がつければより若々しく華やかな印象に、逆に年を重ねた人がつけるとより老けた印象を与える為、使う人を選ぶらしい。
そういった男のオレからしたら興味のまるでないような話をしながら、姉は香水を振りかけた手首を差し出し無理やり匂いを嗅がせてくる。
ふと、チェアリーがどちらの印象になるのか気になり、塗り広げている首筋の匂いを嗅いでみた。
スゥ―
彼女からは見た目通り、とても華やかで若々しい印象をもった。
「甘いにお・・・・・・」
「ダキャン!!」
甘い匂いがすると感想を言おうとしたら、彼女が知らない言葉を発した。
「だきゃん?(エルフ語か?)」
これまで日本語で通用してきたのに、いきなり聞いたこともない言葉に戸惑う。
顔を真っ赤にした彼女がポツリと喋った。
「人の匂いを嗅ぐなんて・・・・・・失礼じゃない?」
(それも、そうか・・・・・・)
姉とのやり取りで変に慣れていたせいで、言われてから気づいた。それに彼女はとても気さくに接してくれるものだからこちらも気を許して、つい興味が先に立ってしまったようだ。
「ゴメン・・・・・・つい」
気まずさから声をかけることなく、何となしにお互い川の上流に向けて歩き始めた。
手を洗って戻ってきた彼女はいたって普通の様子だった。
(オレはからかわれたのか?)
だがチェアリーは人をおちょくるタイプには見えない。
「食べよっ」
「うん、」
オレにジャガイモを食べるように進めてくれた彼女の笑顔は素朴で、純粋な感じがする。
唐突に彼女の方から誘ってきたような気がしたのだが・・・・・・やはり勘違いのようだった。
(くそっ!神様め!)
本当にどこからかオレ達の様子を見て楽しんでいるんじゃないだろうか?
気を取り直して、ジャガイモを頬張った。
ホクホクのジャガイモにツヤツヤとしたソースがよく絡んでいる。その味はオレンジをそのまま絞ったことで、果肉の酸味と甘み、そして皮から出た苦味も少し加わっていた。
(甘酸っぱく、そしてほろ苦い)
キスのチャンスを逃したことへの未練が、口の中の味と重なる。
「はふっ!はふっ!・・・・・・うん!おいしい!」
オレの心境を知らず、彼女は熱そうにジャガイモを頬張った。
(美味しそうに食べるなぁ)
確かに美味しく仕上がっていた。揚げた様に焼かれたジャガイモに甘いソースが絡んでちょうど大学芋のようなでき上がりだ。
やはり女性はイモとかカボチャとかホクホク系には目が無いのかもしれない。
オレは甘いものが嫌いという訳ではないが、完全に胃袋はカリカリのフライドポテトを待ち望んでいたので、このジャガイモは彼女に譲る事にした。
「おいしい?」
「うん!」
美味しそうに食べる様子を見ていると「あ、」と言って思い出したように、彼女はかまどの隅で温めていたカップをオレに差し出してくれた。
「ミントティー出来たよ。熱いから気をつけて」
渡されたカップを手に取っただけで、清涼感のあるミントの香りが漂ってくる。
「ありがとう」
アザミに続きミントまでも昼食の食材として収穫したものとは思わなかった。オレには雑草にしか見えなかったモノがこうして口にできることが意外だ。
ミントティーを火傷しないように慎重にすする。
ズズッ・・・・・・
(おっぅ!!)
そのお茶は強烈だった。少しすすっただけなのに口の中がスースーし、ミントの香りが鼻を抜ける。
(歯磨き粉どころじゃない!ミントのガムをジュースにした感じだな)
熱いお茶なのにスースーとした冷涼感が口に広がるのでおかしな感覚だ。
「おいしい?」
美味しいかどうかはその人の好みによるだろうなと思った。実際、ミント味の食べ物は好みが分かれるところだ。チョコミントアイスなんて何度、激しい論争が繰り広げられて来た事か。
「はぁー、鼻がスースーする」
美味しくないとも言えないので、飲んだ感想を言っておいた。花粉症の人なら一発で鼻が通りそうな刺激なのでお勧めできる。
(ミントも女性の方が好きなイメージがあるなぁ)
お茶をすする様子を彼女はニコニコしながら見てくる。
オレの反応が気になるのだろうか?それとも残さないように見張っているのか?彼女はこちらを見ているばかりだ。
「あ、」
オレは気づいた。
「どうしたの?」
「このカップ一つしかないの?ごめん!一人で飲んで」
「いいのっ、いいのっ!大丈夫っ!あなたのために作ったんだから、気にせず飲んで」
自分のことは置いておいて相手を優先させるなんて、なんていい子なのだろう。
(うちの姉ちゃんとは大違いだ)
オレには2つ年上の姉がいる。姉はやたらとオレにちょっかいを出してくる。
例えば飲物。缶コーヒー、パックのジュース、ペットボトルのお茶、種類を問わずオレが何か飲んでいるのを見かけると、ひと口飲まずにはいられないのだ。
ひと口あげるくらいなら別に構わない。だが、時にはオレが淹れたブラックコーヒーを当然のごとく口を付けると「苦っ!」と言って勝手に砂糖とミルクを入れ少しすすっただけで残していく。
(勝手に砂糖入れるな!飲むなら残すな!)
何度自分で淹れればいいだろうと言っても直してはくれなかった。かまって欲しいのか、甘えているのか、よくわからない。
姉の”弟の物はすべて自分のもの”みたいな横柄な態度にオレは慣れていたせいかも知れない。チェアリーが自分の事を後回しにしてくれたその態度が新鮮だった。
「はい」
オレはチェアリーにカップを差し出した。
「えっ!?」
「まだ少ししか飲んでないから」
彼女にもミントティーを分けてあげた。
父親とするキャンプの真似事が好きだったのも、姉に邪魔されない男だけの世界に浸っていられるからだったのかもしれない。
かまどの火を見つめながらそう思った。火を見つめていると昔を思い出し、感傷的になってくる。
「ごちそうさま」
その言葉を聞き終え、オレは急いで後片付けを始めた。チェアリーをせかす様で悪いとは思うが、昼食にかなり時間を取られてしまった。
(はやくスライムを探さないとヤバイ)
先ほどはゆっくりすればいいと考えたが、やはりすぐに体質を変えるのは難しいようだ。
準備を整え川の上流に向かおうと歩き始める。すると急いでいるというのにチェアリーが呼び止めた。
「ちょっと、待って」
準備万端整ったと思ったところで、出発に手間取るのは姉との暮らしで慣れている。女性は何かと手間がかかるものなのだ。
彼女はバックから何か取り出し、首に塗り始めた。
「練り香水だよ」
不思議そうにしているオレの視線に気付き、持っている缶を見せてくれた。
(やっぱりこういうところに気を使うのは女の子なんだな)
ワイルドな面を見せたと思ったら、ちゃんと繊細な部分も持ち合わせている。
手の上の缶には乳白色のクリーム状の物が入っていた。
(練り香水?)
こういったものにオレは疎い。
「へぇ、クリームなんだ、液体の香水と何か違うの?」
「そんなには変わらないけど、ほら、液体だとカバンの中でこぼれたら大変でしょ?」
「なるほど(そこは冒険者らしい考え方だな)」
オレがマジマジと見ていたので彼女が
「バラの香りだよ、嗅いでみる?」
と言ってくれた。
(バラの香水・・・・・・)
バラの香水と聞き、姉との記憶が蘇った。
姉が言うにはバラの香水というのは、つける人の年齢によってハッキリと印象が変わるのだそうだ。
若い人がつければより若々しく華やかな印象に、逆に年を重ねた人がつけるとより老けた印象を与える為、使う人を選ぶらしい。
そういった男のオレからしたら興味のまるでないような話をしながら、姉は香水を振りかけた手首を差し出し無理やり匂いを嗅がせてくる。
ふと、チェアリーがどちらの印象になるのか気になり、塗り広げている首筋の匂いを嗅いでみた。
スゥ―
彼女からは見た目通り、とても華やかで若々しい印象をもった。
「甘いにお・・・・・・」
「ダキャン!!」
甘い匂いがすると感想を言おうとしたら、彼女が知らない言葉を発した。
「だきゃん?(エルフ語か?)」
これまで日本語で通用してきたのに、いきなり聞いたこともない言葉に戸惑う。
顔を真っ赤にした彼女がポツリと喋った。
「人の匂いを嗅ぐなんて・・・・・・失礼じゃない?」
(それも、そうか・・・・・・)
姉とのやり取りで変に慣れていたせいで、言われてから気づいた。それに彼女はとても気さくに接してくれるものだからこちらも気を許して、つい興味が先に立ってしまったようだ。
「ゴメン・・・・・・つい」
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