上 下
74 / 91

9-10

しおりを挟む
保管庫の廊下を歩く途中、窓の外で影が動いた気がして立ち止まりました。外は日が沈み、黄昏時の僅かな明かりしかないので、よく見えません。窓に張り付きます。手で廊下の明かりを遮り、目を凝らしました。やはり何かがいます。窓は北側なのでその先にある訓練場で時折、青白い炎が揺らめいている様に見えます。
先生も朝日と同じように窓に張り付いて見ていました。
「ふーむ、幽霊というものは本当にいるのかもしれませんね。フフ」
「スパンキーでしょうか?」
「スパンキーは火の玉でしょう?雷の火花を出したりしませんよ。フフフ、」
「雷?プラズマ現象ですか?」
「プラズマではなく、魔法によるものです。ごく微量ですが感知しました」
(雷の魔法……あ!)
朝日は慌てて走り出しました。走り出してしまってから気付いて振り返り、お辞儀します。
「先生、ありがとうございました!」

暗くなった訓練場で、時折見える僅かな光を頼りにその人物へと近づきます。
「アイラさん」
「ひゃい⁉」
彼女はうずくまっていた状態から飛び跳ねる様に立ち上がりました。青白く光る手を明かり代わりにかざし、こちらの顔を認めると安心したのか息を吐き言いました。
「メイベールさんかぁ、びっくりしたぁ」
「こんな所で何してるの?」
アイラは光っていた手を、今頃になって後ろに隠してしまいました。
「な、なにもしてません……よ?」
暗闇でもその表情は動揺しているのだろうなという事が言葉から分かります。
「今更、隠さないで。今日、畑の手伝いにも行ってないでしょ?マリーさん、祭りの間はお休みにするって言ってたから。まさかアイラさんがエミリー様とグルだったなんて」
「グルってなんですか?」
暗くて表情は読めませんが、彼女の声は動揺しているのが伝わります。
「アナタがここで火花を出してガードを引き付けているうちに、エミリー様はフォグウォーカーを演じていたんでしょ?スパンキーはアナタよ」

「ち、違いますぅ!」
アイラは詰め寄って、光る手でメイベールの顔を挟みました。ビリビリと静電気をともなった魔力が流れ込み、髪の毛が逆立つ感じがします。
「やっ、やめぇでーぇ!」
アイラは手を放してくれません。
「私、ここで魔力操作の練習をしてただけです!イタズラなんてしてません!」
放してくれないので、朝日は彼女の腕を掴み火の魔力を流し込みました。
「んっ!」
彼女がビクンっと体をこわばらせ、手は放れました。

「ねぇ、ウソはよくないよ」
「ウソなんて言ってません。本当に魔力操作の練習をしていただけです」
「畑に行くってウソをついて?」
「そこは……ウソですけど、」
「魔力操作の練習なら図書室でやればいいじゃない」
「お兄さん、調べものしてて忙しいみたいだし、邪魔しちゃ悪いかなって。それに上手くなったのを見せて褒めて欲しくて、」
(なにこの子、カワイイ……この前もこんな事あったな)
「もうっ!メイベールさんは、何でいつも私の邪魔するんですかっ!」
「オホホ!なぜかしら?勝手に体が動いてしまいますの!オホホ!」
朝日は初めて悪役令嬢っぽく、ヒロインに向けて高笑いをしてしまいました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

幼女に転生したらイケメン冒険者パーティーに保護&溺愛されています

ひなた
ファンタジー
死んだと思ったら 目の前に神様がいて、 剣と魔法のファンタジー異世界に転生することに! 魔法のチート能力をもらったものの、 いざ転生したら10歳の幼女だし、草原にぼっちだし、いきなり魔物でるし、 魔力はあって魔法適正もあるのに肝心の使い方はわからないし で転生早々大ピンチ! そんなピンチを救ってくれたのは イケメン冒険者3人組。 その3人に保護されつつパーティーメンバーとして冒険者登録することに! 日々の疲労の癒しとしてイケメン3人に可愛いがられる毎日が、始まりました。

処理中です...