乙女ゲームの悪役令嬢になった妹はこの世界で兄と結ばれたい⁉ ~another world of dreams~

二コ・タケナカ

文字の大きさ
上 下
49 / 125

7-2

しおりを挟む
カラーン、カラーン、カラーン、

「はぁーーーーーーーっ」
授業終了の鐘の音を聞き、朝日はゆっくり静かに息を吐きました。授業中に睡魔に襲われ、寝ないようにお腹に力を籠めて耐えていたのです。彼女は最前列のど真ん中の席に座っているので、先生が目の前に居て寝る事は出来ません。何より、ほんの少しウトウトしただけで後ろにいるクラスメイトには、すぐにバレてしまいます。そんな失態、ケステル家の令嬢であるメイベールには許されません。
しかし、今日はやけに眠たいのです。お嬢様の方も同じらしく、体を任せて授業を受けてもらう事は出来ませんでした。

「大丈夫ですか?」
となりのアイラが心配そうに声をかけてきました。彼女には様子がおかしいのが分かっていたのでしょう。
「うん。ちょっと眠いだけ……最近寒くなってきたから、朝も起きられなくて」
「メイベールさん、図書館でずっと本を読んでたから疲れてるんじゃないですか?」
「あぁ、きっとそれだ」
「気分転換にお茶を飲みに行きましょう」

食堂に入るとジャスパーの後ろ姿を見つけました。
(そうだ!)
駆け寄って手を取ります。
「お兄ちゃん、魔力わけて」
彼は驚く事も、笑顔を見せる事もなく、表情を崩さず言いました。
「メイベール、世間体というものを考えなさい。」
そこは食堂、周りにはティータイムに集まる生徒達がいます。兄は生徒達の模範となるべき監督生であり、それ以前に貴族の中でも公爵という最高位の立場は他の貴族から敬意を払われる存在です。敬われるにはそれにふさわしい毅然とした態度が求められます。それは妹であるメイベールにもです。
お嬢様が『お兄ちゃん』と呼んで甘えたのは、ひと月前のアノ時のみです。彼女も普段の生活では兄の事を敬い、ケステル家次期当主として立てているのでした。

比べて朝日の中のジャスパー像は、アナドリに出てくる優しい兄そのままです。普段から冗談を言って楽しませてくれる気遣いの出来る存在。少し甘え過ぎていたのかもしれません。
(兄妹で手を繋ぐくらい……)
怒らせてしまったのかと思いましたが、つないだ手からは物凄い勢いで魔力が注がれました。あっという間に眠気は吹き飛び、活力がみなぎります。やはり兄は妹に優しいのです。
「ありがと、お兄ちゃん」
笑いかけると今度はいつもの笑顔を見せてくれました。
「しょうがない妹だ……さあ、紅茶を飲みに行こう」

ティータイムにいつものメンバーが揃いました。普段ならジャスパーが楽しいネタを話してくれるのですか、珍しく彼はため息を吐きました。
「ハァ、聞いておくれ妹よ」
「何でしょう?お兄様」
「どうやら僕は探偵に向いていないらしい」
「どういう事ですか?」
「昨日の推理は間違っていたって事さ」
彼が言うにはイタズラしすぎないように、例の友人をたしなめたのだそう。ところが彼女は何のことかさっぱり分からないと、イタズラの実行を否定したというのです。

「それは、認めてしまったら本当に犯人という事になってしまうからではありませんの?」
「いや、そうじゃない。話した感じでは本当にイタズラなどしていない様なんだ」
ルイスが頷きます。
「彼女は先生を手伝っているだけあって、真面目な生徒だ。イタズラを面白がってする様な性格には思えないな」
「そうだね。僕の思慮が足りなかったよ。彼女は優秀な成績を認められ、奨学金を受け取って進学したんだ。先生達の信頼を損なう事はしないだろう」
「では、他に犯人がいると?」
「そういう事になるね。メイベール、今日も探偵ごっこに付き合ってくれるかい?」
朝日は返事をためらいました。お嬢様は調べものに時間を取りたいはずです。けれど、
「もちろんです。お兄様」
こちらが気を使う間もなく、お嬢様は二つ返事で了承してしまいました。兄の頼みは断れないのでしょう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

転生したら《99%死亡確定のゲーム悪役領主》だった! メインキャラには絶対に関わりたくないので、自領を発展させてスローライフします

ハーーナ殿下
ファンタジー
 現代の日本で平凡に生きていた俺は、突然ファンタジーゲーム世界の悪役領主キャラクターとして記憶転生する。このキャラは物語の途中で主人公たちに裏切られ、ほぼ必ず処刑される運命を持っている。だから俺は、なるべく目立たずに主人公たちとは関わりを避けて、自領で大人しく生き延びたいと決意する。  そのため自らが領主を務める小さな領地で、スローライフを目指しながら領地経営に挑戦。魔物や隣国の侵略、経済危機などに苦しむ領地を改革し、独自のテクノロジーや知識を駆使して見事発展させる。  だが、この時の俺は知らなかった。スローライフを目指しすぎて、その手腕が次第に注目され、物語の主要キャラクターたちや敵対する勢力が、再び俺を狙ってくることを。  これはスローライフを目指すお人好しな悪役領主が、多くの困難や問題を解決しながら領地を発展させて、色んな人に認められていく物語。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...