47 / 125
6-5
しおりを挟む
図書館を出て扉の前に立ちました。城の正面であるファサードには雨除けの屋根があり、石作りの優美な柱が支えています。先生の話だと、ここの装飾は後から施工されたものなんでしょう。目の前にはデザインを合わせた渡り廊下が真っすぐ校舎へ伸びています。
元のリード城は戦いの為の城。城の前面は兵士が戦地に赴く前の集合場所になっていました。戦後、その広大な広場に校舎と寮を建設していったのです。
ジャスパーがこれまでをまとめる様に言います。
「図書館が8時に閉まって、寮の門限が9時だ。そして10時前に事件が起きた」
「ええ。入口はここの扉しかありませんし、本を図書館の外に持ち出すことも無理そうですわ」
「だから僕はこの事件が、いたずらだと思ったんだ。寮の門限は9時だからね。図書館に留まっていたというのなら、9時に行われる点呼に間に合わないよ。昨日男子寮に生徒は全員揃っていた。女子寮の監督生にも確認を取ったから昨晩は9時の時点で生徒は皆、寮にいたんだ」
「そうなんですの?だとしたらどうやってイタズラを?」
「おいで、メイベール」
彼は先ほどの窓へ向かうようです。図書館に沿って東の方角へと歩き出しました。
歩く途中で窓辺に座る生徒と目が合いましたが、すぐに視線は外されました。
「ここの窓からも人が出入りする事は出来そうにありませんわね」
どの窓も格子がはめられていて、戦いの為の城だったリード城の面影を残しています。
「ここは換気用でもないから、窓は全てはめ込まれているね。開ける事も出来ない」
先ほどの高窓までやってきました。それは図書館の東壁面に取り付けられています。
ジャスパーがフッと笑いました。
「ほら、図書室を覗くのにちょうどいい椅子が置いてあるよ」
確かに窓の下には簡単な作りの小さな椅子がポツンと置かれていました。
「図書室は元々、調理場と食堂だったんじゃないかな?」
彼は壁をコンコンと叩きました。そこだけ不自然に壁から塔が飛び出ています。
「身を潜めるのに丁度よさそうだ。これは煙突だよ。かまどは塞がれてしまったようだけど、」
「だからここだけ換気用の窓か付いていましたのね」
ジャスパーが得意気に話します。
「おそらく事件のいきさつはこうだ。犯人は収穫祭が近い事に合わせ、幽霊騒ぎを起こして皆を驚かせてやろうと考えた。図書館に出る幽霊。話のネタとして悪くない。いたずらをする相手は今月、図書館の管理を任されている先生だ。ちょうど都合がいい事にあの先生は足が悪い。見つかったとしても逃げ切れると踏んだのだろう。どうやって驚かせてやろうか?犯人は図書室を歩き回って見つけたんだ。ここの高窓がほんの少し開くことを。きっとあの隙間から糸を通したんだよ。その糸を本の間に挟んでおいて外から引っ張れば棚から落ちるハズさ。バン!と大きな音を立ててね。2日連続散らばっていたのは予行練習でもしたのだろう」
朝日は小さな椅子を踏み台にして中を覗きました。テオが長テーブルにポツンと一人で本を読んでいます。彼の後ろには本棚が並んでいて、確かに糸で引っ張ればその場に本が落ちそうです。
腰を支えてくれているジャスパーが言います。
「どうだい?僕の推理は」
椅子から降りた朝日は聞きました。
「なぜ、こんな事をするのです?」
「ハハ!いたずらに動機は必要かい?強いて言えば楽しいから。愉快犯というやつさ」
「先生まで巻き込んで?」
「昔から先生にいたずらを仕掛けるのは、この学校の伝統みたいなところがあってね。さっき先生も会うなり言っていただろう?いたずらだと。これまでも何度となく生徒達のいたずらを見てきたはずさ」
日本の学校に通っていた朝日には少し理解しがたい話です。先生をターゲットにして、いたずらを仕掛けたのなら、バレた日には親を呼ばれ説教されそうです。けれど、ジャスパーの話は筋が通っている気がします。
ふと、気が付いて聞いてみました。
「もしかしてお兄様が犯人なんじゃ……」
「フフ、一緒に捜査していた人物が犯人だなんて、オチとしては悪くないね。けど違うよ」
「こんなに詳しく話してくれたではありませんの」
「探偵さんは推理力が足りないなぁ。なぜ先生が図書館に遅くまで残ることが分かったんだろう?僕はあの先生が昨日、図書館に居る事を知らなかった。いつも手伝っている助手じゃあるまいし……」
ジャスパーは窓から離れ南西の方角を向きました。その視線の先には女子寮があります。
「9時に点呼は取るけど、その後部屋にいるかどうかまでは確かめない。まったく、ガードに見つかったらどうするんだ。やり過ぎだよ」
彼の言葉に朝日も気付きました。
「あ!」
ジャスパーがニヤリと笑って人差し指を立てます。
「お兄様は最初からご存じだったのですわね!」
「なんの事かな?」
彼はとぼけて言いました。
「僕は友人から事件の話を聞いて、調べて欲しいと頼まれただけさ。頼まれた通り調べ、そのついでに面白そうな噂を広めてあげただけじゃないか。犯人の事なんて知らないね」
「それは、事件のほう助に当たりますわよ!」
彼が歩き出しました。
「さあ、そろそろ夕飯の時間だ」
「もーっ!」
笑い合いながら帰る兄妹は、自分達に向けられている視線に気付いていません……
事件は解決したかのように思われましたが、これで終わりではなかったのです。
元のリード城は戦いの為の城。城の前面は兵士が戦地に赴く前の集合場所になっていました。戦後、その広大な広場に校舎と寮を建設していったのです。
ジャスパーがこれまでをまとめる様に言います。
「図書館が8時に閉まって、寮の門限が9時だ。そして10時前に事件が起きた」
「ええ。入口はここの扉しかありませんし、本を図書館の外に持ち出すことも無理そうですわ」
「だから僕はこの事件が、いたずらだと思ったんだ。寮の門限は9時だからね。図書館に留まっていたというのなら、9時に行われる点呼に間に合わないよ。昨日男子寮に生徒は全員揃っていた。女子寮の監督生にも確認を取ったから昨晩は9時の時点で生徒は皆、寮にいたんだ」
「そうなんですの?だとしたらどうやってイタズラを?」
「おいで、メイベール」
彼は先ほどの窓へ向かうようです。図書館に沿って東の方角へと歩き出しました。
歩く途中で窓辺に座る生徒と目が合いましたが、すぐに視線は外されました。
「ここの窓からも人が出入りする事は出来そうにありませんわね」
どの窓も格子がはめられていて、戦いの為の城だったリード城の面影を残しています。
「ここは換気用でもないから、窓は全てはめ込まれているね。開ける事も出来ない」
先ほどの高窓までやってきました。それは図書館の東壁面に取り付けられています。
ジャスパーがフッと笑いました。
「ほら、図書室を覗くのにちょうどいい椅子が置いてあるよ」
確かに窓の下には簡単な作りの小さな椅子がポツンと置かれていました。
「図書室は元々、調理場と食堂だったんじゃないかな?」
彼は壁をコンコンと叩きました。そこだけ不自然に壁から塔が飛び出ています。
「身を潜めるのに丁度よさそうだ。これは煙突だよ。かまどは塞がれてしまったようだけど、」
「だからここだけ換気用の窓か付いていましたのね」
ジャスパーが得意気に話します。
「おそらく事件のいきさつはこうだ。犯人は収穫祭が近い事に合わせ、幽霊騒ぎを起こして皆を驚かせてやろうと考えた。図書館に出る幽霊。話のネタとして悪くない。いたずらをする相手は今月、図書館の管理を任されている先生だ。ちょうど都合がいい事にあの先生は足が悪い。見つかったとしても逃げ切れると踏んだのだろう。どうやって驚かせてやろうか?犯人は図書室を歩き回って見つけたんだ。ここの高窓がほんの少し開くことを。きっとあの隙間から糸を通したんだよ。その糸を本の間に挟んでおいて外から引っ張れば棚から落ちるハズさ。バン!と大きな音を立ててね。2日連続散らばっていたのは予行練習でもしたのだろう」
朝日は小さな椅子を踏み台にして中を覗きました。テオが長テーブルにポツンと一人で本を読んでいます。彼の後ろには本棚が並んでいて、確かに糸で引っ張ればその場に本が落ちそうです。
腰を支えてくれているジャスパーが言います。
「どうだい?僕の推理は」
椅子から降りた朝日は聞きました。
「なぜ、こんな事をするのです?」
「ハハ!いたずらに動機は必要かい?強いて言えば楽しいから。愉快犯というやつさ」
「先生まで巻き込んで?」
「昔から先生にいたずらを仕掛けるのは、この学校の伝統みたいなところがあってね。さっき先生も会うなり言っていただろう?いたずらだと。これまでも何度となく生徒達のいたずらを見てきたはずさ」
日本の学校に通っていた朝日には少し理解しがたい話です。先生をターゲットにして、いたずらを仕掛けたのなら、バレた日には親を呼ばれ説教されそうです。けれど、ジャスパーの話は筋が通っている気がします。
ふと、気が付いて聞いてみました。
「もしかしてお兄様が犯人なんじゃ……」
「フフ、一緒に捜査していた人物が犯人だなんて、オチとしては悪くないね。けど違うよ」
「こんなに詳しく話してくれたではありませんの」
「探偵さんは推理力が足りないなぁ。なぜ先生が図書館に遅くまで残ることが分かったんだろう?僕はあの先生が昨日、図書館に居る事を知らなかった。いつも手伝っている助手じゃあるまいし……」
ジャスパーは窓から離れ南西の方角を向きました。その視線の先には女子寮があります。
「9時に点呼は取るけど、その後部屋にいるかどうかまでは確かめない。まったく、ガードに見つかったらどうするんだ。やり過ぎだよ」
彼の言葉に朝日も気付きました。
「あ!」
ジャスパーがニヤリと笑って人差し指を立てます。
「お兄様は最初からご存じだったのですわね!」
「なんの事かな?」
彼はとぼけて言いました。
「僕は友人から事件の話を聞いて、調べて欲しいと頼まれただけさ。頼まれた通り調べ、そのついでに面白そうな噂を広めてあげただけじゃないか。犯人の事なんて知らないね」
「それは、事件のほう助に当たりますわよ!」
彼が歩き出しました。
「さあ、そろそろ夕飯の時間だ」
「もーっ!」
笑い合いながら帰る兄妹は、自分達に向けられている視線に気付いていません……
事件は解決したかのように思われましたが、これで終わりではなかったのです。
3
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)
ラララキヲ
ファンタジー
乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。
……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。
でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。
ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」
『見えない何か』に襲われるヒロインは────
※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※
※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※
◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる