35 / 99
5-2
しおりを挟む
朝日は改めて聞きました。
「それで、統治祭がどうしましたの?」
「統治際はここリード領での呼び方だよ。ケント1世が戦っていた頃から北のスコーを抑える防衛都市としてリードは存在していた。昔からリードは魔法研究の中心地だからね。ここのお祭りでは魔法都市らしく、ケント1世が打ち上げた火球を再現しているんだ」
ルイスが口を挟みます。
「火球を夜空に向かって打ち上げるのはリード魔法学校の伝統になっている。特にフィナーレを告げる最後の打ち上げは、学生の中から最も優秀な生徒が選ばれるのが習わしだ」
「その大役『バーストマスター』を僕が毎年務めていたんだ」
ジャスパーは自慢げに言いました。
「だからお兄様は毎年赤の日は、うちに帰ってこないのですわね」
「ごめんよ。せっかくの祝日に僕も妹の顔を見に帰りたかったのだけれど、バーストマスターは名誉なことだから断る訳には行かなかったんだよ」
笑っていた顔が苦笑いに変わります。
「けどその大役もどうやら今年は僕じゃないらしい……」
「なぜですの?」
妹を見ている兄の顔が和らぎました。
「僕以上に優秀な生徒がいるからさ」
朝日は驚きました。
「え?わたくしですか⁉」
「そうだよ?入学早々、ヴァーミリオン・ボムを放とうとした生徒なんて前代未聞だよ。レディ・ボムの二つ名を知らない生徒は、いないじゃないか」
「お兄様!その呼び方はやめてくださいまし!恥ずかしい」
フフフと笑って彼が話を続けます。
「来年には僕も卒業だ。最後の祭りに妹の晴れ舞台を見れるんだ。こんな嬉しい事は無いよ」
彼は紅茶をすすりました。その表情はにこやかではありますが、少し寂しさも浮かんでいます。
「でも、優秀というならアイラさんだって魔力量は相当なものですわよ?」
アイラが慌てて首を振ります。
「私なんかがそんな大役、勤まりません!」
そういえばと、朝日は思い出しました。
(ゲームではアイラがお祭りデートをするんだっけ?)
だとすれば、ヒロインであるアイラの邪魔をするわけにはいきません。アイラとテオの仲を取り持ち、テオルートでエンディングを迎える事が日本に帰れる唯一の手掛かりなのですから。
ジャスパーが茶化す様に言います。
「雷公女(らいこうじょ)様は雷の魔法が得意なんだよ。この前の様に雷雲を呼ばれては、せっかくのお祭りが台無しだ」
アイラは恥ずかしさでうつむいてしまいました。どのみちこれではしょうがないと、朝日は諦めて言いました。
「分かりましたわ。その役目、わたくしが務めます」
ジャスパーは満足気に頷きました。
「やるからには全力を出すんだよ。メイベール」
「全力で?よろしいのですか?」
「ああ、もちろんだとも。僕も毎年、全魔力を込めて打ち上げていたんだ。撃った後はフラフラで、一人で立っていられない程にね」
「でも、やり過ぎはよくないと仰ったのはお兄様ですのよ?恐怖を与えるからと、」
「それは誰に見せるかによる。この前の様に魔法が使える貴族相手に力を見せつけては孤立してしまうだろう。けど今回は庶民に見せるのだからね。上に立つ者として貴族とは時に畏怖の対象であらねばならない。祭りはその力を示す絶好の機会だよ。それに魔法学校の代表として立つんだ。盛大に打ち上げた方が生徒達も誇りに思い、キミの株も上がるというものさ」
ジャスパーの気配りにはかなわないなといった風にルイスは静かに紅茶を飲んでいます。
「そうですか……全力で、」
カラーン、カラーン、カラーン、と授業再開の鐘が鳴りました。
席を立ったメイベール嬢が力強く言います。
「分かりました。お兄様。わたくし全力を尽くします!」
メイベールの体は熱くなり興奮しているのでした。それを朝日はヒシヒシと感じていました。
(知らないよー……お嬢様、凄くやる気になってる)
「行きましょう。アイラさん」
去っていく2人を見送って、飲み干したカップを置きルイスが言います。
「ジャスパー、いいのか?全力でやれなんて」
「構わないよ。安全には配慮されているんだから。毎年やっている事じゃないか」
「あのお転婆なメイベール嬢だぞ?とんでもない事をやらかしそうに私は思う」
言われてジャスパーの顔が引きつります。
「二人とも……祭りの日はサポートを、ぜひ!お願いする」
「それで、統治祭がどうしましたの?」
「統治際はここリード領での呼び方だよ。ケント1世が戦っていた頃から北のスコーを抑える防衛都市としてリードは存在していた。昔からリードは魔法研究の中心地だからね。ここのお祭りでは魔法都市らしく、ケント1世が打ち上げた火球を再現しているんだ」
ルイスが口を挟みます。
「火球を夜空に向かって打ち上げるのはリード魔法学校の伝統になっている。特にフィナーレを告げる最後の打ち上げは、学生の中から最も優秀な生徒が選ばれるのが習わしだ」
「その大役『バーストマスター』を僕が毎年務めていたんだ」
ジャスパーは自慢げに言いました。
「だからお兄様は毎年赤の日は、うちに帰ってこないのですわね」
「ごめんよ。せっかくの祝日に僕も妹の顔を見に帰りたかったのだけれど、バーストマスターは名誉なことだから断る訳には行かなかったんだよ」
笑っていた顔が苦笑いに変わります。
「けどその大役もどうやら今年は僕じゃないらしい……」
「なぜですの?」
妹を見ている兄の顔が和らぎました。
「僕以上に優秀な生徒がいるからさ」
朝日は驚きました。
「え?わたくしですか⁉」
「そうだよ?入学早々、ヴァーミリオン・ボムを放とうとした生徒なんて前代未聞だよ。レディ・ボムの二つ名を知らない生徒は、いないじゃないか」
「お兄様!その呼び方はやめてくださいまし!恥ずかしい」
フフフと笑って彼が話を続けます。
「来年には僕も卒業だ。最後の祭りに妹の晴れ舞台を見れるんだ。こんな嬉しい事は無いよ」
彼は紅茶をすすりました。その表情はにこやかではありますが、少し寂しさも浮かんでいます。
「でも、優秀というならアイラさんだって魔力量は相当なものですわよ?」
アイラが慌てて首を振ります。
「私なんかがそんな大役、勤まりません!」
そういえばと、朝日は思い出しました。
(ゲームではアイラがお祭りデートをするんだっけ?)
だとすれば、ヒロインであるアイラの邪魔をするわけにはいきません。アイラとテオの仲を取り持ち、テオルートでエンディングを迎える事が日本に帰れる唯一の手掛かりなのですから。
ジャスパーが茶化す様に言います。
「雷公女(らいこうじょ)様は雷の魔法が得意なんだよ。この前の様に雷雲を呼ばれては、せっかくのお祭りが台無しだ」
アイラは恥ずかしさでうつむいてしまいました。どのみちこれではしょうがないと、朝日は諦めて言いました。
「分かりましたわ。その役目、わたくしが務めます」
ジャスパーは満足気に頷きました。
「やるからには全力を出すんだよ。メイベール」
「全力で?よろしいのですか?」
「ああ、もちろんだとも。僕も毎年、全魔力を込めて打ち上げていたんだ。撃った後はフラフラで、一人で立っていられない程にね」
「でも、やり過ぎはよくないと仰ったのはお兄様ですのよ?恐怖を与えるからと、」
「それは誰に見せるかによる。この前の様に魔法が使える貴族相手に力を見せつけては孤立してしまうだろう。けど今回は庶民に見せるのだからね。上に立つ者として貴族とは時に畏怖の対象であらねばならない。祭りはその力を示す絶好の機会だよ。それに魔法学校の代表として立つんだ。盛大に打ち上げた方が生徒達も誇りに思い、キミの株も上がるというものさ」
ジャスパーの気配りにはかなわないなといった風にルイスは静かに紅茶を飲んでいます。
「そうですか……全力で、」
カラーン、カラーン、カラーン、と授業再開の鐘が鳴りました。
席を立ったメイベール嬢が力強く言います。
「分かりました。お兄様。わたくし全力を尽くします!」
メイベールの体は熱くなり興奮しているのでした。それを朝日はヒシヒシと感じていました。
(知らないよー……お嬢様、凄くやる気になってる)
「行きましょう。アイラさん」
去っていく2人を見送って、飲み干したカップを置きルイスが言います。
「ジャスパー、いいのか?全力でやれなんて」
「構わないよ。安全には配慮されているんだから。毎年やっている事じゃないか」
「あのお転婆なメイベール嬢だぞ?とんでもない事をやらかしそうに私は思う」
言われてジャスパーの顔が引きつります。
「二人とも……祭りの日はサポートを、ぜひ!お願いする」
4
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。
しかも、定番の悪役令嬢。
いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。
ですから婚約者の王子様。
私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる