19 / 120
3-4
しおりを挟む
次の授業は法律に関するものでした。統治者として法律は頭に入れておくべき貴族の知識です。しかし、メイベールの頭の中にはその知識は無いようでした。まだ学習していないのです。なので朝日は先生の話にまったくついていけません。
思い返すと昨日、明星が言っていた『不敬罪』というのは、テオがこの学校で学んだ知識だったのでしょう。でなければ明星があんな法律用語知っているとは思えません。朝日は初めて聞く専門用語や判例に苦戦する予感がしました。
当然の様にまた隣に座ったアイラを横目で見ると、やっぱり真面目にメモを取っています。朝日も渋々メモを取り始めました。
カラーン、カラーン、カラーン、
昼休みの鐘が鳴り、アイラが言います。
「食堂へ行きましょ」
「いえ……わたくしはもう少し授業の内容をまとめておきたいので、お先にどうぞ」
「そうですか、」
アイラは足早に教室を出ていってしまいました。
(ハァ……何なの?あの子)
昨日は目を合わせる事もしなかったのに、今日になって急に馴れ馴れしく感じます。それだけ明星が上手く相手をしてくれたという事なのでしょう。そう思うと、兄が自分以外の人と親しくしているようで嫌な気分になります。
(ハァ……ダメだ)
きっとお腹が空いてイライラしているだけだろうと、勉強を切り上げ食堂へ向かいました。
食堂の入り口では明星が待っていてくれました。
「おにぃ」
「一人か?」
「アイラは先に行くって言ってたけど?」
「見てないな」
「トイレじゃない?」
「うーん……ちょっと気になるから探してくる」
彼は行ってしまいました。
(心配しすぎじゃないかな?)
食堂に入ろうとして朝日は気付きました。
(もしかして、イベントが発生してる⁉)
人目を避け壁際に行き、ポケットに入れておいた手帳を取り出します。
(えーっと、テオルートの最初のイベントってなんだっけ?)
記憶を頼りに出来る限りアナドリで発生するイベントを書き記した手帳には『アイラがいじめを受ける』と書いてありました。
ゲームではアイラがテオと仲良くしているのを不満に思ったメイベールが、彼女を人気のない場所に呼び出し、脅すのです。『わたくしの婚約者に色目を使いましたわね!』と。
設定ではメイベールはテオを嫌っている事になっています。それはテオでは自分と釣り合わないと思っている為です。メイベールのケステル家とテオのベオルマ家は共に貴族でも最高位の公爵家ですが、その上には王族がいます。彼女は自分が王族にふさわしいと考えているので、本当はルイスと婚約を結ぶべきだと思っていました。
しかし、突如現れたアイラがテオと仲良くしているのも気に入らないのです。自分の都合しか考えない我がままな令嬢。それがメイベールです。
朝日も二人を探しに向かいました。
イベントが起きるのならメイベールがいないといけません。とりあえず明星を先に見つけて事情を説明しておきたい。
しかし、先に見つけたのはアイラの方でした。彼女は女生徒3人に囲まれています。朝日は隠れて様子を伺いました。
「あなた、アイラ・ステラって言うんでしょう?」
「ステラって聖職者の名前よねぇ?」
「なんで貴族の学校にいるの?」
「……」
アイラは何も言えず固まっています。
(これってイベント⁉)
あの場に居なくてはいけないのはメイベールのはずですが、既に似たような状況が
起こっています。
上級生の、おそらく2年生と思われる子がアイラに詰め寄りました。
「それよりアナタ、食堂でどこに座ってるのか分かってないの?」
「……」
(やばい、)
誰がどこに座ろうが勝手だし、学校で身分がどうの言うのは間違っている気がします。そもそも彼女達に何か不都合があったのでしょうか?個人の事情にわざわざ口出ししてくるのが朝日は気に入りません。
しかし、今アイラを助けてしまうと今後の展開が読みにくくなってしまいます。なぜならFLSというゲームシステムのおかげで、誰とでも好感度パラメーターは上がってしまうのです。それはアイラとメイベールでも結ばれる可能性があるという事です。
(どうしよう……)
「任せろ」
声がしたと思ったら、肩をポンと叩き、進み出る人物が……テオです。
(おにぃ!)
彼は堂々とした振る舞いで言いました。
「そこで何してる?」
テオの鋭い視線が女子生徒達を捉えます。
「なっ⁉……なにもしてません」
テオはガッチリとした体格の上に赤髪で否応なしに目立ちます。しかも公爵家なので、校内で知らない者はいないのです。そんな人物を相手に出来るはずがありません。女生徒達はそそくさと去ってしまいました。
(よかった……流石おにぃ)
メイベールも出ていこうとして足を止めました。
「ありがとうございます!お兄さん」
アイラがテオに抱きついたのです。反射的に朝日は背を向け走り出していました。
思い返すと昨日、明星が言っていた『不敬罪』というのは、テオがこの学校で学んだ知識だったのでしょう。でなければ明星があんな法律用語知っているとは思えません。朝日は初めて聞く専門用語や判例に苦戦する予感がしました。
当然の様にまた隣に座ったアイラを横目で見ると、やっぱり真面目にメモを取っています。朝日も渋々メモを取り始めました。
カラーン、カラーン、カラーン、
昼休みの鐘が鳴り、アイラが言います。
「食堂へ行きましょ」
「いえ……わたくしはもう少し授業の内容をまとめておきたいので、お先にどうぞ」
「そうですか、」
アイラは足早に教室を出ていってしまいました。
(ハァ……何なの?あの子)
昨日は目を合わせる事もしなかったのに、今日になって急に馴れ馴れしく感じます。それだけ明星が上手く相手をしてくれたという事なのでしょう。そう思うと、兄が自分以外の人と親しくしているようで嫌な気分になります。
(ハァ……ダメだ)
きっとお腹が空いてイライラしているだけだろうと、勉強を切り上げ食堂へ向かいました。
食堂の入り口では明星が待っていてくれました。
「おにぃ」
「一人か?」
「アイラは先に行くって言ってたけど?」
「見てないな」
「トイレじゃない?」
「うーん……ちょっと気になるから探してくる」
彼は行ってしまいました。
(心配しすぎじゃないかな?)
食堂に入ろうとして朝日は気付きました。
(もしかして、イベントが発生してる⁉)
人目を避け壁際に行き、ポケットに入れておいた手帳を取り出します。
(えーっと、テオルートの最初のイベントってなんだっけ?)
記憶を頼りに出来る限りアナドリで発生するイベントを書き記した手帳には『アイラがいじめを受ける』と書いてありました。
ゲームではアイラがテオと仲良くしているのを不満に思ったメイベールが、彼女を人気のない場所に呼び出し、脅すのです。『わたくしの婚約者に色目を使いましたわね!』と。
設定ではメイベールはテオを嫌っている事になっています。それはテオでは自分と釣り合わないと思っている為です。メイベールのケステル家とテオのベオルマ家は共に貴族でも最高位の公爵家ですが、その上には王族がいます。彼女は自分が王族にふさわしいと考えているので、本当はルイスと婚約を結ぶべきだと思っていました。
しかし、突如現れたアイラがテオと仲良くしているのも気に入らないのです。自分の都合しか考えない我がままな令嬢。それがメイベールです。
朝日も二人を探しに向かいました。
イベントが起きるのならメイベールがいないといけません。とりあえず明星を先に見つけて事情を説明しておきたい。
しかし、先に見つけたのはアイラの方でした。彼女は女生徒3人に囲まれています。朝日は隠れて様子を伺いました。
「あなた、アイラ・ステラって言うんでしょう?」
「ステラって聖職者の名前よねぇ?」
「なんで貴族の学校にいるの?」
「……」
アイラは何も言えず固まっています。
(これってイベント⁉)
あの場に居なくてはいけないのはメイベールのはずですが、既に似たような状況が
起こっています。
上級生の、おそらく2年生と思われる子がアイラに詰め寄りました。
「それよりアナタ、食堂でどこに座ってるのか分かってないの?」
「……」
(やばい、)
誰がどこに座ろうが勝手だし、学校で身分がどうの言うのは間違っている気がします。そもそも彼女達に何か不都合があったのでしょうか?個人の事情にわざわざ口出ししてくるのが朝日は気に入りません。
しかし、今アイラを助けてしまうと今後の展開が読みにくくなってしまいます。なぜならFLSというゲームシステムのおかげで、誰とでも好感度パラメーターは上がってしまうのです。それはアイラとメイベールでも結ばれる可能性があるという事です。
(どうしよう……)
「任せろ」
声がしたと思ったら、肩をポンと叩き、進み出る人物が……テオです。
(おにぃ!)
彼は堂々とした振る舞いで言いました。
「そこで何してる?」
テオの鋭い視線が女子生徒達を捉えます。
「なっ⁉……なにもしてません」
テオはガッチリとした体格の上に赤髪で否応なしに目立ちます。しかも公爵家なので、校内で知らない者はいないのです。そんな人物を相手に出来るはずがありません。女生徒達はそそくさと去ってしまいました。
(よかった……流石おにぃ)
メイベールも出ていこうとして足を止めました。
「ありがとうございます!お兄さん」
アイラがテオに抱きついたのです。反射的に朝日は背を向け走り出していました。
3
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる