乙女ゲームの悪役令嬢になった妹はこの世界で兄と結ばれたい⁉ ~another world of dreams~

二コ・タケナカ

文字の大きさ
上 下
17 / 125

3-2

しおりを挟む
「ブリトン王国はかつて三つの国に分かれていました。中央に位置するセントランド、西に位置するカンロ、北に位置するスコー。それぞれの国の王が覇権を争う暗黒の時代が長く続いたのです。それに終止符を打ったのが今から250年程前、セントランドに誕生したケント1世です。のちに統治王と呼ばれることになる彼は、絶大なる魔力をもって戦況を一変させました。まず西に位置するカンロ王国を瞬く間に打ち破って併合すると、国同士による三すくみの構図は崩れました。後方の憂いが無くなった事でセントランドは勢いに乗ります。しかし北の地にあるスコーは山岳地帯が天然の要塞と化し、落とすのは容易でありません。そこで彼は策を講じます。当時、スコーとセントランドの境界には長い城壁が張り巡らされていました。そこに万を超える兵士を集結させると、ケント1世はその絶大なる魔力で巨大な火球を夜空に打ち上げたのです。火球はまるで昼間の様に辺りを照らし、その光は遠くスコー王の城からでも見えたといいます。兵士たちはその光の元、祝杯をあげました。これで長く続いた戦争も終わると。セントランドの兵士が戦う前から祝杯上げていると聞いたスコー国王は恐れおののいたといいます。スコー王は降伏の道を選びました。セントランドと和睦の証として娘を差し出し、ケント1世と婚姻関係を結んだのです。これにより戦国の世を終わらせたケント1世は三国それぞれの王を兼任するという形でブリトン連合王国を創設、統治することとなりました」

朝日は教壇に立つ先生の話を聞きながらワクワクしていました。いま教えてもらっている歴史の授業はゲームでは語られない詳細な設定の様なものです。オタクが好きな分野だけは、やたらと詳しいのが納得出来ました。朝日にとってこれは授業というよりゲームの延長で楽しいのです。
(ケント1世かぁ、へーぇ)
先生から渡されたプリントに重要な個所を書き込んでいきます。

この学校の授業は日本とはやり方が少し違っています。先生が教科書を読み、生徒はそれを聞くだけ。板書はほとんどありません。生徒一人一人に教科書もありません。あるのは最初に配られるプリントのみ。そこには質問が記されており、空欄になっている個所を先生の話から読み取って埋めていきます。そのプリントが授業を重ねるごとに積み重なって、自分の教科書となるのです。
日本の様に教科書が沢山用意され、全てを書き記してくれているのとは異なります。自分から聴く姿勢を持っていないと、ついていけません。

メイベールの知識を受け継いでいる朝日にとって、授業は苦労なくこなせるものでした。メイベールには幼いころから家庭教師が付き、一般教養は既に身についているのです。それはチートみたいなもので、先生が語る話は頭の中の知識と答え合わせをしている様なもの。それが優越感を産み、朝日には楽しくてしょうがありません。

アイラの方をチラリと見ると、彼女は一言一句逃さない勢いでメモを取っていました。きっと真面目な性格なのでしょう。

カラーン、カラーン、カラーン
鐘が鳴り、授業の終了を告げました。
「では、ここまで。分からないところがあれば聞きに来るように」
先生はすんなり引き上げていきます。1限目の授業もそうでしたが、先生と生徒の関わりはとても淡白です。授業を始める前に自己紹介や余談など無く、いきなり教科書を読み始めたのには、朝日も面食らいました。
そもそも担任の先生というものがいません。生徒は自分の事は自分でしなくてはならず、自主性が求められるのです。それは貴族生活に慣れた子供達を教育するという意味も持っているのでした。

「あ、そうそう」
と、帰ろうとしていた先生が出口で足を止めました。
「2限目の後はティータイムとなっています。食堂にはビスケットなども用意されていますから各自、自由に休憩を取るように」
一応、新入生だから伝えておくよう頼まれていたのか、先生はそれだけ言うと去っていきました。

(ティータイムなんてあるの⁉さすが、お貴族様)
お菓子を食べられるのが嬉しい朝日。それに食堂へ生徒が集まるのなら明星(あきと)にも会えるかもしれません。彼女は早速席を立ちました。
立ってしまってから気になって聞きます。
「アイラさんはどうされます?」
ドキドキしながら聞きました。出来ればこの子と普段は距離を取っておきたいのです。一緒に居ればいつ悪役令嬢と化してしまうのか気が気じゃありません。テオのルートを進める為にも悪役に徹する必要が出てくるでしょうが、それには心の準備というものがいるのです。

アイラは嬉しそうに笑って応えました。
「一緒に行っていいんですか?」
(一緒に行くとは言ってないんだけど……)
笑顔を向けて言われたら断ることなどできません。二人は一緒に食堂へ向かいました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

斯波@ジゼルの錬金飴②発売中
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。 ※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。 ※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

処理中です...