9 / 120
2-2
しおりを挟む
恥ずかしさで思わず叫びそうになったところに、一人の男性がメイベールの前へ進み出ました。手を差し伸べたのは兄のジャスパーです。
「綺麗だよメイベール。さあ、こちらへ」
手を引かれ案内された場所にはテオの姿がありました。
(おにぃ!)
テオもメイベールの姿を認め、笑顔になります。その顔はテオのものですが、朝日には明星の優しい顔に思えました。
思わず駆け寄って胸に抱きつこうとしました。明星も軽く腕を開き妹を受け止めようとします。けれどジャスパーが繋いだ手を放してくれません。
「メイベール。先にご挨拶を……テオ、少し待ってくれるかな?」
そう言った彼の眉は少し引きつっていました。
ジャスパーに促された方へ顔を向けると、握った拳で口元を隠し、小さく笑っている男性がいました。輝くような金髪に白い肌、笑って緩んだ瞳は鮮やかな青色をしています。
見た目だけでもその人物が特別な存在と分かりますが、それに加えてまとっているオーラが、高貴なものだと伝わってきます。
(ルイス殿下だ!)
朝日は背筋をピンと伸ばしました。そして片足を斜め後ろの内側へ引き、もう片方の足の膝を曲げて挨拶します。
「ご機嫌麗しゅう、ルイス殿下。メイベール・ケステルです」
屋敷で何度も練習したので、緊張していた朝日にも何とか出来ました。続けてルイスの目を見て、にこやかに印象が良いように意識して言いました。
「この度、未熟なわたくしも殿下と同じく格式高いリード魔法学校へ入学する運びとなりました。どうかこれから、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願い致します。」
如何にもな社交辞令に、ニッコリ笑ってルイスが返します。
「よく言えたねメイベール。ちゃんと挨拶できたから、もう立派なレディだ」
パーティーでは、まず一番位の高い人物へ挨拶をしなくてはいけないよ。と、ジャスパーに言われていたのです。出席者の中で一番位の高い人物と言えばこの国を治める王様のご子息、ルイス・ロンド皇太子殿下です。
だから朝日は歯の浮くセリフを一生懸命繰り返して覚えてきました。なのに、返されたのはまるで幼い子供を扱うような言葉です。
あっけに取られるメイベールの事をまた笑ってルイスが言います。
「もしかして覚えていないのかい?子供の頃、よく一緒に遊んだじゃないか。あのお転婆な子がこんなにも美しい女性に成長するなんてね。テオに先を越されたのが悔しいよ」
フフフと、また笑っています。どうやらからかわれているのだと分かり、メイベールは恥ずかしさで顔を真っ赤にしました。
「からかうなんて、酷いですわっ」
「フフ、私の中のメイベールは幼い頃のままだったんだ。ずっと妹の様に思っていたのに……けど、美しいと言ったのは本当だよ。からかってなんていない」
真顔に戻ったルイスからそんな事を言われ、メイベールの体は急に体温が上がり変な汗が吹き出しました。
(王子様の破壊力すごっ!)
赤面して固まるメイベールにテオが呼びかけます。
「メイベール、お腹は空いてないか?向こうに食事が用意されている。食べに行こう」
彼が腰に手を当て、肘を突き出します。朝日は察して、その腕に掴まって組みました。
「ルイス様、お兄様、わたくし行ってまいります」
去っていく二人を見て、またルイスが笑ってジャスパーに言いました。
「テオは変わったな」
「ああ、この前うちのパーティーに呼んだら、お互い気が合った様だ。来る前は渋々だったくせに」
「女性に興味なさそうだったあのテオがな」
「興味ないどころか……」
ジャスパーが首を振ります。
「婚約しているとはいえ、メイベールはまだ結婚前だ。世間体というものを考えてほしいものだよ」
「あれだけ見せつけているんだ、テオも覚悟が決まったんだろう。今更、婚約を取り消したりしまい」
「どうかな。二人ともついこの間までお互い嫌っていたんだぞ?直前になって気が変わることもあり得る。だからメイベールには淑女としてわきまえて欲しいんだ」
「ほう。」
ルイスの声のトーンが変わりました。
「なら私にもまだチャンスはあるのかな?」
「やめてくれルイス。あの子は気が移りやすいんだよ。ケステル家の禍根となりかねない」
「そんな事を言って、妹を手元に置いておきたいだけじゃないのか?テオのベオルマ家へ婚約を申し込んだのも他の貴族が寄ってこない様にしたかっただけだろう」
「婚約は家同士が決めるものだ。僕が口出しできることではないよ」
ジャスパーはお返しとばかりに、わざとらしく言いました。
「そうだ。キミの妹のエミリーを僕にくれるのならメイベールにも、それとなく伝えてあげてもいい」
「断る。」
すぐさま突っぱねたルイスの顔は笑っていませんでした。それでもジャスパーは続けます。
「なにせメイベールは気が移りやすい。王家に嫁ぐ話をすれば鞍替えするかもしれないよ。お互い兄弟同士になれば両家は安泰だ」
ルイスは何も応えませんでした。ジャスパーがフッと笑います。
「どうやらキミも妹の事が可愛くてしょうがないらしい」
こうして貴族の腹を探り合うパーティーは続くのです。
「綺麗だよメイベール。さあ、こちらへ」
手を引かれ案内された場所にはテオの姿がありました。
(おにぃ!)
テオもメイベールの姿を認め、笑顔になります。その顔はテオのものですが、朝日には明星の優しい顔に思えました。
思わず駆け寄って胸に抱きつこうとしました。明星も軽く腕を開き妹を受け止めようとします。けれどジャスパーが繋いだ手を放してくれません。
「メイベール。先にご挨拶を……テオ、少し待ってくれるかな?」
そう言った彼の眉は少し引きつっていました。
ジャスパーに促された方へ顔を向けると、握った拳で口元を隠し、小さく笑っている男性がいました。輝くような金髪に白い肌、笑って緩んだ瞳は鮮やかな青色をしています。
見た目だけでもその人物が特別な存在と分かりますが、それに加えてまとっているオーラが、高貴なものだと伝わってきます。
(ルイス殿下だ!)
朝日は背筋をピンと伸ばしました。そして片足を斜め後ろの内側へ引き、もう片方の足の膝を曲げて挨拶します。
「ご機嫌麗しゅう、ルイス殿下。メイベール・ケステルです」
屋敷で何度も練習したので、緊張していた朝日にも何とか出来ました。続けてルイスの目を見て、にこやかに印象が良いように意識して言いました。
「この度、未熟なわたくしも殿下と同じく格式高いリード魔法学校へ入学する運びとなりました。どうかこれから、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願い致します。」
如何にもな社交辞令に、ニッコリ笑ってルイスが返します。
「よく言えたねメイベール。ちゃんと挨拶できたから、もう立派なレディだ」
パーティーでは、まず一番位の高い人物へ挨拶をしなくてはいけないよ。と、ジャスパーに言われていたのです。出席者の中で一番位の高い人物と言えばこの国を治める王様のご子息、ルイス・ロンド皇太子殿下です。
だから朝日は歯の浮くセリフを一生懸命繰り返して覚えてきました。なのに、返されたのはまるで幼い子供を扱うような言葉です。
あっけに取られるメイベールの事をまた笑ってルイスが言います。
「もしかして覚えていないのかい?子供の頃、よく一緒に遊んだじゃないか。あのお転婆な子がこんなにも美しい女性に成長するなんてね。テオに先を越されたのが悔しいよ」
フフフと、また笑っています。どうやらからかわれているのだと分かり、メイベールは恥ずかしさで顔を真っ赤にしました。
「からかうなんて、酷いですわっ」
「フフ、私の中のメイベールは幼い頃のままだったんだ。ずっと妹の様に思っていたのに……けど、美しいと言ったのは本当だよ。からかってなんていない」
真顔に戻ったルイスからそんな事を言われ、メイベールの体は急に体温が上がり変な汗が吹き出しました。
(王子様の破壊力すごっ!)
赤面して固まるメイベールにテオが呼びかけます。
「メイベール、お腹は空いてないか?向こうに食事が用意されている。食べに行こう」
彼が腰に手を当て、肘を突き出します。朝日は察して、その腕に掴まって組みました。
「ルイス様、お兄様、わたくし行ってまいります」
去っていく二人を見て、またルイスが笑ってジャスパーに言いました。
「テオは変わったな」
「ああ、この前うちのパーティーに呼んだら、お互い気が合った様だ。来る前は渋々だったくせに」
「女性に興味なさそうだったあのテオがな」
「興味ないどころか……」
ジャスパーが首を振ります。
「婚約しているとはいえ、メイベールはまだ結婚前だ。世間体というものを考えてほしいものだよ」
「あれだけ見せつけているんだ、テオも覚悟が決まったんだろう。今更、婚約を取り消したりしまい」
「どうかな。二人ともついこの間までお互い嫌っていたんだぞ?直前になって気が変わることもあり得る。だからメイベールには淑女としてわきまえて欲しいんだ」
「ほう。」
ルイスの声のトーンが変わりました。
「なら私にもまだチャンスはあるのかな?」
「やめてくれルイス。あの子は気が移りやすいんだよ。ケステル家の禍根となりかねない」
「そんな事を言って、妹を手元に置いておきたいだけじゃないのか?テオのベオルマ家へ婚約を申し込んだのも他の貴族が寄ってこない様にしたかっただけだろう」
「婚約は家同士が決めるものだ。僕が口出しできることではないよ」
ジャスパーはお返しとばかりに、わざとらしく言いました。
「そうだ。キミの妹のエミリーを僕にくれるのならメイベールにも、それとなく伝えてあげてもいい」
「断る。」
すぐさま突っぱねたルイスの顔は笑っていませんでした。それでもジャスパーは続けます。
「なにせメイベールは気が移りやすい。王家に嫁ぐ話をすれば鞍替えするかもしれないよ。お互い兄弟同士になれば両家は安泰だ」
ルイスは何も応えませんでした。ジャスパーがフッと笑います。
「どうやらキミも妹の事が可愛くてしょうがないらしい」
こうして貴族の腹を探り合うパーティーは続くのです。
3
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる