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また不思議なことが起きました。
メイベールこと、朝日には屋敷の中で自分の部屋がどこにあるのか分かってしまったのです。ここがアナドリの世界だとして、ゲームをプレイしていた朝日でも詳細な屋敷の見取り図など知りません。ゲームでは一場面が切り取られて表示されるだけなのですから。
「おにぃ、入って」
さも当然の様に辿り着いた扉を開けると、朝日の頭の中に浮かんだイメージ通りの部屋でした。床には赤い絨毯が敷かれ、それに合わせた同じ真紅色のベルベットカーテンが窓に垂れ下がり、豪華な印象を与えます。何といっても中央に置かれた天蓋付きの大きなベットが目を引きます。ここが屋敷の中でも特別な空間だというのは見てすぐに分かります。
明星は場違いな所に入ってしまった事はすぐに感じたのでしょう。部屋の入口に立って確認します。
「いいのか?こんな所に勝手に入って」
「いいよ、だってアタシの部屋だもん……あぁ、」
朝日はまた言ってしまってから変な気分になりました。
(なんでここがアタシの部屋だって分かったんだろう?)
嵐のせいで部屋は薄暗かったので、彼女は天井のシャンデリアに向かって魔法を唱えました。
「ライト」
それは魔道具になっていて、柔らかな光で部屋を照らしてくれました。
窓のカーテンを閉めて振り返ると明星が疑念の眼でメイベールを見ています。
「……本当にお前は朝日なのか?」
「うん……本当だよ」
自分でもまだ信じられない部分はありました。
「だってお前、その顔どう見たって……メイクでもしたっていうのか?」
「おにぃだって」
廊下は薄暗かったので、お互い光の下でハッキリと顔を確認して驚いているのです。
朝日はドレッサーの前に座りました。枠にツタを模した飾りが可愛らしい三面鏡を開きます。窓に映るぼんやりとした姿ではなく、今度はハッキリ自分の顔が見えました。
腰まである長い銀髪は緩くウェーブしており、それが時間をかけて仕上げたものだという事は朝日にも分かります。顔にもメイクが丁寧に施されていますが、若さを損なわない程度にナチュラルに。その小顔で整った容姿に朝日は思わずニヤけてしまいまいました。
でも少しつり目なのは気になります。メイベールのワガママな性格を表しているのでしょう。それにケステル家の象徴である赤い瞳も妖艶さを醸し出し、悪役令嬢といった雰囲気を持っています。
入り口で立ったままの兄を手招きしました。まだ自分の顔を確認していなかった明星は驚きました。
「なんだこれ……」
「おにぃ、落ち着いて聞いて」
朝日はお互いの動揺する心を落ち着ける様に、ゆっくり自分の仮説を話しました。
自分達がアナドリというゲームの世界にいる事。なぜかそのキャラクターの姿になってしまっている事。おそらく、キャラクターの持っている知識を受け継いでいる事。
「信じられない……」
アナドリを知らない彼には受け入れる事が出来ない様です。しかしゲームをしていた朝日には確信がありました。妹が言う事ならと、明星も信じるより他ありません。
「おにぃ、ここからが重要なんだけど、たぶんアタシ達はこのままだだとゲームのシナリオ通りに動く」
「それは何かマズいのか?」
ドレッサーから場所を移し、窓際に置かれた机の引き出しを開けました。中にしまわれていた紙とペンを取り出します。
朝日はインクに浸して使うペンなど使った事はないはずですが、慣れた手つきで文字を綴りました。
テオとメイベールそれにジャスパーそれぞれの名前を線でつなぎ、簡単な相関図を書いて見せます。
「アタシとおにぃは、その、婚約者同士なの。げ、ゲームの中の話だからね?」
明星は落ち着いた様子で言いました。
「兄妹で結婚してしまったら大変だな」
「いや、そうなんだけど、この世界では他人同士だから結婚出来なくはないというか……そうじゃなくてっ!ゲームのシナリオでは、おにぃのテオとアタシのメイベールは仲が悪い設定なの」
「ただの設定だろ?今、こうして二人でいる」
「おにぃ……気付いてる?さっきからずっとアタシの事、睨んでるんだよ」
「そんなはずは、」
明星は眉間を摘まみ、ほぐしました。
「多分だよ?これって設定で険悪だから、無意識にそう振舞っているんだよ。ゲーム通りに進めようとする強制力なんだと思う」
明星はほぐし終えて言いました。
「睨んで悪かった……こんな事になって緊張してただけだろう」
「勘違いなんかじゃない。ねぇ、おかしいと思わない?アタシ達、知らない世界に居るのに当然の様に馴染んでる。さっきのライトもそう。アレ、魔法だよ?」
明星はシャンデリアに向かって唱えました。
「キャンセル」
部屋は暗くなりました。朝日がまた明かりをつけて言います。
「ゲームのキャラとして居るから世界に馴染んでるんだよ。見て、」
書いていたメモを見せます。
「こんな文字、知ってる?」
「当り前だろう……」
明星は黙ってしまいました。書かれている名前は日本語ではないのです。けれど、なんの疑いもなく読めています。
「試しに日本語で名前を書いてみるから見てて、」
朝日は自分の名前を日本語で書こうとしました。しかし、まるで拒絶されているかの様に手が震えて上手く書けません。文字はぐちゃぐちゃになってしまいました。
「ね?さっきも日本語で書いたつもりだったのに、この世界の文字を書いちゃったの。それに今気が付いたけど、多分アタシ達が喋ってるこの言葉、日本語じゃない」
明星は口を押えました。口の中でもごもごしてから声に出します。
「ア・ザ・ひィ」
ムリそうだと思ったのか彼は普通に喋りました。
「ゲームの中だからゲームに従っているって事か?けど、お前のやっていたゲームでも日本語を使ってなかったのか?」
「もちろんゲームは日本語だったよ。なんて言えばいいのか……パラレルワールド?きっとゲームの世界通りに展開する別世界なんじゃないかな?」
また明星の視線は鋭くなっていました。
「なんでお前は、そんなに詳しいんだ?」
「なんでって、こういう展開ゲームやアニメではお約束だし。おにぃ、あんまりアニメも見ないもんね」
ハァ、と息を吐き明星は聞きました。
「だったらこの先の展開は?お前、ゲームやってたから知ってるんだろ?」
彼女は相関図に他の名前を書き足しました。
メイベールこと、朝日には屋敷の中で自分の部屋がどこにあるのか分かってしまったのです。ここがアナドリの世界だとして、ゲームをプレイしていた朝日でも詳細な屋敷の見取り図など知りません。ゲームでは一場面が切り取られて表示されるだけなのですから。
「おにぃ、入って」
さも当然の様に辿り着いた扉を開けると、朝日の頭の中に浮かんだイメージ通りの部屋でした。床には赤い絨毯が敷かれ、それに合わせた同じ真紅色のベルベットカーテンが窓に垂れ下がり、豪華な印象を与えます。何といっても中央に置かれた天蓋付きの大きなベットが目を引きます。ここが屋敷の中でも特別な空間だというのは見てすぐに分かります。
明星は場違いな所に入ってしまった事はすぐに感じたのでしょう。部屋の入口に立って確認します。
「いいのか?こんな所に勝手に入って」
「いいよ、だってアタシの部屋だもん……あぁ、」
朝日はまた言ってしまってから変な気分になりました。
(なんでここがアタシの部屋だって分かったんだろう?)
嵐のせいで部屋は薄暗かったので、彼女は天井のシャンデリアに向かって魔法を唱えました。
「ライト」
それは魔道具になっていて、柔らかな光で部屋を照らしてくれました。
窓のカーテンを閉めて振り返ると明星が疑念の眼でメイベールを見ています。
「……本当にお前は朝日なのか?」
「うん……本当だよ」
自分でもまだ信じられない部分はありました。
「だってお前、その顔どう見たって……メイクでもしたっていうのか?」
「おにぃだって」
廊下は薄暗かったので、お互い光の下でハッキリと顔を確認して驚いているのです。
朝日はドレッサーの前に座りました。枠にツタを模した飾りが可愛らしい三面鏡を開きます。窓に映るぼんやりとした姿ではなく、今度はハッキリ自分の顔が見えました。
腰まである長い銀髪は緩くウェーブしており、それが時間をかけて仕上げたものだという事は朝日にも分かります。顔にもメイクが丁寧に施されていますが、若さを損なわない程度にナチュラルに。その小顔で整った容姿に朝日は思わずニヤけてしまいまいました。
でも少しつり目なのは気になります。メイベールのワガママな性格を表しているのでしょう。それにケステル家の象徴である赤い瞳も妖艶さを醸し出し、悪役令嬢といった雰囲気を持っています。
入り口で立ったままの兄を手招きしました。まだ自分の顔を確認していなかった明星は驚きました。
「なんだこれ……」
「おにぃ、落ち着いて聞いて」
朝日はお互いの動揺する心を落ち着ける様に、ゆっくり自分の仮説を話しました。
自分達がアナドリというゲームの世界にいる事。なぜかそのキャラクターの姿になってしまっている事。おそらく、キャラクターの持っている知識を受け継いでいる事。
「信じられない……」
アナドリを知らない彼には受け入れる事が出来ない様です。しかしゲームをしていた朝日には確信がありました。妹が言う事ならと、明星も信じるより他ありません。
「おにぃ、ここからが重要なんだけど、たぶんアタシ達はこのままだだとゲームのシナリオ通りに動く」
「それは何かマズいのか?」
ドレッサーから場所を移し、窓際に置かれた机の引き出しを開けました。中にしまわれていた紙とペンを取り出します。
朝日はインクに浸して使うペンなど使った事はないはずですが、慣れた手つきで文字を綴りました。
テオとメイベールそれにジャスパーそれぞれの名前を線でつなぎ、簡単な相関図を書いて見せます。
「アタシとおにぃは、その、婚約者同士なの。げ、ゲームの中の話だからね?」
明星は落ち着いた様子で言いました。
「兄妹で結婚してしまったら大変だな」
「いや、そうなんだけど、この世界では他人同士だから結婚出来なくはないというか……そうじゃなくてっ!ゲームのシナリオでは、おにぃのテオとアタシのメイベールは仲が悪い設定なの」
「ただの設定だろ?今、こうして二人でいる」
「おにぃ……気付いてる?さっきからずっとアタシの事、睨んでるんだよ」
「そんなはずは、」
明星は眉間を摘まみ、ほぐしました。
「多分だよ?これって設定で険悪だから、無意識にそう振舞っているんだよ。ゲーム通りに進めようとする強制力なんだと思う」
明星はほぐし終えて言いました。
「睨んで悪かった……こんな事になって緊張してただけだろう」
「勘違いなんかじゃない。ねぇ、おかしいと思わない?アタシ達、知らない世界に居るのに当然の様に馴染んでる。さっきのライトもそう。アレ、魔法だよ?」
明星はシャンデリアに向かって唱えました。
「キャンセル」
部屋は暗くなりました。朝日がまた明かりをつけて言います。
「ゲームのキャラとして居るから世界に馴染んでるんだよ。見て、」
書いていたメモを見せます。
「こんな文字、知ってる?」
「当り前だろう……」
明星は黙ってしまいました。書かれている名前は日本語ではないのです。けれど、なんの疑いもなく読めています。
「試しに日本語で名前を書いてみるから見てて、」
朝日は自分の名前を日本語で書こうとしました。しかし、まるで拒絶されているかの様に手が震えて上手く書けません。文字はぐちゃぐちゃになってしまいました。
「ね?さっきも日本語で書いたつもりだったのに、この世界の文字を書いちゃったの。それに今気が付いたけど、多分アタシ達が喋ってるこの言葉、日本語じゃない」
明星は口を押えました。口の中でもごもごしてから声に出します。
「ア・ザ・ひィ」
ムリそうだと思ったのか彼は普通に喋りました。
「ゲームの中だからゲームに従っているって事か?けど、お前のやっていたゲームでも日本語を使ってなかったのか?」
「もちろんゲームは日本語だったよ。なんて言えばいいのか……パラレルワールド?きっとゲームの世界通りに展開する別世界なんじゃないかな?」
また明星の視線は鋭くなっていました。
「なんでお前は、そんなに詳しいんだ?」
「なんでって、こういう展開ゲームやアニメではお約束だし。おにぃ、あんまりアニメも見ないもんね」
ハァ、と息を吐き明星は聞きました。
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