120 / 136
113
しおりを挟む
113
パイセンが言う。
「何と言っても良通で有名な話といえば姉川の戦いだな」
「そうですね」
「あねがわ、」ふーみんはやっぱり分かっていないらしい。
「1570年に起こった姉川の戦い。姉川は今の滋賀県北部を流れる川だよ。浅井長政は知ってるでしょ?信長の妹、お市が嫁いだ」
「ああ、それなら」
「その浅井の居城があった近くを流れる川だよ。浅井長政が信長を裏切ったのも知ってるでしょ?」
「も、もちろん」
(あやしいな)
ふーみんはこれまでのテストを一夜漬けで乗り越えてきたのだろう。歴史を点でしか見ていないから、出来事の繋がりが分からず、頭に残っていないらしい。
「姉川の戦いは裏切り者、浅井長政を討つ為の戦いだよ。長政はどうやら信長と対等の立場であろうとしたみたいだね。義理兄弟だから。対して信長は信長なりに義理兄弟だから気を遣ったのかもしれない。浅井と元々同盟関係だった朝倉を長政に黙って攻めたものだから、怒って信長を裏切ったんだ」
「戦国時代って親兄弟の争いがほとんどじゃない」
「まったく、下に仕える者達はたまったものじゃないよ。その姉川の戦いにもう一人、信長と対等な立場であろうとした武将、徳川家康も駆けつけた。彼は将軍・足利義昭(あしかがよしあき)の要請を受けたそうなんだ『信長は助け不要と言っているけど、みてやってくれないか』と。駆けつけた家康に信長は配下の武将を貸してやると言ったそうだよ。家康は一度は断ったみたいだけど、遠慮するなと信長に言われ、ならば、と指名したのが稲葉良通なんだ」
「家康に指名されるなんて良通、本当に強かったのね」
「だから、負けなしの武将なんだって。面白いのが、この時の武将達の思惑だよ。信長としてみれば、援軍はいらんと言っていたのに駆けつけた家康を忠誠心が高いと見るか、余計な出しゃばりと見るか、複雑なところだね。だから自分の武将を貸す事で余裕を見せた。家康としてみれば信長とは対等な同盟関係でありたい。将軍の要請で来てあげたんだという立場なんだよ。だから一度は申し出を断った。けど、遠慮するなとまで言われて断るのは失礼にあたる。そこで稲葉良通を指名したんだ。良通は自分が指名されたことを十分理解していた可能性がある。織田家由来の家臣ではなく、自分が元は美濃の武将だという立場をちゃんとわきまえていた。家康は織田の家臣を借りたくはなかったのさ」
「さすが先輩です♪読みが深いですね」
ヒメの後ろでかいちょが喋りたそうに、うずうずしているのが見える。
「かいちょとは今度の部活で歴史談議を嫌というほどしてあげるよ。」
「約束ですからね?」
彼女はまた仕事に戻っていった。
「浅井長政の居城、小谷城。そのふもとを流れる姉川を挟んで浅井・朝倉連合軍1万3千と織田・徳川連合軍2万5千が対峙した」
「ねえ、信長の方、圧倒的とは言えない数じゃない?」
「兵力は相手の3倍あると圧倒できる。家康が駆けつけてくれなければ五分の戦いになっていただろうね。実際、信長軍は一時浅井軍に押しこまれて危うかったそうだよ。その信長軍を助けたのが良通なんだ。良通はこの時、徳川軍の後方で余計な事をしない様に控えていたらしい。家康を立てる為、空気を読んでいた。だから後ろに居た事で戦況は良く見えていたんだろうね。信長軍が押されていると見るや、自らの兵1千で駆けつけて助けたんだよ。この働きにより、戦のあと信長から長の字を与えられて長通と偏諱(へんい)するように言われたんだけど、良通はコレを頑として断った」
「頑固一徹な、」パイセンがニヤリと笑って言う。
「あーぁ!ここで出てくるんだその言葉。」
ふーみんもやっと話に追いついた。
「でも、なんで断っちゃうの?確か君主から一字貰うのは名誉な事なんでしょ?」
「ここでの思惑も読み解くのが面白いんだよ。まず、姉川の戦いで一番の功労者は間違いなく徳川家康だった。家康が参戦していなければ、かなり苦戦を強いられただろうし、現に朝倉軍を撤退に追い込んだのは彼の働きによるものが大きい。それを差し置いて良通が褒美をもらっては家康としては面白くない。信長としてみれば自分が貸し与えた武将が活躍したんだとすれば、威信を保てる。実際、信長を守って戦ったんだから褒めて遣わしても問題はない。そんな板挟みに合っているのは良通も分かっていた。だから一字を貰うなんていう名誉を断ったんだ。それは武将にとってありえない行動なんだよ。あの信長が呆れて思わず笑ったとも言われているからね。良通は一歩間違えば険悪な事態を招く場面で、笑いを取ったのさ。絶対ありえないオチを披露する事で!」
「さすが先輩です♪まるでその場に居たかのように心理を読み切ってますね!」
「あなた、ほめ過ぎよ。調子に乗るからやめなさい」
気持ちよく喋っているというのにふーみんが邪魔をする。
「まあ、推しですから。考えている事ぐらい、手に取る様に分かりますわよ。推しですから。オホホ。もう少し付け加えるなら、良通も信長と対等な立場であろうとしたのかもしれない。長の字を貰ってしまえば、それは正式に信長の家臣になるという証だからね。それにこの時、良通は55歳、信長は36歳、家康は27歳だよ。一周りもニ周りも年上の良通には若造をとりなす事なんて容易かったんじゃない?」
ヒメは言葉で褒めることはしなかったが小さく拍手してくれた。
その後ろでふーみんがジト目で見てくる。
パイセンが言う。
「何と言っても良通で有名な話といえば姉川の戦いだな」
「そうですね」
「あねがわ、」ふーみんはやっぱり分かっていないらしい。
「1570年に起こった姉川の戦い。姉川は今の滋賀県北部を流れる川だよ。浅井長政は知ってるでしょ?信長の妹、お市が嫁いだ」
「ああ、それなら」
「その浅井の居城があった近くを流れる川だよ。浅井長政が信長を裏切ったのも知ってるでしょ?」
「も、もちろん」
(あやしいな)
ふーみんはこれまでのテストを一夜漬けで乗り越えてきたのだろう。歴史を点でしか見ていないから、出来事の繋がりが分からず、頭に残っていないらしい。
「姉川の戦いは裏切り者、浅井長政を討つ為の戦いだよ。長政はどうやら信長と対等の立場であろうとしたみたいだね。義理兄弟だから。対して信長は信長なりに義理兄弟だから気を遣ったのかもしれない。浅井と元々同盟関係だった朝倉を長政に黙って攻めたものだから、怒って信長を裏切ったんだ」
「戦国時代って親兄弟の争いがほとんどじゃない」
「まったく、下に仕える者達はたまったものじゃないよ。その姉川の戦いにもう一人、信長と対等な立場であろうとした武将、徳川家康も駆けつけた。彼は将軍・足利義昭(あしかがよしあき)の要請を受けたそうなんだ『信長は助け不要と言っているけど、みてやってくれないか』と。駆けつけた家康に信長は配下の武将を貸してやると言ったそうだよ。家康は一度は断ったみたいだけど、遠慮するなと信長に言われ、ならば、と指名したのが稲葉良通なんだ」
「家康に指名されるなんて良通、本当に強かったのね」
「だから、負けなしの武将なんだって。面白いのが、この時の武将達の思惑だよ。信長としてみれば、援軍はいらんと言っていたのに駆けつけた家康を忠誠心が高いと見るか、余計な出しゃばりと見るか、複雑なところだね。だから自分の武将を貸す事で余裕を見せた。家康としてみれば信長とは対等な同盟関係でありたい。将軍の要請で来てあげたんだという立場なんだよ。だから一度は申し出を断った。けど、遠慮するなとまで言われて断るのは失礼にあたる。そこで稲葉良通を指名したんだ。良通は自分が指名されたことを十分理解していた可能性がある。織田家由来の家臣ではなく、自分が元は美濃の武将だという立場をちゃんとわきまえていた。家康は織田の家臣を借りたくはなかったのさ」
「さすが先輩です♪読みが深いですね」
ヒメの後ろでかいちょが喋りたそうに、うずうずしているのが見える。
「かいちょとは今度の部活で歴史談議を嫌というほどしてあげるよ。」
「約束ですからね?」
彼女はまた仕事に戻っていった。
「浅井長政の居城、小谷城。そのふもとを流れる姉川を挟んで浅井・朝倉連合軍1万3千と織田・徳川連合軍2万5千が対峙した」
「ねえ、信長の方、圧倒的とは言えない数じゃない?」
「兵力は相手の3倍あると圧倒できる。家康が駆けつけてくれなければ五分の戦いになっていただろうね。実際、信長軍は一時浅井軍に押しこまれて危うかったそうだよ。その信長軍を助けたのが良通なんだ。良通はこの時、徳川軍の後方で余計な事をしない様に控えていたらしい。家康を立てる為、空気を読んでいた。だから後ろに居た事で戦況は良く見えていたんだろうね。信長軍が押されていると見るや、自らの兵1千で駆けつけて助けたんだよ。この働きにより、戦のあと信長から長の字を与えられて長通と偏諱(へんい)するように言われたんだけど、良通はコレを頑として断った」
「頑固一徹な、」パイセンがニヤリと笑って言う。
「あーぁ!ここで出てくるんだその言葉。」
ふーみんもやっと話に追いついた。
「でも、なんで断っちゃうの?確か君主から一字貰うのは名誉な事なんでしょ?」
「ここでの思惑も読み解くのが面白いんだよ。まず、姉川の戦いで一番の功労者は間違いなく徳川家康だった。家康が参戦していなければ、かなり苦戦を強いられただろうし、現に朝倉軍を撤退に追い込んだのは彼の働きによるものが大きい。それを差し置いて良通が褒美をもらっては家康としては面白くない。信長としてみれば自分が貸し与えた武将が活躍したんだとすれば、威信を保てる。実際、信長を守って戦ったんだから褒めて遣わしても問題はない。そんな板挟みに合っているのは良通も分かっていた。だから一字を貰うなんていう名誉を断ったんだ。それは武将にとってありえない行動なんだよ。あの信長が呆れて思わず笑ったとも言われているからね。良通は一歩間違えば険悪な事態を招く場面で、笑いを取ったのさ。絶対ありえないオチを披露する事で!」
「さすが先輩です♪まるでその場に居たかのように心理を読み切ってますね!」
「あなた、ほめ過ぎよ。調子に乗るからやめなさい」
気持ちよく喋っているというのにふーみんが邪魔をする。
「まあ、推しですから。考えている事ぐらい、手に取る様に分かりますわよ。推しですから。オホホ。もう少し付け加えるなら、良通も信長と対等な立場であろうとしたのかもしれない。長の字を貰ってしまえば、それは正式に信長の家臣になるという証だからね。それにこの時、良通は55歳、信長は36歳、家康は27歳だよ。一周りもニ周りも年上の良通には若造をとりなす事なんて容易かったんじゃない?」
ヒメは言葉で褒めることはしなかったが小さく拍手してくれた。
その後ろでふーみんがジト目で見てくる。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした
黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。
日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。
ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。
人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。
そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。
太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。
青春インターネットラブコメ! ここに開幕!
※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ゾンビ発生が台風並みの扱いで報道される中、ニートの俺は普通にゾンビ倒して普通に生活する
黄札
ホラー
朝、何気なくテレビを付けると流れる天気予報。お馴染みの花粉や紫外線情報も流してくれるのはありがたいことだが……ゾンビ発生注意報?……いやいや、それも普通よ。いつものこと。
だが、お気に入りのアニメを見ようとしたところ、母親から買い物に行ってくれという電話がかかってきた。
どうする俺? 今、ゾンビ発生してるんですけど? 注意報、発令されてるんですけど??
ニートである立場上、断れずしぶしぶ重い腰を上げ外へ出る事に──
家でアニメを見ていても、同人誌を売りに行っても、バイトへ出ても、ゾンビに襲われる主人公。
何で俺ばかりこんな目に……嘆きつつもだんだん耐性ができてくる。
しまいには、サバゲーフィールドにゾンビを放って遊んだり、ゾンビ災害ボランティアにまで参加する始末。
友人はゾンビをペットにし、効率よくゾンビを倒すためエアガンを改造する。
ゾンビのいることが日常となった世界で、当たり前のようにゾンビと戦う日常的ゾンビアクション。ノベルアッププラス、ツギクル、小説家になろうでも公開中。
表紙絵は姫嶋ヤシコさんからいただきました、
©2020黄札
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける
気ままに
ホラー
家で寝て起きたらまさかの世界がゾンビパンデミックとなってしまっていた!
しかもセーラー服の可愛い女子高生のゾンビに噛まれてしまう!
もう終わりかと思ったら俺はゾンビになる事はなかった。しかもゾンビに狙われない体質へとなってしまう……これは映画で見た展開と同じじゃないか!
てことで俺は人間に利用されるのは御免被るのでゾンビのフリをして人間の安息の地が完成するまでのんびりと生活させて頂きます。
ネタバレ注意!↓↓
黒藤冬夜は自分を噛んだ知性ある女子高生のゾンビ、特殊体を探すためまず総合病院に向かう。
そこでゾンビとは思えない程の、異常なまでの力を持つ別の特殊体に出会う。
そこの総合病院の地下ではある研究が行われていた……
"P-tB"
人を救う研究のはずがそれは大きな厄災をもたらす事になる……
何故ゾンビが生まれたか……
何故知性あるゾンビが居るのか……
そして何故自分はゾンビにならず、ゾンビに狙われない孤独な存在となってしまったのか……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる