ゆるゾン

二コ・タケナカ

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「でも先輩は全てのゲームを納めたいと考えているんですよね?他の会社のものはどうするんですか?」
「そこはアタシ個人にはどうにもできないから地道な広報活動をするしかないだろうね。『納本するために再販活動を行っています』と、アピールするんだ。今のゲーム市場の実情を知らないライトユーザーにも現実を知ってもらって大きな波を起こせれば、ほかの会社も追随してくれるかもしれない。本命の法律改定だってかいちょの当選を待つまでもないかもしれないよ?」
「月光さんに票の取りまとめをしてもらえなくなるのは痛いですね」
「そんな心配しなくても、かいちょの頼みだから特別にしてあげるよ。議員に恩を売るチャンスだしね。ニヒヒ」
「月光ちゃん、顔、顔」
「悪代官。」
「悪そうな顔して、アンタそのうち逮捕されるんじゃないかしら」

アタシは緩んだ顔を引き締めて応えた。
「そんなヘマはしない。アタシには崇高な目的があるのだから。達成するためにはどんな手も使うけど、」
「本当にやりそうで怖いのよ、アンタは」
「まずはコレを集めないとね」親指と人差し指をくっつけ輪っかを作って見せる。
「月光さん。そういうのやめてください」
「かいちょは真面目だなぁ。何を想像したの?イヒヒ。アタシはゲームの再販をする為に資金を集めないといけないと言っているのさ。純粋に。ゲームを再販するとして、その目的が納本の為だけではビジネスにはならない。ソフトとして販売する以上、売れなきゃね。でもメジャーソフトならいざ知らず、鳴かず飛ばずだったソフトまで再販しようとしたって、会社なんだから利益が出ない事に人員を割いたりしないよ。だから出資金を募るのさ。クラウドファンディングで。知ってる?」
「ええ。聞いた事あります。最近はNPO法人が資金調達する手段として活用されていたりしますよね」
「そうそう。『こんな事したいんですけど、誰か出資してくれませんか?』って、呼びかけるとそれに共感した人がいくらか出資してくれるんだ。資金を集めて事業が成り立った暁には返礼品とかも貰えたりする。あれをゲームの再販に活用すれば、会社側はリスクを取らなくて済むし、出資者にはもちろん再販するゲームが送られる。昔のゲームを集めたいゲーマーなら反応してくれるんじゃないかな」
「いいアイディアだと思うけど、そういう発想を世の中の為に役立てようとは思わないの?」
「何を言ってるんだ!経済を回しているんだから立派に世の役に立つ事じゃないか!これだからゲームはゲームはって低くみられる」
「はいはい。悪かったわ」

アタシは冷めた紅茶をすすった。ズズッ
「ただ、この方法にも問題があってね、」
「こっちも⁉問題だらけね」
「問題はひとつずつ、確実に潰していけばいいんだよ」
残っていたお菓子をひとつ摘まむ。ボリボリ
「それで?問題って」
「残念ながら会社は倒産することがある。倒産したら販売していたゲームの権利も無くなってしまうんだ」
「ああ、確か前にアンタ言ってたわね。昔、岐阜にはもう1つゲーム会社があったって」
「うん。フ○イトプランだよ。代表作の『サ○ンナイト』は開発がフ○イトプランで販売がバンプ○ストだった。確かバンプ○ストのゲーム部門は親会社であるバン○イに吸収されたはずだよ。そのバン○イも、ナ○コと統合したから権利は今のバン○イナ○コが持っている。それで、サ○ンナイトの新作開発にはフ○イトプランから新たに独立して会社を興したFELIST○LLAがまた関わってたりするんだ」
「な、なんて?」
どうやらふーみんはゲーム会社の名前が次々に出て混乱している様だ。

「ゲーム会社はこの40年で統廃合が進んだんだよ。統合なら権利もそのまま丸ごと移るからいいけど、廃業してしまうとゲームの権利は売りに出されて資金回収されるんじゃなかったっけ?その過程で有名作ならその権利は引き継がれていくけど、それ以外はどうなってしまうか分からない」
「それを救いたいんですね。先輩は」
「そう!人知れず去って行ったゲーム会社は意外に多い。ゲームの制作っていうのはある意味、博打のようなものだからね。製作者は面白いものを作ってやる!という意気込みを持って作っているはずだよ。けど、それがウケるかどうかは出してみないと分からない。何人もの人が、何年もかけて、何億と予算が掛かっていようとも、時の運なのさ。例えば『シェ○ムー』とか、この手の話題には名前が上がりやすいゲームタイトルだよ」
ヒメの方を見たらまた首を振っていた。これからはゲームの分野も教えてあげないといけないな。

代わりにチカ丸が頷いた。
「シェ○ムー、知ってる。」
わざわざ席を立ち、そのまま空いているスペースの方に行く。どうやら何かするらしい。
彼女は掌を前に出し構えた。そして、一歩踏み出す。そこから今度は2歩退く。どうも武術の型のようだ。なめらかな動きだけど四肢には力がこもっているのが、見ていて分かる。
パンッ!
貯めた力を一気に開放するかの如く、力強い踏み込みと共に掌が突き出された。その掌打の勢いや、猛虎も倒せそうだ!
「その技!鎧○だな!?」
こちらを見たチカ丸がニヤリとした。
「何ですか⁉千鹿さんだけズルいですっ!先輩、私にも教えてください!」
チカ丸がヒメに対して構えて言う。
「お前には関係ない」
「ナイス!」アタシは親指を立てた。
「なんでですかっ⁉」

「アンタらは男子小学生か、」ふーみん達は呆れている。
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