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「失礼します。」
今日、本当に来るのかな?と思い始めた頃、ヒメがチカ丸と連れだってやってきた。
彼女がアタシの前に立つ。
「あの、コレ」
受け取った紙袋にはクッキーが入っていた。しかもちょっと高級そうなヤツ。どうやら覗いていたことに対するお詫びらしい。
(わざわざ買ってきたのか?)
ヒメの顔を見たらその目は泳いだ。何も言わないところを見ると、昨日の事は公にされたくないようだ。そういう事ならとアタシは言った。
「かいちょ、お菓子貰ったー。お茶淹れて」
かいちょがこちらを見た。見ただけで何も言わずにっこり笑う。きっと何か感じ取ったんだろうなぁ。彼女はどこまでこちらの心理を読んでくるんだ?恐ろしい。
分かっていないであろう、ふーみんが言う。
「お菓子買ってきてくれたの?私も駄菓子、用意してたのに。気を遣わなくてもいいんだよ?」
「ええ。皆さんで召し上がってください」
「そう?じゃあ、どっち食べようか」
「だがしとクッキーどちらも食べればイイ」
「名案だよ。チカちゃん」
こちらも気付いていないであろうチカ丸とはなっち。
ヒメが突っ立ったままなので、アタシは空いていた隣の席をポンポンと叩き、座る様に促した。
しかし、彼女は座ろうとしない。思いつめた様子でアタシを見下ろしてくる。
「あのっ!」
声を張り上げ、明らかにヒメの様子はおかしい。せっかく何事もなかったかのように流そうとしていたのに、これでは台無しだ。
彼女は意を決した様に言った。
「先輩、スキです。」
突然の出来事に部室は静まり返った。
(ド直球・・・・・・)アタシも言葉を失った。
ヒメが好意を寄せてくれているのはその言動から分かっていた。けど、それは恋愛とかそういうのではなく、敬意としてのものだろうとアタシは考えていたのだ。予想は外れた。
「中学の頃からずっとスキだったんです。図書室で一緒にお喋りするが私の楽しみでした。けどそれだけじゃダメなんだと、先輩が卒業するまで気が付かなかったんです」
彼女がスマホを取り出した。
「あの、コレ!」
それをアタシの前に差し出す。
彼女の意図が分からない。最近の告白はスマホで何かやり取りするのか?
戸惑うアタシの目の前でヒメが画面を操作する。出てきたのは、ある小説投稿サイトだった。
「私、先輩の様になりたくて小説書き始めたんです!先輩みたいに好きな事を仕事として、一緒に夢を追いかけてみたいんです!」
「は?」
「私が書いた小説、読んで意見を聞かせてください!」
冷や汗がどっと溢れてきた。アタシは今、盛大に勘違いしていたのだ!はずかしーぃ‼
「ああーぁ!そっちかー!」
シンと静まり返っていた部室が再び動き出す。
「帰蝶ちゃん小説書いてたんだね」
「美濃、小説家目指してる」
「へ、へー、そうなんだ。」
「プッ!・・・・・・ふふっ」
「いやー、急に何言いだすのかと思ってビックリしたよ。ヒメ」
ヒメはもういっぱいいっぱいになってしまったのか、耳を真っ赤にして何も答えられないでいる。
硬直する彼女からスマホを受け取った。
「そうか、そうか。小説ねー。そういう事ならアタシがズバット論評してあげようじゃないか。あははは、」
アタシは動揺を隠すため、黙々と文字を読み進めた。
ボリボリ。クッキーを摘まむ。
ズズッ。紅茶をすする。
ヒメの小説はなかなのボリュームで終わりが見えてこない。書き始めたばかりにしては凄い文量だ。文字が溢れてきてしょうがないといった感じか?
「ハァ、」
少し目がしょぼしょぼする。視線をスマホからホワイトボードの上に掛かっている時計へ移す。もうそろそろふーみんの帰る時間だ。
「あの、どうですか?」ヒメがおずおずと聞く。
「うーん」
「・・・・・・」
ヒメだけでなく皆アタシの言葉に耳をそばだてている。
(やりにくい)
さっきまでチカ丸を話のネタにして皆でお喋りしていたのだけれど、どうにもこちらに意識が向いている気がして、アタシは小説に集中できなかった。内容がいまいち頭に入ってこない。こんな状態で感想を言っても的外れになりそうだ。
アタシは席から立った。
「全部読めそうにないから、今日はここまでにしようか」
「あの、途中まででもいいので感想を聞かせてくれませんか?」
一瞬迷ったけど、断った。
「今日、帰ったらちゃんと全部読むから。明日またここにおいでよ。じっくりアタシの論評を聞かせてあげようじゃないか」
ヒメは煮え切らない様子だ。じれったいといった感じか?早く楽になりたくてしょうがないのだろう?誰がそんな簡単に楽にさせてやるものかっ!こっちは昨日の事も含めて散々振り回されたんだぞ?
はなっちが言う。
「帰蝶ちゃん、覚悟しておいた方がいいよ。たぶん話が長くなるから」
ふーみんも言う。
「そうそう。月の話は嫌になるくらい長いんだから」
ヒメが応えた。
「はい。知ってます♪」
「失礼します。」
今日、本当に来るのかな?と思い始めた頃、ヒメがチカ丸と連れだってやってきた。
彼女がアタシの前に立つ。
「あの、コレ」
受け取った紙袋にはクッキーが入っていた。しかもちょっと高級そうなヤツ。どうやら覗いていたことに対するお詫びらしい。
(わざわざ買ってきたのか?)
ヒメの顔を見たらその目は泳いだ。何も言わないところを見ると、昨日の事は公にされたくないようだ。そういう事ならとアタシは言った。
「かいちょ、お菓子貰ったー。お茶淹れて」
かいちょがこちらを見た。見ただけで何も言わずにっこり笑う。きっと何か感じ取ったんだろうなぁ。彼女はどこまでこちらの心理を読んでくるんだ?恐ろしい。
分かっていないであろう、ふーみんが言う。
「お菓子買ってきてくれたの?私も駄菓子、用意してたのに。気を遣わなくてもいいんだよ?」
「ええ。皆さんで召し上がってください」
「そう?じゃあ、どっち食べようか」
「だがしとクッキーどちらも食べればイイ」
「名案だよ。チカちゃん」
こちらも気付いていないであろうチカ丸とはなっち。
ヒメが突っ立ったままなので、アタシは空いていた隣の席をポンポンと叩き、座る様に促した。
しかし、彼女は座ろうとしない。思いつめた様子でアタシを見下ろしてくる。
「あのっ!」
声を張り上げ、明らかにヒメの様子はおかしい。せっかく何事もなかったかのように流そうとしていたのに、これでは台無しだ。
彼女は意を決した様に言った。
「先輩、スキです。」
突然の出来事に部室は静まり返った。
(ド直球・・・・・・)アタシも言葉を失った。
ヒメが好意を寄せてくれているのはその言動から分かっていた。けど、それは恋愛とかそういうのではなく、敬意としてのものだろうとアタシは考えていたのだ。予想は外れた。
「中学の頃からずっとスキだったんです。図書室で一緒にお喋りするが私の楽しみでした。けどそれだけじゃダメなんだと、先輩が卒業するまで気が付かなかったんです」
彼女がスマホを取り出した。
「あの、コレ!」
それをアタシの前に差し出す。
彼女の意図が分からない。最近の告白はスマホで何かやり取りするのか?
戸惑うアタシの目の前でヒメが画面を操作する。出てきたのは、ある小説投稿サイトだった。
「私、先輩の様になりたくて小説書き始めたんです!先輩みたいに好きな事を仕事として、一緒に夢を追いかけてみたいんです!」
「は?」
「私が書いた小説、読んで意見を聞かせてください!」
冷や汗がどっと溢れてきた。アタシは今、盛大に勘違いしていたのだ!はずかしーぃ‼
「ああーぁ!そっちかー!」
シンと静まり返っていた部室が再び動き出す。
「帰蝶ちゃん小説書いてたんだね」
「美濃、小説家目指してる」
「へ、へー、そうなんだ。」
「プッ!・・・・・・ふふっ」
「いやー、急に何言いだすのかと思ってビックリしたよ。ヒメ」
ヒメはもういっぱいいっぱいになってしまったのか、耳を真っ赤にして何も答えられないでいる。
硬直する彼女からスマホを受け取った。
「そうか、そうか。小説ねー。そういう事ならアタシがズバット論評してあげようじゃないか。あははは、」
アタシは動揺を隠すため、黙々と文字を読み進めた。
ボリボリ。クッキーを摘まむ。
ズズッ。紅茶をすする。
ヒメの小説はなかなのボリュームで終わりが見えてこない。書き始めたばかりにしては凄い文量だ。文字が溢れてきてしょうがないといった感じか?
「ハァ、」
少し目がしょぼしょぼする。視線をスマホからホワイトボードの上に掛かっている時計へ移す。もうそろそろふーみんの帰る時間だ。
「あの、どうですか?」ヒメがおずおずと聞く。
「うーん」
「・・・・・・」
ヒメだけでなく皆アタシの言葉に耳をそばだてている。
(やりにくい)
さっきまでチカ丸を話のネタにして皆でお喋りしていたのだけれど、どうにもこちらに意識が向いている気がして、アタシは小説に集中できなかった。内容がいまいち頭に入ってこない。こんな状態で感想を言っても的外れになりそうだ。
アタシは席から立った。
「全部読めそうにないから、今日はここまでにしようか」
「あの、途中まででもいいので感想を聞かせてくれませんか?」
一瞬迷ったけど、断った。
「今日、帰ったらちゃんと全部読むから。明日またここにおいでよ。じっくりアタシの論評を聞かせてあげようじゃないか」
ヒメは煮え切らない様子だ。じれったいといった感じか?早く楽になりたくてしょうがないのだろう?誰がそんな簡単に楽にさせてやるものかっ!こっちは昨日の事も含めて散々振り回されたんだぞ?
はなっちが言う。
「帰蝶ちゃん、覚悟しておいた方がいいよ。たぶん話が長くなるから」
ふーみんも言う。
「そうそう。月の話は嫌になるくらい長いんだから」
ヒメが応えた。
「はい。知ってます♪」
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