ゆるゾン

二コ・タケナカ

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月曜の放課後、アタシは少し緊張しながらヒメが来るのを部室で待っていた。みんなはいつもと変わらずお喋りしている。彼女達に緊張しているのを悟られない様、テーブルにつっぷしてダラダラした。
「あーつーいー」
「確かに暑いですね」
かいちょが豊満な胸を持ち上げて応えた。
なんで?アタシはただ暑いと言っただけなのに。お肉が多い分、余計に暑いのだと見せつけているのか?
こちらの視線に気づいたかいちょが言う。
「胸の下が汗ばんで大変なんです」
「うわぁ、、、」
アタシには想像もつかない理由だった。胸の下?胸に下なんてあったためしがない。

「分かる分かる。夏は大変よね」
「あー、分かるぅ」
ふーみんとはなっちも同意して胸を押さえている。
(いや、アンタ達はどちらかといえば、こっち側の人間でしょうに)
アタシの言わんとする事を察したふーみんが言う。
「私、脱いだら凄いんだから」
格好つけようとしたのか手で髪を払ったが、今日も暑さ対策で髪はポニーテールにしているのでその手は空を切った。
「そういう事にしておいてあげよう。可愛そうだから」
「アンタに同情されたくないわよ!だいたい、会長と一緒にいれば誰だって小さく見えるわよ」
「そうそう。」
かいちょが両腕でぎゅっと胸を抱きしめている。隠そうとしてるの?ソレ。

「うちの高校も水泳の授業があったら、アンタに見せつけてあげたのに。あーザンネン」
「元々プール自体が無いよね。この学校。でも水泳部はあるでしょ?不思議じゃない?」
「ああ、あるわね。この前もなんかの大会に出てた気がするわ。しかも、そこそこ強豪らしいわよ」
「プールも無いのに強いなんて、うちの高校の七不思議だよ」
「はなっち、理科室の謎は前に解決したから今は六不思議だよ」
アタシ達の疑問にかいちょが応えた。
「水泳部はお隣の商業高校に行って部活をしているんですよ」
「七不思議がまた減った、」
「プッ!」

「だいたいプール作るにもお金かかるし、作ったら作ったで水道代だって馬鹿になんないだろうからね。1つで十分だよ。うちの高校には無くてよかった。もしこっちに作られてたら、あたしゃ商業高の方に行ってたかもしれない」
「そんな理由で⁉・・・・・・アンタ、泳ぎも苦手なのね」
「泳ぎが苦手というか(確かに苦手だけど)スク水に着替えたアタシを想像してみれば分かるじゃないか。必ず『小学生がいる』って言うやつがいるからね?絶対だよ」
「私も水泳の授業が無いのでこの高校を選んだというのはあります」かいちょが少し照れながら言った。
かいちょの場合はアタシとは真逆の悩みからだろう。水泳の授業なんてしたら男子達の注目を一身に浴びたに違いない。
「会長まで⁉水泳くらいで高校変えるなんて、アンタ達自由すぎよ」
「アタシはフリー(自由)しか泳がない」
「は?」
「風香ちゃん、今のアニメのセリフだから。それと、この二人と比べちゃダメだよ」

ハァーと、ため息をついてふーみんが言う。
「久しぶりに泳ぎたいわねぇ」
「ふーみん、そんなに水泳得意なの?」
「私、小学生の頃は男子達より速かったんだから。いつも1番だったのよ?」
「5人しかいないのに、1番じゃあ」
「うるさい。」
「それに山奥の学校だから水泳の授業は川でしてたんでしょ?流れに乗れば早いよ」
「アンタ、山奥だって馬鹿にし過ぎ!プールくらいあったわよっ!5人しかいないから貸し切り状態だったけどね」
「か、貸し切り?なんて贅沢な」
「1人1人専用レーンを割り当てられてずっと泳がされてたわ」
「ふーみんの運動能力の高さはその時、養われたわけか」

彼女がお嬢様気質なのも何となく分かった気がする。ふーみんだけ女の子の5人しかいないクラスでは、男子達の関心は全て彼女に向いていたに違いない。男子達にちやほやされていたのか、それとも下僕のように従えていたのか、それは分からないけど自分が1番だという自覚は自然と養われていったはずだ。
アタシに対してやたらとちょっかいかけてくるのは、同性へ接する機会が少なかった影響か?それが彼女のツンデレの正体なのかもしれない。

ふーみんと目が合った。
「アンタ今、私の事バカにしてたでしょ?」
「バカになんてしてないよ」
やれやれ、このツンデレときたら。
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