ゆるゾン

二コ・タケナカ

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「私、アニメ好き。」
それまで無表情にパイセンの後ろに立っていた娘が唐突に言葉を発した。
「そうなんだ!」
同士が増えるのは大歓迎だ。アタシは嬉しくなって笑顔を向けたのだけれど彼女はコクリと頷いただけで、その表情は読み取れないまま。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

「アンタ、なに1年生を困らせてるのよ」
(困っているのはこっちなんですけど、)
見かねたふーみんが話を進める。
「ねえ、なんでフード被ってるの?」
(そこから攻める⁉相変わらず遠慮がないな。このコミュ力おばけは)

関ケ原 千鹿。彼女は少し近寄りがたい見た目をしていた。制服の上にパーカーを羽織って、おまけにフードまで被っている(この前会った時もフードは被っていた)海外では普通に被っている人もいるフードだけど、日本でそれをやってしまうと怪しい人認定されてしまうので被っている人なんてほとんど見かけない。それを彼女は平然としている。だからアタシはちょっと距離を置いていたのだ。

ふーみんに言われて少し戸惑いを見せた彼女だったが、被っていたフードを取った。その下から現れたのはこれまた頭をすっぽり覆う布だった。
「あぁ、それって何だっけ?宗教の関係で付けてるんでしょ?」
(ズバズバ切り込んでいくなぁ。ふーみんよ、そういう事はもう少しオブラートに包んだりしないの?)
「ヒジャブ。」
彼女からは一言で帰ってきた。

パイセンが代わりに説明する。
「こいつはハーフなんだよ。確かアラブだっけ?中東の、」
「ドバイ。」
「そうそう。日本語はまだ慣れていないみたいでな。面倒見てやってくれ」
(それでか、)
彼女の服装もそうだけど、その容姿も日本人離れしている。手足は長くスラっとしていて背も高い。際立っているのはその顔。彫りが深く、目鼻立ちもはっきりしていてまるでモデルの様だ。それも近寄りがたさを醸し出している要因かもしれない。
だけど、どこか親近感を覚えるのはやはり日本人の血を引いている為か。ハーフ特有の日本人に無い物を持っていながら、日本人らしさも併せ持っているというのはどうしても羨望の目で見てしまう。きっとモテてしょうがないに違いない。うらやましい。

少し彼女の事が分かったので、改めて聞いてみた。
「アニメは何が好きなの?」
「呪術○戦。」
「おお!」意外なタイトルが上がった事で嬉しくなってしまった。おまけに彼女は右手を胸の前に出し、その中指を人差し指に巻き付けるような”印”のポーズまでとってくれているではないですか!2年生組なんて誰も分からなかったのに。
「Territorial expansion immeasurable void」彼女がポーズと共になにかつぶやいた。
「? テリトリアルは領土、エクスパンションは拡張、イメジャラブルは計り知れない?果てしない?ヴォイドは空虚・・・・・・もしかして⁉」
アタシも彼女と同じポーズを取った。
「領○展開 無○空処!」
彼女がやっと笑った。ほんの少し口の端を上げただけだけど。
「コレ、分かったヒト、あなたハジメテ」
「いやぁ、流石にアタシもポーズをとって無かったら分からなかったかもしれないよ」
彼女がコレも分かるか?と拳を突き出し言った。
「Black Flash!」
「○閃!そのままじゃん!」
「アンタ達だけで盛り上がってるところ悪いんだけど、こっちは何の事かさっぱりよ」頬杖をついて見ていたふーみんが言う。
「っていうか、なんで英語なの?アラブの言葉って、、、」
「国の言葉、アラビア語。でもドバイ、他の国から来た人が多い。だから英語も話す。アニメも英語でやっている」
「英語に直すと中二病みたいでおもしろいなぁ」
「中二病、シッテル」
彼女がまたポーズをとる。今度は片手で顔面を覆う様な、こってこての中二病ポーズだ。しかし元が美人で無表情なため、まるでモデルが撮影のポーズを取っているかの様。素材がイイというのは羨ましい。何をしても病気に見えないよ、ソレ。

「気に入った!君にはあだ名をつけてあげよう。そうだなぁ、名前が千鹿だからチカ丸で」
「プッ!」
「アンタ、また変わったあだ名を」
「ふーみんに言われたくはないよ」
「普通に千鹿ちゃんでいいじゃん」はなっちまで苦言を言う。みんなアタシが親しみを込めてあだ名で呼んであげているのにイヤなの?
けど、名付けられた本人はコクリと頷いた。
「日本らしくてイイ。」
「ほら!ほらー!気に入ったって」
「平安時代。」ムフーと、彼女は鼻で息を吐きとても満足そうだ。
(この娘、変わってるな。アタシが言うのもなんだけど、)
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