ゆるゾン

二コ・タケナカ

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ヒメとは顔なじみではあるけど、アタシにはやっぱり違和感があった。
(昔はもっと、おとなしい娘だったんだけどなぁ?)
アタシが知っているヒメは物静かで、こちらが喋りかけても二言三言返事が返ってくるだけ。だからアタシはずっと一人で喋り続けていた。アニメやゲームの話を聞いてもらえるだけで良かったから。今の様にノリで返してくれるなんて意外だ。
それに見た目だって変わってしまった。以前はメガネをかけ、髪は三つ編み、それに加え図書委員属性という3点セットを備えた『ザ・文学少女』だったのに(アニメでもそんな完璧なキャラそうそういないぞ?)今、目の前にいる彼女はメガネを掛けておらず、髪だってストレートのロングに様変わりして垢抜けている。まるで親戚の子がしばらく見ないうちに大人になってしまっていたくらいの変化だ。
「ところで、ヒメもしかして高校デビューしたの?随分と印象が変わったじゃないのさ」
「ええ、少しだけ」
彼女は照れてしまった。

「ねえ、なんでヒメなの?」ふーみんがズカズカと踏み込んでくる。
「名前が帰蝶だからだよ」首をかしげるふーみん。分かってないな?この娘。
「きちょうのきは帰宅の帰。ちょうは昆虫の蝶。」
指で空に漢字を書きながら説明する。
「帰蝶っていうのは織田信長の正室、濃姫の”いみな”だよ。だからヒメ」
「あぁ、」一応返事はしたけど、ふーみん本当に分かってる?相変わらず歴史は苦手らしい。
「うちの母が戦国ファンなのでこんな名前になってしまったんです。」
「もう少し考えてもらいたいものだよねぇ、子供の名前なんだから」
「まったくです。」
こうやってヒメとは気が合うからずっと一緒に図書委員を続けられたんだろう。

「私、髪型が姫カットだからヒメって呼ばれてるのかと思ったわ」
「ああ、これですか、」
ヒメが艶のある黒髪を手で軽く払った。サラサラと髪がなびく。
「先輩からヒメって呼ばれていたから、思い切って試してみたんです。似合ってますか?」
「似合ってるよ。姫カットって今、海外でも人気があるらしいわね」
ふーみんの言葉にコクリと頷いてから、ヒメの視線がこちらに向いた。
「似合ってるよ」
「嬉しいです♪」アタシには満面の笑みが帰ってきた。
(あっれ―――っ?こんな娘だったかなぁ?)
アタシの知ってる彼女はもっと感情控えめの娘だったのに。きっと久しぶりに会った事で少し浮かれてしまっているに違いない。

そんなに喜んでくれるとこちらが恥ずかしくなってくるので、少し茶化してみる。
「アニメでもよく出てくるよね。前髪パッツンでサイドは顎のあたりで切りそろえる髪型。姫カットで思い浮かぶのは、ふ○いんぐうぃっちのヒロイン、」
「木○真琴。」すかさず答えたヒメ。
「む、やるなぁ。じゃあこれは分かる?賭ケグ○イの、」
「蛇○夢子。」
「ぐっ、俺○妹が、」
「五○瑠璃。先輩に勧められた本は全部、読みました」
「これだけ即座に名前が出てくるとは。アタシの英才教育のたまのもか」中学の頃はただ一方的に喋っていただけなんだけど。
「余計な知識を後輩に植え付けるんじゃない。アンタ頭いいんだから勉強の方を教えてあげなさいよ」ふーみんに怒られてしまった。

「風香さん知らないんですね、」かいちょがためらいがちに言う。その言葉をはなっちが続けた。
「帰蝶ちゃんは1年生の首席だよ」
「なっ⁉」ビックリするふーみん。この展開、前にもあったな。
「ほら、覚えてない?今年の入学式で新入生代表の挨拶をした子がめちゃくちゃ美人だって、男子達が騒いでたでしょ?」
「ああ!あの時の子」
「や、やめてください」恥ずかしがるヒメ。
(ん?こっちの方が見覚えがあるな)
引っ込み思案で照れ屋さん。それがアタシの中のヒメだ。

「まさか、この学校の首席2人が同じ中学の先輩と後輩だなんて、」恐れ入ったか、ふーみんよ。アタシもヒメが首席だとは知らなかったけど。こんなに出来る子だったのか。
「私なんか先輩の足元にも及びませんよ、ほんとに。先輩はアニメのタイトルや登場人物だけじゃなく、放送されていた年もほとんど覚えているんですから」
「それに加えてセリフまでだいたい覚えてる。いっつもそれでごっこ遊びしてるもんね」はなっちも加わる。
「そうです!図書委員の頃は先輩の話を聞くのがいつも楽しみだったんです」
「フォフォフォ!そうか、そうか、もっと崇め奉りたまえ」
「そんなの覚えていてもテストの役には立たないわよ!」
「わたくし、歴史も得意ですが、ナニか?」
「ぐっ、実力があるだけに何も言い返せないわ。くやしい、」ふーみんは唇をかみしめた。
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