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フルーツサンドの優しい甘さで心を満たし、若干くすぶっている不満も紅茶で流し込み、このまま平穏に今日の部活は終わろうかという所へパイセンがやってきた。
「お、いたいた」
この前の事などすっかり忘れたかのように、ニコニコしながら部室に入って来るパイセン。
(アタシまだ謝ってもらってませんけど?)
抗議の意思を込め座ったまま挨拶する。
「パイセン、コンニチワ」内心はドキドキしているので声がこわばってしまった。
こちらの態度が冷かった為か、彼女はアゴをさすって不思議そうにしている。
「ま、いいか。」
パイセンがどかりと腰を下ろす。その後ろにこの前の1年生二人が控えて立った。
「パイセン、新しい舎弟ですか?あっしにも弟分が出来るんですね」
「何言ってるんだ?お前」
「月光さん!そういうのやめてください」
なんだよ。他の生徒に見られると勘違いされるからって、挨拶は普通にしてあげたじゃないのさ。一年生の前だから気を遣ってあげたのに。
「こいつらは後期から生徒会に入る・・・・・・ホラ!挨拶」
パイセンに促され挨拶する1年生。
「あ、1年生の美濃 帰蝶(みの きちょう)といいます。書記をすることになりました。よろしくお願いします。」
「私、関ケ原 千鹿(せきがはら ちか)。会計デス」
「この前紹介するつもりだったんだけど、あの時は伊吹山が泣いてただろ?それでうやむやに、」
「先輩っ!私、泣いてませんから!」すぐさま否定するふーみん。
また蒸し返すのも面倒くさいのでアタシは黙った。パイセンも同じ気持ちだったのかサラリと流す。
「そうか。アタシにはそういう事はよく分からん」
違った。元々こういう大雑把な性格だったんだ、この人。
パイセンが気に留める事無く話を進める。
「お前ら、会長は放課後だいたいこの理科室にいるから、用事がある時はここに来るといい。お茶も出してくれるしな」
「ええ。気兼ねなく遊びに来てください。そうだ。カップを増やさないといけませんね」
(この部活の部長アタシなんですけど?)
生徒会にはちゃんと生徒会室があるのに、これではアタシの部室が生徒会出張所みたいだ。まあ、いいけど。
「お菓子もあるから、遠慮しないで食べに来てね」ふーみんも後輩の前で人当たりの良さを発揮する。
もうふーみんの事は大丈夫だろう。それよりもアタシには美濃帰蝶と名乗った彼女の方が気になってしょうがない。さっきからこちらをチラチラとその娘が見てくる。それに、
(あれぇ?この娘の名前・・・・・・でも、)
不思議そうにしているアタシをはなっちが笑う。
「月光ちゃんやっぱり気付いてなかったでしょ?帰蝶ちゃんだよ」
「え?本当に⁉」
「先輩!覚えていないなんて、ひどいです!」
覚えていなかった訳じゃない。ただ、アタシの知っている彼女とあまりにも見た目が違うので記憶と合致しなかっただけだ。
「いやぁー。久しぶり、ヒメ」
「お久しぶりです先輩。と言ってもこの前会ってますけどね」
「全然気づかなかったよー。見違えたじゃん!」
中学の頃、アタシは図書委員だった。
図書委員は本の貸し出しの為に放課後は図書室に待機していなといけないので、うちの学校では人気の無い係だった。特に部活へ力を入れている生徒達には。
アタシはそこに目を付けた。本を借りにくる生徒はほとんどいなかったし、図書委員に選ばれる生徒なんて各委員を決める学級会の時にじゃんけんで負けたとか、おとなしい生徒が押し付けられて選ばれるのがほとんどだったので、そういう生徒の代わりにアタシがほぼ毎日の当番を務めた。
狙いは放課後の部活だ。アタシは部活に興味が無かったので(参加が強制だった)図書当番を理由に先生へ掛け合って部活を免除してもらっていたのだ。しかも本を読み放題なんてアタシにとっては願ったり叶ったりの係だった。
そうやって築き上げたアタシのサンクチュアリに同じく図書委員として居たのがヒメだ。
「なんだ、お前ら知り合いだったのか」
「同じ中学なんですよ。ほら、正門を出た反対側にある中学です」
「ほー、」
「海津先輩とは図書委員でずっと一緒だったんです」
「ヒメも同じ高校に入ってたんだね。知らなかったよ」
「私、先輩に会いたくてこの高校に入ったんですよ?図書館にいるのかと思って放課後は通っていたのに全然会えなくて、こんな所に居たんですね」
「ここがアタシの新たなサンクチュアリさ。ゾン研っていう部活を作ったんだ」
「さすが先輩です。」
ふーみんとはなっちがこっそり話しているのが聞こえてくる。
「月にも友達いたのね。花だけかと思ってた」
「うん。月光ちゃん、だいたい一人でいるけどね」
「誰がぼっちだッ!」すかさずツッコむ。
「そうです!先輩はぼっちじゃありません。例えるなら孤高なる野良猫です。」
「略して孤猫」と、返してくるはなっち。
「それ、ぼっちだよッ!」二人にツッコむアタシ。
「優しくすると直ぐになついて、ちっちゃくてカワイイんです」ヒメも更に乗ってくる。
「それ、子猫じゃないか!意味が変わってるっ」
流れる様に展開するボケとツッコミにかいちょが声を殺して笑っている。ふーみんの方は呆れているというよりあっけに取られている様だ。パイセンは何言ってるのか理解していないようだし、その後ろの娘は表情一つ崩していない。
フルーツサンドの優しい甘さで心を満たし、若干くすぶっている不満も紅茶で流し込み、このまま平穏に今日の部活は終わろうかという所へパイセンがやってきた。
「お、いたいた」
この前の事などすっかり忘れたかのように、ニコニコしながら部室に入って来るパイセン。
(アタシまだ謝ってもらってませんけど?)
抗議の意思を込め座ったまま挨拶する。
「パイセン、コンニチワ」内心はドキドキしているので声がこわばってしまった。
こちらの態度が冷かった為か、彼女はアゴをさすって不思議そうにしている。
「ま、いいか。」
パイセンがどかりと腰を下ろす。その後ろにこの前の1年生二人が控えて立った。
「パイセン、新しい舎弟ですか?あっしにも弟分が出来るんですね」
「何言ってるんだ?お前」
「月光さん!そういうのやめてください」
なんだよ。他の生徒に見られると勘違いされるからって、挨拶は普通にしてあげたじゃないのさ。一年生の前だから気を遣ってあげたのに。
「こいつらは後期から生徒会に入る・・・・・・ホラ!挨拶」
パイセンに促され挨拶する1年生。
「あ、1年生の美濃 帰蝶(みの きちょう)といいます。書記をすることになりました。よろしくお願いします。」
「私、関ケ原 千鹿(せきがはら ちか)。会計デス」
「この前紹介するつもりだったんだけど、あの時は伊吹山が泣いてただろ?それでうやむやに、」
「先輩っ!私、泣いてませんから!」すぐさま否定するふーみん。
また蒸し返すのも面倒くさいのでアタシは黙った。パイセンも同じ気持ちだったのかサラリと流す。
「そうか。アタシにはそういう事はよく分からん」
違った。元々こういう大雑把な性格だったんだ、この人。
パイセンが気に留める事無く話を進める。
「お前ら、会長は放課後だいたいこの理科室にいるから、用事がある時はここに来るといい。お茶も出してくれるしな」
「ええ。気兼ねなく遊びに来てください。そうだ。カップを増やさないといけませんね」
(この部活の部長アタシなんですけど?)
生徒会にはちゃんと生徒会室があるのに、これではアタシの部室が生徒会出張所みたいだ。まあ、いいけど。
「お菓子もあるから、遠慮しないで食べに来てね」ふーみんも後輩の前で人当たりの良さを発揮する。
もうふーみんの事は大丈夫だろう。それよりもアタシには美濃帰蝶と名乗った彼女の方が気になってしょうがない。さっきからこちらをチラチラとその娘が見てくる。それに、
(あれぇ?この娘の名前・・・・・・でも、)
不思議そうにしているアタシをはなっちが笑う。
「月光ちゃんやっぱり気付いてなかったでしょ?帰蝶ちゃんだよ」
「え?本当に⁉」
「先輩!覚えていないなんて、ひどいです!」
覚えていなかった訳じゃない。ただ、アタシの知っている彼女とあまりにも見た目が違うので記憶と合致しなかっただけだ。
「いやぁー。久しぶり、ヒメ」
「お久しぶりです先輩。と言ってもこの前会ってますけどね」
「全然気づかなかったよー。見違えたじゃん!」
中学の頃、アタシは図書委員だった。
図書委員は本の貸し出しの為に放課後は図書室に待機していなといけないので、うちの学校では人気の無い係だった。特に部活へ力を入れている生徒達には。
アタシはそこに目を付けた。本を借りにくる生徒はほとんどいなかったし、図書委員に選ばれる生徒なんて各委員を決める学級会の時にじゃんけんで負けたとか、おとなしい生徒が押し付けられて選ばれるのがほとんどだったので、そういう生徒の代わりにアタシがほぼ毎日の当番を務めた。
狙いは放課後の部活だ。アタシは部活に興味が無かったので(参加が強制だった)図書当番を理由に先生へ掛け合って部活を免除してもらっていたのだ。しかも本を読み放題なんてアタシにとっては願ったり叶ったりの係だった。
そうやって築き上げたアタシのサンクチュアリに同じく図書委員として居たのがヒメだ。
「なんだ、お前ら知り合いだったのか」
「同じ中学なんですよ。ほら、正門を出た反対側にある中学です」
「ほー、」
「海津先輩とは図書委員でずっと一緒だったんです」
「ヒメも同じ高校に入ってたんだね。知らなかったよ」
「私、先輩に会いたくてこの高校に入ったんですよ?図書館にいるのかと思って放課後は通っていたのに全然会えなくて、こんな所に居たんですね」
「ここがアタシの新たなサンクチュアリさ。ゾン研っていう部活を作ったんだ」
「さすが先輩です。」
ふーみんとはなっちがこっそり話しているのが聞こえてくる。
「月にも友達いたのね。花だけかと思ってた」
「うん。月光ちゃん、だいたい一人でいるけどね」
「誰がぼっちだッ!」すかさずツッコむ。
「そうです!先輩はぼっちじゃありません。例えるなら孤高なる野良猫です。」
「略して孤猫」と、返してくるはなっち。
「それ、ぼっちだよッ!」二人にツッコむアタシ。
「優しくすると直ぐになついて、ちっちゃくてカワイイんです」ヒメも更に乗ってくる。
「それ、子猫じゃないか!意味が変わってるっ」
流れる様に展開するボケとツッコミにかいちょが声を殺して笑っている。ふーみんの方は呆れているというよりあっけに取られている様だ。パイセンは何言ってるのか理解していないようだし、その後ろの娘は表情一つ崩していない。
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