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かいちょがお茶の準備を始め、ふーみんがパンを取り出す。
「会長、ソーサー借りるね」
皿に乗せられていくパンに、はなっちの視線は釘づけだ。
「こっ、これは!」
「色々食べたいんじゃないかと思って、はなっちの方はプレーンタイプ。こっちのはフルーツサンドにしてみた」
「もう限界だよ!ちょっと、ひと口だけ!」
フルーツサンドへ犬の様にそのままかぶりつくはなっち。
「あ!コラ!お茶淹れるくらい待ちなさいよー、ステイ!ステイッ!」
ふーみんにおでこを抑えられ、彼女は急におとなしくなった。いや、これは始まったな?
「うん、うん。この生地の風味と酸味・・・・・・天然酵母か。だとしてもなぜこんなにもしっとりとした舌触りに?クリームの水分を吸っただけじゃないはず。それにガツンと鼻に抜ける小麦の香りは、もしかして卵もバターも使っていない?よっぽど小麦に自信が無ければ出来るものじゃないよコレ」
ブツブツと独り言が聞こえてくる。
「花?」
不思議がるふーみんへ説明してあげた。
「はなっちは嫌いな食べ物はないし何を食べてもおいしいって言うけど、本当に美味しいものを食べた時はおいしいとは言わない。本気の食レポが始まる」
「何よソレ⁉」
「このクリームも・・・・・・」
ふーみんが驚いている隙を突いて、はなっちは指にクリームをすくいとり舐めた。
「コラ!お行儀が悪い」
「うん。生クリームだけじゃない。わずかに感じる酸味と芳醇な香り・・・・・・マスカルポーネチーズが一緒に練り込まれてる」
「よ、よく分かるわね・・・・・・はな?花⁉」
こちらの声など届かないといった感じにはなっちの目はフルーツサンドを直視している。
「挟んであるフルーツは缶詰なんかじゃなく季節の物を使って新鮮でみずみずしい。その水分が染み出してパンを台無しにしない様、しっかりクリームで挟んである点も作り手のこだわりを感じる」
「ちょっと、月!大丈夫なの?いつもの花じゃない!」
「だいじょうぶ、大丈夫。感動で周りが見えてないだけだから」
こちらの事など気にする事無く、はなっちの食レポが続く。
「これだけ情熱を込められたら食べる側も真摯に向き合わないと失礼というもの。小鳥ちゃん!」
「は、ハイ⁉」
「紅茶はアールグレイにしてくれる?」
「ええ。出来ますよ」
「パンの天然酵母による酸味、クリームに練り込まれたチーズの酸味、フルーツの酸味。少しづつ違う酸味によってこのフルーツサンドは絶妙なバランスを築き上げてる。なら迎える紅茶もベルガモットによって酸味の香りが与えられたアールグレイが最適解!」
それぞれのカップに紅茶が注がれるとベルガモットの爽やかな香りが広がった。
「入りましたよ。では、いただきましょうか」
フルーツサンドを頬張り紅茶をすするはなっち。その顔は緩みきって先ほどまでの緊張感のある表情は消えていた。
「すごいわねー花!いつもと違ってビックリしたわ」
「えへへ」
「ただの食いしん坊じゃなかったのね」
笑い合う二人を眺めていたら、かいちょがこっそり話しかけてきた。
「月光さんは風香さんの誕生日を知っていたのでしょう?」
「んー、何の事でございましょう?小鳥さんったら。ほほほ」
アタシはティーカップを摘まみ、小指をしっかり立ててみせた。
茶化しているのにかいちょは落ち着いた声で話す。
「私の誕生日も答えてましたし、ラ○ンのプロフィールを見れば書いてありますものね」
「んー、ずずっ」
「風香さんの誕生日も一緒に祝おうと今日、パンを持ってきたんですよね?」
「ハァー、なんなんだろうねー、あの娘は。普段はズカズカ踏み込んでくる割に変な所で遠慮するっていうか・・・・・・ラ○ンに誕生日を登録しておくとみんなに通知で知らせてくれるでしょ?なのにわざわざ通知をオフにしてたみたいなんだよねー。8月5日ってこの前の登校日の日じゃん?」
「あら、そう言えば」
「朝からこっちの事をチラチラ見て嬉しそうにしてたかと思えば、いきなり泣いちゃうし。なんでだったのか後で分かったよ」
「ちょっと!月」ふーみんの鋭い視線が飛んできた。名前で呼ぶのはどうやらこのまま押し通すらしい。やれやれ。
「今、私の事バカにしてたでしょ」
「ほほほ、何の事でございましょう」
「言っとくけど、この前のアレは何でもないんだからね!」
「何でもないのに泣くわけあるかっ!」
「泣いてないから。アレは・・・・・・アンタ達をちょっと驚かせようと思っただけよ。演技だから。そう演技だから!」
(ウソつけ!)そう言いかけたけど飲み込んだ。これ以上追及したって意味がない。ふーみんがそうなんだと言うのならそれでいいよ。もう。
彼女は仲間を増やそうと思ったのか、かいちょに視線を向けた。
「だよね?会長」
「そうですね。あの時、風香さんがなにも言わない様にとジェスチャーしてきたので戸惑いましたが、そういう事だったんですね」
「はい?」ちょっと待って。そんな事実アタシ知りませんけど?
「なんで会長はずっと笑わせようとしてきたの?私、笑わない様にするのに必死だったんだから」
「ハァ?」もしふーみんが言う様に、本当にあの泣き顔が演技だったというのならとんだ女狐だなッ!
かいちょがアタシの肩に手を置いた。
「もうやめましょう?これでいいじゃないですか。フフフ」
全部かいちょの思い通りだったって事か・・・・・・やっぱりコイツ抜け目ない。
この悪魔め!
かいちょがお茶の準備を始め、ふーみんがパンを取り出す。
「会長、ソーサー借りるね」
皿に乗せられていくパンに、はなっちの視線は釘づけだ。
「こっ、これは!」
「色々食べたいんじゃないかと思って、はなっちの方はプレーンタイプ。こっちのはフルーツサンドにしてみた」
「もう限界だよ!ちょっと、ひと口だけ!」
フルーツサンドへ犬の様にそのままかぶりつくはなっち。
「あ!コラ!お茶淹れるくらい待ちなさいよー、ステイ!ステイッ!」
ふーみんにおでこを抑えられ、彼女は急におとなしくなった。いや、これは始まったな?
「うん、うん。この生地の風味と酸味・・・・・・天然酵母か。だとしてもなぜこんなにもしっとりとした舌触りに?クリームの水分を吸っただけじゃないはず。それにガツンと鼻に抜ける小麦の香りは、もしかして卵もバターも使っていない?よっぽど小麦に自信が無ければ出来るものじゃないよコレ」
ブツブツと独り言が聞こえてくる。
「花?」
不思議がるふーみんへ説明してあげた。
「はなっちは嫌いな食べ物はないし何を食べてもおいしいって言うけど、本当に美味しいものを食べた時はおいしいとは言わない。本気の食レポが始まる」
「何よソレ⁉」
「このクリームも・・・・・・」
ふーみんが驚いている隙を突いて、はなっちは指にクリームをすくいとり舐めた。
「コラ!お行儀が悪い」
「うん。生クリームだけじゃない。わずかに感じる酸味と芳醇な香り・・・・・・マスカルポーネチーズが一緒に練り込まれてる」
「よ、よく分かるわね・・・・・・はな?花⁉」
こちらの声など届かないといった感じにはなっちの目はフルーツサンドを直視している。
「挟んであるフルーツは缶詰なんかじゃなく季節の物を使って新鮮でみずみずしい。その水分が染み出してパンを台無しにしない様、しっかりクリームで挟んである点も作り手のこだわりを感じる」
「ちょっと、月!大丈夫なの?いつもの花じゃない!」
「だいじょうぶ、大丈夫。感動で周りが見えてないだけだから」
こちらの事など気にする事無く、はなっちの食レポが続く。
「これだけ情熱を込められたら食べる側も真摯に向き合わないと失礼というもの。小鳥ちゃん!」
「は、ハイ⁉」
「紅茶はアールグレイにしてくれる?」
「ええ。出来ますよ」
「パンの天然酵母による酸味、クリームに練り込まれたチーズの酸味、フルーツの酸味。少しづつ違う酸味によってこのフルーツサンドは絶妙なバランスを築き上げてる。なら迎える紅茶もベルガモットによって酸味の香りが与えられたアールグレイが最適解!」
それぞれのカップに紅茶が注がれるとベルガモットの爽やかな香りが広がった。
「入りましたよ。では、いただきましょうか」
フルーツサンドを頬張り紅茶をすするはなっち。その顔は緩みきって先ほどまでの緊張感のある表情は消えていた。
「すごいわねー花!いつもと違ってビックリしたわ」
「えへへ」
「ただの食いしん坊じゃなかったのね」
笑い合う二人を眺めていたら、かいちょがこっそり話しかけてきた。
「月光さんは風香さんの誕生日を知っていたのでしょう?」
「んー、何の事でございましょう?小鳥さんったら。ほほほ」
アタシはティーカップを摘まみ、小指をしっかり立ててみせた。
茶化しているのにかいちょは落ち着いた声で話す。
「私の誕生日も答えてましたし、ラ○ンのプロフィールを見れば書いてありますものね」
「んー、ずずっ」
「風香さんの誕生日も一緒に祝おうと今日、パンを持ってきたんですよね?」
「ハァー、なんなんだろうねー、あの娘は。普段はズカズカ踏み込んでくる割に変な所で遠慮するっていうか・・・・・・ラ○ンに誕生日を登録しておくとみんなに通知で知らせてくれるでしょ?なのにわざわざ通知をオフにしてたみたいなんだよねー。8月5日ってこの前の登校日の日じゃん?」
「あら、そう言えば」
「朝からこっちの事をチラチラ見て嬉しそうにしてたかと思えば、いきなり泣いちゃうし。なんでだったのか後で分かったよ」
「ちょっと!月」ふーみんの鋭い視線が飛んできた。名前で呼ぶのはどうやらこのまま押し通すらしい。やれやれ。
「今、私の事バカにしてたでしょ」
「ほほほ、何の事でございましょう」
「言っとくけど、この前のアレは何でもないんだからね!」
「何でもないのに泣くわけあるかっ!」
「泣いてないから。アレは・・・・・・アンタ達をちょっと驚かせようと思っただけよ。演技だから。そう演技だから!」
(ウソつけ!)そう言いかけたけど飲み込んだ。これ以上追及したって意味がない。ふーみんがそうなんだと言うのならそれでいいよ。もう。
彼女は仲間を増やそうと思ったのか、かいちょに視線を向けた。
「だよね?会長」
「そうですね。あの時、風香さんがなにも言わない様にとジェスチャーしてきたので戸惑いましたが、そういう事だったんですね」
「はい?」ちょっと待って。そんな事実アタシ知りませんけど?
「なんで会長はずっと笑わせようとしてきたの?私、笑わない様にするのに必死だったんだから」
「ハァ?」もしふーみんが言う様に、本当にあの泣き顔が演技だったというのならとんだ女狐だなッ!
かいちょがアタシの肩に手を置いた。
「もうやめましょう?これでいいじゃないですか。フフフ」
全部かいちょの思い通りだったって事か・・・・・・やっぱりコイツ抜け目ない。
この悪魔め!
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