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部室に入って来たかいちょがアタシにはまぶしく見えた。
天空から光が差し、その光を一身に受けた彼女の背中には真っ白な羽根が生えている様に見える。まさに窮地を救ってくれる天使!(実際には廊下側は一面ガラス張りなので差し込んだ光が真っ白な廊下に反射して、その反射光がゆらゆら揺れているだけ)
光をまとった天使がふわふわと光る羽根を散らしながらこちらに向かって来る。
(ああ!天使様!)
「お待たせしました。猪野先輩が用事があるとか言って勝手に出ていってしまったので、早く切り上げてきたんです。今日は・・・・・・」
言い訳しながら近づいてきたかいちょは直ぐにいつもと空気が違うのを察したようだ。言葉を止めた。
アタシは目配せをした。彼女はふーみんの顔を覗き込み「あらー」と、間の抜けた声を出した。
立ち尽くすかちょを引っ張ってふーみんから遠ざかる。一旦作戦を練らないと、
「どうしよう、かいちょ!」
「どーしましょー?」時々、小鳥が飛んでいる様なメルヘンな返事をする事があるかいちょ。今は100羽くらいの小鳥が群れていそうなフワフワに溢れた返事だった。
流石にかいちょだって猛獣は扱えても、涙を流す乙女を扱うには荷が重いか。
彼女が人差し指を立てる。それを可愛くアゴに沿えて、考える様にゆらゆらと体を揺らし始めた。
(よし!いける!)
こういう仕草をする時のかいちょは力を発揮してくれるはずだ。
決意した表情になったかいちょが再びふーみんの前に立つ。
(いいぞ!ふーみんの心をその豊満な胸で包んで癒してあげてくれ!)
しかし彼女はこちらの予想を裏切る信じられない言葉を口にした。
「私、一発ギャグを言いまーす」
(は?)
何言ってるの?羽島さん?アタシ聞き間違えたのかな?
だけど、かいちょの表情は真剣だ。いいや、なんだか含み笑いしてない?
「じゃ、フッ、じゃあ、言いますね。フフッ」
言う前から嫌な予感しかしない。と言うより、なぜこの状況で一発ギャグなんて?
あっけに取られているうちに、かいちょはコホンと1つ咳払いをしてから言った。
「私、朝はバナナとヨーグルトを食べるんです。だからいつもお腹は快腸、プッ!か、かいちょうなだけに、ブフーッ!」
これ程凍り付くギャグをアタシは生涯の中で一度も聞いた事は無い。まるで冬に岐阜の濃尾平野へと吹き下ろす『伊吹おろし』のように寒い!今は真夏ですけど⁉
目の前でかいちょだけが一人お腹を抱えて笑いをこらえている。自分のギャグでよく笑えるね。しかも途中で笑ってしまったから最後まで言えてなかったし。ふーみん、見てみ?ピクリとも動いてないよ?
お笑いには話し手が含み笑いする事で、聞き手の笑いを誘うテクニックがある。他にも最初に張り詰めた空気を作りだし、聞き手の緊張をあおってからポンッとオチを言って笑わせるというギャップを活かしたテクニックもある。
今、かいちょがやろうとしたのはこの2つに当てはまる。一つ目の含み笑いはいつものかいちょのままだ。彼女は居るだけで見る人の心を和ませ笑わせる力を持っている。もう1つは今の緊迫した事態ならば何かきっかけを与えてあげるだけで、大きく状況をひっくり返すことも出来るだろう。
しかし!彼女はお笑いにおいて重要な事を知らない。それは場の空気が温まっているか否かだ。ほかほかに温まった場であればこそ、寒いギャグを言っても、ギャップ落ちを披露してもウケるのであって、こんな冷え切った場で笑わせようなんて無理がある。であればこそ、お笑いライブなどでも前説の人が観客を温めておくことが重要だと言えるのに。
(前説、アタシだったーーーぁ!今日のお客は重いよ!鉄仮面だよ!1℃も上げる事なんて叶わなかったよ。ゴメンかいちょ!連帯責任だ!)
かいちょがまだ一人で笑っている。
「快腸が、プッ!会長にかかってるんですよ?プッ!私、生徒会長だからッ!気付きました?ブフーッ!」
(もうやめて!かいちょ!自分で解説するとか、あり得ないから!これ以上は見てられない!こちらの心が折れそうだよ)
一人で笑い続けるというのもお笑いの新境地の様な気はするけど、これはかいちょが鉄の心臓、もしくは精神攻撃なんてもろともしない、ぽよぽよな赤ちゃんのごとき心臓を持っているから出来るんだ。だって、ふーみんに全く反応がないじゃないか(ただの屍かっ!)アタシなら即死だよ。この空気、即死魔法ザ○キを喰らったくらい怖い!
ああ!どうすればこの冷え切った空気を温められるというのさ!こんなの神様でも来てくれないと、
「よう!会長いるか?」
(神様キターーー‼)
部室に入って来たかいちょがアタシにはまぶしく見えた。
天空から光が差し、その光を一身に受けた彼女の背中には真っ白な羽根が生えている様に見える。まさに窮地を救ってくれる天使!(実際には廊下側は一面ガラス張りなので差し込んだ光が真っ白な廊下に反射して、その反射光がゆらゆら揺れているだけ)
光をまとった天使がふわふわと光る羽根を散らしながらこちらに向かって来る。
(ああ!天使様!)
「お待たせしました。猪野先輩が用事があるとか言って勝手に出ていってしまったので、早く切り上げてきたんです。今日は・・・・・・」
言い訳しながら近づいてきたかいちょは直ぐにいつもと空気が違うのを察したようだ。言葉を止めた。
アタシは目配せをした。彼女はふーみんの顔を覗き込み「あらー」と、間の抜けた声を出した。
立ち尽くすかちょを引っ張ってふーみんから遠ざかる。一旦作戦を練らないと、
「どうしよう、かいちょ!」
「どーしましょー?」時々、小鳥が飛んでいる様なメルヘンな返事をする事があるかいちょ。今は100羽くらいの小鳥が群れていそうなフワフワに溢れた返事だった。
流石にかいちょだって猛獣は扱えても、涙を流す乙女を扱うには荷が重いか。
彼女が人差し指を立てる。それを可愛くアゴに沿えて、考える様にゆらゆらと体を揺らし始めた。
(よし!いける!)
こういう仕草をする時のかいちょは力を発揮してくれるはずだ。
決意した表情になったかいちょが再びふーみんの前に立つ。
(いいぞ!ふーみんの心をその豊満な胸で包んで癒してあげてくれ!)
しかし彼女はこちらの予想を裏切る信じられない言葉を口にした。
「私、一発ギャグを言いまーす」
(は?)
何言ってるの?羽島さん?アタシ聞き間違えたのかな?
だけど、かいちょの表情は真剣だ。いいや、なんだか含み笑いしてない?
「じゃ、フッ、じゃあ、言いますね。フフッ」
言う前から嫌な予感しかしない。と言うより、なぜこの状況で一発ギャグなんて?
あっけに取られているうちに、かいちょはコホンと1つ咳払いをしてから言った。
「私、朝はバナナとヨーグルトを食べるんです。だからいつもお腹は快腸、プッ!か、かいちょうなだけに、ブフーッ!」
これ程凍り付くギャグをアタシは生涯の中で一度も聞いた事は無い。まるで冬に岐阜の濃尾平野へと吹き下ろす『伊吹おろし』のように寒い!今は真夏ですけど⁉
目の前でかいちょだけが一人お腹を抱えて笑いをこらえている。自分のギャグでよく笑えるね。しかも途中で笑ってしまったから最後まで言えてなかったし。ふーみん、見てみ?ピクリとも動いてないよ?
お笑いには話し手が含み笑いする事で、聞き手の笑いを誘うテクニックがある。他にも最初に張り詰めた空気を作りだし、聞き手の緊張をあおってからポンッとオチを言って笑わせるというギャップを活かしたテクニックもある。
今、かいちょがやろうとしたのはこの2つに当てはまる。一つ目の含み笑いはいつものかいちょのままだ。彼女は居るだけで見る人の心を和ませ笑わせる力を持っている。もう1つは今の緊迫した事態ならば何かきっかけを与えてあげるだけで、大きく状況をひっくり返すことも出来るだろう。
しかし!彼女はお笑いにおいて重要な事を知らない。それは場の空気が温まっているか否かだ。ほかほかに温まった場であればこそ、寒いギャグを言っても、ギャップ落ちを披露してもウケるのであって、こんな冷え切った場で笑わせようなんて無理がある。であればこそ、お笑いライブなどでも前説の人が観客を温めておくことが重要だと言えるのに。
(前説、アタシだったーーーぁ!今日のお客は重いよ!鉄仮面だよ!1℃も上げる事なんて叶わなかったよ。ゴメンかいちょ!連帯責任だ!)
かいちょがまだ一人で笑っている。
「快腸が、プッ!会長にかかってるんですよ?プッ!私、生徒会長だからッ!気付きました?ブフーッ!」
(もうやめて!かいちょ!自分で解説するとか、あり得ないから!これ以上は見てられない!こちらの心が折れそうだよ)
一人で笑い続けるというのもお笑いの新境地の様な気はするけど、これはかいちょが鉄の心臓、もしくは精神攻撃なんてもろともしない、ぽよぽよな赤ちゃんのごとき心臓を持っているから出来るんだ。だって、ふーみんに全く反応がないじゃないか(ただの屍かっ!)アタシなら即死だよ。この空気、即死魔法ザ○キを喰らったくらい怖い!
ああ!どうすればこの冷え切った空気を温められるというのさ!こんなの神様でも来てくれないと、
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