ゆるゾン

二コ・タケナカ

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あおたんがまた力なく首を振る。
「二人とも少し浮世離れした所があるので、気をつけてください。海津さんなんて入学式の時、」
(マズイ!)と思ったアタシは声を上げた。
「わー!わー!わー! ぶえっ」ふーみんの手が今度は私の頬を両側から挟んできた。
「小学生か。・・・・・・先生、話してください」
抗議の視線を向けるも、あおたんは語りだした。生徒の個人情報守秘はどこいった?
「去年の入学式です。海津さんには新入生代表の挨拶をお願いしたんですよ」
「それって入試試験で成績がトップの生徒がやるんですよね?」
「ええ。毎年、首席の子が務める事になっています」
「でも、確か入学式の挨拶したのって会長じゃなかった?私、『この子が成績トップだったんだ』って思ってたから覚えてるわよ」
「実は、海津さんはやりたくないと辞退してしまったんですよ。それで急きょ2位の羽島さんに、」
「もーっ!私、ショックだったんですよ!レベルを落として入学したのに首席じゃなかったんですから!しかも代役で挨拶しろだなんて」
「だから会長・・・・・・ううん、もういいわ」
アタシは弁解した。
「あの時はしょうがなかったんだよ。入試で手を抜いて、もし落ちたら話にならないからね。全力でやるしかなかったんだ。それに首席が挨拶するなんて知らなかったんだよ。知ってれば少しは手を抜いたかもしれないけど、」
「ハァー、頭、痛くなってきた」頭の上でふーみんのため息が吹く。
「教師の間でも話題になっていたんです。今年は飛びぬけて優秀な生徒が二人もいると」
「まさかゾン研なんていうふざけた部活が学年トップの集まりだったなんて、」
「そのふざけた部活の集まりが、何のお咎めも受け無いのはなぜだか分かるかね?風香くん。私達が優秀だからだよ、いだだだだだッ!」
ふーみんが肘でグイグイと肩を押してくる。

「しかも辞退しようとした時、なんと言ったと思います?」
あおたんはまだ話を続けるようだ。アタシがワザと話を茶化しているのに通用していない。
「挨拶するくらいなら学校をやめますって言ったんですよ?」
「うわぁ、」ふーみんから色々な感情の混ざったため息が流れてきた。
「そしたら入学式当日、本当に来なかったので先生、慌てて家に呼びに行ったんですから」
「あの時は家が近いのを恨めしく思ったね」
「挨拶するくらい・・・・・・もういいわ」
「これは先生も指導者としてきちんと話し合わないといけないと思って、」
(もうやめて。あおたん)
「学校をやめてどうするのか聞いたんですよ。そしたら『今、友達の家が借金で困っているから私が働いてその友達を支えてあげないといけない』なんて言うんですよ?先生、本当に困ってしまったんですから。教員の間でも話題になっていた優秀な子を入学初日に辞めさせる事になるかもしれないなんて、ヒヤヒヤものでしたよ。これまでの教師生活の中でも一番肝を冷やした体験でしたね」
「あれ?もしかしてその借金で困ってる友達って、」
お前のことだぞ!はなっち。のんきにちんすこう咥えやがって。

「はなっちが入学発表のあった翌日に青ざめた表情でうちにやって来たんだ。ゾンビみたいに。アタシ、高校に落ちたのかと思ってビックリしたんだけど、話を聞いたらもっとビックリしたよ。借金が1億もあるって言うんだから」
「月光ちゃん!」
今日は暴露大会だ!はなっちも巻き込んでやる。
「もう家から追い出される。高校にも行けないかもしれない。将来ずっと借金地獄なんだ。って、この世の終わりみたいに話しやがって!」
「あの時は本当にそう思ってたんだよー!」
「後でよくよく聞いてみたら、そんなに深刻な話でもなさそうだったから良かったけど」
「本当に高校やめて働くつもりだったの?」
「しょうがないじゃないか。ずっと一緒にいる幼馴染なんだから、放っておけないよ」
「月光ちゃん・・・・・・もう私は身も心も月光ちゃんのものだよ」
「身はやめなさい。」

ハァーと大きく息を吐いたあおたん。残っていたお茶を飲み干した。はなっちのボケの効果か、やっと解放してくれるようだ。
まさかこんな暴露をされるなんて、普段から先生をおちょくってはいけないね。何をされるか分かったもんじゃない。
「先生、担任を受け持つことになって不安だったんですよ?優秀な子を一度に二人もだなんて」
「大丈夫!あおたんは良くやってるよ」アタシは親指をビシッ!と立てた。
「ええ。八百津先生はいい先生ですよ」かいちょもニッコリ笑う。
「上から目線はやめなさい。会長もよ!」
「こんな事言うのは部活の中だけだよ?普段なんて従順でおとなしいもんじゃないか」
「私も気兼ねなく言えるのは部活の中だけですから、安心してください」
ふーみんが大きく頭を振った。
「ハァ、頭痛いから私もう帰る。」
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