ゆるゾン

二コ・タケナカ

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「おっ!パイセンだ」本当に来た⁉
アタシはイスから素早く立ちあがった。はなっちも続く。なぜかふーみんまでつられて立っている。
いつも通り両手を腰の後ろに回し、胸を張って、
「おはようございまっす!」
「まっす!」
「ます?」
パイセンはニコニコしながら部室に入って来た。
「ああ、」
手を上げて応えてくれたのを見てからアタシ達はイスに腰を下ろした。
「月光さん、その挨拶やめてもらえませんか?他の人が見ると変に勘違いされてしまうので、」
パイセンもどかりと腰を下ろして言う。
「なんだよ。いいじゃないか。なあ?」パイセンの凛々しい顔と、珍しくムスッとした表情のかいちょの顔がこちらに向く。変に受け応えて板バサミになるのは御免なのでアタシは黙って愛想笑いした。
「挨拶は大切だぞ?」
「生徒会のイメージの問題です!普通にしてくれれば私もなにも言いませんよ。ただでさえ生徒会は入ってくれる人が少ないのに猪野先輩のせいで怖がって余計に人が集まらないじゃないですか」
「ハハハ!だからアタシも人集めはいつもしてるだろ」
「運動部の勧誘じゃないんですよ?分かってます?」
「分かってるって、」
かいちょの小言なんて滅多にない事なのにパイセンに気にする様子はなく用意されたさんぴん茶を飲み始めた。
「あっついなー」そう言いつつ、ゴクゴクと飲んでいく。
(この人、言ってる事とやってる事が違う)アタシなんて猫舌だから冷めるまで待っているのに。
飲み干したパイセンが今度は水道から水を汲み、またゴクゴクと飲みだした。
「せっかくの沖縄土産なんですから、もっと味わってください」
「走ってたから喉が渇いてるんだ」
落ち着いたところを見計らってアタシはパイセンへちんすこうを差し出した。
「今月のシャバ代です。どうぞ受け取ってください。へっへっへっ」
「そういうのですよ!月光さんっ」
「なんだ海津、お前沖縄行ってきたのか?」
「さっき私がお土産だって言ったじゃないですか!」かいちょが突っ込み役に回ってくれるのも新鮮ですねぇ。
「ああ、そうか。修学旅行に行ってたんだったな。で?どこに行ったんだ」
「だから沖縄ですよっ!」パイセンは狙ってるんじゃなくて、天然でボケてくるから大変だねぇかいちょも。
「なんだ奇遇だな。アタシも去年行ってきたんだぞ」
「同じ学校なんだから当たり前ですよ!もーっ!」かいちょは疲れてしまったのかさんぴん茶をすすり始めた。

かいちょの事は気に留めずパイセンが言う。
「沖縄はイイよな!」
「ハイ。やっぱり海はいいですね。」
「ん?沖縄と言えばヤシガニだろ」
(ヤシガニ?)アタシはスマホを取り出し検索をかけた。
「沖縄は珍しい食いモノが多いんだ。アタシはヤシガニが食いたかったんだよ。美味いって聞いたからな。けど、どの食堂にも置いて無くてな」
「ヤシガニって数が減ってるから絶滅危惧種に指定されてるようですよ。だからじゃないですか?」
「そうなのか?食堂で食えないのなら、自分で捕まえて食べてやろうと思ってヤシの木を見つけたら探してたんだけど、結局いなかったな」
(だから、絶滅寸前で数が減ってるから見つからないんじゃ)そんな事を思っていても口に出すと面倒なので飲み込む。
「パイセン、でもヤシガニは毒を持っている事があるから素人が捕まえて食べるのは危険みたいですよ」
「毒?」
「はい。ヤシガニは雑食性で何でも食べるらしく、食べたモノによっては体内に毒素を貯め込むようです」
「ほー、」
「昔は沖縄も土葬だったから時には死体まで掘り起こして食べていたようですね。パイセン、知ってましたか?ヤシガニはカニって呼ばれてますけど、本当はヤドカリの仲間らしいですよ」
「ア?」パイセンの視線が鋭くなった。
しまった!口走りすぎた!
「ヤドカリが食えるかよ?カニはカニだろ」
「はい・・・・・・カニです」どちらも同じ甲殻類の仲間という事で。

このやり取りを聞いていたかいちょがため息をついた。
「はぁー、月光さん。遊ばれているんですよ、ソレ。猪野先輩も後輩をいびるのはやめてください」
「なんだよ、アタシは可愛い後輩とじゃれ合ってるだけじゃないか」
(今のじゃれてたんですか?パイセンにとっては猫とじゃれているつもりだったのかもしれないけど、アタシにはライオンがじゃれてくる様な恐怖でしたよ。死ぬかと思った)
「今度やったら、もうこのお茶会に呼びませんからね?」
「わかったよぉ・・・・・・冗談の分からない奴だな」
パイセン、かいちょは冗談を言うと何でも笑ってくれますよ?冗談がよく分かってないのはパイセンの方だと思うけど。
また余計な事を言わない様にアタシは言葉を飲み込んだ。
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