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先生はちょっと得意げに話しはじめた。
「マニュアル車にはクラッチというエンジンの動力を伝える円盤状の装置があるんです。クラッチペダルを踏むことで動力を車輪へ伝えたり切り離したりの操作をするんですが、この操作が難しいんですよ」
椅子に座りながら実際に足も動かす。
「まず左足でクラッチを踏んでおいて徐々に離しつつ、右足はアクセルをゆっくりと踏み込むんです。左右の足で逆の動作をするのが、まず戸惑いますし」
今度は左手が空を切る。
「適時シフト操作をしなくてはいけません。これを車が加速したり減速したりする度に行わないといけないんです。もちろんハンドル操作も同時にするんですよ?もうお手上げです」
握っていたエアーハンドルを離してしまった先生。
「ハンドル離しちゃダメでしょ!」ツッコむふーみん。
「プッ!」吹き出すかいちょ。
「あたしゃ1速にさえ入れてしまえば、後は何とか走れるのかと思ってた」
「偶然走り出せたとしてもブレーキを踏んだ時点でエンストするでしょうね」
「じゃあブレーキは踏みません」
「それだと曲がりたいときはどうするんですか?」
「慣性ドリフトで曲ります。溝落としです」
「月光ちゃん、それアニメでしょ」
「アンタは変な知識ばかり身に着けて。先生、真面目に教えなくていいですよ。コイツ知識を変な事に使いかねませんから」
「失敬な!」
「初めてだと、知識だけで動かすことはまず出来ないと思いますよ。実際に体験してみないとこの難しさは分かりませんね。先生なんて教習所で初めてマニュアル車に乗った時、エンストし過ぎてコースを1周できませんでしたから」
「それは・・・・・・どうなの?」バイクの免許を取るため教習所に通った経験のあるふーみんに視線を投げると苦笑いが返ってきた。相当ダメな部類に入るらしい。
「でもカッコイイよねぇ、マニュアル運転する姿って」はなっちがシフト操作をマネしてみせる。先生は何も言わず紅茶をすすったが、頬が緩むのを必死にこらえている様だ。
「せんせー、ちなみに車のカギはいつもどこに置いているんですか?」
「カギですか?大切な車なので無くさない様にいつも右のポケットへ入れる様にしていますよ」
「ちょっと見せてもらってもいいですか?」
あおたんが上着の右ポケットへ手を伸ばしたのを、ふーみんが慌てて止めた。
「ダメっ!」
(チッ!)
「どうしたんですか?伊吹山さん」
「カギは他人に見せちゃダメなんです!特にコイツには」
「見せるくらい・・・・・・あ、」気付かれたか。
アタシはしれっと言った。
「これが啓もう活動の成果です。知っているのと知らないのとでは身の安全を守れるかどうかに大きな差が生まれます」
「何を偉そうに。アンタ今、普通にカギ番号見ようとしたでしょ」
「どこにあるか分かったから、これでいざという時は逃げることが出来る!」
「全然懲りてないわ、ねっ!」またチョップされた。
「あでっ!」
「大体アンタの身長じゃペダルに足届くの?」
チョップした手が頭を撫でてくる。
「失礼なっ!足ぐらい届くよ!・・・・・・届きますよねぇ?先生、」
先生が体を傾け足元を見る。アタシは椅子の足掛けから床に足を下ろした。けど、つま先しか触れない。
先生が苦笑いして言う。
「シートは調整が効くので海津さんの場合、一番前まで出さないといけないかもしれませんね」
「上下にも動きますよね?一番下まで下げれば、」
「先生の車は古いので上下の調節は出来ませんよ。それに一番下まで下げてしまうと今度は前が見えなくなると思います」
「プッ!」かいちょに笑われてしまった。かいちょなんてその胸が邪魔でハンドル回せないだろ!
「ゾンビに囲まれた学校からクー○ーに乗って逃げるというアタシの夢が・・・・・・」
「どんな夢よ・・・・・・」
「月光ちゃん、それアニメの話でしょ」
「海津さん、例え緊急事態だとしても貸しませんからね?いいですか?先生の大切な車ですからね?素手で触る事も許しませんよ?」
「やだなぁ、触りませんよ。どうせマニュアルでは動かせそうもないから。ハハハ」
あおたんに念を押されてしまった。そこまで思い入れある物だとは。
ふーみんがサラリと聞く。
「車のあだ名はなんていうんですか?」
「あだ名?」おいおい、あおたんが不思議そうにしているじゃないのさ。ふーみんはすぐあだ名をつけたがるクセがあるのか?
「大切なものなんでしょ?私のカブのあだ名はカモメンです」
「ふッ」危うく先生が飲んでいた紅茶を吹き出すところだった。
「プッ!ククッ」
もう知っているハズのかいちょの方が吹き出しちゃったよ。
「イケメンのカモメだからって、プッ!」
「フッ!」かいちょの思い出し笑いに釣られてあおたんも頬を緩ませる。
生徒の前だからってまだ取り繕ってるみたいだけど・・・・・・ボロを出すのはもう少しだぞ!かましてやれふーみん!
「ふーみんがあだ名付けてあげたら?」アタシは最高のパスを出した。
「そうねぇ・・・・・・ミニ○ーパーだから・・・・・・」
間延びしながら考えるふーみんの様子が期待を高めて、あおたんのティーカップを持つ手が微かに震えはじめた。
いったん落ち着こうと思ったのか、紅茶をすすった時だ。ふーみんの狙いすましたようなシュートがさく裂する。
「ミニクッパね!」
「ぶッ‼」
あおたんが豪快に紅茶を噴き出したのを、みんなでお腹を抱えて笑った。
先生はちょっと得意げに話しはじめた。
「マニュアル車にはクラッチというエンジンの動力を伝える円盤状の装置があるんです。クラッチペダルを踏むことで動力を車輪へ伝えたり切り離したりの操作をするんですが、この操作が難しいんですよ」
椅子に座りながら実際に足も動かす。
「まず左足でクラッチを踏んでおいて徐々に離しつつ、右足はアクセルをゆっくりと踏み込むんです。左右の足で逆の動作をするのが、まず戸惑いますし」
今度は左手が空を切る。
「適時シフト操作をしなくてはいけません。これを車が加速したり減速したりする度に行わないといけないんです。もちろんハンドル操作も同時にするんですよ?もうお手上げです」
握っていたエアーハンドルを離してしまった先生。
「ハンドル離しちゃダメでしょ!」ツッコむふーみん。
「プッ!」吹き出すかいちょ。
「あたしゃ1速にさえ入れてしまえば、後は何とか走れるのかと思ってた」
「偶然走り出せたとしてもブレーキを踏んだ時点でエンストするでしょうね」
「じゃあブレーキは踏みません」
「それだと曲がりたいときはどうするんですか?」
「慣性ドリフトで曲ります。溝落としです」
「月光ちゃん、それアニメでしょ」
「アンタは変な知識ばかり身に着けて。先生、真面目に教えなくていいですよ。コイツ知識を変な事に使いかねませんから」
「失敬な!」
「初めてだと、知識だけで動かすことはまず出来ないと思いますよ。実際に体験してみないとこの難しさは分かりませんね。先生なんて教習所で初めてマニュアル車に乗った時、エンストし過ぎてコースを1周できませんでしたから」
「それは・・・・・・どうなの?」バイクの免許を取るため教習所に通った経験のあるふーみんに視線を投げると苦笑いが返ってきた。相当ダメな部類に入るらしい。
「でもカッコイイよねぇ、マニュアル運転する姿って」はなっちがシフト操作をマネしてみせる。先生は何も言わず紅茶をすすったが、頬が緩むのを必死にこらえている様だ。
「せんせー、ちなみに車のカギはいつもどこに置いているんですか?」
「カギですか?大切な車なので無くさない様にいつも右のポケットへ入れる様にしていますよ」
「ちょっと見せてもらってもいいですか?」
あおたんが上着の右ポケットへ手を伸ばしたのを、ふーみんが慌てて止めた。
「ダメっ!」
(チッ!)
「どうしたんですか?伊吹山さん」
「カギは他人に見せちゃダメなんです!特にコイツには」
「見せるくらい・・・・・・あ、」気付かれたか。
アタシはしれっと言った。
「これが啓もう活動の成果です。知っているのと知らないのとでは身の安全を守れるかどうかに大きな差が生まれます」
「何を偉そうに。アンタ今、普通にカギ番号見ようとしたでしょ」
「どこにあるか分かったから、これでいざという時は逃げることが出来る!」
「全然懲りてないわ、ねっ!」またチョップされた。
「あでっ!」
「大体アンタの身長じゃペダルに足届くの?」
チョップした手が頭を撫でてくる。
「失礼なっ!足ぐらい届くよ!・・・・・・届きますよねぇ?先生、」
先生が体を傾け足元を見る。アタシは椅子の足掛けから床に足を下ろした。けど、つま先しか触れない。
先生が苦笑いして言う。
「シートは調整が効くので海津さんの場合、一番前まで出さないといけないかもしれませんね」
「上下にも動きますよね?一番下まで下げれば、」
「先生の車は古いので上下の調節は出来ませんよ。それに一番下まで下げてしまうと今度は前が見えなくなると思います」
「プッ!」かいちょに笑われてしまった。かいちょなんてその胸が邪魔でハンドル回せないだろ!
「ゾンビに囲まれた学校からクー○ーに乗って逃げるというアタシの夢が・・・・・・」
「どんな夢よ・・・・・・」
「月光ちゃん、それアニメの話でしょ」
「海津さん、例え緊急事態だとしても貸しませんからね?いいですか?先生の大切な車ですからね?素手で触る事も許しませんよ?」
「やだなぁ、触りませんよ。どうせマニュアルでは動かせそうもないから。ハハハ」
あおたんに念を押されてしまった。そこまで思い入れある物だとは。
ふーみんがサラリと聞く。
「車のあだ名はなんていうんですか?」
「あだ名?」おいおい、あおたんが不思議そうにしているじゃないのさ。ふーみんはすぐあだ名をつけたがるクセがあるのか?
「大切なものなんでしょ?私のカブのあだ名はカモメンです」
「ふッ」危うく先生が飲んでいた紅茶を吹き出すところだった。
「プッ!ククッ」
もう知っているハズのかいちょの方が吹き出しちゃったよ。
「イケメンのカモメだからって、プッ!」
「フッ!」かいちょの思い出し笑いに釣られてあおたんも頬を緩ませる。
生徒の前だからってまだ取り繕ってるみたいだけど・・・・・・ボロを出すのはもう少しだぞ!かましてやれふーみん!
「ふーみんがあだ名付けてあげたら?」アタシは最高のパスを出した。
「そうねぇ・・・・・・ミニ○ーパーだから・・・・・・」
間延びしながら考えるふーみんの様子が期待を高めて、あおたんのティーカップを持つ手が微かに震えはじめた。
いったん落ち着こうと思ったのか、紅茶をすすった時だ。ふーみんの狙いすましたようなシュートがさく裂する。
「ミニクッパね!」
「ぶッ‼」
あおたんが豪快に紅茶を噴き出したのを、みんなでお腹を抱えて笑った。
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