ゆるゾン

二コ・タケナカ

文字の大きさ
上 下
43 / 136

41

しおりを挟む
41

先生はちょっと得意げに話しはじめた。
「マニュアル車にはクラッチというエンジンの動力を伝える円盤状の装置があるんです。クラッチペダルを踏むことで動力を車輪へ伝えたり切り離したりの操作をするんですが、この操作が難しいんですよ」
椅子に座りながら実際に足も動かす。
「まず左足でクラッチを踏んでおいて徐々に離しつつ、右足はアクセルをゆっくりと踏み込むんです。左右の足で逆の動作をするのが、まず戸惑いますし」
今度は左手が空を切る。
「適時シフト操作をしなくてはいけません。これを車が加速したり減速したりする度に行わないといけないんです。もちろんハンドル操作も同時にするんですよ?もうお手上げです」
握っていたエアーハンドルを離してしまった先生。
「ハンドル離しちゃダメでしょ!」ツッコむふーみん。
「プッ!」吹き出すかいちょ。

「あたしゃ1速にさえ入れてしまえば、後は何とか走れるのかと思ってた」
「偶然走り出せたとしてもブレーキを踏んだ時点でエンストするでしょうね」
「じゃあブレーキは踏みません」
「それだと曲がりたいときはどうするんですか?」
「慣性ドリフトで曲ります。溝落としです」
「月光ちゃん、それアニメでしょ」
「アンタは変な知識ばかり身に着けて。先生、真面目に教えなくていいですよ。コイツ知識を変な事に使いかねませんから」
「失敬な!」
「初めてだと、知識だけで動かすことはまず出来ないと思いますよ。実際に体験してみないとこの難しさは分かりませんね。先生なんて教習所で初めてマニュアル車に乗った時、エンストし過ぎてコースを1周できませんでしたから」
「それは・・・・・・どうなの?」バイクの免許を取るため教習所に通った経験のあるふーみんに視線を投げると苦笑いが返ってきた。相当ダメな部類に入るらしい。
「でもカッコイイよねぇ、マニュアル運転する姿って」はなっちがシフト操作をマネしてみせる。先生は何も言わず紅茶をすすったが、頬が緩むのを必死にこらえている様だ。

「せんせー、ちなみに車のカギはいつもどこに置いているんですか?」
「カギですか?大切な車なので無くさない様にいつも右のポケットへ入れる様にしていますよ」
「ちょっと見せてもらってもいいですか?」
あおたんが上着の右ポケットへ手を伸ばしたのを、ふーみんが慌てて止めた。
「ダメっ!」
(チッ!)
「どうしたんですか?伊吹山さん」
「カギは他人に見せちゃダメなんです!特にコイツには」
「見せるくらい・・・・・・あ、」気付かれたか。
アタシはしれっと言った。
「これが啓もう活動の成果です。知っているのと知らないのとでは身の安全を守れるかどうかに大きな差が生まれます」
「何を偉そうに。アンタ今、普通にカギ番号見ようとしたでしょ」
「どこにあるか分かったから、これでいざという時は逃げることが出来る!」
「全然懲りてないわ、ねっ!」またチョップされた。
「あでっ!」
「大体アンタの身長じゃペダルに足届くの?」
チョップした手が頭を撫でてくる。
「失礼なっ!足ぐらい届くよ!・・・・・・届きますよねぇ?先生、」
先生が体を傾け足元を見る。アタシは椅子の足掛けから床に足を下ろした。けど、つま先しか触れない。
先生が苦笑いして言う。
「シートは調整が効くので海津さんの場合、一番前まで出さないといけないかもしれませんね」
「上下にも動きますよね?一番下まで下げれば、」
「先生の車は古いので上下の調節は出来ませんよ。それに一番下まで下げてしまうと今度は前が見えなくなると思います」
「プッ!」かいちょに笑われてしまった。かいちょなんてその胸が邪魔でハンドル回せないだろ!
「ゾンビに囲まれた学校からクー○ーに乗って逃げるというアタシの夢が・・・・・・」
「どんな夢よ・・・・・・」
「月光ちゃん、それアニメの話でしょ」
「海津さん、例え緊急事態だとしても貸しませんからね?いいですか?先生の大切な車ですからね?素手で触る事も許しませんよ?」
「やだなぁ、触りませんよ。どうせマニュアルでは動かせそうもないから。ハハハ」
あおたんに念を押されてしまった。そこまで思い入れある物だとは。

ふーみんがサラリと聞く。
「車のあだ名はなんていうんですか?」
「あだ名?」おいおい、あおたんが不思議そうにしているじゃないのさ。ふーみんはすぐあだ名をつけたがるクセがあるのか?
「大切なものなんでしょ?私のカブのあだ名はカモメンです」
「ふッ」危うく先生が飲んでいた紅茶を吹き出すところだった。
「プッ!ククッ」
もう知っているハズのかいちょの方が吹き出しちゃったよ。
「イケメンのカモメだからって、プッ!」
「フッ!」かいちょの思い出し笑いに釣られてあおたんも頬を緩ませる。

生徒の前だからってまだ取り繕ってるみたいだけど・・・・・・ボロを出すのはもう少しだぞ!かましてやれふーみん!
「ふーみんがあだ名付けてあげたら?」アタシは最高のパスを出した。
「そうねぇ・・・・・・ミニ○ーパーだから・・・・・・」
間延びしながら考えるふーみんの様子が期待を高めて、あおたんのティーカップを持つ手が微かに震えはじめた。
いったん落ち着こうと思ったのか、紅茶をすすった時だ。ふーみんの狙いすましたようなシュートがさく裂する。
「ミニクッパね!」
「ぶッ‼」
あおたんが豪快に紅茶を噴き出したのを、みんなでお腹を抱えて笑った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・  黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に  儚くも露と消えていく』 ある朝、 目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。 小学校六年生に戻った俺を取り巻く 懐かしい顔ぶれ。 優しい先生。 いじめっ子のグループ。 クラスで一番美しい少女。 そして。 密かに想い続けていた初恋の少女。 この世界は嘘と欺瞞に満ちている。 愛を語るには幼過ぎる少女達と 愛を語るには汚れ過ぎた大人。 少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、 大人は平然と他人を騙す。 ある時、 俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。 そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。 夕日に少女の涙が落ちる時、 俺は彼女達の笑顔と 失われた真実を 取り戻すことができるのだろうか。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした

黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。 日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。 ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。 人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。 そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。 太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。 青春インターネットラブコメ! ここに開幕! ※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける

気ままに
ホラー
 家で寝て起きたらまさかの世界がゾンビパンデミックとなってしまっていた!  しかもセーラー服の可愛い女子高生のゾンビに噛まれてしまう!  もう終わりかと思ったら俺はゾンビになる事はなかった。しかもゾンビに狙われない体質へとなってしまう……これは映画で見た展開と同じじゃないか!  てことで俺は人間に利用されるのは御免被るのでゾンビのフリをして人間の安息の地が完成するまでのんびりと生活させて頂きます。  ネタバレ注意!↓↓  黒藤冬夜は自分を噛んだ知性ある女子高生のゾンビ、特殊体を探すためまず総合病院に向かう。  そこでゾンビとは思えない程の、異常なまでの力を持つ別の特殊体に出会う。  そこの総合病院の地下ではある研究が行われていた……  "P-tB"  人を救う研究のはずがそれは大きな厄災をもたらす事になる……  何故ゾンビが生まれたか……  何故知性あるゾンビが居るのか……  そして何故自分はゾンビにならず、ゾンビに狙われない孤独な存在となってしまったのか……

鹿翅島‐しかばねじま‐

寝る犬
ホラー
【アルファポリス第3回ホラー・ミステリー大賞奨励賞】 ――金曜の朝、その島は日本ではなくなった。  いつもと変わらないはずの金曜日。  穏やかな夜明けを迎えたかに見えた彼らの街は、いたる所からあがる悲鳴に満たされた。  一瞬で、音も無く半径数キロメートルの小さな島『鹿翅島‐しかばねじま‐』へ広がった「何か」は、平和に暮らしていた街の人々を生ける屍に変えて行く。  隔離された環境で、あるものは戦い、あるものは逃げ惑う。  ゾンビアンソロジー。   ※章ごとに独立した物語なので、どこからでも読めます。   ※ホラーだけでなく、コメディやアクション、ヒューマンドラマなど様々なタイプの話が混在しています。   ※各章の小見出しに、その章のタイプが表記されていますので、参考にしてください。   ※由緒正しいジョージ・A・ロメロのゾンビです。

処理中です...