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「ブルーム現象を起こすには温度管理が重要なんだ。チョコレートは大体28℃で溶け始めるからカカオバターが表面に浮いてくるまで30℃くらいをずっとキープする必要がある。早く食べたいからってレンチンしてもダメだよ」
はなっちに視線を向けると、苦笑いが返ってきた。
「レンジで加熱した事あるけど上手く出来ないんだよ。えへへ」
「油分だけが染み出すことでチョコの中身に細かい空洞ができてあの食感が生まれるのさ。レンジだと加熱し過ぎて染み出す前に全部混ざっちゃうんだろうね」
「どうやって30℃をキープするのよ」
「窓辺に置いて太陽光で温める」
ふーみんの顔が溶けたチョコレートの様にのっぺりとした。
「また変な事を・・・・・・」
「形を保ったままでないとあの食感は生まれないからね。全部液体にならないギリギリを攻める必要があるんだ。手を加えずじっくり放置!これがコツだよ。ただし、1日置いてた程度じゃできないよ?溶けて固まってを繰り返す必要があるから最低でも3カ月は欲しいね」
「こんな物の為に3カ月⁉」
「アタシはこれを『チョコレートを育てる』と言っている」
「育ってないわよ。劣化してるんだから」
アタシ達が話している間もはなっちの手が止まらない。また1つチョコが口に放り込まれた。
「はなっち!3カ月かけて育てた努力の結晶だよ⁉もっと味わって食べてよっ」
「えへへ。私じゃあ作れないから、つい」
「はなっちは待てが出来ないからねぇ。育つ前に食べて無くなっちゃうんだよ」
「まるで子犬ね」
アタシは残りを全てテーブルの上に広げた。それを4人で均等に分ける。
「あら、貴重な物なのに私も貰っていいんですか?」
「いいよ。みんなで分けて食べようと思って持ってきたんだから」
「なら私は紅茶を淹れますね。チョコレートの甘さに負けない様に今日は渋みの強いアッサムにしましょうか」
かいちょが紅茶の準備をしはじめた。ふーみんは浮かない顔で眺めている。
「風香さんどうかしましたか?」
「もしかしてお腹痛くなっちゃった?ふーみん意外に繊細!」
「意外ってなによ!・・・・・・んー、なんか口に残ってる感じがして」口がもちゃもちゃと動いている。
「ふーみんはさ、賞味期限が切れてると食べないタイプでしょ」
「は?普通は食べないんじゃない?」
「あー、あー、あー・・・・・・」
アタシは力無く首を振った。
「賞味期限なんて一応期限を設けてあるだけであって期限が過ぎれば直ぐ食べられなくなるわけじゃないんだよ?」
「それは、そうだろうけど。なんか嫌じゃない?気分的に」
「それだよっ!」アタシはビシッとふーみんを指さした。
鼻に触れそうな指を面倒くさそうに払って彼女が言う。
「何がよ、」
「このチョコは言わば訓練なのだよ。ゾンビが街に溢れてしまった時のね」
「どうしてこの古ぼけたチョコが訓練になるのよ」
「例えばゾンビが街に溢れた初期段階では下手に逃げるより安全な場所に籠城した方が生存確率は上がる。しかし!問題は食料の確保だよ。逃げ込む前に持ち出せたのならその人はかなり機転が利くね。けど、運よく持ち出しても何日も耐えられない。いつかは食料を確保するために外へ出なくてはいけなくなる。ここからだと一番近い食料のありそうな場所はセ○ンだろうね。1キロ無いくらいの道のりをゾンビの攻撃をかいくぐってやっとの思いで店にたどり着いた時、ふーみんは愕然とするのさ」
「私なの⁉」
「生き残っている人達、みんな考える事は同じだから食料を求めて既に略奪にあっているハズだよ。それでも何か残っていないかと荒れ果てた店内を物色し始めるふーみん」
「ねぇ!私なの?」
「そこでまたふーみんは絶望するのさ」
「もう私でいいわよ」
「電気は止まっているからね。冷蔵していないと長持ちしないものなんて、ほとんど腐ってるよ。それから、飲み物類はおそらく全て無くなっているだろうね。水分はどうしても必要だから。後はそのまま食べられるお菓子類もおそらく棚は空だろうね。望みはひと手間必要なカップラーメンぐらいかな。お湯を沸かすのだってままならないだろうし」
隣では紅茶の為のお湯がグラグラと沸き始めていた。
「後から来るかもしれない人の為に、何か残してくれているのを期待して更に探し回っていると、ふーみんは見つけるのさ!」
「一人で盛り上がってるわ」
「パン売り場の棚に残された食パンをね!他の総菜パンなんかは、もうカビが生えていて見るからに食べる事は出来ない。そんな中に紛れていたから運よく残っていたんだろうね」
「ちょっと待ちなさい。他のパンはカビてるのに何で食パンだけカビてないのよ」
「ふーみんは聞いた事ない?パンを何日も放置していたのにカビが生えない!ってSNSで騒がれたの」
首を振る彼女。
「それって保存料が使われているから?」
「そうじゃないらしんだよ。カビるのはカビ菌が食品に付着するからカビるんだけど、焼きたてのパンにはカビ菌なんて付いていないんだ。熱殺菌されるから。しかも清潔で人の手に触れる事なくオートメーション化されたパン工場で作られる物は菌が付着する事が少ないから、袋さえ開けなければとても長持ちするらしいよ。だから惣菜パンの様に余分な物が入っていないプレーンな食パンはカビずに残っている可能性が高い」
「変な所でリアルなのね、まったく」
呆れ顔の彼女にまた私はビシッと指をさした。
「ここでふーみんに決断が求められるんだよ!」
「ブルーム現象を起こすには温度管理が重要なんだ。チョコレートは大体28℃で溶け始めるからカカオバターが表面に浮いてくるまで30℃くらいをずっとキープする必要がある。早く食べたいからってレンチンしてもダメだよ」
はなっちに視線を向けると、苦笑いが返ってきた。
「レンジで加熱した事あるけど上手く出来ないんだよ。えへへ」
「油分だけが染み出すことでチョコの中身に細かい空洞ができてあの食感が生まれるのさ。レンジだと加熱し過ぎて染み出す前に全部混ざっちゃうんだろうね」
「どうやって30℃をキープするのよ」
「窓辺に置いて太陽光で温める」
ふーみんの顔が溶けたチョコレートの様にのっぺりとした。
「また変な事を・・・・・・」
「形を保ったままでないとあの食感は生まれないからね。全部液体にならないギリギリを攻める必要があるんだ。手を加えずじっくり放置!これがコツだよ。ただし、1日置いてた程度じゃできないよ?溶けて固まってを繰り返す必要があるから最低でも3カ月は欲しいね」
「こんな物の為に3カ月⁉」
「アタシはこれを『チョコレートを育てる』と言っている」
「育ってないわよ。劣化してるんだから」
アタシ達が話している間もはなっちの手が止まらない。また1つチョコが口に放り込まれた。
「はなっち!3カ月かけて育てた努力の結晶だよ⁉もっと味わって食べてよっ」
「えへへ。私じゃあ作れないから、つい」
「はなっちは待てが出来ないからねぇ。育つ前に食べて無くなっちゃうんだよ」
「まるで子犬ね」
アタシは残りを全てテーブルの上に広げた。それを4人で均等に分ける。
「あら、貴重な物なのに私も貰っていいんですか?」
「いいよ。みんなで分けて食べようと思って持ってきたんだから」
「なら私は紅茶を淹れますね。チョコレートの甘さに負けない様に今日は渋みの強いアッサムにしましょうか」
かいちょが紅茶の準備をしはじめた。ふーみんは浮かない顔で眺めている。
「風香さんどうかしましたか?」
「もしかしてお腹痛くなっちゃった?ふーみん意外に繊細!」
「意外ってなによ!・・・・・・んー、なんか口に残ってる感じがして」口がもちゃもちゃと動いている。
「ふーみんはさ、賞味期限が切れてると食べないタイプでしょ」
「は?普通は食べないんじゃない?」
「あー、あー、あー・・・・・・」
アタシは力無く首を振った。
「賞味期限なんて一応期限を設けてあるだけであって期限が過ぎれば直ぐ食べられなくなるわけじゃないんだよ?」
「それは、そうだろうけど。なんか嫌じゃない?気分的に」
「それだよっ!」アタシはビシッとふーみんを指さした。
鼻に触れそうな指を面倒くさそうに払って彼女が言う。
「何がよ、」
「このチョコは言わば訓練なのだよ。ゾンビが街に溢れてしまった時のね」
「どうしてこの古ぼけたチョコが訓練になるのよ」
「例えばゾンビが街に溢れた初期段階では下手に逃げるより安全な場所に籠城した方が生存確率は上がる。しかし!問題は食料の確保だよ。逃げ込む前に持ち出せたのならその人はかなり機転が利くね。けど、運よく持ち出しても何日も耐えられない。いつかは食料を確保するために外へ出なくてはいけなくなる。ここからだと一番近い食料のありそうな場所はセ○ンだろうね。1キロ無いくらいの道のりをゾンビの攻撃をかいくぐってやっとの思いで店にたどり着いた時、ふーみんは愕然とするのさ」
「私なの⁉」
「生き残っている人達、みんな考える事は同じだから食料を求めて既に略奪にあっているハズだよ。それでも何か残っていないかと荒れ果てた店内を物色し始めるふーみん」
「ねぇ!私なの?」
「そこでまたふーみんは絶望するのさ」
「もう私でいいわよ」
「電気は止まっているからね。冷蔵していないと長持ちしないものなんて、ほとんど腐ってるよ。それから、飲み物類はおそらく全て無くなっているだろうね。水分はどうしても必要だから。後はそのまま食べられるお菓子類もおそらく棚は空だろうね。望みはひと手間必要なカップラーメンぐらいかな。お湯を沸かすのだってままならないだろうし」
隣では紅茶の為のお湯がグラグラと沸き始めていた。
「後から来るかもしれない人の為に、何か残してくれているのを期待して更に探し回っていると、ふーみんは見つけるのさ!」
「一人で盛り上がってるわ」
「パン売り場の棚に残された食パンをね!他の総菜パンなんかは、もうカビが生えていて見るからに食べる事は出来ない。そんな中に紛れていたから運よく残っていたんだろうね」
「ちょっと待ちなさい。他のパンはカビてるのに何で食パンだけカビてないのよ」
「ふーみんは聞いた事ない?パンを何日も放置していたのにカビが生えない!ってSNSで騒がれたの」
首を振る彼女。
「それって保存料が使われているから?」
「そうじゃないらしんだよ。カビるのはカビ菌が食品に付着するからカビるんだけど、焼きたてのパンにはカビ菌なんて付いていないんだ。熱殺菌されるから。しかも清潔で人の手に触れる事なくオートメーション化されたパン工場で作られる物は菌が付着する事が少ないから、袋さえ開けなければとても長持ちするらしいよ。だから惣菜パンの様に余分な物が入っていないプレーンな食パンはカビずに残っている可能性が高い」
「変な所でリアルなのね、まったく」
呆れ顔の彼女にまた私はビシッと指をさした。
「ここでふーみんに決断が求められるんだよ!」
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