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ファイル9「褒美」
今日の晩飯は久しぶりの魚だった。缶詰だがな。ずっとろくな食べ物なんて口にできなかったんだから缶詰だろうとご褒美だ。
肉も食べたい気はするが・・・・・・どうだろう?実際目の前に出された時、食べられるだろうか?ただの肉の塊に思えて喉を通らないかもしれない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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ちょっとお菓子を摘まんでブレイク。
ボリボリ、ボリボリ、
「アンタもしかして、ゴールデンウイーク中ずっとゲームしてたんじゃないでしょうね」
「そんなことは無いよ。アタシだって完全インドアというワケじゃないんだよ?」
「じゃあ、どこかに出かけたの?」
「うん。今回は安○とし○むらの聖地巡礼に行ってきた」
「聖地巡礼、アニメのですよね?最近は地方の活性化に一役買っていると聞いた事があります」
やっと自分にも喋るチャンスが巡って来たと思ったのか、かいちょがすぐさま反応した。さっきのゲームの話も聞いてたのかな?
「ゲームとかアニメとかオタクからは離れないのね・・・・・・」ふーみんの方は呆れ顔だ。アタシがわざわざ観光に出かけるなら、そういう目的があるのは当然でしょうに。
「私も詳しくないのですが、聖地巡礼はアニメの中に現実と同じ場所が出てきて、そこを巡る事ですよね?どこに行ってきたのですか?」
「本巣(もとす)のほう。アタシは岐阜県限定で聖地巡りしてるんだ」
本巣市は岐阜県の南西部にある市。アタシの住む岐阜市の西隣に位置する。南北に長くて樽見鉄道という一時間に一本しか走らないローカル線が北の山奥の中まで通っている。どうして山奥の中に鉄道を敷いたのかと言えば、終点の樽見という場所には樹齢1000年を超える巨大な桜の木「薄墨桜」が生えているためだ。そこは観光地になっていて、春には大勢の観光客を列車が運んでいる。
アタシも幼い頃、連れていってもらった記憶がある。ただ、幼いアタシには花見と言っても「綺麗だな」ぐらいの感想しかなく。わざわざ出向いてまで見に行く楽しさに気付くには幼過ぎた。幼少の頃に連れ回されても思い出というものはそんなものだろう。
本巣と聞いてアタシが思い浮かべるのはショッピングモールのモ○ラ岐阜の方だ。田舎の強みと言えばいいのか、有り余る広大な土地に馬鹿みたいに広いモールが建っている。店舗数は約240店。余暇を楽しむには十分すぎるほどのテナントが広い建物内に収まっている。大きな映画館も入っているので、地方にありがちな話題の最新作が公開初日に見れないなんてことがない。更にアニメ映画も、もれなく上映されるのでオタクにありがたい場所だ。
かいちょとふーみんも本巣の地理に覚えがあったようだ。ちょっと視線が空中をさまよってから、こちらに向いた。
「意外に近場であるものなのですね」
「ほら、モ○ラ岐阜ってあるでしょ?あそこを中心に安○とし○むらの聖地になっているんだよ」
「自転車で行ってきたの?」
「うんにゃ。とーさんに車出してもらった」
「もしかしてアンタのお父さんもオタクなの?」
「んー、オタクって程でもないけど、話題のアニメくらいは見てるよ」
「せっかくの休みをアンタにつき合わされてお父さんも可哀そうね」
「いやいや、可愛い娘の為ならば休日返上で付き合ってくれるもんだよ。はなっちもいるしね」
「花も行ってきたの?」
「うん。いつもお昼をおごってくれるもんだから、誘われるとつい。えへへ」
元々アニメの聖地巡礼に興味があったのは確かだけど、巡礼は出かける為の口実だ。一年前、はなっちが闇落ちしてしまったので、どこかに出かけたら気晴らしになるんじゃないかと、半ば強引に付き合わせる形で連れ出した。そのかいもあったのか、はなっちの笑顔も戻り(主に何か食べている時は)こうして社会復帰できたのだ。感謝したまえ、はなっちよ。
「花は『好きな物頼んでいいよ』とか言われて本当に好きな物を注文するんでしょ?ダメよそれ。社交辞令だから」
「え⁉ダメなの?」
「あー、この子ったら。その時の光景が目に浮かぶわ。私には遠慮する事ないけど、そういう建前を花は学びなさい」
「わ、わたしは、欲望に忠実に生きようと、決めたので、」あ、目の焦点が定まっていない!
アタシはポッ○ーの箱をサッと、はなっちの前に滑らせた。
ボリボリ、ボリボリ・・・・・・
「ハァ・・・・・・で?何か美味しいものは食べられた?」
「その安○とし○むらっていうのはラノベが原作なんだけど、小説の中で具体的に背景が描写されてるもんだからアニメにもそのまま現実のお店なんかが登場するんだよ。今回のお昼は安○が・・・・・・あ、そのアニメのヒロインなんだけど、その娘がアルバイトしている中華屋さんに行ってきたよ」
「唐揚げがとっても大きかった」ニコニコ顔のはなっち。闇落ち寸前だったけど、どうやら防げたようだ。
「あと、チャーハンが美味しかったよね」
「まぁ、中華屋さんなら何頼んでもそこまでお父さんの負担にはならないで済んだでしょうね」
アタシはその時の事を思い出してフフッと笑った。
「はなっちはフカヒレを頼もうとした」
「ばっ⁉この子は!」ふーみんがはなっちのお菓子を取り上げる。
「あぁ~ぁぁぁ、私の精神安定剤がぁぁぁ」
「プッ!」かいちょが吹き出した。
「違うんだよ?風香ちゃん!確かにおじさんは何でも頼んでいいって言ってたけど、フカヒレ頼んでみてって言ってきたのは月光ちゃんなんだからねっ」
「アンタ・・・・・・休日返上で車まで出してもらっておきながら、なんでそんな事するのよ」
「いやぁ、そのラノベに書かれているんだよ『フカヒレは頼むなよ』って。メニュー表に載っているのに実際は用意されてないらしいんだ。だから確かめてみようと思って。やっぱり用意してないみたいで『ナイ』って中華系のおばさんに言われた。クックク、とーさん注文した時一瞬顔を引きつらせたけどね」
かいちょがフフフッと笑い終えて聞く。
「そのお店は聖地巡礼をしているお客さんがたくさん来ていましたか?」
「うーん、どうだろう?そういう目的で来ている人は私達以外いなかったんじゃないかなぁ。普通に食事に来ている人が多かった気がする」
「そうですか・・・・・・」
「かいちょ、気になるの?そのお店、ここからすぐそこだよ」
「本巣の方ではないのですか?」
「メインは本巣なんだけど、場面場面で地域が分散してるんだよ」
アタシはスマホを取り出した。
今日の晩飯は久しぶりの魚だった。缶詰だがな。ずっとろくな食べ物なんて口にできなかったんだから缶詰だろうとご褒美だ。
肉も食べたい気はするが・・・・・・どうだろう?実際目の前に出された時、食べられるだろうか?ただの肉の塊に思えて喉を通らないかもしれない。
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ちょっとお菓子を摘まんでブレイク。
ボリボリ、ボリボリ、
「アンタもしかして、ゴールデンウイーク中ずっとゲームしてたんじゃないでしょうね」
「そんなことは無いよ。アタシだって完全インドアというワケじゃないんだよ?」
「じゃあ、どこかに出かけたの?」
「うん。今回は安○とし○むらの聖地巡礼に行ってきた」
「聖地巡礼、アニメのですよね?最近は地方の活性化に一役買っていると聞いた事があります」
やっと自分にも喋るチャンスが巡って来たと思ったのか、かいちょがすぐさま反応した。さっきのゲームの話も聞いてたのかな?
「ゲームとかアニメとかオタクからは離れないのね・・・・・・」ふーみんの方は呆れ顔だ。アタシがわざわざ観光に出かけるなら、そういう目的があるのは当然でしょうに。
「私も詳しくないのですが、聖地巡礼はアニメの中に現実と同じ場所が出てきて、そこを巡る事ですよね?どこに行ってきたのですか?」
「本巣(もとす)のほう。アタシは岐阜県限定で聖地巡りしてるんだ」
本巣市は岐阜県の南西部にある市。アタシの住む岐阜市の西隣に位置する。南北に長くて樽見鉄道という一時間に一本しか走らないローカル線が北の山奥の中まで通っている。どうして山奥の中に鉄道を敷いたのかと言えば、終点の樽見という場所には樹齢1000年を超える巨大な桜の木「薄墨桜」が生えているためだ。そこは観光地になっていて、春には大勢の観光客を列車が運んでいる。
アタシも幼い頃、連れていってもらった記憶がある。ただ、幼いアタシには花見と言っても「綺麗だな」ぐらいの感想しかなく。わざわざ出向いてまで見に行く楽しさに気付くには幼過ぎた。幼少の頃に連れ回されても思い出というものはそんなものだろう。
本巣と聞いてアタシが思い浮かべるのはショッピングモールのモ○ラ岐阜の方だ。田舎の強みと言えばいいのか、有り余る広大な土地に馬鹿みたいに広いモールが建っている。店舗数は約240店。余暇を楽しむには十分すぎるほどのテナントが広い建物内に収まっている。大きな映画館も入っているので、地方にありがちな話題の最新作が公開初日に見れないなんてことがない。更にアニメ映画も、もれなく上映されるのでオタクにありがたい場所だ。
かいちょとふーみんも本巣の地理に覚えがあったようだ。ちょっと視線が空中をさまよってから、こちらに向いた。
「意外に近場であるものなのですね」
「ほら、モ○ラ岐阜ってあるでしょ?あそこを中心に安○とし○むらの聖地になっているんだよ」
「自転車で行ってきたの?」
「うんにゃ。とーさんに車出してもらった」
「もしかしてアンタのお父さんもオタクなの?」
「んー、オタクって程でもないけど、話題のアニメくらいは見てるよ」
「せっかくの休みをアンタにつき合わされてお父さんも可哀そうね」
「いやいや、可愛い娘の為ならば休日返上で付き合ってくれるもんだよ。はなっちもいるしね」
「花も行ってきたの?」
「うん。いつもお昼をおごってくれるもんだから、誘われるとつい。えへへ」
元々アニメの聖地巡礼に興味があったのは確かだけど、巡礼は出かける為の口実だ。一年前、はなっちが闇落ちしてしまったので、どこかに出かけたら気晴らしになるんじゃないかと、半ば強引に付き合わせる形で連れ出した。そのかいもあったのか、はなっちの笑顔も戻り(主に何か食べている時は)こうして社会復帰できたのだ。感謝したまえ、はなっちよ。
「花は『好きな物頼んでいいよ』とか言われて本当に好きな物を注文するんでしょ?ダメよそれ。社交辞令だから」
「え⁉ダメなの?」
「あー、この子ったら。その時の光景が目に浮かぶわ。私には遠慮する事ないけど、そういう建前を花は学びなさい」
「わ、わたしは、欲望に忠実に生きようと、決めたので、」あ、目の焦点が定まっていない!
アタシはポッ○ーの箱をサッと、はなっちの前に滑らせた。
ボリボリ、ボリボリ・・・・・・
「ハァ・・・・・・で?何か美味しいものは食べられた?」
「その安○とし○むらっていうのはラノベが原作なんだけど、小説の中で具体的に背景が描写されてるもんだからアニメにもそのまま現実のお店なんかが登場するんだよ。今回のお昼は安○が・・・・・・あ、そのアニメのヒロインなんだけど、その娘がアルバイトしている中華屋さんに行ってきたよ」
「唐揚げがとっても大きかった」ニコニコ顔のはなっち。闇落ち寸前だったけど、どうやら防げたようだ。
「あと、チャーハンが美味しかったよね」
「まぁ、中華屋さんなら何頼んでもそこまでお父さんの負担にはならないで済んだでしょうね」
アタシはその時の事を思い出してフフッと笑った。
「はなっちはフカヒレを頼もうとした」
「ばっ⁉この子は!」ふーみんがはなっちのお菓子を取り上げる。
「あぁ~ぁぁぁ、私の精神安定剤がぁぁぁ」
「プッ!」かいちょが吹き出した。
「違うんだよ?風香ちゃん!確かにおじさんは何でも頼んでいいって言ってたけど、フカヒレ頼んでみてって言ってきたのは月光ちゃんなんだからねっ」
「アンタ・・・・・・休日返上で車まで出してもらっておきながら、なんでそんな事するのよ」
「いやぁ、そのラノベに書かれているんだよ『フカヒレは頼むなよ』って。メニュー表に載っているのに実際は用意されてないらしいんだ。だから確かめてみようと思って。やっぱり用意してないみたいで『ナイ』って中華系のおばさんに言われた。クックク、とーさん注文した時一瞬顔を引きつらせたけどね」
かいちょがフフフッと笑い終えて聞く。
「そのお店は聖地巡礼をしているお客さんがたくさん来ていましたか?」
「うーん、どうだろう?そういう目的で来ている人は私達以外いなかったんじゃないかなぁ。普通に食事に来ている人が多かった気がする」
「そうですか・・・・・・」
「かいちょ、気になるの?そのお店、ここからすぐそこだよ」
「本巣の方ではないのですか?」
「メインは本巣なんだけど、場面場面で地域が分散してるんだよ」
アタシはスマホを取り出した。
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