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ファイル4「遠征」
通達
・アウル隊 高山へと赴き、現地を偵察せよ。
・ハウンド隊 本部へとどまり、指示があるまで待機。
・フォックス隊 京都へ急行せよ。作戦開始は07:00。任務遂行期限は12時間とする。
以上。
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「今日は静かだねぇ」
「そうだねぇ」
向かいに座っていたはなっちがテーブルに突っ伏し、眠たそうに応えた。彼女の髪はボブカットにしているので、こちらに向けている頭はコロンと丸く、まるで子犬がうずくまっているみたいに見える。(この娘、つむじが右巻きだな)
空気をよく含み、見ただけで柔らかそうな髪は撫でたら気持ちいいだろうなぁ。嫌がられるからしないけど。
「ふわ~ぁ・・・・・・」目の前で大きなあくびを1つ。
つられてこちらまで眠くなってくるよ。開けてある窓からは風もそよそよと流れ心地よかったから尚更だ。
もうすぐ5月。春と呼ぶにはとうに桜は散り、浮かれた気分は落ち着いているので少し戸惑う。かといって夏と呼ぶには気温は高くはないし暑さと共に弾けるには早すぎる。どっち付かずなこの時期というのは一番気が緩むのだろう。
いつもであれば放課後はグラウンドで運動部の掛け声であったり、どこからか風に乗って吹奏楽部が吹く管楽器の音が聞こえてきたりして、生徒たちの気配がある。今日はそれがまったく無い。
「今日は1年生と3年生の遠足ですからね」
少し離れたところでいつも通り勉強をしているかいちょが応えてくれた。かいちょはブレないねぇ。少しぐらいサボりたくなる日は無いの?
外の運動部だって2年生だけで部活はしているはずだ。けど、3年生のいない今日は羽目を外しているんじゃないの?1年生もいないのだから真面目に練習している姿を示す必要は無いんだし皆、練習をサボっているか軽く体を動かしながらおしゃべりでもしているに違いない。
窓の外をボーっと眺めた。
「ふーみん遅いな、」
またお菓子でも買いに行ってくれているのかな?
はなっちの頭が「ふーみん」というワードに反応して動いた。アンタは完全に飼いならされた犬だな。おやつの事しか頭にないんじゃないだろうか。
「気になりますか?」ノートに向かっていた顔をわざわざこちらに向けかいちょが聞く。
「いや、別に。ただ、毎回毎回お菓子買ってもらっているのは申し訳ないと思ってるけど」
「そうですね」
今度、うちの冷蔵庫から何かくすねてこようかな?
「遠足・・・・・・おやつ・・・・・・」
はなっちが頭だけ起こした。
「先生、バナナはおやつに含まれますか?」
「含まれます。」
「がっかりです。」
500円のおやつに含めておかないと、はなっちはリュックサックの中をバナナでいっぱいにしかねないからね。
子犬はまた小さくうずくまってしまった。
「プッ」かいちょが一人吹いている。
「そういえば、遠足ってどこに行ったの?」
「確か、1年生は高山で3年生は京都のはずです」
「あぁ・・・・・・高山、」
言われて思い出した。アタシも1年前に行ってきたんだった。
高山といえばアニメの聖地巡礼は外せない。
高山に実在する高校を舞台にした『氷○』。映画が大ヒットして巡礼客が押し寄せた『君の○は』。『呪術○戦』に登場する両面宿儺(りょうめんすくな)は高山に残る伝承がモデルとなっていて注目された。後は、少年少女の惨劇シーンが話題となった「ひぐ○し」・・・・・・は高山じゃなく白川郷だったか?
とにかく、あの地域は歴史情緒があり観光地としての知名度も高く、アニメのロケーション的にも魅力があるのだろう。
アタシも、あの高校とか飛騨古川駅とか両面宿儺の像を見て回りたかったのに、遠足は自由行動など無く、残念な思い出しかない。
「1年生にとっては入学して初めての大きな行事ですから、クラスの親睦を深めるという意味合いがありますし、3年生にとってはこれから受験や就職を控えているので、最後の思いで作りの場といった感じでしょうか」
親睦・・・・・・ソロ活こそ至高と考えるオタクにとって(あえてボッチとは言わなぞ!)他人と親睦を深めろと言われても苦痛でしかない。それが学校からの強制参加の遠足であれば尚更だ。
別に遠足を否定する訳じゃない。行きたい人が気の合う仲間と行けばいいんだ。どうぞ楽しんできてくださいな。邪魔はしないよ。
なのに望んでもいないのに参加させられる苦痛。団体行動で気を遣い、気を遣われる苦痛。場を持たせるために何か喋らないといけない苦痛・・・・・・苦痛、苦痛、苦痛。
それが入学したてでまだ仲のいいグループ分けも固まっていない1年の頃に味合わされるのだから、たまったものじゃない。(学校側からすればみんなで仲良くなってくださいね。という事かもしれないけど)
アタシにははなっちが居てくれて本当によかったよ。苦痛も多少はまぎれたから。
はなっちの頭がまたむくりと起き上がる。
「なんで2年生は遠足ないの?」
「2年生は6月に修学旅行があるからです」
(あぁぁぁぁ!修学旅行ぉぉぉ)考えただけで今から胃がキリキリ痛み出す。
「そうなんだぁ。どこに行くの?」
「沖縄じゃなかったでしょうか?」
「沖縄かぁ、何日間?」
「確か、4泊5日だったはずです。そろそろ通知が来るんじゃないですかね、」
「5日間も!楽しみだなぁ」
(5日間も⁉ダメだぁ、胃痛に加え胸やけ、吐き気。目まいまでする。っていうかアニメのリアタイ出来ないじゃないか!)
6月の沖縄はもう夏と言っていいかもしれない。青い空、輝く太陽、どこまでも続く海。みんな開放的になって浮かれる事だろう。そして取り残されるアタシ。
「あははは!」
ん?なんだか浮かれた声が近づいて来るな。
通達
・アウル隊 高山へと赴き、現地を偵察せよ。
・ハウンド隊 本部へとどまり、指示があるまで待機。
・フォックス隊 京都へ急行せよ。作戦開始は07:00。任務遂行期限は12時間とする。
以上。
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「今日は静かだねぇ」
「そうだねぇ」
向かいに座っていたはなっちがテーブルに突っ伏し、眠たそうに応えた。彼女の髪はボブカットにしているので、こちらに向けている頭はコロンと丸く、まるで子犬がうずくまっているみたいに見える。(この娘、つむじが右巻きだな)
空気をよく含み、見ただけで柔らかそうな髪は撫でたら気持ちいいだろうなぁ。嫌がられるからしないけど。
「ふわ~ぁ・・・・・・」目の前で大きなあくびを1つ。
つられてこちらまで眠くなってくるよ。開けてある窓からは風もそよそよと流れ心地よかったから尚更だ。
もうすぐ5月。春と呼ぶにはとうに桜は散り、浮かれた気分は落ち着いているので少し戸惑う。かといって夏と呼ぶには気温は高くはないし暑さと共に弾けるには早すぎる。どっち付かずなこの時期というのは一番気が緩むのだろう。
いつもであれば放課後はグラウンドで運動部の掛け声であったり、どこからか風に乗って吹奏楽部が吹く管楽器の音が聞こえてきたりして、生徒たちの気配がある。今日はそれがまったく無い。
「今日は1年生と3年生の遠足ですからね」
少し離れたところでいつも通り勉強をしているかいちょが応えてくれた。かいちょはブレないねぇ。少しぐらいサボりたくなる日は無いの?
外の運動部だって2年生だけで部活はしているはずだ。けど、3年生のいない今日は羽目を外しているんじゃないの?1年生もいないのだから真面目に練習している姿を示す必要は無いんだし皆、練習をサボっているか軽く体を動かしながらおしゃべりでもしているに違いない。
窓の外をボーっと眺めた。
「ふーみん遅いな、」
またお菓子でも買いに行ってくれているのかな?
はなっちの頭が「ふーみん」というワードに反応して動いた。アンタは完全に飼いならされた犬だな。おやつの事しか頭にないんじゃないだろうか。
「気になりますか?」ノートに向かっていた顔をわざわざこちらに向けかいちょが聞く。
「いや、別に。ただ、毎回毎回お菓子買ってもらっているのは申し訳ないと思ってるけど」
「そうですね」
今度、うちの冷蔵庫から何かくすねてこようかな?
「遠足・・・・・・おやつ・・・・・・」
はなっちが頭だけ起こした。
「先生、バナナはおやつに含まれますか?」
「含まれます。」
「がっかりです。」
500円のおやつに含めておかないと、はなっちはリュックサックの中をバナナでいっぱいにしかねないからね。
子犬はまた小さくうずくまってしまった。
「プッ」かいちょが一人吹いている。
「そういえば、遠足ってどこに行ったの?」
「確か、1年生は高山で3年生は京都のはずです」
「あぁ・・・・・・高山、」
言われて思い出した。アタシも1年前に行ってきたんだった。
高山といえばアニメの聖地巡礼は外せない。
高山に実在する高校を舞台にした『氷○』。映画が大ヒットして巡礼客が押し寄せた『君の○は』。『呪術○戦』に登場する両面宿儺(りょうめんすくな)は高山に残る伝承がモデルとなっていて注目された。後は、少年少女の惨劇シーンが話題となった「ひぐ○し」・・・・・・は高山じゃなく白川郷だったか?
とにかく、あの地域は歴史情緒があり観光地としての知名度も高く、アニメのロケーション的にも魅力があるのだろう。
アタシも、あの高校とか飛騨古川駅とか両面宿儺の像を見て回りたかったのに、遠足は自由行動など無く、残念な思い出しかない。
「1年生にとっては入学して初めての大きな行事ですから、クラスの親睦を深めるという意味合いがありますし、3年生にとってはこれから受験や就職を控えているので、最後の思いで作りの場といった感じでしょうか」
親睦・・・・・・ソロ活こそ至高と考えるオタクにとって(あえてボッチとは言わなぞ!)他人と親睦を深めろと言われても苦痛でしかない。それが学校からの強制参加の遠足であれば尚更だ。
別に遠足を否定する訳じゃない。行きたい人が気の合う仲間と行けばいいんだ。どうぞ楽しんできてくださいな。邪魔はしないよ。
なのに望んでもいないのに参加させられる苦痛。団体行動で気を遣い、気を遣われる苦痛。場を持たせるために何か喋らないといけない苦痛・・・・・・苦痛、苦痛、苦痛。
それが入学したてでまだ仲のいいグループ分けも固まっていない1年の頃に味合わされるのだから、たまったものじゃない。(学校側からすればみんなで仲良くなってくださいね。という事かもしれないけど)
アタシにははなっちが居てくれて本当によかったよ。苦痛も多少はまぎれたから。
はなっちの頭がまたむくりと起き上がる。
「なんで2年生は遠足ないの?」
「2年生は6月に修学旅行があるからです」
(あぁぁぁぁ!修学旅行ぉぉぉ)考えただけで今から胃がキリキリ痛み出す。
「そうなんだぁ。どこに行くの?」
「沖縄じゃなかったでしょうか?」
「沖縄かぁ、何日間?」
「確か、4泊5日だったはずです。そろそろ通知が来るんじゃないですかね、」
「5日間も!楽しみだなぁ」
(5日間も⁉ダメだぁ、胃痛に加え胸やけ、吐き気。目まいまでする。っていうかアニメのリアタイ出来ないじゃないか!)
6月の沖縄はもう夏と言っていいかもしれない。青い空、輝く太陽、どこまでも続く海。みんな開放的になって浮かれる事だろう。そして取り残されるアタシ。
「あははは!」
ん?なんだか浮かれた声が近づいて来るな。
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