ゆるゾン

二コ・タケナカ

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ほどなく戻ってきたふーみん。手にしている袋にはたくさんのお菓子が詰まっていた。ちょっと張り切り過ぎじゃありません?
早速、食いしん坊なはなっちが袋を覗き込む。
「あれ?このお菓子ファ〇マのだね」
「セ〇ンの方が近いのにわざわざ遠くのファ〇マまで行ったの?」
「う、うん。まあ、バイクだし、そんな変わらないわよ」
高校の正門は岐阜駅へと向かう大通りに面している。学校を出るとすぐにその大通りをまたぐ歩道橋があるので渡って南へ歩けば10分とかからずセ〇ンイレ〇ンにたどり着ける。バイクで行くほどでもないくらいに近い。
「何か食べたいものがあったのですか?風香さんが先に選んでくださいな」
「別に食べたいものがあったわけじゃないけど、」
「んーーー?なんか、怪しいなぁ」
「あーもう!ただセ〇ンに入れなかっただけよっ!」
「どゆこと?」
「ほら、あのコンビニって学校から向かうと反対車線側にあるじゃない?お店に入ろうと思っても交通量が多いから気を遣うのよ」
「あ~、ふーみんは右折が苦手だと」
「そうよ!悪かったわねっ!どうせ私は小心者のヘタレバイク乗りよ!」
「そこまで言ってないけど。ふふふっ」
「アンタ笑ってるけどね、免許取ったら分かるわよ。右折がどれだけ怖いか」
「わかりますぅ」
いつの間にか後ろに先生が立っていた。
「わっ!先生!?」
「右折は怖いですよねぇ。前から走って来る車のタイミングを掴むの、先生も苦手です。先に行かせようと待っていると後ろに渋滞が出来て焦ってしまいますし、曲ろうと思ったとたんスピード上げて突っ込んでくる車もいますからね」
「わかるーーーぅ!しかもバイクだと後ろの車が止まらずに横をスレスレですり抜けていくのよ!センターラインで立ち往生するのって本当に怖いんだから」
免許を持っていないアタシにはよく分からない分野だ。二人だけで語り合って共感している。
話が長くなりそうだから先にお菓子食べてやれ。と、思ったら既にはなっちの口がもぐもぐと動いているじゃないですか。少しは遠慮したら?

お菓子を摘まんでいる内に語り終わった先生から「ハイ。海津さん」と一枚のプリントが手渡された。
「部活を新設するのに必要な申請要項ですよ」
せんせーぇ‼さっきは怒らせてしまったのに、アタシの言ってる事ちゃんと聞いててくれたんだぁ。そういうとこ好き!
「ありがとう!あおたん!」
「先生ですよ」
「そうだ!つまらないものですが、」
私は摘まんでいたお菓子を差し出した。
「おい!つまらないとはなんだ」
怒るふーみんに構わず、立っていた先生に椅子も勧める。
「いいんですか?」
「どうぞ。どうぞ。遠慮せず好きなだけ食べていってください」
「おい!アンタが言うことじゃないでしょ!」
「では、お言葉に甘えて」
笑顔でお菓子を摘まみ始めた先生。
「おい!教育者!」
先生もやっぱり沢山の生徒を相手にしてるから神経が図太いよね。さすが。

お菓子をみんなで摘まみながらアタシは渡されたプリントに目を通した。
「部員は何人でもいいみたいだね。5人というのはアニメの中の神話だったか・・・・・・後は活動場所はここでいいし、顧問の確保は」
視線を先生に向けると「しょうがないですね」と言ってくれた。やったね!
かいちょが睨んでる気がするけど気付かないフリをしておこう。
「部の名称は『ゾン研』で・・・・・・」
「海津さん。なんですか?そのぞんけんとは」
ピキーン!私の直感が働く。”なんですか?”その言葉をもう一度、頭で自問する。なんですか?とは何ですか?答えようによっては部活申請どころではなく、放課後この理科室を使う事すらできなくなってしまうのでは?
緊急事態だ!脳内に仮想空間を展開。対峙する自分に問う。
「どうする?笑ってごまかす?」
「先生がわざわざ聞いたのには理由があるはずだよ」
「八百津先生がそこまで考えてる?ただの質問なら問題ないよ」
「ただの質問なら尚更、危ない。相手は教育者だ。何気ない質問から生徒の心の機微を感じ取るに違いない」
「けど、先生なら正直に言っても問題ないのでは?笑って済ませてくれるという可能性も」
「この場は一旦切り上げ、後で説明するのは?」
「いや、うかつな行動はとれない!不適切と判断されれば即、解散となりかねないぞ」
脳内会議は続く。
陽が暮れ始め、仮想の教室に西日が差し赤く染まる。誰かが閉め忘れた窓からは間もなく訪れる夜の空気を運んできた。カーテンが力なく揺れた。
カチ、カチ、カチ、カチと、教壇の上に掛かる丸時計の針は刻々と時を刻んでいく・・・・・・
パチン!
アタシは指を鳴らした。空間解除!あらゆる可能性を考慮し最適解に至ったのは、現実時間にして0,01秒!
「ぞんけん・・・・・・存分に意見を出し合い、研鑽し、お互いを高めあう活動の場。略して『存研』です。テーマを設けそれについて研究する文化部といったところです。」
「そうですか、」
納得したのあおたん⁉ アタシはダメかと思ったよぉ。
はなっちがお菓子を頬張りながら苦笑いしている。

ほどほどに食べ終わった先生が立ちあがった。
「では先生、美術部の様子を見に行かなくてはいけないので、皆さん帰る時は戸締りをお願いしますね。伊吹山さん。ごちそうさまでした」
「はい。また食べに来てください」
「せんせー、さよならー」
「ハイ。さようなら。」
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