ゆるゾン

二コ・タケナカ

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ファイル2 「新人」

4月25日
我が部隊にも待望の新人が配属されるらしい。上層部に前々から人員補給を頼むとせっついていた甲斐があったというもんだ。

・伊吹山 風香 class A (別紙にて詳細確認されたし)

志願兵ながら事前の適応試験はクラスAか。中々の人材じゃないか。だが若すぎる。たまたま配属前に顔を合わせる機会があったから「オイ、ひよっこ」と挨拶してやったらアイツ顔を真っ赤にして突っかかってきやがった。
やれやれ。この部隊のルールってモンをみっちり教え込んでやるとするか。

------------------------------------



教壇に立ったアタシは気合いを入れた。
「さて!ふーみんが新たにゾン研へ入ってくれた事だし、これか・・・」
「私、部活には入らないわよ」
なんですと⁉
ここはツンデレお嬢様が新メンバーとして加入したことで、物語の方向性が決まる場面でしょ?アニメなら波乱を迎える第3話だよ!
言葉を失うアタシにふーみんが言う。
「悪いんだけど、放課後は早く帰りたいのよ」
「え?何か用事でもあるの?」
「用事は無いわ。ただ私の家、遠いから。ほら、私ってバイク通学してるじゃない?」
(知りませんけど?っていうか、バイクで通学していいの?)
面喰うアタシにかいちょが説明してくれた。
「風香さんは遠距離通学という事で特別に許可をもらっているんですよ。今は少子化で、うちの高校もそれに対応して学区を県内全域に広げたものですから、どうしても通うには不便な地域もあるんです。だから柔軟な対応をしてもらえるよう生徒会からも働きかけたんです。バイク通学はまだ様子見期間ですけどね」
「そうなんだ・・・・・・」
「そうなのよ。遠いから通うのが大変で」
「どこから通ってるの?高山とか?」
「そこまで遠くないわよ!一応、岐阜市内だからっ」
「市内ならバスで通えるんじゃないの?」
「バスもあるにはあるんだけど、一番近くのバス停までがまた遠いのよ」
「へんぴな所に住んでるんだね」
「へんぴ言うな。否定はしないけど。でも下宿するには中途半端に近いのよねぇ、1年の頃は母さんに車で送ってもらってたくらいだから。というワケで下校時間の5時半まで付き合ってられないのよ。昨日だってアンタの話が長いせいで帰るのが遅くなって、それで父さんが心配しちゃってさ」
(だから放課後はさっさと帰っていたのか)

「別に部活に入らなくてもいいんじゃない?私もゾン研の部員じゃないよ」
「え?花、この部活に入ってるんじゃないの?」
「私は月光ちゃんにつき合わされているだけだよぉ」えへへ、と笑ってみせるはなっち。
なんですと⁉(本日2回目)アタシ、はなっちは部員のつもりだったんですけど?付き合ってるつもりでいた恋人から友達宣言されたみたいな心境だよ。なんだよっ!
「私も生徒会に所属しているので部活には入っていないのですよ」と、かいちょ。アンタまで!って、かいちょは最初からか。
「だったらこの部活ってアンタ1人なの?」
「まぁ、部活っていうか、ただの集まりというか、同好会?みたいな?」
「プッ!」と吹き出したかいちょ。
「そもそもゾン研なんて部活はありませんよ。学校も許可していません。フフッ」
「いいじゃにゃいか!勝手に部活作っても!これから部活にするんだよ!5人集めればいいんでしょ!」
「月光ちゃん、それアニメの話でしょ」
「なぜ5人なのか分かりませんが、例え部員を集めたとしても部活として認めてもらうのは難しいと思いますよ」
「顧問も見つけてやるよ!あおたんでいいでしょ!」
「私がどうかしましたか?海津さん」
入り口で担任の先生が立っていた。
「せんせぇ、」
アタシは先生に泣きついた。この人は生徒から頼み事されれば断らないはず!
「アタシ、部活を新たに作りたいんです。顧問になって、あおたん」
あおたんというのはアタシが先生に付けてるあだ名だ。八百津 青(やおつ あお)名前の青からあおたん。他にも生徒からは親しみを込めて青ちゃんなどと呼ばれている。
「あおたんじゃありません。先生と呼んでください海津さん」
「はい。青ちゃん先生」
「海津月光さん。青ちゃんでもありません!先生です」
この人は名前の呼び方にこだわる。その気持ちはアタシもよく分かるよ。月光(つきか)なんて名前、いじられやすいから。
「青ちゃんはどこかの部活の顧問なんですか?」
はなっちも煽るねぇ。先生は青ちゃんと呼ばれると必ず訂正してくるので、生徒達の間ではワザと青ちゃんと呼ぶのがお約束みたいになっている。
「関花代さん。先生と呼んでください」
「確か美術部の顧問じゃなかった?青ちゃんは」
ふーみんも分かっているので悪乗りしてくる。
「伊吹山風香さん!先生ですよ!」
「美術部ならずっと見ている訳じゃないんでしょ?兼任してよ。あおたーん」
「んーっ!先生怒りますよ!」
あ、ちょっとやりすぎたかな。
ここでとどめを刺したのはかいちょだった。
「先生、」
「だからっ、先生じゃありません!青ちゃんです!」
戸惑うかいちょとハッとする先生をみんなしてニヤケて眺めた。フフフ、怒っても可愛いなぁ。
「もーっ!先生、知りません!」
「行っちゃった・・・・・・」
「あまり先生をからかうものじゃありませんよ、」
そうだね。悪い事したから、今度なにかゴマ擦っておこう。

「それに、顧問の兼任というのは先生に負担がかかりますから気安く頼んではダメです」
かいちょに釘を刺されてしまった。ぐぬぬっ・・・・・・じゃあどうしろというのさ。
「別にこのままでいいじゃない。放課後にちょっとおしゃべりするだけの集まりで」
「けどさぁ・・・・・・」
「そうだ♪」と、胸の前で手を合わせて可愛く言ったかいちょ。
「これからは時々みんなでお菓子を持ち寄って食べません?」
はなっちが言葉も発せず、目をキラキラさせ始めた。アンタは部員じゃないんでしょ!ちぇ!
ふーみんまで楽しそうに言う。
「いいわね!」
かいちょにいいところ持って行かれた気がするなぁ。アタシ部長なんですけど、一人だけの。
「じゃあ私、今からお菓子買ってくるよ」
「え?今からですか?そんなわざわざ買いに行かなくても、今日のところは・・・・・・」
「いいの、いいの。私バイクだから。ちょっと行ってくるねー」
止める間もなく部室を出て行くふーみん。急にはりきっちゃってからに。

フフフ、とかいちょは笑った。それを私はニヤリと口の端を上げて見返した。
「なんですか?」
「いやぁ、べつに・・・・・・ただ、かいちょは人を扱うのが上手いなと思って」
「それ、どういう意味ですか?私が風香さんにお菓子を買いに行かせたと?」
「そうじゃないよ。そうじゃない。かいちょはふーみんが部室へ気軽に遊びに来れるようにって、理由を与えてあげたんでしょ?そういうところ流石だなぁと思って」
「ふふっ、買いかぶりですよ。そう言う月光さんも周りの事をよく見ていますよね。照れ隠しなのかいつも茶化した感じでごまかしてますけど」
「なっ⁉」
こやつ、人の心が読めるというのか?驚くアタシへさらに追い打ちをかけてくる。
「私、月光さんのそういうところ好きですよ」
よくそんなセリフ真顔で言えるなぁ!こっ恥ずかしい!乙女ゲーの世界かっ!
「あーーーもう!この人たらしめーーーっ!」
「ん?何の話?」
「いいんだよ。はなっちは何も分からなくて。可愛いなぁ、もう」
アタシは犬を撫でまわす様にはなっちに体を擦り寄せた。
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