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第10章 第3節 黒魔法使いの最後~最後の戦い

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ぐ、ぐわー

奏太がさらに苦しみだした。

アナン「あおいさん、このままでは奏太さんが危ないだけです。いちかばちか、二人同時で壁に体当たりしましょう!」

あおい「うん、わかった」

ボルトン「俺も手伝うぞ!」

3人は同時に、結界の壁にタックルした。

この瞬間、あおいのペンダントの宝石がほのかに輝き始めた。

ガーン!

結界はびくともしなかったが、結界内部には強い衝撃が伝わり、黒魔法使いにとっては、まるで結界内部がぐらぐら揺れたように感じた。



3人はもう一度、同時に結界の壁にタックルした。

ガーン!

黒魔法使いにとって、再び結界内部が大きく揺れた感じがした。

結界は霊的なバリア、いわゆる黒魔法使いの念いの力で作られている。特に上級の黒魔法使いになるほど念が強く、より強固な結界を作ることができる。ガルムバードは最上級の黒魔法使いだった。しかし3人がタックルしたとき、3人の物理的な力より、3人の合わせた集合想念の力が結界の壁に、今までにない衝撃を与えていたのだ。

さすがに黒魔法使いも、うっとおしく感じた。



「ええい、うるさい! 虫けらどもめ!」

黒魔法使いは、強力な突風の魔法を三人に向かって唱えた。



ぐあ

きゃー

3人は同時に大きく飛ばされた。ボルトンはあおいをかばうように、自らあおいの盾になった。アナンとボルトンの二人は壁に背中を強打した。あおいはボルトンが盾になってくれたため、怪我はなかった。



あおいはボルトンに声をかけた。

「ボルトンさん……」

「おまえはここで休んでいろ! 奴は危険だ。だが俺たちが必ず奴をしとめる!」

二人は立ち上がり、再び結界を壊そうとした。二人はすごい気迫だった。

あおいは思った。二人の本当のすごさは、任務に対する精神的な強さにあると感じた。なかにはカルのような卑屈な男もいたので、あおいはタイムポリスにはあまりよいイメージを持っていなかった。しかし、正義と秩序に対する二人の思いは、本物だと思った。



二人は再び結界にタックルしたが、黒魔法使いは突風の魔法を召喚し、またもや二人は飛ばされた。二人は倉庫の壁に背中を打って、床に倒れてしまった。



あおいはぐっと、唇を噛んだ。

(何よ、せっかく過去にやって来たというのに……。また奏太を失うの。それだけは、それだけは絶対に……)

――あたしは負けない。奏太を二度と失わせたりしない!絶対に!



あおいは床から立ち上がった。

そのとき……胸にかけてあったあおいのペンダントの宝石が、強く閃光のような光を放ち始めた。



黒魔法使い「ん、なんだ、この嫌な光は?」

ボルトンもアナンも強い光に気づいた。

アナン「この光は……」



奏太も意識が次第に遠のく中、閃光の光に気づいた。奏太はこの閃光のような光を見るのは、これで3回目だった。

一回目は、奏太がトラックに引かれそうになったとき。

2回目は、タイムポリスに囲まれて危機を脱出したとき。

そして今回が3回目だ。いずれも奏太が危険に追い込まれたときに、あおいのペンダントの宝石から謎の光が輝きだしたのだ。

アナンも不思議に思っていた。かつてボルトンは、奏太を消すために光線銃を撃ち、奏太をかばったあおいの胸に直撃した。しかし光線銃は偶然にも、あおいのペンダントの宝石に当たり、あおいは奇跡的に無事だった。

ただ、光線銃には霊的エネルギーが含まれているので、地球上のあらゆる物質を通過し、相手の魂に直接ダメージを与えるものだった。

あおいが首にかけているペンダントの宝石は、なんと光線銃のエネルギーを吸収してしまったことになる。あのときアナンは思っていた。

(光線銃を防御できる物質は地球上には存在しない。あのペンダントの宝石は一体……)



あおい「私は奏太を必ず助け出す、必ず!」



や――

あおいは叫び声をあげて、壁に向かって走り出した。

そしてペンダントの宝石はさらに激しく、白光の閃光を放った。



ガン

ピキ

あおいが結界の壁にぶつかったとき、何とアナンやボルトンが、何度試みても壊れることのなかった結界にヒビが入ったのだ。

「なんだと!」

黒魔法使いはさすがに驚いた。

あおいはさらにもう一度、結界の壁にタックルした。結界のヒビはさらに大きくなった。

「こしゃくな!」

黒魔法使いは、再び突風の魔法をあおいに向けた。しかしそのとき、あおいのペンダントの宝石から放たれた光がガラス状の丸い盾となり、突風を防いだ。

「なにい!」



黒魔法使いはさらに結界を強化する最大の魔法を唱えた。

あおい「奏太を返せー」

あおいは再び、結界にタックルした。

ガン

ピキピキ

さらにヒビが広くなった。



「まさか俺の結界にひびを付けられる奴がいようとは。しかし時間切れだ」

黒魔法使いは、結界はそれでもしばらく壊れないと判断した。

「ふっ、まあいい、勝手にやってろ。あとちょっとでこいつの魂エネルギーはすべて吸収できる。そのあとすぐ、ここからおさらばだ。残念だったな」

あおい「ぐっ」

「結局、お前ごときでは何も変えられないし、このガキの男一人さえ、救うことさえできないんだよ。おまえは無力なんだよ!」



奏太の声がしなくなった。もう意識はなく、ぐったりしている。

「もうまもなく、こいつはくたばる」

「く、最後まで諦めない、諦めるもんか、奏太を返せー」

あおいは再びタックルした。



ピキピキピキ

結界にさらにヒビが入った。しかしまだまだ結界が完全に壊れそうにはなかった。

「こいつは驚いたな。俺様の結界は修行を積んだ僧侶でも傷をつけるのがやっとだ。それをお前みたいな小娘に、ヒビをつけられるとはな。だがもうタイムリミットだ!」



「絶対あきらめない、奏太を、奏太を返せ――!!」

この瞬間、ペンダントの宝石は、さらに強烈な光を発した。

「ぎゃー!」

その光のまぶしさに黒魔法使いは大きくひるんだ。

ピキピキピキ

そしてその瞬間、結界の壁が薄くなり、ヒビが急速に広がり始めた。

「ぎゃー! やめてくれ、その光だけはギャー!」

黒魔法使いが今までにないくらい苦しんだ。そして恐怖している。

アナン「あのペンダントの宝石は一体……」



あおいは渾身の力を込めて大声を出した。そのとき宝石は最大の輝きの光を放った。

「奏太をかえせー!!」

パリーン

結界が完全に壊れた。

「こ、このガキ……」

閃光のような宝石の輝きはいったん収まったが、宝石はあおいの胸元でほのかに輝いている。

アナンは、あおいの宝石の正体になにやら気づいたようだ。

「ま、まさかあの宝石は!」

あおいは胸元を見た。胸元が光っている。光っているのはペンダントの宝石だ。

あおいは胸元にある宝石を右手で持ってみた。

「これは……ペンダントの宝石が光っている……」



あおいは夢中になっていて、今まで宝石が光っていることに気づかなかった。過去に3回、宝石は光り出したが、いずれもあおいは気づいていない。

あおいはなぜ、奏太のペンダントの宝石が光っているか、わからなかった。

黒魔法使い「い、いったいなんだ! その宝石は!」

黒魔法使いは、その光をみて明らかに苦しんでいた。



アナン「あおいさん! そのペンダントをやつに投げてください!」

え、

あおいはためらった。それは亡くなった奏太の形見で、奏太からの愛の告白でもあったからだ。

「あおいさん、私を信じて! 奏太を助けるんだ。あおいさん。早くそれを投げて!」

「うん!」

あおいはアナンの言うことを信じた。

あおいは、黒魔法使いに目掛けてペンダントを投げた。

「ええい!」



宝石は黒魔法使いに見事に命中した。その瞬間、宝石はさらに強く輝き出した。

黒魔法使いは断末魔のような悲鳴を上げた。

「ギャー」

悲鳴と共に、完全に結界がなくなった。

アナンは急いで光線銃から炎弾に切り替え、床に敷かれた五芒星の紙に目掛けて炎弾を撃った。銃から炎弾が発射され、五芒星の紙は燃え始めた。



「や、やめろー」

五芒星が燃え、まばゆいばかりの光を放つ宝石に、黒魔法使い、ガルムバードは絶望の声を上げていた。

「あおいさん、今思っていることを、あの宝石に強く願って! やつにトドメをさすんだ」

「う、うん、わかった!」



あおいはもう一度、宝石に向かって、祈りを捧げた。

「黒の魔法使いよ、この場から立ち去りなさい! あたしは必ず奏太を救う! 奏太を二度と失わせない! 黒の魔法使いよ、この場から立ち去れー!」



そのとき、宝石から七色の光が放った。

「ギャー! やめろー!」

黒魔法使いは、黒い煙となって消えてなくなった。

そして倉庫内は静かになった。



アナンは、すぐに奏太のところに駆けつけ、奏太の様子をみた。

「大丈夫です。奏太さんはぎりぎり間に合いました。吸い取られた魂のエネルギーもみんな元に戻っています」



あおいもすぐに奏太に駆け寄った。

あおい「奏太、奏太、しっかりして」

奏太「う、うーん」

奏太は意識があるようだ。さっきまで血の気のひいたような顔をしていたが、顔に赤みが戻っていた。

ボルトン「ギリギリ間に合ったようだな……」

あおい「う、うん!」

アナン「部隊長! 黒魔法使いのガルムバードも完全に立ち去ったようです」

ボルトン「あんな化け物と遭遇するとはな。よくやったな。二人とも」

あおい「あなたたちがいなければ……きっと奏太を助けられなかった。本当にありがとう」

あおいは、アナンとボルトンに心から感謝を述べた。

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